010 ブレイクスルーポイント
攻略方法を見つけさえすれば、後は作業だ。
次の日から、俺は大角鹿を狙い続けた。
倒しても次の日には、新しい大角鹿が現れてくる。
縄張りが空くと直ぐに、自分の縄張りにする大角鹿が現れるのだ。
現れる大角鹿のLVは35前後にばらついているし、顔だちや体格も微妙に違う。
ゲームの用にいくら倒しても次の瞬間同じ個体がリポップしている、という訳では無いようだ。
この吹き溜まりの向こうには大量の大角鹿がいるのかもしれない。
複数を相手にするのは、まだまだ厳しいので暫くは此処で稼がせてもらうつもりだ。
最初は、大角鹿を倒しただけで、LVが3つ上昇していた。
シロも二つ上がってLV17になっていた。
大角鹿は経験値も肉も非常に美味しい良い獲物である。
経験値みたいなものがあるのは間違いないが、俺とシロの間での配分がどうなっているかはよく判らない。
謎である。
与えたダメージに比例するだけとは思えないし。
まあ、悩んでもしょうがない。
この世界のシステムを作ったのは、あの《・ ・》ローロルーラらしいのだ。
なんせ、本人が言ってたからな。
なら、適当にサイコロを振って決めていても驚かない。
狩り始めて暫くすると、一匹倒してもLVアップすることは無くなった。
1LV上がるのに必要な数が、だんだんと増えていく。
LVが上がるにつれて、必要な経験値みたいなのが増えているのだろう。
成長速度が落ちている。
でも、他の獲物を狙うより効率的だった。
そして、新しいスキルとして、LV24で気配探知、LV25で穴掘りを新しく取得した。
気配探知は気配感知の上位互換スキルだった。
気配感知はなんとなく周囲にいる生物の位置と視線がわかるだけだったのだが、気配探知になると、周囲にいる生物がこちらに対してどんな感情をもっているかが判るようになった。
しかも、色分けされるので非常に判り易い。
色と感情の関係は、白:無関心、青:友好、黄:警戒、赤:敵対 となっている。
これを使えば警戒すべき周囲の魔物が一目瞭然となる。
そして気付いたのだが、俺1人だと周囲の魔物の反応は白が多い。
最初から赤の反応を示す魔物は稀だった。
これが、シロと一緒だと魔物の反応は黄と赤が多くなる。
シロって狙われやすいのだろうか。
ちなみに、シロの反応は常に青だ。
能動スキルの穴掘りは、文字通り穴掘りだった。
平たい爪を発動させて、爪がスコップみたいに変化した時に使えるスキルである。
この状態で穴を掘ると、冗談みたいな速度で掘り進めることができる。
スキルを使った時と使わない時の差は、ざっと5倍。
俺とシロが隠れるだけの穴なら、掘り開けるのに30秒もかからない。
このお蔭で、新しい隠れ家を楽に作り上げることができた。
ちなみに、新しい隠れ家は、大角鹿狩に使った丘である。
いろいろと掘り進めてしまったので、丘は地下通路が錯綜する迷宮のようになってしまった。
最近は、地上で落とし穴を掘るのでは無く、地下通路を地上付近に作ることよって、安全かつ目立たない落とし穴─落とし通路と言ったほうがいいかもしれない─を作っている。
あと、地下から地上へ奇襲を掛けたりとか。
地面からいきなり手が生えて、足を捕まえて地下に引きづり込む。
そして、設置しておいた槍の上に落とせば一丁上がりである。
ちょっとしたホラーだ。
まあ、やっているのは、俺なのだが。
こうして、俺はコツコツとLVアップに勤しんだ。
LVが上がるにつれて、徐々に身体能力が上昇しているのは間違いない。
この森に来た当初から比べると、スキルの恩恵を除いてもあきらかに体力というか腕力が付いていることが判る。
具体的に何が上昇したのかは、不親切なステータスウインドウでは判らないけど。
LV26からLV29までは、スキルポイントを貯めたままにしていた。
上位のスキルになると、必要なスキルポイントが倍々となっているせいで、非常に取り辛い。
本当、何度も思うけど攻略WIKIが欲しい。
しかし、新しいスキルを取得しなくとも、今まで取得したスキルと経験で、狩自体は問題がなかった。
