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CHAIR 〜人生演劇〜  作者: 御影 倫
3/6

回想1

(あぁ。やっぱり学級委員なんてやるもんじゃない)


梅雨に入り、うっとおしい空気がまとわりつく。

首元が特にうっとおしかったのか、長く美しい黒髪を1つに束ねて

首元を開放させた。


心で憂鬱な顔を浮かべながら表情は正反対の学級委員としての表情で鏡理音はクラスメイトに呼びかける。


「まだ進路希望を出していない方は直接瀬川先生に提出してください。」


提出期限まであと1日だというのに必ず提出しない生徒がいるのだ。

適当にでも書いて出せばいいものの、何故提出しないのか。

面倒な事は初めに終らせて後はゆっくりすればいいのに。

昔から要領の良い理音は今まで失敗したこともなく、学級委員を任されるほどの

模範的な生徒であった。いわゆる優等生である。

何でも人並み以上に出来てしまうがゆえに、何もしなくても出来るという甘えを持っており、努力ができない人間になってしまった。

努力すればもっと出来る事もあるのだろうが、力を注ぎたいと思うこともなく、ただ毎日をこなしていた。

本当は中学では学級委員なんて面倒なことはやりたくなかったのだが、

学級委員という役割は1度経験した人間がずっとやらなければならないという暗黙のルールがある。

それは誰もやりたがらないということと、違う人が立候補して投票になっても長くやっている方に投票されてしまうからだ。

ましてや小学校からずっと学級委員をやっていた理音はその対象になっていた。

顔なじみで構成された中学校では同じことの繰り返しだ。

理音は小学校1年から続いた役割を中学3年間も全うしてしまっている。

神谷という少年との出会いでただ苦痛だと思っていたその役割に別の意味を見出したことで、投げ出すことを辞めてしまったのだった。

彼に出会ったのは中学1年の春である。小学校は同じだったがそれまで同じクラスになったことがなく、女子同士の噂で聞く程度であった。

同じクラスの女子が度々神谷のクラスに行ってはちょっかいを出していたらしい。

神谷のファンクラブもあったようだ。

ファンクラブに入った人のみ、「悠斗君」と呼ぶことが許された。

神谷はクラスの人気者と言えるような存在ではなかったが、頭がよく、整った顔立ちをしていたため、女子からの人気が特に高かった。

バレンタインにクラスの女子ほぼ全員からチョコレートをもらうというモテっぷりである。

男子は女子に比べて幼く見えるものだが、神谷は他の男子に比べて大人びていた。その落ち着いた雰囲気が女子にはたまらなかったらしく、席が隣になった女子は他の女子にイジメを受けるという大人顔負けの昼ドラが繰り広げられていた。

