お麩みたいな桜みたいな大好きな君
俺は佐藤さんが好きだ。
佐藤さんは同じクラスの写真係。どのクラスの写真係よりも沢山、良い写真を撮ってくれる自慢のクラスメイト。
佐藤さんは俺みたいにうるさく騒いだりしないで静かに、静かに輪の中に馴染んでいる。お味噌汁でいうなら麩、みたいな。ちょっと分かりづらいかな。俺は麩が大好きなんだ。麩は周りの味が染み込んで、ふわふわもちもちしてて、噛むとじわっと旨味が広がる。それに卵とじとか煮物とか酢の物に入れても美味しくてその場の調和に馴染んで引き立てる、佐藤さんはそんな感じ。やっぱり微妙な説明だったかな。とにかく、俺は彼女が好きってこと。
俺のクラスはいろんな奴がいて、俺みたいにうるさくて馬鹿な奴もいれば静かで大人しい奴もいる。だけどありがたいことに今時のいじめなんかもなくて、毎日のように小さい問題は起こるけどみんなそれぞれ仲がいい。それはうまく調和を取ってくれる、彼女のおかげかもしれない。
例えば3年生の文化祭の出し物がなかなか決まらなくて嫌な空気が漂い始めたとき、彼女は手を上げていった。
「みんなの得意なものから考えたらどうでしょうか。」
彼女の意見を参考にしてみんなの得意なものや好きなものを書き上げていった。
読書が好きな人、アニメが好きな奴、運動が得意な人。そんな得意なことを活かして作り上げた変な劇、「劇変!ロミオとジュリエット」。この劇は元のお話を読書好きな人やみんなで協力してお笑いに変えた喜劇で、冒頭はこんな始まりだった。
「あるところにロミオという青年がおりました。」
「おお!なんという美しい声だ!私の名はロミオ、あなたの名を教えて頂いても?」
「まぁこのようにナレーションにも惚れてしまう、大変惚れっぽい情熱的な方でした。」
ナレーションは放送委員だった子が担当した。こんなちょっと馬鹿らしい劇が身内にはうけて、何より自分たちが楽しくて大成功した。
やっぱり佐藤さんは凄い。彼女は文化祭の時も沢山写真を撮っていた。彼女は写真を撮っている時、1番輝いている。周りに溶け込んで同じ空気を纏ってるのに輝いて見える。惚れた欲目かも知れないけど。
そんな彼女は卒業間近に亡くなってしまった。お葬式に行った。彼女の母親が泣いた。みんな泣いた。俺は泣かなかった。色々なことがよく、わからなかった。
それでも学校はあるし卒業もする。卒業式の日、人が来なくて手入れのされてない裏門の桜並木に佐藤さんそっくりな女の子がカメラを構えていた。なぜかすぐに分かった、佐藤さんのカメラだって。佐藤さんのカメラは俺と一緒だった。佐藤さんが亡くなったことがまだ受け止めきれてなかった。喜んではいけないのに、仲間がいたようで嬉しかった。彼女がいなくても進む時間が悲しかったから。だけどきっと、もう進まなくちゃいけないから俺と彼女が出会ったのだと思った。それから僕は彼女で写真を撮った。自分の写真。なんとなく胸にしっくりきた。彼女の死が胸につまった。ああ、佐藤さんは逝ってしまったんだ。
彼女はただのカメラに戻って、涙を流さなかったから俺が代わりに泣いた。涙が止まらないから制服で鼻まで一緒に拭った。もういいんだ、これを着るのは最後だから。ああ、佐藤さん、君はみんなに愛されてるんだよ。地面に寝そべったら、満開の桜が佐藤さんみたいに優しくて思わず写真を撮ったら、今までにないほど桜が美しく淡く光るように写っていて、気持ちが滲んでしまったのかな、なんて。