槍の魔装姫と【魔装姫会議Ⅱ】
「お兄さん、私の探してる人と同じ特徴してる」
「と、特徴?」
魔装姫に接触するつもりではいたが、心の準備が出来ていなかったので焦ってしまう。
「うん。黒髪黒眼の人」
「………」
服の特徴は伝えられていないのだろうか。着替えた意味が無いじゃないか…。
「で、質問なんだけど、この子知ってる?」
「………」
見せられた写真には、青い髪の少女が映っている。それに、斧槍を持っている。確実に俺が戦って撤退させた魔装姫だ。
「あー…、うん。 知ってる」
ここは、接触を図るためにも肯定しておこう。
「じゃ、この子と戦った?」
「戦った」
「そう…」
背負っている槍に手を掛けようとする姿を見て、内心焦る。ここでやり合うのか…?と。
「あー、待て待て」
「………?」
「戦うのは別にいいし、不意打ちでもしてくれても良いから、此処で戦うの止めよう。絶対周りに被害出るから」
そう言うと、暫く黙って俯いて思考している。そして、やっと気が付いた様に顔を上げると口を開く。
「あ、うん。 そうだね」
「分かってもらえて何よりだ」
「じゃ、付いて来て」
さっさと歩きだす緑髪碧眼の少女を追う様にして町の外に出る。…言えば気付くんだな。
そして、着いたのは、あの森だった。
「ここなら、人目を気にせずできるね」
「なんか言い方に引っ掛かりを覚えるが、まぁいいか」
彼女は槍を構え、何時でも飛びだせる体制になる。それに倣い、片刃剣を構える。構え方は、前回同様だ。
「行くよっ…!」
「………っ」
全神経を槍に注ぎ込む。流石に突き出すだけあって、斧槍よりも速い。が、今まで相手にした中で一番速いという程でも無い。
狙われているのは、避けにくく、致命傷になりやすい肝臓部分。でも、避けにくいだけであって、判断が速ければ普通に横に飛ぶだけで避けれる。実際に、右に軽く飛んで避ける。相手はなんか茫然としてるけど気にしない。
「な、なんで…!?」
「………っらぁ!」
「え? あ、きゃあっ!」
両手で持った片刃剣を横なぎに振るう。それを槍の柄で受けた少女は力負けし、後方に吹き飛ぶ。流石に木にぶつかって昏倒とかは無かった。
「げほっ、げほっ…。なんて力…」
「………」
あえて言わないでおこう。まだ全力で剣を振っていないという事を。
「これはラーズがやられるのも無理ないね…」
「…それが、あの魔装姫の名前か」
「ちなみに、私はリーファね」
緑髪碧眼がリーファで、青髪赤眼がラーズね。脳内にメモメモ。
「もいっかい、行くよ!」
再度、突きを放ってくるリーファ。狙いは、身体の中心。
今度は左に避けて、柄の部分で背後から緩めに打つ。彼女が出した勢いと俺の緩めの勢いが合わさって、リーファは自分で止まる事が出来ずに木にぶち当たる。
「い、痛いよぅ…」
って、あぁ。鼻血が出てる。拭くもの有ったかな………あ、あったあった。
「ほい」
「ふぇ…?」
近付いて槍でぶっ刺されるのも嫌なのでティッシュ--の様なもの--を投げて渡す。この世界はどうやら現代日本の日用品まで扱っているみたいだ。何と言うか、見慣れないものと見慣れたものが五分五分くらいで安心したのはついさっきだ。
「うぅぅぅ…。 今度は複数で行こう…。 皆に提案しよう」
「おいバカ止めろ。 複数とか相手に出来るか。 一人でもこんなに強いのに………」
その言葉にリーファはキョトンとした様な顔になる。
「え? お兄さん、強いって言ってくれるんだね。 珍しい…」
「え? なんか他に言い方ある?」
「言い方の問題じゃなくて、騎士の人達は皆『魔装に頼った奴』って言われるから」
「あぁ、そう言う事か…」
偶にオンラインゲームでもいるよな、そう言う奴。『神装備に頼った雑魚』とか『キャラ性能に頼った低PS野郎』とか。まぁ、俺はそう言われた時、『なら自分も使えば良いじゃん』と言って論破してたが…。
「なら、自分も呪いかなんだか知らないが、それに掛かる事前提で魔装を持てばいいのに…」
