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 しばらく、格闘の物音がしていたが、「待たせたな!」すぐに旦那が顔をのぞかせた。


 「ブラッケンは?」


 「気絶させた。この剣の柄で、首筋をばしっとな」言って、旦那は剣を振り回してみせた。「ソウルに操られているって話は仕入れてたからな。……それより、上がってこい」


 おれはまた手を光らせ、さっきの短針を簡単な梯子に加工した。上端を旦那に支えてもらい、まずシェリーから昇らせる。そうする間に、旦那は状況を説明してくれた。


 「とにかく、はじめにソウルありけりだ。ソウルのすることだから理由は知ったこっちゃないが、ある強力なソウルが、プリストリ公の住まうこの都市に標的を定め、魔物を呼び集め始めた」


 だからこの近辺に魔物が増え、旦那の情報網に噂が引っかかる事態となったわけだ。


 そしてついに三日前、ソウルは魔物の軍隊を率いて、城塞に総攻撃をしかけたらしい。だが、ブラッケン指揮のもと動いた神官や衛兵は、これをモノともせず跳ね返し、城塞内部に一匹たりとも魔物を入れなかった。おそらくソウルは、この敗北を見て、力まかせに攻めるよりもブラッケンを陥れればいいと気づいたのだろう。そして侵入を試み、みごと思惑を果たしてブラッケンを支配下に置くと、都市内部で魔物を作り出し、攻撃を開始した……。


 シェリーが昇り終わる。今度はおれがその梯子に足をかけた。トンカチと長針が融合したものは、残念だが、軸に完全に絡みついてしまい、操金魔法をもってしてもほどくのに時間がかかりそうだったので、置いていくことにした。これは操金魔法に限ったことでなく、モノを壊すのは簡単だが、作ったり元に戻すには手間がかかるのだ。


 「他の神官たちは街の人々を連れてプリストリ公の館へ避難している。新たな魔物の軍隊がそこに集結していて、なお交戦中だ。今のところは、神官側が優勢だが、一時間に一度は必ずどこからか現れて攻めてくる魔物たち相手に、連日戦闘してだいぶ疲れている。元締めのソウルを倒さないことには、事態が変わらん……」


 おれも梯子を昇り、どうにか回廊へ戻った。しばらくぶりに踏むしっかりとした足場を、何度か踏み鳴らす。


 「それより旦那、ブラッケンは助かりますかね?」


 「大丈夫だろう、もともとが強靭な精神力を持つ神官だ、そう簡単には魔物化されないさ。今すぐにソウルの影響力を断てれば助かるだろう」


 抜き身の剣でたんたんと肩甲を叩きながら、旦那は言った。おれの予想通りだったが、旦那が言うなら確実だ。……シェリーも、ほっとした表情を見せた。


 「まだ安心するのは早いな」旦那は続けた。「ソウルを倒さなけりゃ、終わらないからな。だが、いったい肝心のソウルがどこにいやがるんだ……気配は感じるんだが……」


 「ソウルの居場所ならとっくにわかってますよ、旦那」


 「なに?」


 「さっきから奴がガラガラうるさく鳴ってたっしょ?」


 おれは、鐘を見据えた。回廊からは手の届かない位置に吊り下げられている。せっかくの逸品だというのに、そういえばきちんと拝んでる余裕がなかったな。


 丁寧に鋳造され、調音にも狂いのない良質な鐘だ。黄銅製、開口部直径約一メートル、総重量は概算で三トン。祈りのためだけに、どれだけ多くの鉱夫や職人が携わり、どれだけ持てる技術を注ぎ込んだのだろう。ソウルは、自然に即した営みばかりでなく、ヒトの知恵や歴史の結晶までも食い散らすのか。


 「人工物に取り憑くソウルとはな、俺は初めてだ……」


 旦那でも初めてとなると、相当珍しいか、いわゆる新種ってことになる。だが、他に考えようがない。ブラッケンも、ネズミの魔物も、この鐘の音で動いた。もしかしたらあの木の魔物とかぶと虫の混成部隊も、そうかもしれない。


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