Bloody World
「まずシュレンさんに聞きます。彼女、シオン・シュリエナとはどこで会いましたか?」
「シオンと初めて会ったのは数日前です。そして彼女の本性を知ったのはその日の放課後です」
「なるほど。彼女は紅眼であることを知ったのもその時?」
「ええ。…え?」
僕はつい疑問を投げかけてしまった。というか薄々気づいてはいたが、いざその時が来てもふいにそうなってしまう。
「彼女が紅眼であることは政府の人間は全員知っております。もちろん私もシャガさんも」
「そうだったんですか」
僕がフィナさんと楽しく会話をしている横で、ミオは目を瞑っていた。寝ているのか、目を閉じた状態で僕たちの会話を聞いているのか。
「さて、次はミオ・セスティアさん。あなたは確か…」
「赤眼狩りの末裔…。と言いたいんですか?」
「はい」
「確かに私の祖父は赤眼狩りに携わっていました。そんなことよりもシオンのことについて話させてください。正直、シオンが紅眼の生き残りとは考えにくいわね」
「おい、ミオ」
強い口調で言っていたミオを落ち着かせようと、僕は宥めた。どうやらミオはフィナさんのことをあまり好意的に思ってはないようだ。
「シュレンさん、待って。セスティアさん、続けてください」
「シオンは外見だけの判断だと私たちと同じ16歳から18歳くらいだと思います。生き残りだとしても、赤眼狩りが行なわれたのは100年前ですし、既に死んでいてもおかしくありません。まあ、ハーフというのなら話は別なのでしょうけど…」
「ハーフ?つまり、紅眼と常人の子ということですね?」
「でもまあ、生き残りがいたとしても全滅と発表されてから慰霊日が制定されるまで間があったから、あり得ないと思いますが」
強めの口調のまま、そう言ったミオ。僕はわずかながらも初めてミオに対して怒りを覚えた。その後も僕たちはシオンについて話した。
「二人とも、ありがとうございました。今の話を上に伝えたいと思います」
「上っていうのは…」
「勿論、首相のことですよ」
そう言うと、フィナさんは店を後にした。
ミオはやっと帰ったかと言わんばかりの表情を浮かべた。いくらなんでも失礼すぎるだろ。
「ミオ。あれはちょっとよくないと思うぞ」
「紅眼に言われたくない」
この期に及んでまだ信じてくれないのかよ。こいつは…。
「人としてどうなんだって言ってるんだよ」
「それは…」
意外と素直だな。どうやら僕の言葉が響いたのだろう。反省するかのように肩を落としていた。
「これからは気をつけろよ」
僕は軽くミオの頭を叩く。
「シュレン。ところで―」
シャガさんが話そうとした時、外で爆音がした。しかも近くから。僕たちは慌てて喫茶店を出る。
「シャガさん!あれ!」
出て最初に口を開いたのはミオだった。彼女が指差すほうにはさっきまでいた警察署があった。あそこにはまだエアがいるはずだ。まさか…。
「ミオ、行こう!」
僕はミオを手を引き、警察署へと向かう。シャガさんはただ警察署の方を見ていた。
予想内だったことだが、実際見るとやはり言葉を失う。建物は全壊していた。
「エア、どこだ!」
僕とミオは瓦礫の隙間を探す。しかしエアらしき影は見えない。となると瓦礫に下敷きになってるのか?考えたくもない恐怖が徐々に僕たちに襲いかかってきた。そんな恐怖に駆られていた時だった。
「探しても無駄よ」
瓦礫の上で声が聞こえ、その主を見た。シオンだった。
「いい加減にして!」
ミオが怒鳴った。さすがにこれ以上惨劇を見るのは酷なのだろう。
「いい加減?」
「そう。なんでこんなことするの…」
「…想像におまかせします」
やっぱりそれしか言わない。
「シオン。100年前のことを恨んでるのなら、それはもう諦めろ。国際的に祝日ができたんだぞ。それで…」
「それで?慰霊日が制定されたからそれで我慢してくれと?」
「いや、その…」
僕は言葉が見つからなかった。たしかに祝日が制定されただけじゃ報われないのは当然じゃないか。
「分かった。目的を教えてあげる。その代わりこの人は死ぬことになる」
瓦礫の中から傷だらけの人が宙に浮かぶ。シオンの特殊力なのだろうか。しかしそれよりも僕が思ったのは、その人に見覚えがあること。そしてミオは、目を見開いて震えていた。
「エア、おい!しっかりしろ!」
僕はエアに声をかける。が、全く反応してくれない。
「彼は現在心停止状態です。彼の命は二人の選択に委ねられています」
もはやシオンは人の命なんてどうでもいいとしか思っていないのか。
「畜生…」
「早くしないと彼を救えなくなってしまいますよ?一分ごとに生存率が約10%減る。知らないんですか?現に彼は心停止になってから2分は経ってますよ」
畳み掛けるようにシオンは言葉を発する。僕の頭の中で行われている葛藤を嘲笑うかのように。
「…目的を教えて」
そんな葛藤の最中声をあげたのはミオだった。
「ミオさんは友人を捨て、私の目的が聞きたいんですね?」
シオンは笑顔を浮かべ言った。しかしミオは何も言わなかったが、表情が真剣さを物語っていた。
「おい待てよ!ミオ考え直せ」
目的を知るためとはいえ、友人を犠牲にするのは癪に障る。
「なぁ…」
エアが声を出した。心停止のはずなのに。
「彼に最期の言葉を言わせてあげてるんです」
シオンが一時的に彼を心停止から解放させているのか?
