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CHAIR 〜人生演劇〜  作者: 御影 倫
6/6

噂3



-2002年6月放課後視聴覚質にて-





(学級委員会なんて面倒な事誰が決めたんだろう。)


まだ14年しか生きていない若者が面倒という言葉を何度も口にする。





結論を早く出したがる短気な性格であったため、会議などという時間がかかる日は

朝から憂鬱になるほどであった。

その日は夏休みの間の生活指導が行われた。

まず学級委員に指導し、学級委員がそれぞれのクラスに指導するという流れだ。

去年、中学2年の夏休みは学校外で問題を起こす生徒が多く、

今年は問題が起こらないよう、指導が徹底していた。

やっと終ったかと思えばもう19時をまわっていた。

帰宅部の理音にとっては遅い時間であった。


教室に鞄をとりに戻るとまだ電気がついており、そこに男子生徒が残っていた。


神谷だった。



「なんの残り?」


「待ってたんだよね。」


「ふーん。吉田?」


「このくだりで吉田な訳無いじゃん。鏡を待ってたんだよ。」


「え?私?なんで?」


「ちょっと聞きたい事があってさ。植木のことなんだけど。」


「植木?同じクラスなんだし直接本人に聞けばいいじゃん」


「あー。俺あいつダメなんだよね。なんか苦手。」


(神谷でもダメな人間とかいるんだ。というかクラスメイトに対して苦手とか得意とかあったんだ。)


「植木は悪い意味で気になる。なんていうのかな。あいつって考えて動くってより本能で動いてるって感じじゃん。俺そういうの苦手。」


「あ、あー。そうだね。ちょっと野性的っていうかなんていうか。」


「話を元に戻すけど、あいつの父親ってさK工場で働いてるよね。なんか、俺の家庭教師の父親が同じ工場で働いてるって言うんだけど、ここ1年でなんか雰囲気が変わったっていうんだよ。」


「顔つきっていうか顔自体変わってる気がするって。」


「でもさ・・・工、場、の、事、故、で、顔、面、に、火、傷、を、負、っ、て、た、ら、元の顔と比べようがないよね。」


「え?植木のお父さん、事故にあってたの?」


「そうだよ。知らなかった?植木が駆けつけた時はひどい状態で生死をさまよってたって。」


「いつ頃のこと?」


「中1の8月ごろだよ。」


「それって植木が非行に走り出した時だよね。」


「そう!良く覚えてたじゃん。」


「夏休み中に上級生との乱闘事件あったし、2学期始ってからサボりがちになって、吉田がプリントとか届けてたから記憶に残ってるよ。一番ひどかったのは冬だけど。」


「席替えで隣の席当ててたもんね。」


「怖いなんてもんじゃなかったよ。殺気がひどかったもん。」


「それはさておき、何かあると思わない?」


「植木のお父さんの事故が8月、植木が非行に走りだしたのが8月」


「父親が事故で生死をさまよって、奇跡的に命を取り留めたというのに非行に走ったりするかな。」


「確かにね。普通逆だよね。非行に走ってた不良が父親が死にそうになって真面目になるっていうならわかるけど。」


「そう。しかも、顔が認識出来ないほどの火傷を負ってしまっている・・・もう元には戻らないらしいね。」


(顔、が、認、識、で、き、な、い、?)


「・・・ちょっと待って!母親は?」


「母親が出て行ったのは秋ごろだよ。植木の弟、まだ生まれてまもなかったのに誰が面倒みてたんだろうね。しかも植木の祖父は植木の弟が生まれてからおかしくなって、そのまま病死したんだよね。こうも立て続けに不幸が起こると非行に走りたくもなるものかな。」


(違う・・・何かがおかしい)


「・・・っていうのは噂好きのおばちゃんが言ってたことで、俺の見解は違うんだけど。」


「は!?」


「俺って1度興味持つと、とことん調べたくなるから、いろいろ情報を集めてみたんだけど・・・」


「探偵ごっこですか。」


「ごっこじゃないよ。遊びでやったら痛い目みるかもよ・・・いや、痛い目で済んだらいい方だね・・・・」


「植木の父親、実は3月に勤めてた工場をリストラされてたみたいなんだよね。」


「え?今だって働いてるじゃん。」


「そう。一旦クビになって再入社なんてあり得ると思う?しかもこの短期間で。」


「リストラされてなかったんじゃないの。」


「言ったでしょ。俺の家庭教師の父親が同じ工場だって。植木の父親は7月までずっと欠勤だったらしい。それでまさに事故が起こる8月に再入社ってことになったらしい。しかも再入社してから1週間後に工場の食堂が火事になって、その火を消そうとして事故に巻き込まれたんだって。」


