プロローグ
変な話が書きたくなりました。
王道好きな人には向きません。
プロローグ
「うん、キモい。もういいから、さっさと行ってくれないかな」
ここは何処、俺は誰状態の俺。
そんな俺に投げかけられたのは、酷い言葉だった。
「うまく干渉できたと思ったのになあ。思いつきだけで行動するって碌な事にならないよね。
うん、僕も反省した。
変な生き物は作らない方がいいね」
変な生き物って、もしかして俺のことだろうか。
なんと失礼な。
日本男児であるこの俺に向かって。
…で、俺って誰だっけ?
あれ、本気で思いだせない。
確かに、日本に住んでいて男だったという実感はあるんだけど。
それ以外、何も個人情報を思い出せない。
「だから、僕が君を拾って作り直したんだよ。感謝してよね。キモい人」
俺ってそこまでブサメンだっただろうか。
否定しきれないところが情けない。
そもそも、俺に向かって文句を言ってる子供は誰なのだろうか。
なにより、ここは何処だろう。
あまりにも白い空間。
何もない。
そして、目の前の子供以外は誰もいない。
綺麗な顔をしているが、生意気そうな眼と歪んだ口元。
こいつは絶対性格が悪い。
一目見て判るような子供だ。
「失礼なことは言わないほうがいいよ。
僕は心が広いから気にしないけどね。キモ男。
…まあ、拾った責任があるから、ちゃんと僕の世界へ案内してあげるから」
僕の世界?なんのこっちゃ。
そもそもお前は誰で、俺は誰だ?
「君が誰なんて知るわけないでしょ。僕はバラバラになってた君をまとめなおしただけなんだから。
ああ、僕はローロルーラ。只の最高神で悪戯神で創造神なだけの善良な子供神だよ」
…自分の事を神様よばわりする痛い子供か。
親の顔がみたいものだ。
「自分の顔でも見たら? ああ、無いけどね」
俺はお前の親だったのか。
「そんな訳ないでしょ。全く、怪生物はさっさと僕の前から消えてほしいんだけど」
さっきから人の事を珍獣みたいに。
いくら俺でも傷つくじゃないか。
「ああ、今の自分の姿を知らないんだね。
僕も失敗したと思っているから。無事に残った部分に全部詰め込んじゃったしねえ」
何のことだろう?
「君の世界の電車って乗り物があるでしょ。それに、君、ぶつかってバラバラになってたんだけど。覚えてないの?」
電車事故かよっ。良く、俺生きてるな。
「死ぬ前に集めて、無事な所に詰めてあげたからね」
なんか知らんが、凄いことをされたようだ。
もしかすると、恩人なのだろうか。神さまって言ってたな。信者にでもなってやればいいのだろうか?
「でさ、僕って暇だし、退屈が嫌いだからいろいろ異世界に手をだしているんだよ。
そして、面白そうなのを見つけては、僕の世界に連れていってるの」
異世界転生とか異世界転移の定番キター。
え、俺ってもしかして選ばれた勇者ってわけ?
「その一人のつもりだったんだけどねえ。失敗作だね」
たくさんいるのか。いや、失敗ってなんだよ。
「だってねえ… 死んだばっかりの異世界の魂とかって、僕からしたら最高の玩具なんだけどね。
思いつくままに手を加えれるし。勇者だろうが、魔王だろうが自由自在なんだよね。
ああ、勿論、本人の意思次第だけど。
僕は切っ掛けとささやかな干渉をするだけさ。
その方が面白いしね。でも、君は失敗だ」
さっきから失敗失敗って。失礼すぎるだろう。
いくら温厚な俺でも怒るぞ。
「うん、そういや、君。今の姿を見てないんだっけ。
それじゃ、僕の気持ちの一部も理解できないよね」
ローロルーラと名乗った子供は、指を鳴らした。
子供の前に鏡が出現して、俺を映す。
え? これが俺?
「いやあ、君の体で無事に残ってたのが左腕だけでね。他の身体の機能も全部まとめてみたんだ。
ほら、キモいでしょ?」
そこに移っていたのは、左腕だけだった。
頭も胴体も足も右腕も無い。
刺青のような模様が全体を覆っている左腕だけ。
その左腕には、猫目石のような宝石が付いている指輪が人差し指と薬指にはまっている。
視界をずらすと、指輪が動いた。
この指輪が俺の目のようである…。
「なんじゃこりゃあ!」
あ、声が出た。口なんてあるんだ。
ああ、肩の付け根部分に口があるよ。歯が見えた。
なにそれキモい。
「ね、キモいでしょ?」
同意せざるを得ない。
「バラバラになった君を集めて、無事だった左腕に全機能を疑似構成してみたんだけど…
やめときゃよかったって思ったのは、大魔王を作っちゃった時以来かな」
えーと…、何これ。というか、これ俺?
「あ、せめてものサービスで、精神安定化を永久固定しておいたから。
これで、気が狂うって事もないよ。安心だね」
逃げ道すらないのかよ。
「僕って責任感に満ち溢れているし?
ちゃんと、僕の祝福もあげるから、さっさと僕の世界に行きなよ。
というか、君の世界にこんなキモい生物がいたら、すぐに解剖されちゃうよ。
まあ、僕の世界にも君しかいないけどさ」
責任感があるなら、ちゃんとした人間にしてくれ。
「面倒だから嫌」
この糞神が。
「ああ、それ。よく言われるんだよね。まったく人間って失礼だよね」
失礼なのはお前だ。
そもそも俺は誰なんだよ。名前すらわからねえぞ。
「じゃあ名前は付けてあげるよ。うーんと、ユンデでどうかな」
それって、左手って意味じゃないか。何も考えていないだろう。このくそガキが。
「弓手で判るんだから、あんまりバカじゃないね、君。よかったよかった」
わざとらしく拍手をするんじゃねえ。
「それじゃ、何時までもここにいたら、この世界の神様に睨まれるからさ。
僕の遊び道具を手にいれるのに便利だから、あんまり反感を買いたくないんだよね。
さっさと、移動してね」
いや、どうすりゃいいかわからんのだが。
「ああ、もう。これだからバカは嫌いなんだよね。ほら、さっさと行った行った。
この穴に飛び込めばいいだけだよ。
それとも、君の世界の博物館にでも展示されたいの?」
ローロルーラの指さす先に、黒い穴が空いていた。
そこに入ればいいらしいが…
というか、この体というか腕って動けるのか?
そんなことを考えると、まるで蹴られたような衝撃が。
「とっとと行きなって。再会したくもないけど、僕の祝福で連絡がきたら返信くらいするよ。じゃあね」
くそガキに蹴られて穴に落ちる俺。
現実味のない落下感としか表現が出来ない感覚につつまれて、俺はローロルーラの世界に転移したらしい。
小説とかだと、もっとカッコイイもんだろう。普通。
すべては、ローロルーラが悪いのだ。あのくそガキが。
そう思いつつ、俺は意識を失ったのだった。
最初なので、直ぐに次話投稿します。