彼女の目的
エレベーターは屋上階にあるようだ。つまりミオたちがまた屋上へ上がったのか、誰かが屋上に行ったのか。この二択になる。結果から言うと後者だった。そこにいたのは意外な人物。黒髪のロングに一部が赤く染まった白い服。そして赤い眼。
「お前…。何でここに…」
僕は思わず身構えてしまった。
「ここから崩壊した街を眺めたかった。ただそれだけ」
「全部シオンが?」
「どうでしょう?ご想像にお任せします」
シオンは僕を見てそう言った。彼女の前ではもはや眼帯は無意味だ。僕は眼帯を外して、左眼を露わにする。
「左眼だけ。ずっと隠しながら生きるのは大変だったでしょう?」
「お前に言われたくない」
「ふふっ」
シオンは笑った。嘲笑ともとれる笑い方。少し苛立ちを覚えた。
「何が目的だ?やっぱり、この街の人を…」
「想像にお任せします。ただ、他にも目的はいくつもある。それだけはいっておきます」
僕はその言葉に反応した。彼女の胸ぐらをつかんだ。女性だろうと躊躇はなかった。
「お前の好き勝手にはさせない」
「100年前、私たちを好き勝手に殺した。だから私にも好き勝手にする権利はあるはずです」
100年前、世界的に紅眼を迫害していた。だから私も100年前のようなことをしていいよね?シオンが言いたいのはそう言うことなのだろう。
「現にミオさん、でしたっけ?この街には赤眼狩りの血を引いている人たちがいるじゃないですか」
「…赤眼狩りの子孫を全員殺して、刃向える人をなくす。そういうことか」
「近くはなってきましたが、それが目的とは限りません。現に不特定多数の人を葬ってるのだから」
シオンは笑い交じりに言った。シオンにとって命はその程度なのか?シオンにとって、この街の人間は邪魔ものにすぎないのか?頭が狂ってきそうだ。
「…離してください。そろそろ行かなくては」
シオンは瞬間移動を使って僕から離れ、最後にこう告げて消えていった。
「楽しみは最後までとっておきます」
僕はしゃがみこみ、しばらくの間立つことができなかった。
「シュレン!」
屋上へと上ってきたミオが僕の姿を見てそう言った。僕はその言葉に反応できなかった。反応する気力がなかった。
「シュレン?」
何度も体を揺らしても僕が反応しなかったためか、問いかけるように言ってきた。と思いきや、僕の頬を叩いた。
「シオンが…、ここにいた」
「え!?」
ミオはもう一発僕を叩く寸前だった。
「シオンが?」
「シオンのせいで街がこうなったのは想像にお任せしますって。目的も想像にお任せしますって」
「何それ」
「頭がおかしくなりそうだ…」
僕は片手で頭を抱え、そう言った。そんな僕をミオは責めなかった。
「シュレン。こうしている間もシオンがどこかで人を葬ってるかもしれない。正気に戻って」
ミオが強引に僕を立たせ、そう言った後僕に寄り掛かってきた。
「ミオ?」
その時、僕は初めてミオの泣いている姿を目にした。ミオは赤眼狩りの末裔とだけあって、こんなにも被害が大きくなったことに対する罪悪感があるのだろうか?咄嗟の行動だろう。僕はミオの頭を撫でた。
「正気に戻るのはミオも同じだろ?大体、今回はシオンがやったことだ。ミオは悪くないよ」
ミオは頷いてしばらくの間僕から離れなかった。
気が済むまで泣いたのだろう。ミオの表情は清々しかった。僕も再び眼帯を着ける。
「赤眼狩りの血が騒ぐね」
そう言ってミオは拳銃を取り出し、至る所に銃口を向けていた。時々僕に銃口を向けてくるのは冗談のつもりか、目的があって向けてるのか。
「うわっ!」
エレベーターでやって来たエアが手を上げていた。扉が開いた瞬間に銃口が目に入ったらしい。
「ミオがお前を撃つわけないじゃん」
「だよな…」
「え?場合によっては」
ミオが言った瞬間、再びエアが怯えた表情で手を上げた。そんなことをやっているうちに、外で爆発音が聞こえた。
「学校の方から…」
ミオはすぐに音の発信源を捕えた。ミオはエレベーターに駆け込んだ。僕らもギリギリのところでエレベーターに入ることができた。
「エアは署内にいろ」
「何でだよ?」
「あなたの命のためよ」
ミオがそう言うとエアはもうそれ以上は何も言わなかった。エレベーターが着くと既に警察の人たちが慌てていた。
学校に着くと既に色んな人たちがいた。そしてその人たちの中心には炎に包まれた学校があった。
「もう無茶苦茶だ、こんなのは」
僕は光景を目の当たりにしてそう言った。というか、それしか言えなかった。
「全部…、シオンが?」
ミオが声を震わせて言った。正気を保てなんてよくよく考えれば無理難題だ。街がこんなことになって正気でいられるはずがない。
「100年前と同じ…」
後ろの方からその一言が聞こえたので振り返ると一人の女性が立っていた。見た目からすると20代くらいか。
「どうしたの?」
後ろの方を見ていた僕を不思議に思ったのかミオが聞いてきた。
「え?あ、いや何でもない」
「シオンを探してるの?」
そんな会話をしていると、さっきの女性が近づいてきた。
「あなたたち、シオンを知ってるの?」
「え?」
僕たちは思わず聞き返してしまった。シオンを知ってるということは…。
「少しいいですか?」
女性に言われ、近所の喫茶店に連れて行かれた。が、その場所は僕がいつも朝食を食べる店だった。
「あれ?シュレンじゃないか」
「シャガさん」
ミオは困惑していた。女性は無反応だった。ということはもしかしてこの女性は政府の…。そんな予想は運が良いのか悪いのか的中してしまった。
「初めまして。私はフィナ・ツァイルです。政府の命で来ました。シュレンさんのことは存じております。そしてあなたは…」
「あ、ミオ・セスティアです。え?政府の?」
「はい」
「…シュレン?どういうこと?」
「なんだ。まだ言ってなかったのか?」
シャガさんが言ってきた。ミオには隠していたが、こうなった以上もう隠す必要はないだろう。
「左眼がこうなったとき、政府が僕を援助してくれることになったんだよ」
「援助?」
「朝食とか、学費とかその他もろもろ」
「そうだったんだ。…贅沢」
贅沢というか、援助のお金は全て血税からだ。僕にだって罪悪感というものが一つや二つあるんだよ。
「二人ともいいかな?」
フィナさんが尋ねる。つい二人だけの世界になってしまったので、ミオと二人で謝った。
「じゃあ、始めましょうか。シオン・シュリエナについての話を」
ライトです。今回はこの6話の裏話を1つだけ…
終盤に登場したフィナ・ツァイルという人物。実は自分の友達に名前を考えてもらったんです。他にもいろいろ候補を貰ったんですけど、名前ということを考えるとフィナが一番しっくりきたんです。
さて、今回で6話ですがまだまだ続きます。次回は主にフィナによる取り調べ回ですが、面白い話になってます。投稿は3月中旬以内に考えてます。
相変わらず低クオリティな小説ですがご贔屓願います。ではでは…