崩壊
※今回から様々な描写が入りますがご了承ください(残酷というほどではないかもしれませんが…)
広場に着いた時にはもう誰もそこにはいなかった。生きている人が誰も…。
「そんな…」
ミオが声を漏らすのも無理もない。死体の群れという地獄絵図がそこには広がっていたからだ。
「うっ…」
ミオは吐き気を催し、一度トイレへ駈け込んでいった。ミオは耐性がないのだ。サスペンスドラマの殺害シーンでも吐き気を催すこともある程に。
「ひどい…」
ある程度耐性のある僕は死体を見てそう呟いた。死臭を嗅がないために鼻はつまんでいる。
「シュレン、来たか」
そこに現れたのはエアだった。腕に包帯を巻いていた。
「その腕…」
「あぁ、女生徒の反撃を受けちゃって。街の人も彼女を落ち着かせようとしたんだけど、こんなことに。ったく。やりすぎだよなぁ…」
「…死ななくてよかったな」
「初めて生きてるって素晴らしいって思えたよ」
そんなことを話していると、ミオが遠くの方から、「こっち来て話して」と言ってきたため、僕たちはその場を離れた。
「セスティアはこういうのに耐性は無いんだっけ?」
「赤眼狩りの血を引いてるのに、耐性が無くて悪かったわね」
「そんな話をしてる場合じゃない」
僕が二人を制止する。二人は再び静かになった。
「エア、生き残ってるのはお前だけ?」
「いや、俺の他にもおじいさんが一人生きている。今は病院で治療してるみたいだけど」
「じゃあ、他の人は皆…」
ミオは目を逸らしながら言った。アレが視界に入るのを拒んでいるのだろう。
「エア。生き残ったおじいさんと会えるか?」
「治療が終わっていればな」
その時だった。広場に悲鳴が響いた。声はどこから?
「あそこだと思う」
ミオが指を指したのは病院だった。
「あそこに、俺といたおじいさんもいる」
「行ってみよう」
僕たちは病院へと走って向かう。だが、向かった先に待っていたのは、あの広場と同じ光景だった。
「マジかよ…」
僕とエアは唖然としていた。
「どうしたの?」
遅れて着いたミオに、僕は見ないように促した。ミオは促した時点で事を察したようで、既に目を逸らしていた。
「あれ?」
視線を前の戻した瞬間、人型のシルエットが目に入ったがすぐに消えてしまった。
「気のせい…、か?」
「どうした?」
「いや何でもない」
僕たちは病院を後にした。耐性があるはずの僕も、少し気分が悪くなってきた。
その後、広場と病院に国立病院の医師たちと警察が来て、捜査等が始まった。当然のように僕とエアとミオも警察に事を話さなくてはならなくなり、解放された時にはもう次の日になっていた。結局、僕たちは警察のご好意で署内に泊まることになった。…政府が三人を警察署に泊まらせることを命令したということをエアとミオが深く眠った後に署のトップから知らされた。
「ねえ、起きて。シュレン」
ミオの声が聞こえる。夢の中でもミオが出てきたのは初めてだ。
「ねえ!」
またミオの声。夢の中で起こされるのか。そう思っていると、頬に痛みが走った。目を開けると僕の胸の上で正座したミオの姿が視界に入った。本当に呼んでいたのか…。
「どうした?」
眼をこすりながらミオに尋ねる。
「…この街が、変わってしまった」
変わる?どんな風に?そうミオに聞いた。
「見てみれば分かるわ」
ミオは僕から降りて立ち上がり、そして腕を引っ張り無理やり立たせた。そして無理やり引っ張られ、どこかへ連れて行く。
「どこに行くんだよ」
「屋上」
僕とミオは寝ていた部屋を出て、エレベーターで屋上へと向かう。そしてエレベーターの扉が開く。そこに待っていたのは、昨日のアレよりも酷い光景だった。建物は倒壊し、火災が発生している場所もあった。そして道端には人たちが倒れていた。一気に眠気も吹き飛んだ。
「そんな…。まだ広場の時から一日も経ってないのに…」
「全部、シオンの仕業なのかしら…」
「でも彼女は女子だ。いや、男子でもここまでは…」
「紅眼のくせに知らないの?」
「僕は紅眼じゃ…。知らないよ」
「紅眼の人間は通常の人に比べて数十倍の力を持っているの。それが、物理か特殊かは調べる前に全滅させてしまったから把握はできないみたいだけど」
