~出店~
30話。意外と長くなるものですね。
これからも週一ペースですけれどもしっかりとしたものを書き続けたいと思います
マチルダに作ったモノの試作品を2、3日かけて材料の配合や商品と提供する時の重量や形状を色々と試行錯誤を繰り返して商品と出せるように改良した。
その改良したものをカロニチンの小さな出店で売る。
活気のある場所から離れた微妙な場所。それでも俺はそこで商売をする。
今日はオープン初日ということでココなどの城にいる人達を大勢連れて商売をする。なんてことはなく、俺だけが店にいる。もちろん俺が調理をして販売をして会計をする。
ただそれだとちょっと衛生上宜しくないので、その所は色々とやりくりする。
開店しても客はもちろんいない。周りの店にも客は少ない。と言うよりもいない。
こんな状態で商売なんか出来るわけがない。
商売をするのならば客を呼ぶしかない。
俺はすぐに生地を細長い棒状に伸ばしてアツアツの油の中に投入。
あのまま丸い形だと、食べるのに一苦労だろう。だから棒状に伸ばして食べ歩きがしやすいような形にした。数もこの棒状のモノ2本で銀貨1枚。大きさは拳二個分。それを熱した油の中に入れて揚げる。
今は屋外なので、油の中で水分が弾ける音。程よい甘さの匂いが風に乗り、匂いを運んでくれる。
その運ばれた匂いに釣られたのか、客がぞろぞろと運ばれてきた。
初日にこんなにも客が来ることを予想していなかったので棒ナッツの製造が追いつかない。初日ぐらいは誰か一人ぐらい手伝いとして来てもらえば良かった。と後悔。
だが、そんな後悔をしている暇などないくらいに人が押し寄せて行列が出来てしまった。
棒ナッツを買うルールとして銀貨一枚を片手に並んで貰い、商品を受け取る前にその硬貨を小さな賽銭箱の中に入れてから商品を手渡す。
そうすることで、俺は調理に専念出来るし、硬貨に触れないので衛生上の問題も解決している。なかなか効率の良い工程だと思う。
その後も店の前の行列はなくなることは知らず、開店から一分も休むことが出来ない状況が続き、店を閉める事が出来たのは材料が底をついた時だ。
やっと一心地つける。一日働き続けるのがこれほどツライとは思わなかった。夕日が疲れた体を照らす。もうヘトヘトだ。
「にいちゃん。なんだかすごい売上じゃないか」
俺の店の前に店を構えていたおっちゃんが店から離れてこっちに遊びに来た。
おっちゃんはなにやらアクセサリーを売っていたような気がする。客が来なかった開店直後に周りの様子を見ていた時に知った。鉱石や宝石を使っていたのか、ピカピカと光が反射して眩しかったのを思い出した。
「いえいえ。初日ですから、こんなの何日も続きませんよ」
出来るだけ波風が立たないように話を続ける。
「なんだか美味しそうな匂いが一日中してたんだが、どんなものなんだ?」
「ただのお菓子ですよ。家庭でも作れるモノですから」
気前の良さそうな顔をしている人だが、彼も商売人。美味しい話があればそれにすぐ喰いついてくるだろう。
だから出来るだけこっちの商売のネタは出さない。
と、二人で話しているとなんだか騒がしくなってくる。一体何があったというのだろうか?
