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六十七の章 武彦の戦い、イサの戸惑い

「ぬ?」

 イサは光の玉の攻撃をやめ、武彦を睨んだ。いや、神剣アメノムラクモを睨んだという方が正確であろう。

「何をするつもりぞ、アメノムラクモ?」

 イサの問いかけにアメノムラクモは、

『知れた事。うぬを滅ぼし、我も消ゆる』

 その言葉に武彦はギョッとした。

れ言を。うぬが我を滅ぼすと? たかがつるぎの分際で、そのような事をよくも申したものだ」

 イサはアメノムラクモを嘲笑った。

『強がりを申すな、イサ。我の真の力、知らぬ訳ではあるまい?』

 アメノムラクモが言い返す。イサは笑いながら、

「知っておる。確かにうぬの力は侮り難し。じゃが、それは昔の話。今の我にはうぬの力なぞ恐るるものではない」

 アメノムラクモはそれには答えず、

『武彦。イサを仕留める。あの者を哀れなどとは思うな。このオオヤシマを滅ぼそうと思うておる憎しみの権化ぞ』

「は、はい……」

 武彦はアメノムラクモの言葉に怯えた。

(御剣(みつるぎ)さん、様子が変だ。どうしたんだろう?)

 武彦にはアメノムラクモの真の意図がわかっていない。アメノムラクモは自分の身を犠牲にしてイサを葬るつもりなのだ。しかし、それも完璧な方法とは思えない。アメノムラクモにも、それはわかっていた。

(御剣様……)

 言霊師(ことだまし)であるツクヨミにはアメノムラクモの考えがわかっていた。

(もはや御剣様に頼るしかないのか……)

 ツクヨミはそれが歯痒かった。

「御剣様……」

 アキツもまた、アメノムラクモの決意を感じていた。

(御剣様は、ワの国の代々の術者の力と王の力を注ぎ込んで鍛えしもの……。イサの力を上回るためには、御剣様ご自身を形作っている全てを使わねば、勝てぬという事ですか?)

 アキツの美しい顔を涙が止めどなく流れる。

(ワの王家の全てを懸けて戦わねば勝てぬ……。イサ……。何故にそこまでオオヤシマを憎むのです?)

 イスズもワの王家の流れを汲む者である。彼女もアメノムラクモの思いを感じていた。

「やはり、そこまでしなければ……」

 彼女はアメノムラクモの事も心配だったが、それ以上に弟イワレヒコの身体、そしてその身体を借りて戦っている磐神(いわがみ)武彦(たけひこ)の事が心配であった。

(何があっても、たけひこ様は私がお守りする)

 イスズの悲しいまでの思いである。

「クシナダ殿……」

「ウズメ殿……」

 ウズメとクシナダの二人は、自分達が決して立ち入れない戦いが始まろうとしているのを感じていた。


 ヤマトの城を襲った光の玉は、タジカラとスサノの活躍で防ぎ切った。

「イツセ様」

 二人は馬に乗って城門から出て来たイツセを見て目を見開いた。

「傷は宜しいのですか?」

 タジカラが尋ねる。イツセは苦笑いして、

「嫡男が城で震えていて良いはずがなかろう。弟と妹ばかりに任せてはおけまい?」

「はっ」

 タジカラは頭を下げて応じた。

「我らは微力。しかし、見届けねばならぬ。オオヤシマの行く末をな」

 イツセはそう言うと、馬を走らせる。

「イツセ様!」

 タジカラとスサノは驚いてイツセを追う。


 アメノムラクモは輝きを増して行く。武彦はその光の強さに目を細めた。

「如何なる事をなそうとも、うぬが我に勝る事なし。愚かなり、神剣よ」

 イサは全く動じていない。余裕の笑みすら浮かべている。

『いつまで笑っていられるかな、イサよ』

 アメノムラクモがそう言うと、刀身が大きくなった。

「うわっ!」

 武彦は今までの倍程の大きさになったアメノムラクモに驚いてしまった。

『行くのだ、武彦。イサを斬れ!』

 アメノムラクモが叫ぶ。

「はい!」

 武彦はその声に応じてアメノムラクモを中段に構え、イサに接近した。

「来るか?」

 イサは笑みを浮かべたままで構えもとらない。

「何が始まるのだ?」

 ツクヨミにもその戦いの行方が読めない。

「うおおっ!」

 武彦がイワレヒコの剣技を得て、イサに袈裟斬りを浴びせる。

たわけが!」

 イサはまた光の玉を放つ。武彦は素早くそれに反応し、叩き落とす。続けざまにイサは光の玉を武彦に放った。すでにウズメやクシナダには武彦の太刀筋すら見えていない程の戦いである。

「はあっ!」

 光の玉を弾き切った武彦が踏み込み、イサに斬りかかる。

「無駄よ」

 イサはそれをかわしも防ぎもしない。

「何だ?」

 武彦の一撃は何かに止められた。

「まさか?」

 アキツが驚愕して呟く。イサの背中から腕が伸び、それが剣を受け止めていたのだ。

「あれは……?」

 ツクヨミはそれ以上言葉を発する事ができない。

『武彦、退くのだ!』

 アメノムラクモが叫ぶ。武彦はハッとして後ろに飛ぶ。その直後、イサの背中から剣を持った腕が伸び、武彦を斬りつけた。

「くっ!」

 辛うじてかわした武彦であったが、切っ先がわずかに掠めたのか、顔から鮮血が(ほとばし)った。

「わかっておらぬようだな? 我には三人(みたり)の味方がおるのだぞ」

 イサが愉快そうに言う。やがて彼女の背中から、全部で六本の腕が現れた。

「サクヤ様とスセリ様と、大叔母様……」

 アキツは目を見開いてその腕の元の持ち主の名を呟いた。

「ええ?」

 武彦は自分自身の癒しの力で傷を治しながら、イサの変異に仰天していた。

「もはや、我らの及ぶものではないのか……」

 ツクヨミが言った。

「御剣さん……」

 武彦は弱音を吐きそうだった。すると、

『諦めるな、武彦。お前には私達がついているぞ』

とどこからともなく声が聞こえた。

「えっ?」

 武彦はハッとした。

(今の声は御剣さんじゃない。誰?)

 よく思い出せないのだが、懐かしい感じがする。そして安らぎを感じる。

『こんな形でまた会えるとは思わなかったよ。大きくなったな。そして、逞しくなった』

 その声に武彦はようやくそれが誰なのかわかった。涙が自然に溢れて来る。

「父さん……」

 ほとんど記憶がない。しかし、声は微かに覚えていた。武彦が三歳の時に交通事故で他界した父。その声が聞こえているのだ。何が起こっているのかはわからない。でも心強かった。

「ぬうっ!?」

 そして、あれ程高圧的で自信に満ち溢れていたイサが驚いていた。武彦がふと自分の背後を見ると、そこには亡き父の姿に並び、老人の姿があった。

「もしかして、ひいお祖父ちゃん?」

 武彦が尋ねる。するとその老人は優しく微笑み、

「ああ、そうだよ。お前に会えて嬉しいよ、武彦」

 武彦の身体の中に温かいものが流れ込んで来る。彼はゆっくりとイサを見た。

「さあ、終わりにしよう、イサ」

 武彦は微笑んで言った。

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