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四十五の章 ウガヤの変貌、ホアカリの意志

 オオヤシマの地下深くにある闇の国ヨモツ。その最深部にある女王イザの玉座の間。

「オモイめ。しくじりおったか」

 そう言いながらも、イザは愉快そうに笑っている。

「じゃが、ウガヤ王はすでに我が術中にあり。最後の扉を開ける時が来たようじゃ」

 イザはその瞳なき漆黒の目を見開き、高笑いした。

「アキツ、うぬがどれ程足掻こうとも、オオヤシマはわれのものよ!」

 イザの笑い声はヨモツ中に轟いた。


 ヤマトの国の王であるウガヤの軍は、すでにその視界にアキツ達を捉えていた。

「アキツめ。もはやこれまでと、覚悟を決めたか」

 嫡男イツセと共に立ち止まったままのアキツを見て、ウガヤは狡猾に笑った。

「オモイ様、お戻りです」

 伝令兵の報告に、ウガヤの顔が怒りに変わる。

「陛下、申し訳ありませぬ」

 オモイはウガヤの前に進み出て、跪いた。

「オモイ、何をしていたのだ!? ツクヨミは如何した!? イワレヒコは!?」

 ウガヤの怒りは増すばかりだ。オモイは馬上のウガヤを見上げ、

「ツクヨミとイワレヒコ様は、只今こちらに向かっております」

「何と!」

 ウガヤは仰天した。ツクヨミの強さを間近で見て来た彼は、ツクヨミが敵に回った時の恐ろしさをよく知っている。

「オモイ、貴様、ツクヨミとたたこうておったのではないのか!?」

「はい。しかし、イワレヒコ様が神剣アメノムラクモをお持ちになって……」

 オモイの言葉に、ウガヤは気が変になりそうだった。

「勝てぬ。勝てぬ。勝てぬーッ! ツクヨミばかりか、彼奴あやつに操られしイワレヒコが、ワの国の神剣であるアメノムラクモを持っていたのでは、我らに勝てるはずもなし! 引き上げるのだ、オモイ!」

 ウガヤは狂乱状態に陥っていた。

(使えぬお人だ。仕方あるまい)

 彼は切り札を使うことにした。

「いえ、まだ我らにも勝機がございます」

「何?」

 ウガヤはさわぐのをやめ、オモイを見た。オモイはフッと笑い、

「私は闇の力を使う事ができます。さすれば、ツクヨミであろうが、神剣であろうが、負けませぬ」

「闇の力、だと?」

 ウガヤの眉間に皺が寄る。血を好み、殺戮を愉しむウガヤほどの暴君でも、闇の力は使いたくないのだ。そんな事をすればどうなるのか、彼にもわかっている。

「しかしオモイ、そのような事をなさば、ヨモツが……」

 ウガヤの反論はオモイにとって想定内だった。オモイはニヤリとして、

「ご案じなさいますな、陛下。ヨモツは我らの味方にございます」

「何?」

 ウガヤの目が大きく見開かれる。

(あと一押しよ)

 オモイはまたフッと笑った。


 その頃、アキツの命でヒノモトに向かっているクシナダの前に、ホアカリの嫡男ウマシが軍勢を率いて現れた。

「ウマシ様!」

 クシナダは、ウマシがウガヤを討つために出陣したと思ったのだが、それは間違いだった。

「逆賊クシナダ! 成敗致す!」

「逆賊?」

 クシナダはウマシの暴言に呆れ返っていた。

(このお人は、どこまで愚かなのだ……)

