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一緒にいたいです

 友人たちと過ごす楽しい日々が続いた。俺たち四人はほとんど毎日といっていいぐらい一緒に遊んだ。

 この毎日は俺にとって夢そのものだった。一緒に講義を受け、学食で昼食を食べ、講義が終われば、集まってファミリーレストランで駄弁ったり、買い物にいったり、ゲームセンターにいったり、カラオケにいったり、酒を飲んだり。

 おかげで俺は以前と比べて人と話すことが自然にできるようになっていた。人生で至上の日々。なんの不満もない毎日。これは俺が願った夢の世界そのものだった。


 しかし、心のどこかに虚無感を感じていた。それがなんなのかは深く考えずともすぐに理解することができた。



 いつものように四人で遊び、家に帰ってきてから、俺は渚と話そうと考えていた。渚は家に帰ってくるとまた部屋の隅に座り、無言で本を読み始た。

最近はこのままお互い無言のまま過ごし眠るのだが、俺は渚に訊きたいことがあった。


「なあ、渚」


「なんでしょう?」


「なんで最近、俺と話してくれないんだ?」


「話す必要がないからです。あなたにはもう友達ができました。私の役目も終わりです。なにか話したいことがあるなら、もう少しでいなくなってしまう私より、友達と話した方が建設的だと思います」


「そんな悲しいこというなよ。今度二人でどこか遊びにでもいこう」


「結構です」


「なんでだよ?」


「私に構わないでくださいよ」


「だからどうして?」


 俺は少し語気を強めていった。

 すると渚は膝を立て、その間に顔を埋めながらこういい出した。


「私、雨宮さんのこと好きになっちゃったみたいなんです」


 俺はその言葉を聞き、頭の中がフリーズした。

 渚は顔を俯かせながらこう続けた。


「今までの雇い主の方々は私のことを道具のように扱ってきました。ただ黙って指示に従っていればいいと。お前は雇った道具なのだから人間ではないって。だから色んなひどい扱いを受けてきました。食事は残飯だったり、寝るときは外だったり、仕事以外の話もしたことなんてありませんでした。でも、雨宮さんは変な人で、私を魔法少女や道具としてではなく、普通の一人の女の子として接してくれましたよね。一緒に色々なことを話したり、私のためにご飯を作ってくれたり、暇だろうからって本を買ってくれたり、一緒に学食でご飯を食べてくれたり、デートで居酒屋にも連れていってくれました。こんな風に扱われるのは初めてだったんです。優しい雨宮さん。雨宮さんと過ごす毎日が私にとってはすっごく幸せでした。でも、もう少しで雇用期限が切れ、お別れです。だから、これ以上雨宮さんを好きになりたくないんです。お別れの時が辛すぎるから。そんな思いはしたくないです」


 気づけば俺は渚を抱きしめていた。感じていた虚無感の正体、それは渚のことだ。俺は友達と遊ぶことばかりに夢中になって、渚との大切な時間をないがしろにしてしまっていた。俺のために協力してくれた優しい女の子。

 俺は自分の想いを、俯いて涙声になっている渚に伝えようと思った。


「俺は渚が好きだよ。友達よりも大切だ。渚、これからはずっと一緒にいよう。友達と遊ぶときも一緒だ。俺は少しでも渚といたい」


 すると渚は俺の背中に腕を回してきて強く抱きしめてきた。俺も渚を抱きしめる腕に力を入れ、強く抱きしめ返した。



 ――魔法少女を雇えるのは人生で一度きり、そして雇用期間は三か月。それが過ぎればもう永遠に会うことはできない。

 俺は残りの三週間を出来るだけ渚と共に過ごそうと誓った。


 その晩から渚とは一緒にベッドで眠ることにした。俺が一緒に寝ようというと、「最近寒いですからね。夏用のタオルケットじゃ凍えちゃいます」と照れながらいって、ベッドに潜り込んできた。向き合ってお互いの顔を見ながら、おやすみをいって眠った。



 次の日から渚は以前みたいに俺の隣を歩くようになった。もちろん手を繋ぎながら。

 大学に行くと、川谷たちいつもの面子に声をかけられた。


「雨宮、その隣にいる子はだれなんだ?」


 俺は堂々とこう答えた。


「俺の彼女だよ」


 隣では渚が照れくさそうに頬を赤く染めていた。


「雨宮さんとお付き合いしている渚です」


 恥ずかしそうに自己紹介をする。


「ずいぶん可愛い彼女だなあ。おい、どこで捕まえたんだよ?」


「捕まえたんじゃない。魔法で出会ったのさ」


「はあ? 魔法? なんだそりゃ」


「あのさ、今日から遊ぶとき、渚も一緒に連れていってもいいか?」


「俺は構わないぞ。むしろ大歓迎だ」


 如月も片瀬も笑顔で頷いてくれた。



 それからの毎日はこれまで以上に楽しかった。川谷がいて、如月がいて、片瀬がいて、そして渚が一緒にいて。


 それからしばらくの間、俺たちは五人で遊んだ。五人で講義を受け、講義が終わったら帰りにファミリーレストランに寄りたくさん話をした。渚は大勢で遊んだことがないからとても楽しそうでいつも笑顔だった。服を買いにいったときは、渚に似合いそうな真っ白のコートを買ってやった。渚はすごく気に入ってくれて、それから毎日そのコートを着ていた。居酒屋にいったときは、毎回テキーラサンライズを飲んでいた。


 気づけば季節はもう十二月になっていて、渚と一緒にいられる期間はもう残すところ一週間になっていた。俺はその最後の一週間は渚と二人だけで過ごしたかったから、川谷たちからの誘いは適当な理由をつけて断ることにした。



 ――渚と一緒にいられるのは残り一週間。俺はこの一週間を永遠に忘れないだろう。

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