回想2
-2000年冬-
席替えは突然やってくる。
どこからともなく・・・
3カ月に1回などという周期が決まっているわけではなく、なんとなくやってくるのだ。
そして4回目の席替え大会が開催されようとしていた。
担任の教師が風邪で体調を壊し、理科の授業が自習になった時のことである。
「みなさーん。この時間を使って席替えをしようと思いますがどうでしょう~。」
吉田が教団に立って張り切っている。
「前席替えしたばっかじゃんよ。」
「今の席がいいー!」
「俺はこの席やだから賛成だわ。」
「この席、死守するべし!」
「さきちゃんと離れたくない~」
それぞれの思いを素直に口にする一部のクラスメイト達。
勝手にやってくれという雰囲気の一部のクラスメイト達。
自習をいいことにすでに睡眠学習をしているクラスメイト3人。
イベント好きの吉田に任せて理音は神谷に話しかけた。
「ねぇ。席変わったらあんまり話せなくなるからさ。今日は神谷の家のこととかいろいろ教えてよ。」
「席変わっても話そうと思えば話せるじゃん。」
「休み時間はかな×2の相手するからダメなんだよ。」
「ツッコミ担当ね。」
「そう!」
「でももう結構話したと思うよ。俺にそんな秘密組織みたいな秘密はないよ。」
「でも、いっつも私ばっか話してる気がするもん。」
「そう?」
「そうだよ。神谷の家ってどんな家なの。」
「俺の家?普通の家だよ。」
「はい。終了!ってなんでだよ!」
「何が」(笑)
(あまり見せない笑顔に嬉しくなりながら理音は話を続ける)
「なんかさ、神谷ってさ、大人びてるっていうか・・・頭いいし、いいとこのおぼっちゃんなのかなー?とか思ったりして。」
「あー。そういう少女マンガみたいな展開は期待しない方がいいよ。」
「なんだ。残念。。。って少女マンガ読むの?」
「これも勉強だからって母親が持って来た。読んだけどあれが女子の理想なの?1つ屋根の下に住むとそういうことになるのか。」
「何を呼んだの?」
「マーガレットボーイ」
「あー。いいよあれは主人公が羨ましいよ。」
「少女マンガの主人公ってさ、大抵ドジだよね。で、男はみんなしっかりしてる。」
「そういう法則なんだよ。ライバルが出て来て取り合って・・・みたいな?・・・っていうか話ずれてきてる。」
「家の話ね。普通の家だよ。金持ちでなければ貧乏でもない。そこら辺にあるような家だよ。」
「ふーん。なんか意外・・・兄弟はいるの?」
「妹が1人いるよ。」
「うそー。お兄ちゃんがいると思ってた。」
「俺が面倒みるような人間に見えないってこと?」
「そういうわけじゃないけど。なんとなく。」
「なんて名前なの。」
「雪枝」
「ゆきちゃんかー!可愛い名前だね。名前の由来とかあるの?」
「さぁ?冬に生まれたからじゃない。」
「神谷の名前、悠斗だよね。由来は?」
「響きだけで漢字は当て字だって。」
「そういうパターンもあるんだね。」
「そういう鏡は?理音ってどういう由来」
「私は簡単だよ!作曲家の父親に科学者の母親で、理科と音楽で理音。」
「わかりやすいな。」
「自分たちの才能が少しでも受け継がれますようにって。お母さんとお父さんは未だに私がどっちになるか争ってる。」
「むしろ化学反応起こして別の才能が生まれる気がするけど。」
「今のところそのような兆しはございません。」
「家の話だけど、鏡の家の方が普通じゃない感じじゃん。」
「そうかな?」
「父親がサラリーマンじゃないって時点でちょっと特殊だし、その上、母親は科学者なんでしょ。」
「うーん。確かにそうなのかな。でも普通の人間だよ。」
「鏡修一だっけ。かなり有名な作曲家なんじゃないの。」
「そこそこだよ。ちょろっと作曲してるぐらいの。」
「身内がネットで検索して出てくるところで普通じゃないと思うけど。」
「そうかな。まぁ自慢ではあるかな。でも私たちの年齢じゃ知ってる人いないし、あんま実感ないかな。」
「親は知ってるんじゃないの。噂になってたりして。あの、噂の鏡さんちのお嬢さん的な」
「だとしてもテレビに出るような有名人じゃないから。っていうかまた私の話になってるじゃん。」
「そうだよ。なんで?」
「なんでじゃないよ。神谷の話でしょ。」
「そうだったね。でももう話すことと言ったら俺と鏡のことぐらいしか・・・」
「え?どういうこと・・・」
「俺と鏡ってさ、似てるじゃん。」
「え!?どこが!?」
「鏡は俺と似てるって思ったことないの?」
「え、全くわからない。どこが似てる?」
「俺はじめて鏡が学級委員で前に立った時に、こいつかぶってんなーって思ったんだよね。」
「何それヒドい!!」
「実際そうでしょ。学級委員だって本当はやりたくないけどやってる。優等生だって言われてるから周りの期待に合わせてる」
「合わせてるって表現はあってないかな。周りの期待に合わせてやってるって感じ?」
