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五十九の章 イザの力、アキツの決断

 オオヤシマ全土を揺るがす戦いは、いよいよ最終局面を迎えようとしていた。


 言霊師ことだましツクヨミの力で、光に包まれたオオマガツとヤソマガツの二体の魔物は、その闇のけがれを次第に失い、苦しんでいたのが嘘のように収まり始めた。

「これは?」

 光の言霊で彼女達を包んだツクヨミは、その意外な展開に目を見開く。

「何と、彼奴あやつらは、人であったか?」

 後方で見ていたタジカラが呟いた。スサノは言葉もない。

「やった!」

 武彦が喜びの声を上げた。オオマガツとヤソマガツは闇の穢れを全て取り払われ、人間の姿に戻った。

「うわあ……」

 武彦は二人の女性の美しさに目を見張った。しかも高貴な気を放っている。

(アキツさんに似ている……)

 そう思いながら、赤面する。二人共、何も身に纏っていないのだ。しかし、神々しい光に包まれているので、身体はそれほどはっきりとは見えない。

(亜希ちゃんにそっくりだ)

 美人は皆幼馴染の都坂みやこざか亜希あきに見えてしまうのかと、自分の目を疑問に思う武彦である。いや、それは武彦の思い込みではない。きちんとした理由があるのだ。

「貴女方は、ワの王家の方なのですか?」

 ツクヨミが声をかけた。すると女性の一人が顔を上げて、

「はい。我が名はサクヤ。オオヒルメより二代前のワの国の女王です」

と答えた。ツクヨミはハッとして武彦を見た。彼もサクヤと名乗る女性がアキツに似ている事に気づいたようだ。彼もアキツとサクヤを重ねてしまったのか、顔が朱に染まった。

「我が名はスセリ。オオヒルメの前のワの国の女王です」

 もう一人の女性が名乗った。やはり彼女もアキツに似ている。

「我らは、我が祖であらせられるイザ様に魂魄を縛られ、闇の穢れをまとわされ、魔物にされたのです」

 二人の話に武彦は驚いた。

「自分の子孫をそんな風に……。イザという人は、一体どういう人なんでしょう、御剣みつるぎさん?」

 彼はムッとして神剣アメノムラクモに尋ねた。

われにもわからぬ。イザの目論みは誠に面妖だ』

 アメノムラクモは淡々と語った。

「こうして、穢れを祓われ、我らは人の姿に戻れました。礼を言います」

 二人は立ち上がり、深々と頭を下げた。

「これでようやく、天に昇れまする。かたじけない」

 サクヤとスセリは光に次第に包まれ、ゆっくりと天へ昇って行く。武彦達はそれを見送った。

「イザ様の事、頼みまする」

 サクヤとスセリは高く舞い上がりながら言った。やがて二人の姿は光と共に空の彼方に消えた。

(あんな酷い目に遭わされたのに、イザ様って呼んでた……。どうしてなんだろう?)

 武彦はふとそう思った。

「後はイザのみ。それで全てが終わる」

 ツクヨミが言った。するとアメノムラクモが、

『それならば良いのだがな』

と呟いたのを、武彦ですら聞き逃していた。


 ヤマトの城の玉座の間では、二体の魔物が実は先代と先々代のワの国の女王だった事を知らされ、皆動揺していた。

「何と……」

 ヒノモトの王ホアカリは唖然としている。ワの国最後の女王となるはずであったアキツも、驚愕していた。亡きヤマトの王ウガヤの妃タマヨリとその娘であるイスズは、肩を寄せ合って泣いている。

「もしや……」

 ウガヤの嫡男であるイツセが眉をひそめる。彼はアキツを見た。

「大叔母様も、イザに……」

 アキツはイツセの考えを読み、頷いた。イツセの目が大きく見開かれ、涙を浮かべた。

「まさか、オオヒルメ様も同じように?」

 タジカラの奥方であるウズメが言った。スサノの奥方であるクシナダも驚いて、

「そのような事になれば……」

 彼女達も答えを得ようとするかのようにアキツを見た。

「行きましょう、ウズメ、クシナダ。タジカラやスサノでは、この先のいくさはできませぬ」

 アキツが椅子から立ち上がる。

「はい、アキツ様」

 ウズメとクシナダは声を揃えて応じた。


 武彦達は一旦城まで退いた。イザの出方をうかがう事にしたのだ。

「アキツ様」

 彼らが城門をくぐった時、ウズメとクシナダを従えたアキツが歩いて来るのが見えた。

「あの魔物達は、かつてのワの国の女王であったと聞きました」

 アキツがツクヨミに言った。ツクヨミは跪いて、

「はい。イザに魂魄を縛られ、操られていたようです」

 アキツの顔が悲しみに満ちて行くのを武彦は見た。

(アキツさん……)

 ツクヨミは続けた。

「イザにそのような力があるのだとすると、我らも戦い方を考えねばなりませぬ」

「そうですね」

 アキツが武彦を見た。武彦はドキッとしてアキツを見る。

「これより先は、我ら三人と、たけひこ様、そしてツクヨミ殿で戦います」

「あ、いや、しかし……」

 タジカラが異を唱えようとしたが、ウズメが彼を見て首を横に振る。

「イザは槍や剣では倒せませぬ。タジカラやスサノの力を借りたいのは山々なのですが……」

 アキツは微かに微笑み、タジカラとスサノを見た。タジカラとスサノは慌てて跪いた。

「先程の戦を見るにつけ、もはや我らの力の及ぶものではないと知りました」

 タジカラが言う。そしてスサノが引き継ぐように、

「我らはホアカリ様達、そして民を守るためにここに残ります」

「ありがとう、タジカラ、スサノ」

 アキツが二人の肩にそっと手を置いた。二人は頭を深々と下げ、

「勿体ないお言葉にございまする」

と答えた。

「私も同道致したく存じます、アキツ様」

 イスズが進み出て言った。武彦はびっくりして彼女を見た。姉美鈴に瓜二つの彼女が危険な場所に行くのは心配なのだ。

(でも、それを言ったら、ウズメさんもクシナダさんも、もちろんアキツさんも同じだ)

 彼はアキツの返事を待った。アキツは微笑んで頷き、

「わかりました。イスズ殿の力も要る事になりましょう。お願いします」

「はい、アキツ様」

 イスズは嬉しそうに答えた。


 こうして、対イザ部隊が結成された。アキツ、ツクヨミ、ウズメ、クシナダ、イスズ。恐らくオオヤシマ最強の布陣であろう。そしてそこに加わる武彦は、神剣アメノムラクモと一緒だ。

「参りましょう」

 アキツの声に応じ、一同は馬を進めた。目指すは、アマノイワトである。

(イザと対する前に、オオヒルメ様がお持ちだった書物を見たい)

 ツクヨミはどうしても昔あったヨモツとの戦いの事が知りたかったのだ。


 そして、闇の国ヨモツ。その最深部の玉座の間で、女王イザは一人で悦に入っていた。

「来るか、アキツ。どれほどの者が集まろうとも、我が敵にあらず」

 イザは只黒いだけの目を細め、ニヤリとした。

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