~進展~
遅くなりましたが、これからできる限りまた週一ペースでやっていこうとは思います
シェリーを雇用して初めての営業日。彼女がどのようなことが出来るかは未知数だが、まったく働けないというわけではないと思いたい。
早速、荷物を持って店に移動。荷物を置いてシェリーの自宅に訪れる。
今回も窓からのぞき見。シェリーは起きていて仕度をしているようだ。
シリルから借りたドレスを着たシェリーが弟の一人と話をしているようだ。
流石に話の内容は聞こえてこない。まぁ盗み聞きをするなんてことはやめた方が良いだろう。
俺は入口まで周り、木製のドアを数回ノックする。
数秒後、シェリーは少しだけ扉を開け、その隙間から外の様子をうかがっている。
「あっ。雅彦さんおはようございます。これから仕事ですね」
目が合い、来客が俺だとわかると、頬を綻ばせて喜び扉を大きく開ける。
「おはよう。いまから仕事なんだけど行けるか?」
「はいっ! 大丈夫です」
彼女がドアから出る時に起きていた弟と目が合う。お姉ちゃんをどこに連れていくの? と問いかけてきているような目。俺は接客スマイルでシェリーに危害を加えないことを伝えて市場に戻った。
そこからはいつものように仕事の開始だ。
シェリーがいるので彼女に接客をやらせて俺は一人で調理をする。いつもどおりにタネを綺麗に形成してから油の中で揚げる。
それが浮き上がってきたら糸で持ちあげて油をきる。油が切れたら冷めないうちにシェリーが紙に包んで客に手渡す。
なかなかの仕事ぶりだ。初日だからある程度緊張してしまい、少しの失敗なら目を瞑ろうと思っていたが、それは杞憂だったみたいだ。
「やぁ店主。まだ店を構えて日にちも浅いってのにもう人を雇っているのかい?」
「あぁ。また来たのか。御覧の通り一人じゃ厳しい仕事量だからな。お前の分を取っておくから後で来いよ?」
俺とミラが話していると、シェリーはビクビクとおっかなびっくりに動いている。
どうやらミラの装備。そして右胸に付けている特別保安官だということを証明する金色のバッチを恐れているのだろう。
その震えている体に喝を入れる為に彼女の尻を思いっきり引っぱたいた。とても良い音がした。
これは決してセクハラではない。もちろんまだ年端の行かない少女に欲情するほど俺はまだ人間が壊れていない。
ただ委縮している彼女を助けようと思っただけだ。もちろんそれだけだ。
「……別にお前のことをどうのこうのするつもりもないし、アイツもそんなつもりじゃない。俺とアイツはただの友達さ」
その言葉で安堵したのか、シェリーはついさっきまでの要図が嘘のようにてきぱきと仕事を続けるようになった。
「それじゃ、私は見周りが終わったらまた顔を出すとするよ。それじゃあな」
特にシェリーについて言及するようなことはなく、ミラは店から離れて行った。
「アイツは俺の店を助けてくれたんだよ。それ以降、何かある度に飯をたかりに来るが」
「そうなんですか。でも保安官と知り合いだったのに私のことを突き出さなかったのはどうしてですか?」
確かにそう繋がるだろう。確かに保安官と仲の良い奴がいて、そいつがスリ娘を捕まえたらそのままお縄に頂戴。牢屋にそのまま運ばれるだろう。
「ただ、こっちもこっちで人手が欲しかっただけだ。そこでシェリーが来たから。結局はタイミングの問題だな」
「そうですか。でも牢屋に入れられなかっただけ良かったです。ありがとうございました」
ペコリと頭を下げるシャリー。ただ、今はまだ仕事中だ。つぎつぎときつね色に染まった棒ナッツが油の中から浮かんでくる。
「それよりも今は仕事に集中しなさい。お客様を待たせるようなことはしちゃダメだからな」
その声で彼女は仕事中だということを思い出したかのように、ものすごい勢いで飛び跳ねてから作業に戻った。
それから俺達二人で日が暮れるまで商品を作り続けて売り続けた。
その結果、見事にタネが売れ残った。
「やぁやぁ。今日も大盛況だったじゃないか。それで、私の分は残っているかい?」
客の流れがおさまると同時に再び現れるミラ。どこかで見ていたに違いない。
「そりゃどうも。今日は流石に残ったよ。今からこれをすべて揚げるがどれだけ持っていく?」
今はこのタネをどうやって処分するかを考える。もちろんここでミラに出来るだけ食べて行ってもらうということも出来るが、彼女一人でそんなに多くは食べれないだろう。いや、彼女の胃袋の容量を考えれば、造作も無い事なのかもしれない。
