004 仲間ができた
更に2週間が経過した。
早い物で、俺がこの世界に飛ばされてから一か月近くたつのだ。
月日が経つのは早いものよのお。
さて、現在の俺のステータス。
『個人名称:ユンデ 種族名称:不明
レベル 15 HP194/194 MP38/38
状態:正常
固有能力:疑似感覚、疑似生命、簡易鑑定、剛力、固着
残スキルポイント:3
[受動スキル]
自動回復(小)、柔軟、気配感知、頑強、伸縮、鷹の目
[能動スキル]
身体強化、擬装、回復』
『取得可能受動スキル
必要スキルポイント2
気配探知
強靭
烏賊の目
必要スキルポイント4
変形
自動回復(中)』
『取得可能能動スキル
必要スキルポイント1
鋭い爪
平たい爪
必要スキルポイント2
身体操作
擬態
回復(他)』
受動スキルの鷹の目を取得。これでスキルポイント1の受動スキルはコンプリートした。
効果は、遠くが見えるようになることだった。
まあ、予想通りだ。
予想外なのは、その上位スキル。
烏賊の目ってなんだろ?
烏賊って、スルメにするとおいしい烏賊のことだと思うけど…
うーむ、気になる。
そして、自動回復(小)も取得。少しHPとMPの回復が早くなった気がする。
そして、残りのスキルポイントは温存中だ。
いや、烏賊の目が気になってるんだけど、名称からすると地雷スキルの様な気がしてならない。
とりあえず、LVアップのための狩は問題ないので、このまま様子見をするかな。
ところで、俺はLVアップの為に、森の動物や魔物を倒しているわけなんだが。
実際、倒した獲物を食べたりしていない。
どこかのグルメハンターに怒られそうであるが、野生動物の生肉はちょっとなあ…というのが正直な気持ちである。
この森の木の実は美味いし。
だからと言って、俺が倒した獲物達が無駄に土に帰っているかというとそうでは無い。
スカヴェンジャー達が、当然いるのだ。
最近、この辺りで俺が倒しているせいで餌目当てでずっと屯しているほどだ。
『森犬 LV10』
狼のように大きくは無い。中型犬くらいのサイズだろうか。
茶色い毛皮をした犬達が、眼下に集まって俺が殺した鹿を食べている。
一匹なら大したことがないんだけど、こいつらの怖い所は群れをつくっている事だ。
一匹に手を出したら、一斉に飛び掛かってくることは間違いないだろう。
懐いてくれる犬は可愛いけど、懐かない犬の群って恐い。
特に俺のやり方は、絞殺中心だから、どうしても動きが止まるし。
俺が餌をやってるようなものなのだから、懐いてくれないかなあ。
あのモフモフを、ぜひ撫でてみたいのだけど。
そんなことを思っていた翌日。
俺は木の影で動いている白い塊を見つけた。
鷹の目が無かったら見逃していたに違いない。
それは、白い子犬だった。
木の枝に指を伸ばして絡めて渡りながら素早く移動して、様子を伺ってみる。
伸縮を取得してからは、枝渡が得意になっているのだ。
まあ、人間の左腕だけが指を伸ばして、枝から枝へ移動していく姿は、自分の事ながら想像してみると不気味なのだが。
もう、慣れた。
さておき、件の子犬だが、どうも動きがおかしい。
というか、明らかに怪我をしていた。
おまけに、随分と痩せているし。
いつもの屯している森犬の子供だと思うんだけど。
それなら、毛の色が違っているか。
もっと、近づいてみる。
犬の瞳は赤かった。
白色の毛と赤い瞳。
どうやら、この子犬はアルビノのようだ。
野生動物のアルビノ。
生き残るのは厳しいと聞いたことがあるような。
…自分自身の記憶は無いのに、こういう知識があるのが不思議だ。
それはさておき、この子犬は親犬に見捨てられたのかもしれない。
このままだと、間違いなく死ぬだろう。
結局、俺はその子犬を自分の隠れ家に連れ込むことにした。
まだ小さいので、木の上に引き上げるのは簡単だった。
抵抗はされなかった。
むしろ、そんな体力すら残ってないのかもしれない。
苦しそうな呼吸音。
それに、すべてを諦めたような瞳は今は瞑られている。
目を開けるだけの体力も無くなっているのだろうか。
まず、問題なのは傷だ。
脇腹から後ろ足の付け根にまで、一直線に傷が付いている。
血も止まっていない。
止血しようにも、治療道具も何もない。
この子犬が自動回復スキルを持っていても、HPを半分以上失った状態だと回復しない。
その場合、状態が重傷となり、なにもしないとHPが徐々に失われていくのだ。
俺は、以前間違えて四手熊に手を出した時、その状態を体験したのだった。
あの時は、慌てて能動スキルの回復を取って、自分を治療したのである。