「エア。お前…」
「俺のために葛藤しているなら…、この子の要求を呑め」
「な、何言ってんだよ!そしたらお前は」
「俺を引き替えに街を救えるならそれでいいんだよ!」
僕は言葉を失った。そこまでしてエアは街を救いたいのか。じゃあ、ミオはエアと同じ考えだったからさっきのようなことが言えたのか。
「…エアは本当にそれでいいのか?」
「ああ。後悔はないさ。ちょっと生き方が不器用だっただけ」
エアは何年か前はやんちゃしていたようだ。つまり不器用とはその時期を指しているのだろう。
「だからって…。命を投げ出すほどのことじゃ」
「俺はこの街が好きなんだ。僕が犠牲になって、この街を救えるヒントができるのならそれでいい」
エアの覚悟は本物だとようやく理解した僕はそれ以上咎めなかった。
「分かった。僕もシオンの要求を呑むよ」
「…ありがとう。シュレン、セスティア。最期に会えてよかった」
エアはそう言うと目を閉じた。そしてその後、エアは瓦礫の上に置かれた。僕たちが近寄った時にはすでに呼吸も脈もなかった。
「じゃあ、約束したとおり、目的を教えてあげる」
シオンは髪を耳にかけた。そして息を吸った後、目的を告げる。
「私が中心の世界を創るの」
シオンが言い放った言葉を理解できなかった。
「シオンだけの?」
「そう。私が望む世界、『ブラッディーワールド』を創る。それが目的」
「ブラッディーワールド?」
僕とミオはシオンに聞く。シオンが言っていることを全く理解できない。
「そのためには今の常人は邪魔なの。だから消している。それだけ」
その時、何かを感づいたかのようにミオが口を開く。
「昔にできなかったことを、やろうとしてる」
「さすが赤眼狩りの血を引いてるだけのことはありますね」
シオンは笑い交じりに言った。
「でも、昔と言うのはアバウトすぎかな?ちょうど300年くらい前の計画です」
「300年…」
異国の地で大きな地震が起こった年がちょうど300前だ。その時からの計画だとシオンは言った。
「当時のある科学者は言った。『200年後、月がこれまでで一番赤く染まる』と。そして100年前、その科学者の末裔が『月がこれまでで一番赤く染まるとき、赤い目を持つ者たちが人類を滅ぼす』と意味を変えて言った」
本で読んだ通りだ。シオンの言葉は合致していた。意味を変えてということ以外は。
「人類を滅ぼすというのと、シオンがやろうとしてるのは同じことじゃ…」
ミオがシオンを問い詰める。シオンは首をかしげ、そして吹き出し笑いをして言った。
「違いますよ。全然違います。人類を滅ぼすと言うのは誤解です。それを言ったら、赤眼の人も死ななくてはいけないことになりますから」
紅眼も人間。いつしかその定義があやふやになった。科学者の末裔が放った一言のせいで。そのせいで赤眼の人の未来は消え失せてしまった。そうシオンは言った。
「シオンが目指しているのは、常人よりも紅眼のほうが多い世界を創ること…」
「正解です」
シオンは煽てるように拍手をした。
「…何故今、しかもこんな悲惨なことまでして目的を叶えようとする?」
「シュレン、落ち着いて」
ミオが僕の手を握り宥めた。僕はその行動で灯が消えた。
「一週間後、この街で100年前と同等、あるいはそれ以上に月が赤くなる日が訪れます。100年前の出来事を今度は私がやって初めて死んでいった者たちの供養になる。だからです」
シオンの言葉は重くのしかかった。ミオはその言葉に精神が打ち砕かれたのか、瓦礫に座り込んでいた。
「大丈夫。全員は死なないから」
「そういう問題じゃ―」
僕が顔を上げた時にはシオンの姿はなかった。やるせない思いが僕を蝕む。つい小さな瓦礫の破片を取り、力いっぱいに遠くへ投げ飛ばしてしまった。正気になれなんてのはもう無理な話となりつつあった。でも僕は何とかして正気を取り戻した。しかし隣にいたミオは正気の沙汰ではなくなっていた。
思いつきで書いたらこうなったんです。許してください
さて、雲行きが怪しくなってきましたね。ミオが正気の沙汰じゃなくなる。そしてどうなるのか。それは次回ですね
フィナさんはしばらく登場機会はないですね。再び出るのは終盤かな?まだ続くので
4月以降はpixivでも小説を投稿していこうかと思っています。が、名前はライトではなくTwitterと同じ『リョウ』名義ですね
ちなみにBloody Iはpixivには載せないつもりですのでご了承
低クオリティな小説をどうぞよろしくお願いします。ではまた次に