002 戦いの報奨
王道展開です(目を逸らしながら
どうやら俺は木に当たるように追い込まれたらしい。
そのことを後悔する間もなく、兎が飛び掛ってくる。
どうやら俺を一撃で仕留めるつもりらしい。恐ろしい勢いだった。
鋭い歯が迫ってきた瞬間、俺は上に跳躍する。
そして、枝に掴まった。
掴まった枝が揺れる衝撃。
枝の上に腕を乗せて下を見ると、兎が木に頭をぶつけたらしい。
気絶したりはしていないが、動きがふらついている。
これは、ひょっとしたらチャンスか?
武器は無いが、受動スキルとして剛力があったのだ。
きっと力持ちになっている筈だ。
なんとかなるかもしれない。
相手は俺のような奇怪生物ではない。ちょっと変わっているが只の動物なのだ。
なら、生物としての弱点は共通であるはず。
俺は木の枝から飛び降りた。体重が軽いおかげか、地面に落ちた衝撃は少ない。
そして、動きの鈍っている兎の背後から近づく。
狙うのは首。
林檎を潰せるらしい握力で、兎の首を掴んだ。
首は生き物の急所である。大抵の肉食動物が獲物をしとめるときに狙う箇所だ。
頚動脈を切って出血死を狙うことも、気管を塞いで窒息死させることも、首の骨を折って即死させることも可能。
俺が狙ったのは、窒息である。
うまく頚動脈も締めることができれば、窒息するまえに脳への血流を止めて落とすこともできるはずだ。
そうすれば、もっと楽に無抵抗の相手を仕留めることもできるはず!
自分自身の記憶は無いのだが、こういう知識は残っているのは不思議だな。
余裕がでたのか、そんな関係ないことを考えているうちに、兎の動きが鈍くなり完全に静止した。
怖いのでそのまま締め続けると、やがてウインドウに文字が表示された。
『経験値を獲得
必要経験値を達成。
レベルが1から2へ上昇。
レベルアップボーナスとしてスキルポイント1を習得。
残スキルポイントは1です』
本当にゲームだな。
どれだけ経験値を得ることができたのかは表示されていない。
マスクデータらしい。
『個人名称:ユンデ 種族名称:不明
レベル 2 HP24/40 MP10/12
状態:軽負傷
固有能力:疑似感覚、疑似生命、簡易鑑定、剛力
残スキルポイント:1
[受動スキル] 無
[能動スキル] 無』
ふむ、レベルが上がっている。
HPとMPも増えているな。スキルポイントがあるってことはこれで新しいスキルってのが習得できるってことかな?
受動スキル、能動スキルを見ると、あらたに情報がウインドウに浮かんでくる。
『取得可能受動スキル
必要スキルポイント1
自動回復(微)
気配感知
柔軟
頑強
鷹の目』
『取得可能能動スキル
必要スキルポイント1
擬装
鋭い爪
平たい爪
回復
身体強化』
ほほう、いろいろある。
でも、攻撃魔法みたいなのは無い様だ。
異世界物の定番が無いのかよ。
片手落ちすぎる。
それとも俺が怪奇生物だからだろうか。
普通の人間には、スキルとして存在するのかもしれない。
ああ、人間になりたいなあ。
しかし、周りから妙な視線を感じる。
と思ったら、どうやら俺が仕留めた兎を狙ってる獣だかモンスターがいるっぽい。
とりあえず、安全な場所を確保せねば…
安全地帯でゆっくりとスキルについて考えよっと。
うん、そりゃ判ってたさ。あのローロルーラが糞神だってことは。
俺は、あの後、木の根元に空いていた穴の中に隠れることにした。
兎はその場に残してきた。ちょっと、今、後悔しているけど。
穴の中に隠れたのは、スキルについて考慮するためだ。
ここで失敗したら、大変なことになると思ったのだ。
そして、ウインドウ画面を見つめて気づかされた事実。
取得可能スキルの詳細が判らない。
え、なにこれ。普通、スキルの説明ぐらいあるだろ。
ふざけんな。αプレーヤーじゃねえぞ。
攻略WIKIは何処だ。
スキル名称だけでどれを選ぶか決めなきゃいけないのかよ。
いろいろとウインドウ画面をいじってみても、全くヒントが無かった。
どうやら、男は度胸で選ぶしかないようだ。
うわあ、ここは、外れスキルを引いたらバッドエンド一直線じゃね?
