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013 融合

 人がいる。

 道を歩く3人の姿を、俺は確認した。

 

 ローロルーラの話から、この世界にも人間と呼べる生物がいるらしいことは判っていた。

 それでも、この世界にきてから初めて見る人間だ。

 興味津々である。


 魔の森を飛び出した俺は、シロに乗り平原を横切る。

 背の高い草の生えた平原は、俺達の姿を隠してくれる。

 見つからずに接近することができそうだ。


 勿論俺は、いきなり襲いかかって死体にして融合を試そうなどとは思っていない。

 取りあえずは、見つからないように後を付いていくつもりだった。

 

 人里さえ見つければ、あとは何とかなるだろう。

 何て事を思っていたのだが…

 俺はあっさりと、死体と対面する事になったのだ。


 



 道に倒れた一人の男を、二人の男が囲んでいた。

 倒れた男から流れ出す血が、道を染めている。

 後ろから心臓を一突きってところかな。

 どう見ても致命傷。というか即死のように見える。


 えーと、いきなり仲間割れ?

 それとも、あの二人は盗賊みたいな者だったのだろうか。


 血なまぐさい展開になっている。

 倒れた男の顔は判らないが、立っている二人の男の顔は凶悪だ。

 どうみても堅気の顔では無い。

 二人とも血に染まった両刃の剣を持っている。

 ナイフと呼べるような可愛い武器では無い。

 明らかにソードと呼ぶべき代物である。


 ふむ、やはり、一般的な剣と魔法の世界というべきなのであろうか。

 となると、文化レベルは中世レベル。日本だと戦国時代前程度ということになるのかもしれない。

 まあ、よくある設定だよな、と思う。

 ローロルーラが好きそうな設定でもある。

 

 きっと、自分の好きなように世界を改変しているのだろうし。

 それより、言葉が判るのは助かる。

 これも、ローロルーラの加護なのだろうか。

 自分的には普通に日本語を喋っているつもりだったんだけど。

 男達は、倒れた男の懐を探り袋のようなものを取り出した。

 中を覗き、満足そうな笑みを浮かべた。


「おい、早く行くぞ。ここが魔の森の近くってことを忘れるな

 血に誘われて森の魔物が出てくるぞ」

「忘れるわきゃねえだろ。こんな物騒な場所、誰が好き好んで通るかよ」


 男達は森の方向を見ながら、忌々しげな表情になる。

 その目に浮かぶのは恐怖。

 俺には魔の森に、そこまで怖いイメージがないんだけどな。

 

「お蔭で、俺達から目を離してくれてたんだ。

 今回ばかりは有り難いぜ」

「ああ、さっさと行くか」


 そして、二人の男は大急ぎで去って行った。

 足取りを見ると、相当慌てている。

 

 男達の姿が見えなくなってから、俺は隠れていた草陰から出て、倒れた男に近づいた。

 あっさりと、目標だった人間の死体が手に入りそうだ。

 都合が良すぎる。

 ローロルーラが介入してないよな?


『人族(人間) LV22 状態:死亡』


 簡易鑑定は本当に簡易すぎる。どうやらこの男はお亡くなりになったようだ。

 遠慮なく能力を試させてもらうとするか。

 死者融合を発動させようとすると、新たにウインドウにメッセージが出てきた。


『死者融合での融合可能対象です。

 現在の成功確率95%』

『融合可能状態ではありません』


 さて、俺の推測だと左腕に取りつくようになる訳だが。

 つまり、この男に腕がついたままだと駄目ってことだ。

 

 平たい爪を発動させる。切断するなら鋭い爪よりこちらの方が使える。

 シロの体から降りて地面に固着し、大きく腕を振りかぶる。

 変形を使ってさらに腕を伸ばしてから、身体強化発動。

 空から振り落とした爪は、あっさりと男の左腕を肩から切断した。

 切断した傷口から血が流れる。

 死体とはいえ、人間を傷つけたのは初めてだが動揺は無かった。

 

 さて、どうなったかな。


『死者融合での融合可能対象です。

 現在の成功確率90%』

『融合可能状態です』


 成功確率が落ちているのは、死体になってから時間が経過したせいかな。

 となると、急いで実行せねば。

 

 俺は、融合付属スキル:死者融合を発動させた。


『死者融合が発動されました』


 俺の左腕だけの体が、勝手に男の死体の左肩に近寄り肩口に固着される。

 全身に痺れるような感覚と、熱が広がる。

 腕に刻まれた魔法陣が淡く発光していた。


『固有能力融合による死者融合が開始されました。

 完成に必要な時間は3分です。

 完成前に他の融合付属スキルを使用することができます。

 完成後は使用できませんので、ご注意ください』


 え、他の融合付属スキルって記憶奪取とか知識奪取とか技能解放のことだっけ。

 いつでも使えると思っていたのに、このタイミングじゃないと駄目らしい。

 三分しかないって、短すぎるだろ。

 えーと、とりあえず、この世界で暮らすのに必要な知識が欲しい。


『知識奪取が選択されました。

 対象の知識を選択してください。

 一般知識

 特殊知識

 詳細知識』


 全部の知識をくれるわけじゃないらしい。なんと不親切な。

 ここは一般知識を選択。

 特殊知識とか詳細知識ってなんだろうか?

