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009 VS大角鹿(2)

本来なら前話とひとまとめの話だったので短いです。

 大角鹿がシロに気付いた。

 シロが吼えながら駆け寄っていくのだから当然だ。

 それにしてもシロは脚が早い。

 まだ成犬にはなってないのに、あの速度。

 LVが上がると、基礎的な体力が上昇するのは間違いないらしい。

 俺でも実感しているし。


 そして、大角鹿がシロに喧嘩を売られていることに気付くと同時に、大角鹿の情報が変化する。


『大角鹿(凶化) LV36』


 はい、予定通り凶化がつきました。

 顔つきが凶暴になる。目が赤く充血し、歯を剥き出し(立派な犬歯が怖い)にして、さらに体の毛が逆立ち一回り大きく見える。

 とにかく、この魔物は激情家なのだ。

 狩を行おうとすると、直ぐにこの状態になる。

 

 俺は((シロ、逃げろ))と強く念じる。

 取ってこいで遊んでいる内に、更に親愛度が高くなって声を出さなくても簡単な指示が通じるようになっていた。

 遊びって大切だね。

 味気ないから、普段は話すけど。こういう時は便利である。


 シロは即座に反転して逃亡を開始。

 今までの挑発が嘘のように、全力で逃げる。

 シロがぶっちぎってしまうと台無しだけど、大角鹿も足が速い。

 さらに(凶化)状態だと、身体能力が向上する上、獲物に対する執念じみた集中力を発揮する。

 相手の動きを全て把握し、確実に仕留めるために全能力を費やそうとするのだ。

 狙われる相手にとっては、恐ろしい事このうえない。


 でも、逆に言えば、周囲を警戒できない。


 シロは丘の麓あたりを横切るように走っている。

 それを追う大角鹿は、丘の上にいる俺からすれば、無防備に横腹を晒して等速運動をする巨大な的だ。

 

 俺は、構えていた槍を投げた。

 しっかりと、地面と固着する。

 伸ばしていた腕を縮めると同時に、上から振りかぶり遠心力を与えつつ、最後は腕を伸ばして加速。

 勿論、身体強化も発動させている。

 

 唸りを上げた槍が、わずかな放物線を描いて空を飛ぶ。

 大角鹿との距離は80mぐらいだろうか。

 訓練を積んだ俺にとって、外す距離では無い。

 俺の投げた槍は糸を引くように、大角鹿の横腹に突き刺さった。


 大角鹿がよろける。

 そして、足並みが乱れる。

 だが、倒れない。

 腹には黒曜石の穂先が完全に埋まっているのだが、流れ出る血の量は僅か。

 それでも、シロを追いかけるのは止めて、槍が飛んできた方向、すなわち俺の方を向いた。

 その顔には真っ赤な目。血走ったというより塗りつぶしたとしたと表現すべき凶悪な光をたたえた瞳が、こちらを睨む。


『大角鹿(暴走) LV36』


 そして、暴走状態に。

 ぶっちゃけバーサーク状態だ。

 傷を負った大角鹿は、暴走化し相手を叩き殺すまで止まらない。

 大角鹿の身体が、さらに一回り大きくなる。

 怒りが体中の筋肉をパンプアップさせているのだろうか。


 俺に向かって真っすぐに突進してくる。

 シロを追いかけていた時よりも、3割増しで早い。

 背後からシロが追いかけているが、置き去りにされている程だ。


 その迫力は、暴走するブルドーザー。

 しかも、先端には巨大な二本の角を装備している。

 それが狙うのは、人間の腕一本の大きさしかない俺だ。

 比喩的表気では無くて文字通り腕一本。

 

 だが、その腕は次の槍を握っている。

 暴走した大角鹿はパワーは増大するが、頭はさらに使わなくなる。

 まあ、頭の角は使ってくるわけだが。

 奴の頭の中は、俺を角で貫き、脚で踏み潰すことしか考えていないだろう。


 わかってはいたが、こちらに向かってくる姿は怖い。

 

 でも、単純バカほど飛び道具の餌食なのだ。

 

 俺は次の槍を投げた。

 何しろ、真っ直ぐこちらに突っ込んでくるのだ。回避行動など一切とらずに。

 外す要因が無い。

 

 さらに、俺が投げた槍に真正面から突撃する大角鹿。

 相手の速度が加わって、槍による攻撃力は3割増しにはなる筈!


 唸りをあげた槍は宙を飛び、大角鹿の頭部に吸い込まれる。

 

 そして、角に当たって弾け飛んだ。


 奴のでかい角が盾となったようだ。

 一瞬、大角鹿の態勢が崩れるが、速度は落ちない。

 そのまま俺に向かって突き進んでくる。

 むしろ加速しやがった。

 掠っただけでバラバラになるだろう。


 俺は最後の槍を掴むが、投げる余裕は無かった。

 目前に迫る大角鹿。

 逃げるには、機を逸していた。


「よし、予定通り」


 そして、大角鹿の姿が消える。

 俺が事前に用意していた落とし穴の中に。


 地面が揺れるほどの衝撃。

 穴の淵が抉れて、崩れる。そしてもうもうと舞う土煙。

 

 

 何しろ、あの巨体で穴に落ちたからなあ。

 しかも、全力疾走で。平たい爪があると、落とし穴を作るのが実に楽だ。

 

 大角鹿は動きを止めていた。

 自分の体重x速度+落下が、自身への攻撃力へ転じたのだ。

 穴は結構深く掘っている。

 さらに、俺は用意していた5本の槍の内の2本を穴の中に仕込んでいた。


 上から覗き込むと、そのうち一本が大角鹿の喉元を貫いている。

 これが止めになったのだろう。

 

 俺は槍先で大角鹿をつついてみる。

 ぴくりとも動かないな。

 と思ったら、大角鹿の尻尾が動いた?!


 え、こいつ、まだ生きてるの。どこまで化け物なの?


 慌てて槍を構える俺。

 動いていた尻尾が、大角鹿から離れた。

 俺に寄ってきた。


 あれ?

 

 それはシロだった。どうやら、穴におちた大角鹿を追いかけて飛びこんだらしい。

 口元が血で汚れているから、尻あたりに噛みついていたのだろう。


「危ない事するなよな」

「くぅん」


 俺はシロの頭を撫でる。

 シロは嬉しそうに尻尾を振った。

 

 こうして、俺の大角鹿狩は無事に成功したのだった。

ストックが尽きました。

次回の更新は、4/3か4/4の予定。

少し書き溜めてから、更新再開します。

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