もちろんその女子の中に理音も含まれていた。

理音は年上が好きだった。

単に大人であるというよりも自分よりも知識を持ち、優れた存在に理音は強く惹かれた。

それは彼女自身が頭がよかったというのもあるが、

周りの小学生の親に比べると少し年齢の高い両親であり、

本当の大人の中で育ったためである。

1人っ子だったために姉妹喧嘩も経験せず、中学生になった今も反抗期は訪れていない。

同い年だったが神谷にはじめて出会ったその瞬間に気になる存在になったのだった。





-2000年春-



「神谷君ってかっこいいよね。」


「理音もそう思うでしょ。」


「そうだね。頭いいし。」


「そうそう!しかも運動神経もいいみたいだよ。部活には入っていないみたいだけど。」


「同じクラスになれてラッキーだね!」


「私ファンクラブはいっちゃおうかな。そしたら悠斗君って呼べるし。」


「てかファンクラブの連中がそういうルール作ってるだけじゃん。別に従う理由ないじゃん。」


ポニーテールの女子とショートカットの女子が理音の席を囲んで話をしている。

ポニーテールの方が香苗、ショートカットの方が加奈子だ。

同じ「かな」同士であるため2人は仲良くなったらしい。

「かなかなコンビ」などというコンビを結成してどこに行くにも一緒という感じだ。


3回目の席替えの時だった。

視力の悪い女子生徒が神谷の隣の席になった。

理音はそれをいち早く察知し、私は目が良いから交換してあげると言って半ば強引に交換し、幸と不幸が混ざり合った奇妙な席を手に入れた。

しかし、学年1優等生の理音への攻撃はないに等しかった。

学級委員なんてお堅い役割をはたしてはいるが、

彼女はクラスメイトに対してはとてもフランクですすんでみんなを先導するような人間でもあった。

第一印象では落ち着いた雰囲気でクールな女子と思われがちだったのだが

小学校から仲の良い「かなかなコンビ」のおかげで「かなかなコンビ」のボケに対するツッコミ役としてクラスメイトに認知され、「鏡は実は面白い奴」と認識されるようになった。しかも、女子同士では無駄に男勝りな性格であったため、女子からの評価は高く、そのため神谷の件もおとがめはなかったのだ。

いわゆる、あの子なら大丈夫的なやつだ。

理音は神谷と話した内容を全て、クラスメイトの女子に公開した。

食べ物は何が好きだとか、どんな本を読むだとかそんな内容である。

また女子達の質問を「◯◯ちゃんがこういってるんだけど」という言い方で

自分を介して質問させ、全員が神谷と仲良く話せる雰囲気を作ったのである。


神谷は女子には興味がないようだった。

というよりクラスメイトに興味が無いという感じだ。

ちゃんと受け答えはしてくれるが、どこかクラスメイトを見下している様なそんな印象を受けた。

そんな他人を見下している様な人間は嫌だという人が多いかもしれないが

理音はそこがいいと思っていた。




「はじめまして!鏡理音です。今日から隣、よろしくね。」


「はじめまして。神谷です。よろしく。」


「いきなりなんだけど、神谷君って人気者だよね。女子から。」


神谷をとり囲んでいるのは女子なのでそう付け加えた。


「そうかな。ただ面白がってるだけじゃないかな。俺があまりみんなと関わらないから。」


「そんなことないよ。みんなかっこいいって言ってるよ。」


「ふーん。どうもありがとう。」


「嬉しくないんだ?モテモテなのに。」


「別に・・・興味ないよ。それより静かに本を読みたいかな。」


「噂通りのクールっぷりですね!なんか、同じ中1とは思えないよ。」


「精神的にってこと?それなら人それぞれだから違って当然だよ。いまだに小学校低学年レベルだっているでしょ。」


「あー。吉田のこと?」


「そうだよ。ずっと同じクラスなんだよね。」


「そうそう、しかもずっと一緒に学級委員やってる。アホのくせになぜかそういう定位置になってしまってるんだよね。全然仕事しないからほんと使えない。なんでずっとやってるんだろ。辞めればいいのに。」


「そりゃあれだよ・・・」


「あれ?」


「鏡のことが好きなんでしょ」


「え!   えぇえええ!!」



「気づいてなかったの?」



「全然・・・そ、そうなの?」


「結構みんな知ってるみたいだよ。知られてないって思ってるの本人ぐらいじゃない?」


「な、なんてこった。」

(オーマイゴットというポーズをきめる)


「反応がおっさんだよ。鏡ってそういう人なの?」


微笑する神谷。


「笑うな!てか、興味ないって言うけど、クラスメイトの事よくみてるよね。」


「たまたまだよ。他の恋愛事情なんて知らないって。」


「吉田はわかりやすかったってこと?あいつ目立つしね。」


「違うよ。鏡を見てたらわかったんだよ。」


「え?私?」

(それってどういう意味)


「あー。勘違いしないでね。ただの人間観察だよ。」


「興味持ってくれたわけ?」


「そうだね。ちょっと話してみたくなった。」


神谷の大人な対応にぐっとくる気持ちを抑えて

タイミング良く鳴った、チャイムの音を合図に教科書をひらいた。


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