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*明かされたもの

 ──降下するエレベーターのなかで、ベリルはセシエルを一瞥する。

「お前の車で頼みたい」

「あん? なんでだよ」

「私の車では見つかる可能性がある」

 何を言っているんだこいつと苦い顔をしつつも、俺の車なら逃げられることもないだろうと了承した。俺はまだこいつを信用していない。


 ──セシエルはサンドカラーのジープを走らせながら、隣のベリルに質問をたたみかけた。

「アンジーが殺し屋なのは解った。けど、なんでレイチェルだけじゃなく、ビルやデイヴィッドまでお前のとこにいるんだよ」

「ロイが殺害されたのは、情報を受け取る者だったからだ」

「情報? なんの」

「私もよくは解らないが、デイヴィッドが勤めている研究所に関係があるようだ」

「確か、電子開発研究所だったか」

「アビゲイルとデイヴィッドはハイスクール時代、クラスメイトでね」

 手に入れた情報をどうすればいいのかと悩んでいたとき、彼女の兄が元軍人で探偵をしている事を思い出し、連絡を取った。

「ああ……。なるほど。じゃあ、ロイは?」

「彼はCIAだよ」

 ビルは元軍人という事でロイとつながったが、情報を渡す前にロイが殺害された。

「ちょっと待て」

 セシエルは難しい顔をして整理を始める。

「情報を持つデイヴィッドがアビゲイルの兄のビルと連絡を取って、CIAのロイがその情報を受け取るはずだったが先にアンジェリーナに殺された──ややこしいな」

 溜め息を吐いて頭を抱えた。

「で、なんだってあんたが狙われたんだ」

「私がビルと友人である事を知ってね。二人でロイに会う事になっていたのだが、ひと足遅かった」

 ロイを助けられなかったことにベリルは悔しげな色を瞳に浮かべる。

「それであんたを捕まえようとしたのか。いや待て。なんで殺さない」

 そこでベリルは「ああ……」と口角を吊り上げる。

「私は不死なんだよ」

「──は?」

 なに言ってんだこいつ。

「私の事を調べたのなら、通り名も知ったのだろう」

「あ~……」

 ぼんやりと思い浮かべてハッとした。

「んあ!? あれは比喩じゃないのか!?」

 驚きのあまりハンドルを取られて車を止める。

「おい。俺をからかっているんじゃないだろうな」

「そこまでユニークではないよ」

 いや、もう充分お前はユニークだ。そんなことを思いつつベリルを凝視する。

「急いでくれないか」

 奴に逃げられてしまう。

「誰だ?」

 とりあえず再び車を出す。言われた場所は住宅街の一角だ。

「ロイを殺害した首謀者」

「なんだって?」

 ──デイヴィッドの上司がロシアのテロ組織とつながっていて、その上司が研究所で開発中のデータをテロ組織に渡そうとしていることを知ったデイビッドがアビゲイルに連絡を取った。

「テロ組織? なんだそりゃあ……」

 大事おおごとになっているじゃないかと眉間に刻んだしわを深くした。

「デイヴィッドが開発しているものは、兵器への転用が可能だそうだ」

「そういうことか」

 それが狙いで、その上司とやらは研究所で働いていたのかもしれない。そこでセシエルは、はたと気がつく。

「あんた。エクアドルに行ってたよな」

 それはもしや──

「組織は潰したがボスを逃がしてしまってね」

 やっぱりか! テロ組織を潰しに行っていたとは驚きだ。

 ロシアのテロ組織だが、ベリルが来ることを知り組織ごとエクアドルに潜伏していた。結局は見つけられて組織は壊滅したものの、ボスはいち早く逃亡した。

「そいつの名前は?」

「ミハイロヴィチ」

 スマートフォンを差し出され、映されている画像を見やる。

 ツーブロックにしたブラウンの髪に薄いあごひげ、灰色がかった青い目をした四十代半ばの男だ。側近と護衛の十数人ほどを連れて逃げている。

「逃げ足だけは速い」

 そして現在、住宅街にある廃ビルにミハイロヴィチたちが潜んでいるという情報を元に向かっている最中という訳だ。

「なるほどね」

「再び組織を作りかねない」

 ベリルは眉を寄せ、やや低い声色でつぶやいた。

 それだけは許さないといった口調だ。セシエルは傭兵の友人が少ないとはいえ、ベリルのような人間は珍しいと感心した。

 セシエルの数少ない友人であるキースはベリル同様、主に救出を目的とした要請を受ける傭兵だが、自ら犯罪組織を潰しに行く傭兵というのは聞いた事がない。

 ベリルからの要請は高額報酬でもあるため、キースはありがたがっていた。キースのようなフリーの傭兵は仕事を選べるぶん、補償もなければ稼ぎも仕事量次第という事になる。

 そういうことで、こいつ(ベリル)には支援者が多いのかとも納得した。同時に、妙に心が弾んだ。悪い奴じゃないという事が、どうしてこんなに嬉しいのか。

「あー……。まあ、うん。それなら俺も手伝ってやるよ」

「元よりそのつもりだ」

 よく調べもせず私を追い回した責任はとれ。

「ああ、ああ! 俺が悪かったよ!」

 しれっと言われて腹立たしさと恥ずかしさで肩を震わせる。

「それで、相手は何人だ」

「十四人」

 それにプラス二人ほど考慮してくれと伝えてハンドガンを確認し始めた。

 弾詰まり(ジャミング)を考えて予備を持っている奴なのか。オーマチックだけでなくリボルバーまで持っていることにセシエルは感じ入る。

「銃を出せ」

「え?」

 ああ、運転しているから見てくれるのか。

 セシエルは腰の後ろからハンドガンを抜いてベリルに手渡した。ベリルは手渡されたUSPを受け取ると軽く見回す。

 弾倉マガジンを抜き弾薬を見たあと、確認を始めた。

 USPはポリマーフレームでありながら、マニュアルセーフティーは旧来的で外装式の撃鉄ハンマーを備えており、コック&ロックが可能なダブルアクション拳銃としては珍しい特徴がある。

「よく手入れされている。問題はなさそうだ」

 P8と呼ばれる9ミリパラベラム弾仕様のUSPをセシエルに返し、ナイフの手入れを始める。

「ビルは何階建てだ」

「四階建て。一階はレストラン。二階から上はオフィスだったそうだ」

 それほど大きい建物ではないらしい。

 潜伏先が掴めたのは、「変な奴らが入ってきた」と、廃ビルにたむろしていた薬物中毒者や、寝泊まりしていた路上生活者たちが愚痴をこぼしていたからだ。

「生死は問わない」

「解った」

 あえて言ってくれるのは有り難い。これで気兼ねなく闘えるってもんだ。

「ところで。不死ってことは、不老か?」

「何故だ」

「ジジ臭いから」

「お前よりは若い」

「んな!? おまえ、いま何歳だ」

「三十歳」

「くそ!」

 俺より七歳も若いのかよ!

 悔しがりながら廃ビルの十数メートル先で停車する。車から出る前に間取りや人数、ミハイロヴィチの容姿などを再確認し建物に近づいた。

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