なんせ、穴の中に隠れているから見つかってないけど、どう見ても、さっきの兎より強そうな魔物っぽいのがうじゃうじゃいるんだ。
何、あの手が四本ある熊。うわ、ばかでかい鹿が兎を襲って食ってるし。
その鹿を木の幹くらいの太い胴体の蛇が絞殺している。
うわあ。
どうしてここの連中は、こうまで好戦的なんだろう。
どいつもこいつも、野生動物に備わっている筈の臆病さが無いんだけど。
そんな魔物が多いせいで、ここが魔の森っていわれてるのかね?
そういうことで、真剣にスキルを選ぼうとする俺。
でも、しばらく時間がたつとあることに気付く。
HPとMPが全く回復していない。
いや、こういうのって、時間がたったら勝手に回復するもんじゃないの?
兎を倒してから既に半日くらいは経過しているけど、HPとMPの表示は
『HP24/40 MP10/12』
のままになっていた。
…もしかして、自動回復ってのを取らない限り回復しないのだろうか。
ははは、そんな致命的なコトを何の説明もなしに設定する訳が……
あるかもしれない。
なんせ、糞ガキ神のやることである。
むしろ、HPが怪我の影響で勝手に自動減少しないだけ良心的でしょ。なんて言いかねない。
『自動回復(微)を取得しました』
『自動回復(微):HPとMPが自動回復するよ。休憩したり睡眠をとると、沢山回復するようになるんだ。普通の生物は標準で取得しているけど、怪奇生物は自分で取らないと駄目なんだよね。気づかずに死んだら面白かったのに。残念』
ローロルーラぁ……
取得して読んだ説明文の内容は、あきらかに俺を挑発している。
こめかみに青筋が浮かぶ感覚。まあ、こめかみなんて無いんだから気のせいだろうけど。
自動回復(微)をとったおかげで、徐々に傷が治っていく。
凡その感覚だけど、10分間でHPが1くらい回復している。MPは15分で1くらい回復した。
遅い気がするけど、傷が治るスピードで考えると、人間の日本人をしていたころより遥かに早いだろう。
そして、傷が治りきった頃に、俺は猛烈な空腹を感じていた。
『状態:空腹』
どうやら、こんな体というか腕だけでも腹が空くらしい。
兎を確保しておくべきだったのだろうか。
いや、生肉をそののまま食うってのも抵抗があるけど。
どちらにせよ、兎肉はもう無い。
隠れ家を探している内に、空から降りてきた烏に攫われていったのだ。
足が三本ある奇形の烏だったけど。
・・・どこかの神話で見たような相手に取り返す自信等無い。
何とか食料を探さねば。
隠れ家から這い出して周囲を伺う俺。
勿論、狩などしようとは思わない。
安全第一。狩猟生活より採取生活優先で行くのだ。
幸いといっていいのかどうか、体のサイズは小さいのだ。
そんなに食料が必要になるとは思えないし。
そんなことで、周りに気を付けながら探索すること暫し。
無事に林檎のような木の実を発見することができた。
触った感じだと、手触りは梨のようなざらつく感じがする。
それにしても、体重が軽いと木に登るのって楽なんだなあ。
剛力のおかげかもしれないけど、指の力だけで木の幹を掴んで登っていけるのだ。
視界が狭まる地上生活より、樹上生活をしたほうがいいかもしれない。
おっと、将来の予定より今は空腹を解消する方が優先だろう。
俺は目の前(?)の果実に、齧りつこうとして気づいた。
・・・あれ、どうやって食えばいいんだろう?
た、たしか、口みたいなのは肩口にあったはず。
肩口に口があるって、なんかシュール。
理性で悩むより、本能に身を委ねるのだ!
きっと、俺には生存本能があるはずだ!
うん、無事に食べることができました。
腕で海老反りみたいな姿勢で、肩口で果実に齧りついて。
うわあ、なんていうか・・・
自分で自分の姿を想像してみた。
人間の腕だけが、木にしがみ付いている。それが、いきなり腕を曲げて肩の部分で果実に喰らいついている。
・・・うん、忘れよう。夢に見そうだ。
明日も更新予定