各スキルも、熟練度が上がっているのか、それともLVが上がったことが原因なのかはわからないが、少しずつ効果が上昇しているようだった。
勿論、LVが上がっているのは俺だけでは無い。
アルビノ森犬のシロもLVアップしていた。
シロの獲得したスキルを見ていると、定番っぽいものから、面白い物までいろいろある。
なかでも、面白いのが”悪食”。
本来は、腐った肉など体に悪そうなものを食べても平気になるスキルらしい。
今は、シロが俺と同じ塩振りの肉を食べても平気になっているようだ。
このスキルを取る前は、シロは塩を掛けた肉は食べなかったんだけど。
俺が美味しそうに食べているのを見たせいで、このスキルを獲ったに違いない。
おかげで、俺の男料理(塩を振って焼くだけ)を一緒に食べるようになった。
そうそう、俺は遂に火を手に入れた。
切っ掛けは、平たい爪で塒を拡張している時に、石に爪を打ち付けた時に火花が散って布団代わりの干し草に火がついたのだ。
石は硫黄が混じっていたのかもしれないけど、爪に金属が含まれているとはびっくりだ。
改めて、自分の体というか腕だけは、人間離れしていると思った。
そして、森に火をつけて大規模火災を起こせば、楽して大量に経験値を手に入れることができるのではないかとも思ったが、さすがに自重した。
どうなるか興味があるけど、自分やシロが火に巻かれるかもしれないしね。
それに、シロの部下もいるし。
俺達の倒した獲物のおこぼれを狙っていた森犬の群れがいたのだが、シロがいつの間にか群れのリーダーになっていた。
今までのリーダーをシロが倒したらしい。
まだ子犬の面影が残っているのに大したものである。
もっとも、シロにリーダーとしての自覚は薄いようだけど。
そして、俺に対しては警戒したままで近寄ってくれないけど。
それでも、丘の周りに森犬達が待機しているため、何かあったら吼え声が聞こえてくる。
うるさい時もあるが、夜にヤバい奴が近づいた時の警報装置代わりだと思って我慢することにした。
この森には、まだまだどんな怪物がいるのか判らないのだ。
警戒しておくに越したことはない。
食べきれない獲物の残りで、番犬を雇っていると思えばいい。
武器に関しても充実してきた。
槍ばっかりだけど。
やはり、距離を置いて攻撃できるメリットは大きい。
いくら変形を使って体を伸ばして攻撃出来るとはいえ、伸ばした腕を攻撃されたらこちらがダメージを受けるのだ。
鋭い爪に頼るのを躊躇う理由である。
あと、突き刺した後手放すことができるのが有り難い。
今の俺は腕一本だけの怪生物。
なにしろ体重は軽い。
鋭い爪で突き刺したはいいけれど、相手がでかければ刺さった爪が抜けなくて、そのままお持ち帰りされる危険もある。
やはり、安全に地道に稼ぐのが一番だ。
一応、目標としてはLV30になった後、この吹き溜まり地から更なる外の世界へ移動する予定だ。
丘に設けた塒とか、結構快適になってきているから勿体ない気もするけど。
俺にはローロルーラに会って、一発殴るという目的があるのだ。
そして最初に大角鹿を倒してから一か月後、俺はLV30に到達した。
それは、すでに何匹目かもしれない大角鹿を倒した瞬間だった。
その瞬間、俺の視界の片隅にあるウインドウ画面にメッセージが派手に表示されたのだ。
ファンファーレ!
『あなたは、LV30に到達しました』
『おめでとうございます。
ブレイクスルーポイントに到達したため、以降のスキルポイントはLVアップごとに2ポイント獲得できます。』
『ブレイクスルーポイントに到達したため、固有能力 融合 を取得しました。』
『融合に付随する新しいスキルが解放されました。』
…なんぞ、これ?
メッセージは止まらない。
『ブレイクスルーポイントに到達したため、イベント:神の啓示が開始されます』
次の瞬間、体が引き上げられる感覚と共に周囲の景色が一変する。
魔の森の緑。
目に馴染んだ碧の景色が歪み、代わりに現れるのは白。
気付くと俺は、白い部屋にいた。