 ウマシの事があまりにも情けなくて涙が出そうなクシナダである。

「かかれ!」

 ウマシの命令で、兵がクシナダに向かって来る。皆知った顔だ。皆、泣いている。

「お前達……」

 クシナダは、ヤマトの舞踏師であるウズメがヨモツによって死人と化したヤマトの兵と戦っている様を思い出した。

おのれらは、このクシナダに弓引く気か!? それ程の覚悟があるなら、かかって参れ!」

 クシナダは大声で言い放った。まるでそれはツクヨミの言霊ことだまの如く、兵達を硬直させた。

「何をしている!? 王位継承者であるこのウマシの命が聞けぬのか、貴様らは!?」

 ウマシが怒鳴るが、兵は誰一人動こうとしない。

「ウマシ様、クシナダ様は逆賊ではありませぬ」

 軍の参謀がウマシに諌言かんげんする。ウマシは兵全てが自分の味方ではない事を知り、

「勝手にするがいい!」

と言い放つと、馬を返し、城に向かって逃げて行った。

「情けなきお人よ」

 クシナダはウマシの人望の薄さを哀れんだ。そして、

「今は火急の時! 私は先に行くぞ」

 クシナダは再び水の力で進んだ。兵達は顔を見合わせてから、城に向かい始めた。


 武彦とツクヨミはオモイがすでにウガヤと会い、軍を城に向かわせている事に気づいた。

「これは?」

 ツクヨミはウガヤ軍が帰還して行くのを上空から見て、驚愕していた。

「どういう事でしょう?」

 武彦も不思議に思った。

『ツクヨミ、ウガヤ王の心を探ってみよ。あの者、すでに……』

 神剣アメノムラクモが言った。ツクヨミはウガヤ王に言霊を飛ばし、彼の胸の内を覗いた。

「何と!」

 ツクヨミは恐ろしくなった。ウガヤの心は闇に染まり始めていたのだ。

「ウガヤ様は、オモイがヨモツの者とお知りになった今も、彼奴に……」

「え?」

 しかし、武彦はチンプンカンプンだ。

『もはやウガヤはヤマトの王にあらず。彼奴はイザのしもべに堕ちた』

 アメノムラクモが、苦々しそうに言う。武彦は唖然としてしまった。

「じゃあ、イスズさん達が危ないって事ですよね?」

 武彦はツクヨミを見た。ツクヨミは頷いて、

「そのようです」

 武彦とツクヨミは目配せし、ヤマトの城を目指した。


「む?」

 オモイはツクヨミとアメノムラクモの気がこちらに向かって来ないのに気づいた。

(ウガヤの心を読んだか、ツクヨミめ。しかし、手遅れよ)

 オモイはすでに意のままになっているウガヤを見た。ウガヤは不安を拭いきれないのか、小刻みに震えている。オモイはそんな情けない国王を見てニヤリとする。

(そして、我らの狙いは城ではない。愚か者共め)

 オモイは何を企むのか?


 クシナダは城に到着し、謁見の間でホアカリに事情を説明した。

「そうか。わかった。ヤマトに参ろう。ウガヤを説き伏せ、ヨモツに備える」

 ホアカリは椅子から立ち上がった。そして、

「クシナダ、すまぬが、トミヤについていてくれぬか」

「はい」

 ホアカリの妃トミヤは、兄ナガスネの戦死を知り、抜け殻のようになってしまっており、同行は無理だ。かと言って置いて行くのも危ない。

「トミヤ様は私が必ずやお守り致します」

 クシナダは頭を下げて言った。

「頼む」

 ホアカリは力なく微笑んだ。

(トミヤ様は兄上様であるナガスネ様をうしない、お嘆きだ。よもやとは思うが……)

 クシナダも、トミヤが発作的に自害してしまうのではないかと案じているのだ。だから、ホアカリの頼みがなくても城に残ろうと思っていた。

(恐らく、陛下もそれをご心配なのであろう)

 クシナダは仲睦まじいホアカリとトミヤの関係を知っているため、ホアカリの思いを感じていた。

「では、参ろう」

 ホアカリは意を決したように厳しい表情になった。

「はは」

 クシナダの夫スサノ、ヤマトの将軍タジカラ、その奥方のウズメがホアカリに従う。

「トミヤ様を頼んだぞ、クシナダ」

 スサノが声をかけてくれた。

「はい、お館様やかたさま

 クシナダはそれに力強く答えた。


 ヤマトの城では、ウガヤの妃タマヨリとその王女であるイスズがツクヨミとイワレヒコの帰還を知り、喜んでいた。

「イワレヒコ様!」

 武彦達が玉座の間に入ると、いきなりイスズが武彦に抱きついて来た。

「わわ、イスズさん!」

 姉美鈴に瓜二つのイスズにしがみつかれ、武彦はアタフタした。しかも武彦は、オモイとの戦いの時に現れた裸のイスズを思い出して更に顔が熱くなる。

「これ、イスズ、はしたない。お控えなさい」

 そうたしなめるタマヨリも母珠世に瓜二つだ。武彦は頭がおかしくなりそうだ。イスズは、

「申し訳ありませぬ」

と言うと、武彦から離れ、タマヨリと並んだ。

「そうだ!」

 武彦はふとデジタルカメラを持っている事を思い出す。

「皆さん、そこに並んでください」

「は?」

 タマヨリとイスズはキョトンとしたが、ツクヨミは武彦の持つ箱が何なのか知っていたので、

「ささ、イワレヒコ様の仰せの通りに」

と二人を玉座に座らせ、自分もその脇に立つ。

「よし、ここで大丈夫」

 武彦は近くにあった脚立のようなものにデジカメを立て、オートシャッターにする。そして、イスズの隣に立った。

「さあ、皆さん、笑ってください」

 次の瞬間、ストロボが光り、タマヨリとイスズが叫んだ。

「大事ありませぬ、お二人共」

 ツクヨミが騒ぐ二人を宥める。武彦はデジカメを持って来て、

「ほら、奇麗に撮れてますよ」

「おお」

 タマヨリとイスズが驚きの声を上げる。

「これは如何なる術にございますか?」

 イスズが尊敬の眼差しで武彦を見上げる。武彦は照れ臭くなって、

「いや、術なんかじゃなくてですね……」

 その時、伝令兵が駆け込んで来た。

「何事です?」

 タマヨリが尋ねた。伝令兵は跪いて、

「陛下の軍勢が、城の周りの村を焼き払っております!」

 武彦は仰天し、ツクヨミと顔を見合わせた。

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