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001 魔の森

王道展開です(部分的に

 異世界転移物っていろいろあるじゃないか。

 定番は、見知らぬ世界に飛ばされて、異世界の人間とのトラブルに巻き込まれる。

 親切な神様経由なら、チートなんていう特殊能力を与えらえて、それを利用して活躍してハーレムなんて作ったりして。

 勿論、人間関係や常識の違いで死にそうになることも多いだろう。

 でも結局は、人生の勝利者になるってのが定番中の定番。

 でも、そうなるための最低条件ってあるわけで。

 少なくとも人間、もしくは人型の生物ってのが最低条件だと思う。

 翻って考えるに、俺ってなんだろう。

 ローロルーラっていうガキ神に救ってもらったらしい俺。

 そして、くそガキの世界に連れて来られたらしい。


 その俺の姿は、左腕・ ・だけだ。


 人間どころか人型ですらない。

 自分でも何で冷静になっているのか判らない。

 俺には、頭も胴体も足も右腕も無い。

 あるのは刺青だらけの人間の左腕だけ。

 どうやら、人差し指と薬指にはまっている猫目石の指輪が目の代わりらしい。

 ほかにも左腕の付け根にあたる肩の部分。

 その断面に口らしきものがある。

 どう贔屓目にみても、怪生物である。

 そんな姿を、湖面に映しながら見ている俺。

 俺には、確かに地球の日本に在住していた男であるという自覚がある。

 むしろ、それしかない。

 俺が誰かは判らない。個人情報を全く思い出せない。


 名前に関しては、ローロルーラがユンデと名付けてくれていた。

 あのくそガキに付けられた名前なぞ認めたくないが、他に思いつく名も無い。

 というか、ローロルーラの祝福とやらが、俺をユンデだと指示しているのだ。

 俺の視界の片隅にあるウインドウ。

 パソコンでゲームをする時などにお馴染みのものと思えばいいだろう。

 そんな記憶はあるのに、自分の事は判らないのはお笑い草だが。

 記憶の種類には数種類があって、記憶喪失になりやすい記憶とそうでない記憶があるらしいが、残念な事に俺の頭では判らない。

 というか、頭がないのだが。


 それはさておき、そのウインドウにこんな文字が浮かんでいるのだ。


 

『Dear ユンデ。

 Well come to ローロルーラワールド!

 このウインドウはローロルーラの祝福だよ。

 僕って親切でしょ。

 続きを表示したいなら、yesをクリックしてね。』



 …殴りてえ。

 俺は、怒りを覚えつつyesをクリックしようとする。て、どうやるんだよ。マウスなんてねえぞ。


 どうやら、視界でとらえるだけでいいようだった。

 便利なもんだ。


『君に与えるのは、簡易鑑定と自己ステータス確認/スキル選択機能だよ。

 まあ、腕だけ生物用だから、急ごしらえのでっちあげだけどね!

 本当にキモい生物って迷惑だよね!!』

 

 よし、人生の目標が出来た。ローロルーラをぶん殴る。

 俺はそれだけで生きて行けるだろう。

 

『簡易鑑定は簡単だよ。物知らずな異世界人のために作った便利機能さ。

 知りたいものを見たら、勝手に鑑定してくれるから、どんな馬鹿でも大丈夫。

 もちろん、キモ生物でもね!』


 ぴきぴき。

 不思議だ。頭が無いのに、こめかみに青筋が浮かんだ気がする。


『自己ステータスは自分の状態を知るのに便利だよ。

 あと、スキル選択はレベルアップすると選べる便利なスキルを自分で選択できるんだ。

 チートだね。

 キモ生物に使いこなせるスキルって限定されるけどね!!

 だって、人間じゃないんだから仕方ないね』


 コンピュータゲームかよ。レベルアップってモンスターでも倒せばいいんだろうか?

 あと、むかつく。


『あとは、自分の命を懸けて確かめてね。

 どんなに滑稽な最期となるか、僕は見てるから。

 あ、やっぱりリアルタイムで見たくないから、記録だけとって暇になったら見るね!

 じゃあ、キモ生物らしく、無様に生き足掻いてね~』


 落ち着け、俺。

 ここにはローロルーラはいないのだ。握りしめた拳を振う相手はいないのだ。

 そうだ素数を数えるんだ。

 …あれ、1って素数だっけ?



