16/24
第15話『何者でもなくていい』著:雇い主
『何者でなくていい』
著:雇い主
世界は、
何者かになることを
求めてくる。
名前を残すこと。
誰かに認められること。
意味のあるものになること。
物語でさえ、
「何者なのか」を
決めようとする。
けれど、
長く物語を書いていると、
決められないものが
増えていく。
名前のない人。
地図にない場所。
理由の分からない選択。
そして、
何者なのか、
最後まで分からない誰か。
最初は、
それを物語の「余白」だと思っていた。
でも、
違ったのかもしれない。
何者かにならなくても、
人は、
そこにいる。
誰にも知られなくても、
誰にも説明できなくても、
その人の時間は、
確かに続いている。
だから、
何者かになろうとしなくてもいい。
名前を残さなくてもいい。
意味を持たせなくてもいい。
ただ、
ここにいる。
――それだけで、
物語は始められるのかもしれない。