「おじいさんの借金を植木のお父さんが支払ってたんだよね。リストラに借金なんて・・・とてもじゃないけど暮らしていけないよ。」


「そう、しかも6月に植木の弟が生まれてる。」


「もしかしておじいさんが借金したのって、そのため?」


「俺もそう推測してる。大工の仕事してたみたいだけど、子供夫婦を養えるほど稼ぎは無かったはずだよ。」



「俺の推論だと・・・」



植木の父親は4月にリストラされてお金に困って父親に相談



植木の祖父は息子のために秘密で借金



それでも足りずにまた借金



返済の為に闇金に手を出してまた借金



父親の異変に気付いた植木の父親が連帯保証人に



アルバイトで返済を手伝うが全然足りない



父親は借金を返済するために働きすぎで過労死



その借金が植木の父親に



植木の父親が工場で事故に巻き込まれる



借金の取り立てに精神を病んだ母親は家を出て行く



「こういう流れだよね。」


「そういうことだよね。」


「それから、これは吉田の情報なんだけど・・・」


「え!?吉田?」


「吉田は植木と仲良いでしょ。プリント届けに行ったりしてたじゃん。」


「植木と仲良いと思ってるのは吉田だけじゃないの?」


「それはさておき、植木は父親が1度リストラされていたことを知らなかったらしいんだ。母親も知らなかったらしい。」


「それと、商店街の喫茶店で、祖母の実家の人間が父親にお金を渡しているのを植木が見たらしい。」


「え?植木のお父さんのお母さんの実家の人からお金を?」


「30代ぐらいの女性と俺たちと同じぐらいの男子中学生だったらしい。植木が入るはずだった隣町の中学の制服だったからすぐわかったって」


「祖母の姉の娘さんとその子供とか?」


「普通に考えればね。でもそんな感じじゃなかったらしい。何か契約書みたいなものを書かされていたみたいだからね。」


「借金ってこと?」


「そうかもしれないし、もっと別のとんでもないことかもしれない。」


「とんでもないことって何?もったいぶってないで教えてよ。」


「鏡も噂で聞いたことあるでしょ。」


「え?」


「life chair」


「自分の人生を代わりに生きてくれるっていう店のこと?」


「そう、その女性と中学生がその店の人間なんじゃないかって。」


「ということは、植木のお父さん人生を売ってたってこと?」


「そういうことになるね。ただ、人生を売ったなんて非現実的なこと信じられる?」


「信じられない・・・って!ちょっとまって、植木はその2人の事を祖母の家の人って言ったんだよね。」


「そう!そこなんだ。ただの勘違いか、本当に植木の祖母の実家とlife chairが関係あるのか・・・」


(植木の進路希望の紙に書いてあったあの内容)


「・・・どうしたの?」


「信じられないんだけど、そうだとすると辻褄があうんだよね。」


「どういうこと?」


「実は私、植木の進路希望こっそり見ちゃったんだよね。」


「可愛い顔してやるね。」


(か、可愛い///)


「か!・・・わいくないよ。」


「うん。それで?」


「弟を連れて家を出るって。」


「弟ってまだ2歳とかそのぐらいだよね。中学生1人でどうこう出来る問題じゃないね。」


「う、うん。それとね」


「うん。」


「下の方に黒く塗りつぶされた文字があって、そこにこう書かれていたの。」








「あ、い、つ、は、本、当、の、俺、の、お、や、じ、じ、ゃ、な、い、」

「偽、物、だ」






「・・・・どう思う?」


「どうもこうも、それってそのままじゃん。事実ニセモノってことでしょ。すごい!鏡すごいよ。」


「笑うなんて不謹慎だよ。」


「だってワクワクするでしょ。こんなこと普通じゃありえない。」


「でも、そんなこと本当に可能なのかな。」


「8月の事故が怪しいところだね。これはとんでもない真実が隠されている気がする。」


「でも、もしそれが本当だったら植木のお父さんは自分の為に借金をしてくれた父親の借金を返す為に自分の人生を売ったってことだよね。」


「鋭いね。どういう契約になっていたかは調べないとわからないけど。」


「実際、行ってみるしかないね!」


「そういうと思って、鏡を待ってたんだ。」


ニヤリと神谷が笑う。


「一人で行くのが怖いの?」


「そうじゃないよ。1人より2人の方が、より情報を集められるでしょ。」


「ていうか、神谷の情報網ってどうなってるの。」


「これが解決したら教えてあげるよ。」


「解決させるんだ・・・」


「それじゃあ、また明日作戦を練ろう。」


「おー!」



理音は右手を勢いよく教室の天井めがけてつき上げた。



秘密組織のような掛け声が夕暮れに響き渡る。



赤く燃えるような世界が2人を包み込んでいた。









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