「お兄さん。 魔装はそう何本も無いよ…」
「あ、そうなの?」
「後、呪いじゃなくて、毒ね」
毒だったか。解呪じゃなくて解毒だな。…どっちでも解除に変わりは無いから良いか。
「それじゃ、私は行くね。 今度こそ倒すんだからっ」
「あ、おいこら!」
リーファは木々に紛れて走り去る。片刃剣と鞄を背負い、途中まで追いかけたが、見失ってしまった。
見失いはしたが、色々解った事もある。まず、言えば気付く。これ重要。そして、考え方が単調になるだけで、考えれないという訳ではないという事。後、「皆に提案」と言っていた事から、魔装姫同士では、普通に会話が出来る事。
だがしかし--。
「複数来られると辛いんだがな…って、あれ…?」
そこで、恐ろしい事に気が付く。こ、此処は--。
「此処は、何処だ…!?」
道に迷いました。はい…。
* * *
「ただいま~…」
リーファが帰って来たと思ったら、ボロボロになっていた。その場にいた魔装姫全員で驚く。
「え? 嘘…。 リーファ負けたの?」
「うーん…。 負けた、ね。あれは」
「………やっぱり、私が行くべき」
リーファの負けた宣言にローザが反応する。
「ローザは強すぎるからダメっ。 私の出る幕が無いじゃない」
ネロウがローザの出陣を拒否する。事実、この中で一番強いのはローザだ。片手で軽々と身の丈ほどの片刃剣を扱うのだから。
その片刃剣を見て、思いついた様にリーファが口を開く。
「そう言えば、私と戦った時はラーズの時とは違って片刃剣だったなぁ…」
「………会いたい。 戦いたい」
「ちょ、落ち着いてローザ!」
今にも部屋から飛び出して行きそうなローザを他の四人が必死で止める。
「………なんで、止めるの…!」
必死に抵抗しようとするが、四人がかりで取り押さえられて振り払おうに振り払えない。
「ふぅ…。 取り敢えず、今度は私が--」
「無駄だと思うよー。 ネロウじゃ返り打ちになるだけ思う」
「むむむ…」
「………やっぱり、私が行くべき…!」
次に行くのは自分だ、と主張を続けるローザとネロウ。そこに割り込んだのは、フーザだった。
「ローザ、落ち着いて。 貴方は、最終手段。 いわば、隠し玉の様な存在なの。 私達が行った後に、貴方が行くと、「二人よりもこいつの方が強い!」って感じになると思わない?」
「…………………解った。 最後にする…」
「って、なにさり気無く貴方も行こうとしてるのよ」
「だって、リーファでも勝てないんでしょ? なら、数の暴力で叩けばいいのよ。 …ついでに、捕獲出来たらしたいし」
二ヤリ、と怪しい笑みを浮かべるフーザ。それに仕方が無い、と言う顔でため息を吐くネロウ。
「それじゃ、私達で行くけど…」
「………待って。 せめて、相手の剣筋だけでも見させて」
「手は出したら駄目だよ…?」
「………大丈夫。 貴方達が殺されそうにならない限り、手は出さない」
ローザのセリフに反応したのはリーファだった。
「あ、なら大丈夫だと思うよ。 あの人、私を斬ろうとしなかったし」
「………」
「狙ってたね…?」
「………な、何の事か、解らない」
「まったく…」
呆れたようにため息をつき、三人は部屋から出て行く。
「…あの二人でも、ひょっとしたら無理かもね」
「これは、本気でローザの出番があるかもしれないねぇ…」
ローザは強すぎる故、あまり戦いには出したくないというのがこの二人の意見だった。
「でもま、最近ローザは戦いに出てなかったし、たまには出ても良いんじゃないかな」
「だよね。 ストレス溜まるものね…」
「まったく、誰の所為でこんな事になったんだか…」
「それは--」
二人の頭には、黒髪黒眼の剣を使ってきた男が思い浮かぶ。
「「あいつの所為ね」」
--その頃ハジメは、
「へっくしゅっ! …うぅ、風邪でも引いたか? それに、此処が何処だか解らんし…」
噂された事によるくしゃみをしながら、森の中を彷徨っていた。