「合わせてやってるなんて思ってないよ。確かにいつもいつも面倒な事押し付けてきてやだなーとは思ってるけど。」
「人の前に立つってさ面倒だけど優位に立ってるっていう感覚に陥るじゃん。だから大げさに言うならクラスを支配できるっていうの?先生だって優等生の鏡の言う事を聴くだろうし、たとえそれが嘘の情報だったとしても信じちゃうよね。」
「例えば?」
「菊池が山田をいじめてたのをさ菊池の取り巻きの千葉が主犯だって嘘ついたとか。」
「!」
「千葉もいじめてたし嘘じゃないけど本当とも言えない。主犯は菊池だから。でもあえて菊池の名前を出さなかった。のは何故か。」
「菊池に自分がしている事はバレないと思わせておいてもっとひどいことをさせてから突き落とすためでしょ。」
「山田の時も結構ひどかったけど、まぁ3人で砂場に埋めてた程度だったし。遊びですって言われたら終わりだしね。何より山田がいじめられてることを隠してた。」
「だったらもっと確実に排除できる悪事を働いてもらってから証拠を突きつけた方が大事になるし何より悪者退治できて気持ちいいしね。」
「それってただの推論だし、私がそういう悪い人間だって言う風に聞こえるんだけど。神谷と私が似てるって話じゃなかった?」
「そうだよ。だから俺も同じ事考えてたんだって。」
「え?」
「まさかそのい、じ、め、ら、れ、役、を、千、葉、で、や、る、とは思わなかったけど。かつてのイジメ仲間同士でって・・・どんな策士かと思ったよ。」
「千葉に何て言ったの?お前を売ったのは菊池だとでも言った?」
「そうだよ。あとは先生に千葉は菊池に言われて山田をいじめてたって言ってあげるとも言った。」
「それで、千葉はわざと菊池に突き落とされたフリして階段から転げ落ちたんだ。あいつ、イジメが発覚してから家でも居場所無い感じだったもんね。必死な人間ってなにするかわからないよね。」
「頭がいいとは思ってたけど、エスパーだったんだね。」
「え?このくだりでふざける?結構嫌な事いったつもりだったけど」
「うん。でも頼まれた事だったし。実際それでイジメは解決したでしょ。菊、池、が、不、登、校、に、な、る、っていう結果で。」
「誰に頼まれたの?」
「ゆりだよ。」
「ゆり?俺名前でわかんないんだよね。」
「小野優里だよ!菊池にいじめられて不登校になった!」
「あー。そういやいたね。学校来てないから忘れてたよ。」
「みんなの知らないところでやってたからね。ほとんどみんな気づいてなかったと思うよ。他のクラスの子に聞いて知ったぐらいだったもん。同じクラスなのにわからないことあるんだって思った。教室では何もせず、放課後にやってたらしいよ。はじめは放課後後ろつけてわざとぶつかって来る感じだったらしいけど、そのうちどぶに突き落としたり水かけられたりとか、エスカレートしていったらしい。」
「本人から聞いたの?」
「そうだよ。不登校になってからいろいろ届けてたからね。その時に。」
「何が原因だったんだろうね。」
「さぁ、それはわからないって。」
「菊池に聞いてみようか。」
「は!?やだよ!」
「なんで?首謀者に聞くのが一番手っとり早いでしょ。それにイジメっ子に少し興味がある。」
「神谷、楽しんでるよね。」
「楽しんでるよ。」
ニヤリと先程の笑顔とは違った悪い笑顔で神谷悠斗が笑いかけた。
「笑い事じゃないんだって。イジメは撲滅しないと!」
「すごい正義感だね。さすが学級委員!ベストポジションだね」
「ベストポジションなわけないじゃん。ワーストポジションだよ。厄介事ばっかりでさ。」
「それがいいんじゃないの。」
「え?」
「厄介事が自分の所に降ってくるからそのポジションにいるんじゃないの。厄介事は厄介事だけど変化のない毎日にそういういざこざが生じるとさ、今日はいつもと違ったな~って気がしない?」
「え、あ、うん。そうかも。」
「鏡も退屈なんでしょ。毎日が。」
「まぁ・・・ね。」
「俺は退屈だよ。だからいつも変化を探してる。」
「俺と鏡の違いはさ、ただ見ているか、そうでないかの違いだけだよ。」
「やっぱり、鏡は俺に似てるよ。」
似ていると言われて嬉しくないわけではなかった。
だからこそ、自分が学級委員なんて面倒な役割を演じてきたことも悪くなかったと思えたのだ。
神谷に興味を持ってもらえた。
ただそれだけが嬉しかった。
「そりゃどうも。」
私は素っ気なく答えた。
「はーい!じゃあ席替えはじめまーす!シンプルにくじ引きでやるから、1枚ずつひいていってね。」
「ほら、かがみん!お前もひけよ。」
「はいはい。ど、れ、に、し、よ、う、か、な。」
一番奥の箱の角にあったやつをひいた。
席替えの結果は________
「22!」
「にじゅうに?22・・・22・・・」
「どれどれ~」
「かがみん・・・残念なお知らせです。」
「え?」
「植木の隣。」
「なんてこった!」
(オーマイごットというポーズを決めた)
「だから反応が・・・」
神谷が微笑した。