「今日も売上金がすられたらしいんだ。ここの所毎日やられてるんだ」
俺の隣で商売をしていたおやっさんがそんな情報をくれる。
やっぱりこういう場所ではスリとか売上泥棒がいるみたいで、防犯対策をしなければならない。
「なんでも聞いた話だとまだ年端も行かない子供らしいぞ。走っていく姿を目撃しているみたいだし」
「子供か。スラム街ってそういえばここと近いんだよな」
以前、ファミリーから金を巻き上げた場所とここはそう離れていない場所。だからそこの人達がこっちに流れてきているのかもしれない。
「あぁ。じゃあ俺はそろそろ帰るよ。にいちゃんもこれから気をつけながら商売しろよ?」
二人のおっちゃんは自分の店に戻ってしっかりと売上金を確認してから店を後にした。
俺も御賽銭を持ちあげる。かなりの銀貨が入っているようでずっしりと重く、上下に振るとジャラジャラとけたたましい音が鳴る。
明日からはスリ防止としてこの賽銭箱になにか細工をしかけるとしよう。
俺以外が賽銭箱に触れると電気が流れるようにするとかにしようか? それだと銀貨を入れる時につい触れてしまったりするときもあるだろうから電気を流すのは駄目だろう。
とりあえず、ひとまず帰ろう。材料の調達もあるわけだし早めに帰って仕込みをするとしよう。
今日使った油をそのままにしておくわけにもいかないので、油を持ってくるときに使った缶の中に戻す。これでたぶんだが油の酸化は抑えられるだろう。
片付けも終わったので店の土地まで戻る。一応、転移魔法はあまり知らされていない魔法らしいので今は使う場所を考えて使うようにしている。
店は更地の状態で放置されている。この前来たといっても一昨日だが、その時も更地だった。そろそろ建設に移ってもらいたいもの。
その更地の隅っこで俺は転移魔法を唱える。白い光に包まれて俺は城に戻った。
さっそく自分の部屋。と言っても二人の寝室なのだが。ベッドの上で賽銭箱の中身をぶちまける。布団の上に銀貨が舞う。
今日は何本売れたのかしっかりと計算をしていないのでわからないが、材料が全てなくなったことを考えれば220本以上は売れたと思う。今日の材料で220本は作れる計算だった。
計数が終わる。枚数は124枚。計算よりも28本多かった。やはりすべてが手作業だからモノの重さにばらつきが出てしまった。グラムを図りながら販売をするとなるとどうしても誰かもう一人必要になる。誰か欲しい身だが、募集をかけている暇などない。俺は朝起きたらすぐに店に行き、商売をし、それが終わったら帰宅。仕込みや業務を終えてようやく就寝。というスケジュールなのだ。
それよりも今は明日の仕込みをしなくてはいけない。今日の純利益は材料費と土地代を抜いた金額。銀貨112枚。一日の純利益が89600円。かなり高いだろう。これが一ヶ月続いたら金貨50枚ぐらいの儲けになる。そうなれば1年もあれば赤字の分が無くなり黒字運営が出来るようになる。
だが、今日のような売り上げはそんなに長続きないだろうから、ひとまず今日の売上を素直に喜ぼう。明日は今日以上の量の材料を調達するとしよう。いつか来るピークまで全力で利益を追求した営業をするとしよう。
そうと決まればすぐに厨房に向かう。だが、その前に銀貨を金庫にしまう。そして今の俺の全財産を目の当たりにして思った事が一つ。俺がかなりの金持ちだということ。
俺の今の全財産は今ある赤字の半分を帳消し出来るほどのものだった。一応、今日使った材料などの金は俺の金から出している。ので、材料費はそのまま俺の懐に戻る。
少し怖いが大事に使っていこう。この金は俺だけのモノだけではない。俺とシリルの二人で使う金だ。元々俺がココと知り合えたのも赤字だらけのシリルがくれたヘソクリのおかげなのだ。それに倍返しも約束しているからなおさらである。
そんな思いを胸に金庫の扉を閉める。そして作業場に向かう。
「あ、雅彦さんお帰りさない。今日はどうでした?」
「あぁ。材料が足りなくなるぐらいの儲けだよ。だから今日は昨日よりも仕込みの量を増やしておかなきゃって感じだよ」
厨房ではいつも通り夕食の準備をしていた。いつもの光景だ。
その夕食の準備の横で俺は黙々と仕込みを始める。
といっても小麦粉にバター、アイリン、卵を加えて混ぜるだけ。混ぜたらそのまま放置。というわけにもいかないので、その混ぜたものを箱の中にしまって真空状態のまま置いておく。腐らないようにその箱は冷蔵庫にしまっておく。