「そうだな。アイツの分もお土産として持って行きたいところだ。6本でいいか?」
「そんなもんで良いのか? いつもなら、あるだけ持っていく。とか言いそうなんだが」
あまりにも数が少なすぎて桁が一つ少ないと純粋に思ってしまった。
「……馬鹿を言うな。いくら私だって一応営業に関することでは遠慮はするさ。もちろん店主の奢りの時は遠慮なんかしないがな」
見ている方も悪いことをしても許してしまおう。と思うくらいの笑顔でそう言うのだからミラは恐ろしい。これも狙ってやっているのだろう。そして彼女にも遠慮という言葉を知っていることに驚きを隠せない。
「お、おう。それじゃ6本だな。今すぐに揚げるから待っててくれ」
すぐに作業に取り掛かる俺。タネも余っているから少し大きめに作ろう。
そして出来上がったモノを手渡す。もちろんお代は無い。
「ありがとうな。それじゃ私は帰るとするよ」
棒ナッツを受け取ったミラはそのまま俺達に背を向けて帰っていく。
「それじゃこの残りはお前の家族にあげるとしよう」
処分をすべて彼女の家族に任せる。には多すぎるほどのタネ。これはココ達にもお土産が出来る。
「それじゃ最後にもうひと踏ん張りしようか」
俺達は余ったタネを油で揚がるのを待った。その時に、またしても客が現れた。また女性だ。
「やぁ。店のことで話したいことがあるんだ。この後時間はあるかな?」
珍しい客。大工のミレーユが出店に顔を出してきた。
「なんだい? 店が完成するにはまだ早いと思うんだが」
まだ依頼をして3月程度しか経っていないんだ。完成しているほうがおかしい。
「そりゃそうだよ。いやなに、ようやく建材が揃ったからね。明日にでも着工しようかなとね」
建材を求めて3ヵ月。すごく良い建材なのだろうか? 家を作る木材なんて知ろうとも思わなかったので知らない。檜とかは知っているが、この世界にそんなものがあるとは思えない。
「そうか。まぁこの余りを処理してしまわないと何もできないんだ」
「まぁそこまで時間のかかることじゃなんだ。ただ着工が明日からということを伝えたかっただけだ」
なんだ。そんなことか。ただ、着工するとなると転移場所を変える必要がある。どこに場所を変えようか。
この出店に直接来るのは驚かれるだろうしやめておいたほうがいいだろう。それに一度だけ街で転移したことがあったが、あのあと少し騒ぎが起こったそうだ。
ただそうなると俺が自由に行き来することができない。どこに転移するべきか。
いっそのこと街の外に転移してみようか。ただ毎日あの城門をくぐるのは面倒というかなんというか。
それにわざわざ出店で営業するためにほかの街に来るのだろうか? 俺はこのカロニチン以外の街を知らないから何とも言えないが、普通なのだろうか? 日本でもそうだが、東京進出などという言葉がある。それはより良い集客数を産むから人がより多くいる東京に出店する。
カロニチンがどれだけ大きな街か。それはわからないが、こんな出店を出そうとする人がいるんだからカロにチンよりも小さな街があることがわかる。
話が逸れた。今は新たな転移先を考えるのだ。
誰にも気付かれずに移転。透明化の糸を体に巻いてから城門をくぐる。
いや、それだったら転移する前に透明の糸を体に巻けば良い。そうすれば転移した先で誰かに見られるということなんか起こらない。だろう。きっと。
「そうか。わざわざすまなかったな。それよりもミレーユ。明日から着工するとしてどれくらいの期間で出来上がるんだ?」
たぶん、彼女の伝えたい用事は済んだことだろうし、俺からも質問をする。店が出来上がるのは早ければ早いほど良い。その分だけ利益が生まれる。
「そうだな。簡単に見積もって半年ぐらいかな。ざっとで大雑把になるがそれぐらいが妥当だろうな」
ミレーユは指で顎の肉を揉みながら考えて半年という期間を出した。
「そっか。半年か。最初に提示してた1年とあんまり変わらないな」
「建材確保が難しいからね。本当だったらもう少しかかると思っていたわけだし。それじゃ私は用事がすんだことだし帰ることにするよ」
そう言ってミレーユは店から離れていった。できれば余った棒ナッツを持って行ってくれれば嬉しかったのだが、無理強いは良くない。残ったものは俺とシェリーで折半することにしよう。仕方がない。
そのあと、急いで全てのタネを揚げて俺とシェリーで大体1:3の割合で持ち帰ることにした。
