幕開け
授業中、ミオからのSMSがあり、僕は屋上へと向かっている。彼女が屋上に僕を呼び出すのは珍しいことではない。が、いつも呼び出す内容は僕にとって不都合な件だ。今回も期待せず、屋上へと足を運ぶ。若干錆びついたドアノブを握り、扉を開ける。
「あれ?」
ミオはまだいなかった。僕の方が早く来ちゃったか。僕は落下防止用の柵に手をかけ、街並みを見ていた。そうしていると、扉が開く音が聞こえ、扉の方を向く。
「あれ?どうして?」
出てきたのはミオではなく、朝出くわした少女、シオンだった。服装はこの学校の制服。
「あ、レイ。どうしてここに?」
「その台詞、そのまま返すよ」
「え?」
シオンは首をかしげていた。意味がよく分かってないのだろう。
「シオンさん。職員室にあなたの名前はなかった。つまり、あなたはこの学校の生徒ではないということになる。朝聞いた話と違うんだ。シオンさん、あなたはどうやって僕の名前を知ったんですか?」
「この学校の生徒ではないと言うのは間違ってます。ほら、今だって制服を―」
「制服なんてこの際どうでもいいです。もう一度言うけど、掲示板にあなたの名前がなかった以上あなたはこの学校の生徒ではない」
そう言うと、シオンは俯き、そして…。
「フ、フフフ、ハハハ…」
クスクスと笑い始めた。
「何がおかしい?」
俺が口調を強くして言い放ったとき、勢いよく開いたドアの音が響いた。
「ごめん、お待たせ」
ミオが入ってきた。
「ミオ・セスティアさん、ですね」
シオンは彼女を見てそう呟いた。
「え?」
「初めまして。シオン・シュリエナです」
「そんな人はこの学校にはいないはずよ」
ミオも僕と同じことを言った。
「あなたまでそう仰るんですね」
「あなたまでってことは、シュレンも言ったわけね」
「ええ。先ほど」
シオンは笑みを浮かべながらそう言う。対するミオは一切笑ってなどいなかった。
「…さすがに二人に見破られたら仕方ないですね」
シオンが呟いた。途端、彼女の容姿が変わった。服が制服から白い服へと変わっていく。
「あっ!」
俺は思わず声を出してしまった。しかしこれは仕方のないことなのだろう。ミオも唖然としていた。
「私の眼、見る?」
そういうと彼女は瞑っていた眼を見開いた。血のように赤い眼。紅眼だった。それも両目。
「ミオ、これって…」
ミオはただ彼女をじっと見ていた。そして数秒彼女を見たあと、スカートのポケットから拳銃を出した。
「紅眼、覚悟!」
ミオは銃口を彼女に向け発砲した。しかし銃弾は彼女にかすりもしなかった。
「そんなエイミングじゃ、私を殺せないですよ」
煽るように彼女は笑い交じりに言う。ミオはその挑発に乗ってしまった。立て続けに銃弾を連射してしまったのだ。ついに彼女には一発も当たらなかった。銃の弾が切れた。何度引き金を引いてもカチカチという音しか鳴らない。
「もう終わりですか?残念。もっと楽しみたかったのに…」
「ミオ、お前って…」
「察しの通り、紅眼の生き残りです。あなたのような偽物と違うんです。本物です」
偽物…。つまり手術によって偶然入ってしまった紅い眼球のことをいってるのだろう。
「何する気だ?」
「それを話す前に、彼女を殺さないと…」
そう言うと彼女はミオの元へと瞬間移動した。え?瞬間移動?
「がっ!」
我に返り、ミオの声が聞こえたほうをみると、彼女がミオの首を絞めていた。
「私の種族を皆殺しにした恨みよ。悪く思わないでね」
彼女は無表情でミオの首を絞め続ける。さすがに見ているこっちも辛くなってくる。
「やめろ!ミオにこれ以上―」
止めに入ろうとした時、僕はあることに気付く。足が動かない。コンクリートに足を埋め込まれたかのように、全く動かないのだ。
「取り引き。プランA、あなたは助ける。その代り彼女は死ぬ。プランB、あなたが死に、彼女が助かる。どっちがいい?」
「…どのプランも嫌だな」
「そう…。じゃあ、私の独断でプランAを施行するわ」
そう言うと、彼女はさらに強い力でミオの首を絞める
「シュレ…、たす…、けて…」
その言葉を聞いてからしばらくの間、僕の記憶はない。気がついたら僕は彼女を助けていて、シオンはミオから少し離れたところで倒れていた。
「…ありがとう」
「ミオ、大丈夫だったか?」
「ギリギリね」
ミオは咳き込みながら言った。そんな会話をしていると、シオンが立ち上がった。腕に中々の傷を負っていて、患部を押さえている指の隙間から血が漏れてきていた。
「早く手当てしないと…」
「そうね…」
僕たちは彼女の元へ近寄る。その時だ。
「近づくな!」
シオンの大声が響き渡る。僕たちは思わず足を止めてしまった。
「私は死なない!絶対に死なない!あなたたちを、いいえ。この街の住人を皆殺しにするまでは!」
そう言い放ったシオンは姿を消した。
ミオの話によると、ミオが助けを求めた瞬間に僕はシオンの元へと走って行き、彼女を突き飛ばして、その際にミオが急いで弾を一発充填し、そして拳銃でシオンの腕を撃った。掠った程度だったらしいが、それでもあのような状態になるのだから、威力は侮れない。
「シオンが言った言葉…」
「ああ、この街の住人を皆殺しにするまではね、…かぁ」
「シオン…。彼女は何をするつもりなのかしら?」
「言葉通りに、この街の住人を一人残らず殺すつもりなんじゃないかな?」
「もし目的がそれなら、私は黙っていられない。この街の人たちを全滅させたくない」
「それは僕も同じだよ」
「紅眼が言うか、それを」
「だから、違うって」
この期に及んで僕を紅眼呼ばわりか。しかしそんな反論をする気分ではない。頭の中の整理がつかない。それはミオも同じようだ。
「ミオ、あのさ―」
ミオに話しかけようとした時、スマホにメールが届いた。送り主はエアだった。
『広場でうちの女生徒が暴れてる』
その内容を見た時、嫌な予感がした。
「女生徒って、もしかして…」
「シュレン、私嫌な予感がする」
ミオも同じ感情を抱いていた。僕たちは急いで学校を後にし、学校近くにある広場へ向かった。
思ったよりも早く投稿できました。たしか2月までにと言ったはずでしたが…。
さて、いよいよ物語が動き始めました。シオンは紅眼であった。結局、目的は言わずにレイとミオの前から姿を消してしまいました。彼女はいったいどこへ…。そしてエアからのメール。その意味は何か。そんなことが今後語られていくのでしょう。
とはいっても、実は7章の途中まで2016/01/20現在、書き進んじゃってるんです。なので5,6章は早めに投稿できるかもしれません。
では、次またお会いしましょう。
あ、注意事項として…。次回から死人が出てきますのでご了承ください(中々のネタバレですね、これ)。