なので、この子犬も放っておくとHPが徐々に減って死んでしまうだろう。
うむ、ここは烏賊の目が気になるが、スキルに頼るしかないだろう。
ということで、能動スキルの回復(他)を取得することにした。
スキルポイントが余っていたよかった。
烏賊の目が気になるけど、これは後回しで良しとする。
取得と同時に説明を確認。これで、俺が思っているような他者を回復するためのスキルじゃなかったら大変だ。
『回復(他):ぼっちのキミじゃいらないだろうけど、自分以外を回復できるよ。ぼっちくんには不要だから取っても無駄だろうけどね(大事なことなので2度言ってあげたよ!』
相変わらず腹の立つ説明だ。
真面目な説明もあるのに、なんで時々俺をバカにするような説明が混じっているのだろう。
すべてはローロルーラが悪いことには間違いないだろうけど。
まあ、さておき、俺の期待している効果はありそうだ。
俺は、弱っている白い子犬に対して、さっそくスキルを使ってみるのだった。
魔法って凄いね。
いや、スキルを魔法って表現していいかどうか判らないけど。
回復(他)を使用したら、あっという間に子犬の傷が塞がった。
MPは10減ったけど、回復(小)の効果で直ぐに元に戻るはずだ。
子犬は、驚いたように目を開けて、俺をまじまじと見ている。
痩せてはいるが、白い毛皮と赤い目のコントラスト。
ピンとたった耳。嬉しそうに振られる尻尾。
全てが可愛らしい。
何より、俺の様な怪奇生物を見ても動じないところが素晴らしい。
「よしよし、他に痛い所無いかな?」
思わず話しかけた。
え、俺、喋れるんだ。自分でびっくりだ。
そういや、最初の白い空間で声が出たんだから喋れても不思議じゃないか。
「きゅん」
子犬も答えてくれた。
ついでに、毛を撫でようとした俺の指も舐めてくる。
うん、可愛い。助けてよかった。
こいつ、歯も生えている。
体は小さいが、既に乳離れはしているようだ。
なら、適当に獲物を狩ってくれば餌になるだろう。
肋骨が浮いて見えるほど痩せているのだ。
たっぷりと食べさせてやりたい。
あれから、兎を一匹狩ってきた。肉食じゃない普通の兎だ。
そして、目の前に置いて子犬に食べる様に促す。
本来なら、肉を切り取って渡した方がいいのだろうか?
ちゃんと食べることができるのか心配だったが、余計な心配だったようだ。
子犬は暫くこちらを伺った後、おずおずと兎に近づいて腹に噛みついた。
おお、さすが野生。
子犬でもちゃんと食べ方は知っているようだ。
内臓を喰っている。
動物の解体とかの知識は無いので、よくわからないけど。
あれって肝臓かな?
あまりグロテスクに感じない。自分でもびっくりだ。
内臓を見ても抵抗が無い。
日本人をしていた頃だと、顔を顰めていたのではないかと思う。
まあ、記憶が無いから、その通りかどうかは判断は付かないけど。
しばらく子犬の様子を見ていながら、俺は頭を働かせていた。
物理的に頭は無いのだが、慣用句ということで。
そして閃く。
「よし、お前の名前はシロだ」
「わん」
シンプルが最高。
シロもいい名前をもらって喜んでいるのだろう。
嬉しそうに尻尾を振っているし。
その時、ウインドウ画面にメッセージが出た。
『あなたは、従魔を手に入れました』
へ?従魔?
簡易鑑定でシロを見る。
『個人名称:シロ 種族名称:森犬(変異種)
レベル 3 HP22/22 MP3/3
状態:正常
特性:従魔
残スキルポイント(付与分):0
[付与スキル] 無』
『従魔:あなたに従う魔物です。あなたが取得しているスキルの内、従魔に適正があるものを与えることが可能となります。与えられるスキルには前提分を含めたスキルポイントが必要です。』
つまり、俺のスキルと同じものをシロが取得できる。
ただし、それにはシロのスキルポイントが必要になるってことか。
まあ、そんなことより大事なことがある。
どうやらぼっちだった俺に仲間が出来たのだ。
うわ、めっちゃ嬉しい。
しかも、こんなに可愛い毛玉みたいな子犬。
これからよろしくな、シロ。
嬉しくなって撫でまわしてたら、元気にじゃれついてきた。
で、暫く遊んでいると、そのままこてんとシロが倒れた。
うん、寝てる。
子犬の電池切れは突然くるようだ。
寝ている姿も可愛い。
やはり、信頼してくれていることが判るってのが嬉しいね。
俺も休んで、明日に備えよう。
明日からはシロと一緒に、この森で生き延びて成長していくのだから。
白い子犬が仲間になりたそうにこちらを見ている。
ユンデは新しい仲間を手に入れた!




