011 ローロルーラ再び
「なんだ、随分変なのが来たね」
白い部屋。
3か月前に見た覚えがある白い空間に似ている。
違うのは、今回は明確に部屋の形をしていることだろうか。
そして、目の前にいるのも、見た覚えのある子供のような姿。
そして、聞いた覚えのある声
そいつが、大きな机の前に座ってこちらを見ていた。
「ローロルーラ…」
「ああ、僕を知っているのなら、一応関係者かな?
ちょっと、びっくりしたけど。
こんなキモい生物って初めて見たから」
手前がこうしたんだろうが、何を言ってやがる。
俺は怒りを覚えた。
「ふざけんな、3か月前に会ってるだろうが」
「3か月前?」
目の前の子供神は、不思議そうに首を傾げた。
「へー、ちょっと待っててね。調べるから」
ローロルーラは、机の上にあるノートパソコンみたいなものを操作する。
見た目の質感は石のようだけど。
形状は明らかにノートパソコンだ。
「ああ、三か月前の記録にそれらしいのがあるね。
名前はユンデっていうのか。変な名前だね。
それ以上に、姿形が有り得ない。
センスが悪い、引くね、これは。
まったく、僕は何を考えているんだ」
「お前、ローロルーラじゃないのか?」
「え、僕はローロルーラだよ」
「じゃあ、なんで、今初めて知ったような口ぶりなんだ?」
「だって、今初めて知ったもの」
「どういうことだ?」
俺の目の前にいる偉そうな子供は、明らかに三か月前に会ったローロルーラそっくりだった。
それなのに、今俺の事を知ったとはどういう事だろう?
「こんな変なの造るなら、僕にも連絡よこせって言いたいよね。
あーあ、やっぱり、勇者用プログラムを雑に改変して使ってる。
その場の思いつきでやっちゃうから、僕は駄目なんだよ」
ローロルーラは、更に机上のノートパソコンを操作する。
どうやら、あれで俺のことを調べることができているようだ。
「大体、キミ、ってどう控え目にみてもモンスター枠でしょ。
本来なら、僕の担当じゃないよね。
ああ、面倒だ。
なにこれ、えーと…。
ふむふむ、こういうことか」
はぁ、と溜息をつくローロルーラ。
「とりあえず、かなり変則的だけど。
ようこそ、ユンデ。
そして、おめでとう。
君は最初の臨界突破点に到達しました。
ぱちぱちぱち(拍手)
うん、締まらないね」
ものすごく微妙な表情をしているローロルーラ。
いや、むしろ、俺こそどんな顔をしていいか判らない。
まあ、顔は無いけどね。
「結局、どういうこと?」
「頭の悪いキミじゃわからないよね。
って、僕ならいいそうだけど。
この状況で分かる筈がないから、心配しないで。
ここは、本来なら生き残った勇者へ助言を与えるための場所なんだ。
条件はいろいろだけど。
キミの場合は、LV30で固有能力:融合が発動条件になっているみたいだね。
ああ、僕はローロルーラ。いや、僕もローロルーラ。
普段なら勇者に合わせてもっともらしい設定を用意するんだけど、
キミ、イレギュラーすぎるからぶっちゃけるね。
勇者の管理をするために世界システムに組み込まれたローロルーラの分体。
それが僕さ。あ、僕についての苦情は受け付けないよ。
そりゃ、根源は同じだけど同一の存在じゃないし」
「分体?」
「面倒な仕事を押し付けられた僕の一部。
普通の勇者の前だと、天使の姿や悪魔の姿で現れることが多いよ」
俺の目の前で、ローロルーラの姿が変わる。
最初は、鷲の羽の生えた人間の姿。次は、蝙蝠の羽の生えた人間の姿。
「まあ、中身は一緒なんだけどね」
そして、ローロルーラの姿に戻る。
「キミみたいな怪奇生物は初めてで、そしていきなりだったからねえ。
相応しい姿なんて用意してないから、僕の姿で相手をするね。
なんか、いろいろデータを見てみると、意外とキミ、面白そうだし」
おや、前のローロルーラは俺のことを、散々けなした挙句、失敗作だとか言ってたんだけど。同じ神様でも性格が違うのだろうか。
「ほら、僕って勇者担当だから。
召喚勇者だろうが、転生勇者だろうが、覚醒勇者だろが、今まで人間ばっかり相手してたんだ。
いやあ、モンスターもどきを担当するのは、初めてだね。
わくわくする」
「好奇心だけかよ!」
