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天使という名のハンター  作者: 河野 る宇
◆天使の拾いもの-四章-
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エピローグ*遺すもの

 ──駆けつけたジャックは、霊安室で横たわるセシエルを見下ろし、暖かさを失った友に口の中で舌打ちする。

「あっけなさ過ぎるだろ、おい」

 駆け出しの頃からの腐れ縁だが、お前ならしぶとく生きていくんだと思っていた。相手を道連れにしたってのは、お前らしい最期だよ。

「ったく。大の大人が、ガキみたいに泣くなよ」

 いつまでも泣きじゃくっているライカの肩を抱き寄せた。

「だって……。だって、クリアが」

「ああ、そうだな。逝くには、まだ早かったと思うよ」

 こんなでかいガキを残して逝きやがって。

 しかし、どんなに悔やんでも、生き返ることはない。それが解っているからこそ、握った拳は、いつまでもゆるめられることはなかった。



 ──晴れた空に、雲がまばらに流れていく。

 広い墓地の一角に黒い服を着た人々が集まり、神父の言葉に耳を傾けていた。

 それから、長方形に掘られた穴に収められている木製の棺に、数人ずつがシャベルで土をかけていく。

 それを涙で腫らした目で見つめるライカに、参列者たちはいたわりの言葉をかけて去って行った。

 参列者がすべていなくなり、小さな石碑の前にジャックとライカは二人で立ち尽くす。

「おまえ、これからどうするんだ?」

「え? どうするって?」

「仕事、続けるのか?」

 ライカはそれに答えられず、眉根を寄せてうつむいた。

「オヤジがいなきゃ、無理だよ」

「クリアの弟子になって、後を継ぐんだって言ってなかったか?」

 投げられた言葉に体を強ばらせたあと、肩をふるわせる。無理もない、意気込みだけでどうにかなる世界ではないのだから。

「オレ一人じゃ、む、無理だよ」

 震える背中をゆっくりさすると軽く二度、叩いた。

「じゃあ、諦めるか?」

 ライカはびくりと固まり、無言で頭を横に振る。

 ハンターになりたくても自分には実力が伴っていない。しかし諦めたくない。そんな心の葛藤にライカの表情は暗い。

「なあ。あいつ、お前のために貯金してたんだぜ」

「え?」

 驚いてジャックを見上げた。

「お前がどんな選択をしてもいいように、遺してたんだよ」

 その言葉に、ライカの目には再び涙があふれた。

「泣き虫め」

 ジャックは呆れながらも、ライカの頭を乱暴になでる。

 ──あの日、俺はクリアとキャンピングトレーラーの中でライカの今後について話し合った。

「あいつ、お前から見て、どうだ」

「え? うーん」

 神妙な面持ちで返答を待つクリアに、申し訳ないといった表情を向ける。

「はっきり言ってくれて構わない」

「じゃあ……」

 言い淀んで続けた。

「あいつに仕事をさせるのは、止めた方がいい。いつか怪我どころじゃ済まない事態になる」

「やっぱりそうか」

 セシエルは顔を伏せて薄く笑う。

「それでも、どうにかサポートしてやってくれないか」

「なにを言っているんだ」

 どうしていま、そんな話をする。

「俺に、もしものことがあったら、あいつを頼む」

「おいおい。縁起でもないことを言うなよ」

 笑って返したが、クリアは静かに目を伏せる。確かに、こいつの仕事を思えば、考えていなければならないことかもしれないが随分と唐突に感じた。

 そういう気分になるきっかけでも、あったのだろうか。

「ライカをどうするかは、ジャック。おまえが決めてくれ」

 ジャックはそれに目を見開く。

「いいのか?」

 それは、ハンターをやめさせるか、続けさせるかを決めていいということだ。ライカの人生を左右する判断を任せるなんて、どれほど気をもんでいるのかが解る。

「ライカが、あいつに出会えたら、運はある」

「──? あいつ?」

 ぼそりとつぶやいた言葉に聞き返すも、それには答えなかった。



 ──クリアは、何かに賭けている物言いをしていた。誰に、何を賭けていたのかは解らない。しかし、俺もそれに乗っかってみようじゃないか。

 クリアほど好き放題していた訳じゃないが、俺だって若い頃は無茶をしていた。怪我をして早くに職を変えたが、長生きは出来ないだろう。

 どうしたってライカは、いつかは一人で生きていかなきゃならない。俺が生きているあいだに、ライカがどんな仕事に就いたって、一人前になってくれさえすればいい。それを全力で支えてやれたらいい。

「ゆっくり考えろ。だからって、いつまでも待ってやる気はないからな」

 青い空に似合う笑顔をライカに向け、家に帰ろうと車に促した──





   END

長らくのおつきあい、ありがとうございます!

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