 とりあえず落ち着いた俺は、周囲を見回してみた。

 よく判らないが、周りに人気は無い、と思う。

 何しろ、視界が低いのだ。具体的には拳一つ分の高さしかない。

 あ、肘から持ち上げることができた。精々30cmくらいだけど。

 バランスを崩すと倒れそうだ。

 それでもぼんやりと目の前の景色を見ると、ウインドウ画面に文字が浮かび上がる。


『魔の森:人の立ち寄らない危険な森

     生物は豊富。食料に不自由はしないが、食料になる可能性も高い』


 碌でもねえな。

 そういや自己ステータスも見えるってメッセージがあったな。


『個人名称:ユンデ 種族名称:不明キモい

 レベル 1 HP32/32 MP10/10

 状態:正常

 固有能力:疑似感覚、疑似生命、簡易鑑定、剛力

 残スキルポイント:0

 [受動スキル] 無

 [能動スキル] 無』


 これだけかよ。

 筋力とか知力とか生命力とか敏捷力とか運とかは無いのか。

 いつの時代のゲームだよ。

 ワー○ナーさんが出てくる魔法使い的なゲームでももっと表示があっただろう。

 というか、感覚も生命も疑似・ ・なのか。

 ある意味納得だが、腹が立つな。腹も無いけどな。


 剛力ってことは、力が強いってことなのだろうか。

 なんて思うと、剛力という文字が点滅して別の文章が表示される。


『剛力:キモい生物の君は左腕に、体全ての筋肉が濃縮されているよ。林檎ぐらいは簡単に握りつぶせるから凄いね!』


 …よし、ローロルーラの頭を握りつぶしてやる。

 俺はそう決意したのだった。

 

 

 ところで、腕だけになって移動するにはどうすればいいと思う?。

 匍匐前進って、体がなきゃできないんだよ。

 しょうがないから、指で地面を掴んでから肘と手首を曲げて引き寄せては伸ばすを繰り返して移動してるんだけど。

 あまり早くない。

 ぶっちゃけ遅い。慣れるしかないのか。

 他にいい方法がないか試してみた。


 結論。指だけで歩いたほうが早い。

 指で地面を引っ掻くようにしたほうが早く、かつ細かく動けた。

 剛力のお蔭で指の力も増しているのだろう。

 意外と速度が出ている気がする。

 森の中を指だけ動かして進む腕。

 よくよく考えなくてもシュールだな。


 前に障害物がある場合は、肘を曲げてから肩の付け根で地面を押すようにして跳躍する。

 結構高く跳べたりする。意外と楽しい。

 自分の長さの5倍以上跳んでいるから、3mくらいかな?

 疲れるから連続で跳ぶのは大変だけど。

 地面を這う以外の移動方法があるのは有り難い。

 俺は調子にのって、森の中の移動をつづけたのだった。



 調子に乗るんじゃなかった。

 現在、絶賛追いかけられ中。

 冗談抜きで必死。

 危険な森って嘘じゃなかった。

 というか、何でウサギが襲ってくるんだ。

 臆病な草食動物じゃないのかよ。

 方向転換するときに視界に映る兎。そしてウインドウ画面に現われる文字

 

『肉食兎 レベル5』


 それだけかよ。

 特徴とか弱点は?

 不親切すぎるにも程がある。

 とういか、俺みたいな奇怪生物を襲うなんて、野生の本能は無いのか。

 臆病なほど慎重なのが野生動物ってもんだろ。常識的に。


 そんな風に思っていると、体(腕?)に衝撃が。

 地面を転がると、手首と肘の中間くらいに鋭い切り傷ができていた。

 血が出ている。

 腕だけなのに、一応血は流れているのか。

 自分の事ながら不思議だ。

 どう考えても心臓はなさそうなんだけど。

 

 素早く起き上がる俺。とはいっても、手の甲が上になった状態を起き上がると表現してもいいのかどうか知らないが。

 とりあえず、この態勢じゃないと動けないのである。


 ちなみに、今のウインドウ画面の表示は


『レベル 1 HP24/32 MP10/10

 状態:疲労、軽負傷』


 とだけ表示されている。戦闘中は余計な情報を省いてくれるらしい。

 こういう所は無駄に親切だな。確かに大量の情報が出ていちゃ気が散るし。

 目の前にいるのは肉食の兎らしい。

 体長は50cmくらいだろうが、筋肉の付いた太い体と鋭いナイフのような前歯が特徴的だ。

 どうみても、俺より体重がありそうだ。レベルってのが純粋に戦闘能力を現すのなら格上の相手の可能性が高い。

 先ほど俺を切り裂いたのは、兎の前歯のようだった。

 ナイフのように鋭い歯に、血が付着している。

 威嚇の声すらあげずに、こちらを見てじりじりと近づいてくる兎。

 こっちは腕と手はあるんだけど、武器が無い。文字通り素手だ。

 手しかないなの無手である。

 今の状態じゃ笑えないなあ。

 あ、徒手空拳といえば格好いいかも。


 なんて、どうでもいいことを考えて現実逃避をしようにも、目の前の現実は変わらない。

 さっきまで逃げていて気づいたんだけど、こいつの方が俺より足が速い。

 逃げ切れそうにない。


 じりじりと迫る兎。それに押されるように後ずさりする俺。

 指の力だけで後退するってのも、なかなか新鮮な感覚である。

 視野が低いので、兎が更に巨大に見えてしまう。

 正直言って、怖い。

 飛び掛って仕留めるタイミングを狙っている兎。

 興奮して眼が血走り赤くなっている

 可愛らしい兎が、こんな凶暴になると異世界とは恐ろしい。

 そして、俺の後退は停まった。

 何かにぶつかったのだ。

 その瞬間、兎がにやりと笑った気がした。

次は明日。暫くは毎日更新の予定です。

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