 気になるけど、今はこっちが必要だ。


 記憶奪取はどうするか。この分だと、奪取できる記憶も分割されている気がする。

 後回し。

 

 技能解放といっても、この男がどんな技能をもっているか判らないんだよなあ。

 スキル発動前に所有技能詳細とか判ればいいんだけど。


『死者融合完成まで残り2分です』


 時間が無い。スキルポイントを無駄にするかもしれないけどなにか取るべきだろうか。

 たしか、死者融合と記憶奪取でスキルポイントを2消費したから、残りのスキルポイントは4しかない。

 どうするのが一番いいのか。

 いろいろ考えている内に時間が経過していく。


『死者融合完成まで残り1分です』


 よし、今回はこのままでいこう。

 なにせ、魔の森を出てすぐに生きのいい死体と遭遇するような世界だ。

 失敗しても次の機会があるに違いない。


『死者融合が完成しました。

 ブレイクスルーポイント設定スキルが実行されたため、ブレイクスルーポイントの達成条件を満たしました。それに伴いブレイクスルーポイントを突破しました』

『ブレイクスルーポイント突破に伴い、以下の条件が解放されました。

 LVキャップが解除され、LV30を超えるLVアップが可能となりました。

 レベルアップ時の付与スキルポイントが2に変更されました。

 簡易鑑定の判明対象LV制限が無くなりました。

 特異受動スキルである変形に、柔軟、伸縮が統合されました。

 それに伴い、変形使用時の効果が増加しました。

 精神凍結が一部解除されました』


 俺は体をゆっくりと起こした。

 ふらつく足で立ち上がる。

 それだけのことなのに、奇妙な感覚が押し寄せてくる。

 今までと大幅に違う視界。

 遥かに高い視点。


 人間の顔の目を通して周囲が見れているのだ。

 自分・・の体を見てみる。

 背後から心臓を貫かれていた筈だが、防具の傷は残っているが体の傷は消えていた。

 心臓も動いているようだ。

 あふれ出ていた血は消えていないので、汚れが酷い。

 

 手足を動かしてみる。違和感を感じた。

 元々人間だったのに、左腕だけの生活になじみきっていたようだ。

 体を動かすのに抵抗がある。

 左腕全体に施された魔法陣が、まだわずかに光を放っていた。

 右腕との見た目のさが酷い。

 左腕と右腕の長さが違うんじゃないかと思ったが、バランスは取れていた。

 たまたま同じ程度の大きさだったのか、それとも融合した時に自動で調整されたのかは判らないが、変な体形にならなくて済んだのは有り難い。

 その左腕に柔らかい感触があたった。


「シロ?」


 シロが俺の左腕の臭いを嗅いでいた。

 そして、ペロリと舐めると安心したように俺の足元に座り込む。

 従魔だけあって、俺のことは判っているようだ。


 良かった。別人だと判断されて、いなくなったら悲しい。

 シロを撫でていると、だんだんと体の違和感が薄れてきた。

 馴染んでくると言う表現がぴったりとくる。

 違和感が薄れてくると、同時に徐々に俺に押し寄せてくるものがあった。

 不安と畏れ。

 これに緊張が加わる。


 今まで感じていた同じ感情が窓ガラス越しであったような、そんな感覚。

 そして今は、窓を開けて直接対峙しているのだ。

 恐怖・ ・に対して。


 シロが唸る。

 周囲を睨みつけるように。


 俺は気配探知に集中した。このスキルはMPを消費しないが意識しないと発動してくれない。融合のショックで周囲の監視がおろそかになっていた。

 血の臭いに誘われて、魔の森から魔物が出てきたのだろう。

 

 複数の魔物の気配を探知した。


 今までと違うのは、魔物の反応だ。

 俺に対しては、森の中で魔物に遭遇しても無関心の白反応が多かった。

 だが、今の周囲の反応は赤。

 

 この場に集った魔物達は、明らかに俺を敵視していたのである。

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