「シェリー。今日一日よく頑張った。これが今日の給料だ」
彼女の妹たちが待っている家の前で俺は麻袋の中から銀貨を取り出してシェリーの手のひらに一枚ずつ、枚数を確認させるように乗せる。
「えっ!? 一日銀貨5枚の契約だったと思うですけど」
彼女は手のひらに乗っている10枚の銀貨に戸惑っているようで俺の顔と銀貨を交互に見ている。
「あぁ。だがそれは昨日までの話だ。一日の日当平均が銀貨10枚だと聞いてな。だから最初に言っていたように5枚を渡して、残りの5枚をある程度溜まったらその分も渡そうと思っていたんだ」
もちろん、今日の働き加減でその10枚から上下させるかどうかを決めようと思っていたが、彼女はよく働いてくれた。だからひとまずは10枚で保留ということに決めた。
「だが、そうなるといざという時に金が必要になった時に困ると思った。だから毎日仕事終わりに銀貨10枚を渡すことに決めたんだ。もちろん何に使っても良い。お腹がすいているなら食べ物を買えばいい。着るものに困ったら服を買えばいい。ただ、その金はシェリーが自分で稼いだ金だ。だからその使い道は君が決めなさい」
俺は彼女の髪を撫でて家の中に入る。そこに待ち受けるのはシェリーの妹達。
「よしお前ら。今日はこれを食えー!!」
見知らぬ男が家にやってきたことに驚いてはいるのか、俺に近づいて来ようとはしない。が、後ろにいる姉の姿を見て俺のことが安全だということを理解したのか、すぐに駆け寄ってきてくれた。
そして沢山あった棒ナッツはあっという間に彼らの胃袋の中に消えていった。
「そんじゃシェリー。また明日な」
「はい。ありがとうございました。また明日も頑張りますので」
年下の女の子。ましてやココよりも幼い妹のような存在にどう接して良いかわからないが、今は落ち着かせることが一番だろう。
今もまだどうして良いのかわからないようで、オロオロとしている彼女を優しく抱き寄せて頭を撫でる。
「おう」と俺は返事をして不可視の繭に包まれ、転移。彼女の家族全員が驚いているかもしれないが、その時は魔法使いとでも説明すれば良い。後付け設定万歳である。
今日も今日とて収入チェック。
今日の売上金額は294枚。この金額に土地代・材料費を引くと282枚。大体の予想通り600本近くは売れた。だが、手作業なので大きさは仕方ない。もしかしたら今日はかなり小さく作ってしまったのかもしれない。この金額であれだけのタネ20本分以上残ってしまったのだから。
しばらくはこのまま600本分のタネを仕込むことにしよう。目に見えて客足が遠のいていくようであれば、味のバリエーションを増やしたりして更なる客を増やして行けば良いだろうし。
これからも色々と試行錯誤が必要になってくるがまだまだ俺は頑張らなければいけない。俺がここを去るまでにできる限りの借金をなくし、流通ルートを形成させなくてはいけないのだから。
そんなことを考えつつも俺は城の土を掘り起こす。以前に掘り起こした場所は兵士達の作業によって綺麗に耕されており、栄養さえあれば直ぐにでも農作業ができるだろう。栄養があれば。
土の養分問題はどうやって攻略していこう?
流石に人糞肥料は嫌だ。そもそもそれを取り扱う兵士がい無さそうだ。俺が率先してできないものを兵士に押し付けるのでは示しがつかない。ではどうするか。
やはりそこはマチルダに助言を請わなければならないだろう。決して頭を下げることが嫌というわけではない。むしろ俺の頭を下げることで物事が解決をするのであればいくらでも頭は下げる。チンケなプライドなどそこらへんにでも捨てておけば良い。
嫌なのはマチルダとの交渉に使うスイーツを作るのが手間なのだ。
オーブンなどはあるので別段普通に作れば良いのだが、彼女のことだ。契約で出している週一のケーキのような出来では新たな情報や手助けをしてはくれないだろう。
そこでおれがやる仕事というのは新レシピの考案だ。
彼女が満足するスイーツを一から考えるとなると心が折れそうになる。
だが、この世界にないモノで向こうの世界にあったモノなど山ほどあるのでそのレシピを使えば良いのだが、それでは料理人のプライドが許さない。このプライドはそこらに捨ててはいけないプライドだ。このプライドを捨ててしまえば、後は自堕落に奈落の闇に落ちるだけである。
だから、俺は頭を悩まして、精神をすり減らしながら新しい、俺独自のレシピを作り上げるのだ。