そういや、最初のローロルーラもちらって言ってたけど、この世界って勇者がたくさんいるのか。
倒さないといけない魔王とかも大量にいたりするのかな。
「魔王担当は、僕じゃないけど。
今、存在しているのは魔王4体と大魔王1体だね。
普通なら、勇者に合わせて魔王も用意することが多いけど。
キミの場合は、対応する魔王はいないねー
宿命設定も無いし、運命設定も無いし。、
本当に、適当に勇者プログラムを利用しただけっぽい」
魔王対策で勇者がいるんじゃなくて、逆かよ…。
なに、それ、どんなマッチポンプだ。
そして、このローロルーラも俺の心が読めるようだ。
「まあ、一応神様だし。
それぐらいは、ね。
でも、僕ほどの力はないから、口にしてくれた方が助かるかな」
「で、その有り難い神様が、何の用だ」
「別に用はないんだけど、勇者プログラムの設定通りに僕と繋がっただけで」
「助言がどうのって言ってなかったか?最初に」
「ああ、覚えていたんだ。
予想よりは頭いいね」
「お前も、やっぱりローロ―ルーラだな」
「そりゃ、そうだよ。ローロルーラだもの。でも僕への苦情は受け付けないよ。
それで、そんなこというって事は、何か助言が欲しいの?
キミの記録見てみたけど、結構うまくやってるじゃない。
イージーモードでも大したもんだよ」
魔の森スタートって、イージーモードなのか。
それは、さておき、助言を貰えるなら聞きたいこと。
…そりゃ一つしかないだろ。でも、言っても大丈夫だろうか。
いや、心が読まれてるんじゃ、思いついたと同時に知られているってことだよな。
俺は正直に言ってみた。
この世界に連れて来られてから最初に思ったことを。
「俺はローロルーラを一発殴りたい。もちろん、お前じゃなくて最初に会った奴の方を」
「へー、キミはそっち方向なんだね」
ローロルーラは怒ったりしなかった。
「元の世界に帰りたいとかは無いのかな?」
「この姿じゃ無理だろ」
左腕だけの怪奇生物になって、日本に戻ってもなあ。
見世物になればいい方だろう。
それに、俺、個人情報を忘れ切っているせいか、そういう渇望が沸いてこない。
「ふむ、結論から言うと可能性はあるよ。
滅ぼすとかじゃなくて、殴りたい程度ならね」
「あるのか!」
「だって、僕、よく実在化しているし。自分の神殿で遊ぶのも趣味みたいなもんだから。
世界のどこかで会う可能性もあるし、キミに興味をもったら直接会いに来る可能性もある。殴るくらいならどうにでもなると思うな」
そりゃ、いいことを聞いた。
機会はあるようだ。
その後、ローロルーラに今回のブレイクスルーポイントに関する説明を受けた。
今回のブレイクスルーポイントは、固有能力:融合が鍵になっており、この能力を使うことによってブレイクスルーポイントを突破したと判定されるらしい。
ブレイクスルーポイントを突破するまでは、次のLVアップができない仕様になっているそうだ。
岩に刺さった聖剣を抜くことができるLVに到達したらブレイクスルーポイントに到達してイベント発動、神の啓示を聞いた後、実際に聖剣を抜くと突破判定されるというのが本来の使われ方の一例の様だ。
俺にはそんな恰好いいシーンは用意されておらず、融合の固有能力取得がイベント発動条件に設定されていたとのこと。
いい加減なことをするよね。だから、僕は僕が嫌いなんだ。
とは今回のローロルーラの弁。
いまさらだけど、俺って相当ぞんざいに扱われていたらしい。今回のローロルーラの目からみても。
とにかく、次の段階に進むには、新しく得た融合を使わないと駄目ってことだ。
そういや、融合がどんな能力か確認できていなかったな。
いきなりこの白い部屋に連れ込まれたから。
ローロルーラに融合について確認しようとしたが、説明文以外の解説は基本的に禁止とのこと。
それぐらいサービスしてくれてもいいと思うんだけどな。
「じゃあ、今回はこれくらいだね。
あ、現実世界じゃ時間は経過していないから心配しないで」
そして、俺の視界は白から緑へ変化した。
白い部屋から魔の森に戻っても、時間は経過しておらず、大角鹿を倒した時のままだった。
白昼夢を見ていたような気分だった。