仕込みが終わると夕食の時間になっていた。今日の夕食はビーフシチュー。なかなか美味しい仕上がりになっていた。もう食事係は優秀に育ってくれて嬉しいものだ。
その夕食後、俺はすぐに外に出る。
大魔王様の城から帰ってきてから兵士に仕事を割り振ることを決めたのだ。
その仕事は農業。そのためにはまず、農業が出来る環境を作らなければいけない。
なので、一定範囲の土地を兵士に耕せることを命令した。だが、その耕す土地が手のつけられない状況では何もすることが出来ない。
だからまずは、その第一歩である土地の整地から行っている。
といっても魔法で土地を弄っているだけである。
局地的な地震を起こして土地を破壊して、糸の魔法で網目の細かい篩が作れるほどの隙間を作り、その篩ごと宙に浮かばせる。そして、そのまま篩にかけて作物の成長に影響が出る石を取り除く。
こんなことをして俺は寝る。後は兵士達が立派に整地をしてくれるので出来上がった農場を見るだけだ。
ただ、土地を耕しても土に栄養が無ければどうしようもないので、そこはマチルダに相談なり泣きつくなりをして助力を得る感じで良いだろう。今のところ考えている作物はジャガイモだ。もし、ジャガイモの育成が出来るようになれば主食にでもなるエース的な食材が大量に入手できるので食費の削減や、余った分をマチルダを通して消費者に売ったりも出来るだろう。なんにせよ、まずは作物が育つような土地づくりが先決だ。
そんなことで、今はまだ序盤。焦らずにゆっくりと金を稼ぐとしよう。
寝室に戻り、防犯対策を練ろう。
売上金はすべて賽銭箱の中に入ることになっているのでその賽銭箱を盗まれないようにするのがベストなのだろう。
ただ、どうやってそうするか。それが問題なのだ。
糸の魔法で固定する。そんなことを考えたが、それは不可能だ。糸でその賽銭箱をどこか柱などにくくりつける。確かにそれだと盗まれる心配はないだろう。
だが、それは俺が魔法を【俺の体から糸を出している時だけ】だからだ。
俺の体から離れた糸はすぐに消えてしまう。それが俺の魔法なのだ。だから体から切れてしまうとその魔法も消えてしまう。
糸を出したまま作業を続ければ良いとも考えたが、あの小さな店を俺はぐるぐると回りながら作業をしているのだ。そうなれば必然的に糸は俺に絡まるだろう。そんなことを知れば仕事の邪魔になる。本末転倒だ。
では、どうしたら良いか。いっそのこと賽銭箱を固定型にしてしまうか。でも、そうすると、店先で売り上げを回収しなければいけないし、その回収したモノを盗まれるということもありうる。本当にスリは面倒だ。
でも、今の賽銭箱を固定する。これにピーンとキタ!
魔法で賽銭箱を固定すれば良いのだと。
以前、大魔王様の所で兵士と戦った時に用いた魔法。水の粘度を高めたあの魔法。それを使えば良いのだ。
最大限に粘度を高めた液体を使って賽銭箱を固定する。魔法の効果時間を好きなように決めれば盗まれる心配もなくなるだろう。
それに盗もうとすれば運ぶことが出来ない賽銭箱。その瞬間をひっ捕らえれば良い。
スリの被害を無くし、なおかつスリを捕まえる事が出来る。一石二鳥だろう。コレは。
スリ対策も考え付いたしベッドの中で休むとしよう。
誰も入っていない布団の中に潜る。ひんやりとしていて気持ちが良い。
「雅彦。今日も頑張ったな」
寝室で先にベッドの上で横になっているとシリルが隣に来た。
「あぁ。シリルもお疲れ様」
俺がこうやって外で活躍しているので、俺の代わりとして雑務をこなしてくれている。店の方が落ち着いたらマチルダ以外の城主に挨拶に行った方が良いかもしれない。
「今日は疲れたよ。それに見合う売り上げも出したんだけどさ」
「そうだったのか。私も農業に力を注いでいる人に手紙を送ったりしているんだ」
布団の中に二人で入って寄り添う。あの時みたいに抱きあって寝るようなことはないが、手をつないだまま寝たりすることが多くなってきた。
「そうか。ありがとう。俺も出来るだけ早くそっちの作業に移れるように頑張るよ」
「でも無理だけはしないでくれよ? 雅彦は一人で抱え込むことが多いからな」
俺の嫁。しっかりと俺のことを見ている。
「ありがと。今日はもう疲れたから寝るよ」
顎が外れるぐらいの大きな欠伸をする。目からは涙が出てくる。本当に体は疲れているようだ。
「あぁ。おやすみ。私も文字と格闘をして疲れたよ」
掛け布団から出ないように俺達は出来るだけ密着して睡魔に身をゆだねた。