「物理ってのは、殴る蹴るのことでいいんだよな?」
「そう。特殊は、あの時シオンが見せた瞬間移動などの超能力的な力のことね。百年前はこの特殊を恐れて赤眼狩りが至る所で始まった。歴史書には載らない、赤眼狩りの末裔だからこそ知っている情報」
「そうだったのか…」
僕は再び景色を見渡す。震災でもあったかのような悲惨さ。やはり、シオン一人でここまでするのは不可能だ。紅眼の力を持ってしてもここまでのことは…。
「シュレン!セスティア!」
そこにエアがやってきた。警察の手伝いをしていて、手が空いたので来たようだ。
「酷い有様だろ?」
「ああ」
「警察の人たちも、なぜ一晩でこんなことになったのか理解不明みたいだ」
「お手上げ、ってことなのか?」
「倒壊した建物から、重傷だけど生きてる人は見つかってるみたいなんだ。その人たちの回復を待って事情を聴くつもりらしい」
「そっか…」
「それと、シュレンには言いにくいんだけどさ…」
エアがいきなり重たそうな口調でそう聞いてきた。
「何だよ?」
「実は学校の生徒も何人か死んだみたいなんだ。その中に、ユウセも含まれていたらしい」
ユウセ。僕が紅眼に関する書物を読んでいた時に隣にいたやつだ。
「そっか…」
「あれ?悲しくないのか?」
「いや、悲しいよ。でも、こんな有様じゃ死んでいてもおかしくはなかっただろうから」
「だよなぁ…」
エアはフェンスに寄り掛かる。僕たちは景色を見るのをやめ、コンクリートの地面を見ていた。
しばらくすると、警察の人がやって来た。
「シュレン君。ちょっと来てくれるかい?君たちもそろそろ中に入った方がいい」
僕たちはそう促され屋上を後にした。そして僕はミオたちと別れて、取調室へと連れて行かれた。そこで待っていたのは、刑事ではなく、政府の人、つまりジュラエスさんだった。
「お久しぶりです」
「君にはつらい思いをさせてばかりで申し訳なく思っているよ」
「いえ、全然」
警察の人たちは全員僕が紅眼を持っていることを知っている。話を理解しているようだった。
「実は、とある憶測が飛び交っている。それについて、知っていたら教えてほしい」
「もしかして、僕関連ですか?」
「確かに君は少し関わっているよ。そう、紅眼についてだ」
「ジュラエス補佐官、何を仰るのですか。紅眼は100年前に殲滅されたじゃないですか?」
警官の一人がそう尋ねる。
「殲滅されたはずの紅眼が生き残ってるのではないか?そういう憶測だ」
憶測じゃない。事実だ。その生き残りというのはきっと、シオンのことだろう。
「何人くらい生き残ってると?」
「具体的には分からない。だが、せいぜい数人程度だろう」
ジュラエスさんはそう言うと、こちらを見てきた。恐らく、「君はどう思う?」というサインなのだろう。
「確かに、数自体は少ないと思います。けど、力は通常の人の数十倍だと考えると、たとえそれがたった一人でも油断はできない」
「…そうだな」
ジュラエスさんは笑みを浮かべた。期待通りの回答だったかは分かれないけれど…。
「シュレン君。もう用は済んだ。また二人と会ってきなさい。外には出ないように」
「分かりました」
僕は席を立ち、扉に向かう際中、ジュラエスさんが声をかけてきた。
「何ですか?」
「近日中、また会うことになると思う。そのときはよろしく。元気そうで何よりだった」
「…ありがとうございます」
そう告げて、僕は部屋を出て行った。そして、
僕は二人が待つ部屋には行かず一人で屋上へと向かった。
5話目となりました。作者のライトです。とうとう街が壊れ始めました。実はもうこの時点で当初の予定とはかなり外れています。1話目を書いている時点ではこんな展開にはするつもりはなかったのですが…。やっぱノープランって怖いですね。自分はもう慣れました。
実はもう9話目の途中まで書き進んでます。が、恐らく9話目を投稿するのは4月以降になるかと思います。6話目は2月中には投稿するつもりですが…。
次回は屋上がメイン舞台ですね。そこでシュレンの身に何が起こるか。もう察しが付く人は察してください。
この作品が自分が書いた小説の中で最長のものになる予感がします。