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1-9 TOYとNATO

「私は認めない!!」

「俺は認めねぇー!!」


二人の声が重なる。

瞬間、鋭い踏み込みと共に二人が一気に距離を詰めて来る。


それは今までの挑戦者とは一線を画するスピード!!


迎撃を!!


そう思った俺の眼に飛びこんで来た二人の姿に、その装備に思わず目を見開き、驚愕する。

一瞬の意識の空白――――


ビュゥッ!!!


しまった!?


その隙をついて、一条の軌跡となって突き出された長槍が迫る。

とっさに朧桜と交差させいなすが、今度は間髪入れず横合いから金棒の強烈な一撃が叩きこまれる。


ドガァン!!!


それは質量の暴力!

俺はそれを半身で避けるが、金棒によって破壊された床の破片が頬をかすめて飛んでいく。

掠った頬から一筋の血が流れ落ちる。


「っつ!」


たまらず後方に跳躍するも、さらにそれに追随するように長槍が一瞬で迫る。


うまい!!


それは流れるような連携。

二人の連続攻撃に体勢を立て直す暇すらもない。

その技量、連携には感嘆を禁じ得ない。


「だけど・・・・・・」


そこまでの攻撃を受けてなお、俺は先ほどの衝撃からまだ立ち直れない。

動揺が心を支配する。


なんで、なんで奴らは・・・・・・??


その間にも迫る長槍と金棒。

顔のすぐ横で、金属と木刀が弾き合う音が響く。


「なんでなんだ・・・・・・???」


二人が怒涛の連携で突く、振り下ろす、薙ぐ、ぶん回す。


俺は、それらを避け、いなしながら何故と思案する。

だが答えが見えない。

ならば聞くしかない、本人たちに!!


その決意と共に俺は、叫ぶ、声の限り叫びあげる。

唸るように様に、責める様に!!


「なんで、お前らの武器にはノエルと月夜のフィギュアがくっ付いてるんだよ!!!」


その俺の叫びが空気を震わせる。

それは俺の心からの疑問。


だが、二人はその言葉に待ってましたとばかりに口角を吊り上げる。

それは自らの武勲を誇る武士の顔・・・・・・

いや、寧ろ激レアグッズを自慢するオタクの顔か?

確か、シリアル番号入りサイン入り色紙を手に入れた時の前世の俺も同じ顔をしていた気がするが・・・・・・。


二人の顔に既視感を覚えながらも、改めて見やる。


まずは武器。その柄の部分には何故か、ノエルと月夜のフィギュアがゆらゆらと揺れている。

しかも、それだけではない。

そのシャツには二人の笑顔がデカデカとプリントされ、その襟元には二人の缶バッジがいくつも並んでいるのだ。しかもキラ仕様。


これで動揺するなと言う方が無理があるだろう。


すると、二人は一度攻撃を止め武器を地面に立てる。

そして、片方は眼鏡を光らせながら、片方はリーゼントを撫でつけながら、


「ふっ、当たり前のことを」

「だな」


どや顔を浮かべてきやがった。

その顔に思わずイラっと来る。

だが、それも続く言葉にかき消される。


「改めまして、私は月夜様ファンクラブ・TOY、円卓第2席バール」

「俺は姫園応援団・NATO、一番隊隊長近藤」


「私達は月夜様の純粋さに魅せられた騎士」

「俺達は姫園の天真爛漫さに救われた野郎ども」


月夜達のファンだと名乗る二人はそこで大きく息を吸い込むと、


「「我らこそ/俺達こそ、月夜様を/姫園を護り、布教するものなり!!!」」


あろうことか、そんなことを叫びやがった。


一瞬の静寂―――――


けれど、その時、俺は頭に血が集まるのを感じた。

ああ、この感情をなんと表せばいいだろうか。

戦慄?後悔?それとも憤怒だろうか?


月夜と、姫園のファンクラブ・・・・・・

なるほど、二人の可愛さを考えればそれも当然だろう。

それに加え、月夜にいたっては可憐さまで兼ね備えている。

それは兄として認めよう。

オタクとしても推しを作ることが喜びに繋がることも知っている。

だが、だがな、それでも・・・・・・


「じゃあ・・・・・・、その格好は・・・・・・」


ああ、これはやはり怒りだ。

怒りが、怒りが湧いてくる・・・・・・。


「当たり前のことを、月夜様は我らの女神です!」

「いや、姫園こそが本当の女神だぜ!」


胸をはってそう主張する奴らに吐き気が湧いてくる・・・・・・・


「故に、その尊さを布教するために」

「だから、その無垢な笑顔を広めるために」


月夜が、ノエルが推しなら何故・・・・・・・。


「「いつでもどこでも推し通す!!!」」


叫んだ。それは講堂すべてに響くような大音声。

一部生徒はその声に驚き、一部生徒は拍手をしている。


当然その言葉は俺の中にも入って来る。

だが、それは俺の中でどろりとした感情に変わっていく。

怒りに薪どころか、ガソリンを注ぎに来ているとしか思えない。


ああ、こいつらは何も分かっていないのか・・・・・・


やつらの言葉を咀嚼し、やつらを見て、武器を見て、フィギュアを見て、シャツのプリントを見て、何度もグルグルと己の中でそれらが渦を巻いて、そして・・・・・・

俺の中で何かが弾けた――――。


胸の内に一気に沸き上がるマグマの様な憤怒。


ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!!

そんな感情が胸を満たす。


だから俺は、思わず怒りのままに声を上げた!!!


「ふざけるな!!!」


二人は一瞬驚いた顔をしたが、その表情はすぐに怒りに変わる。


「ふざけるなとはなんだ、この崇高な気持ちを理解できないとは―――――」

「そうだ、お前なんかに―――――」


二人が反論してくるがそんなものはどうでもいい。

頭に血が上って、今にも爆発しそうだ。


「やかましい!!間違っているぞ、お前たちは!!」


俺のあまりの気迫に、二人が一歩たじろぐ。

その顔に、こいつらが本当に理解していないことを悟る。


「「なん・・・だと・・・・・・?」」


「お前たちのそれは自分たちのエゴを押し付けているだけだ!!」


俺は叫ぶ、この想い届けとばかりに。


「なんだと!!」


リーゼント頭が鬼の形相でこちらを睨みつける。眼鏡もその全身から怒気を滾らせる。


だが、違う。それは許せない!!

お前達は決定的に間違っている!!!!


だから俺は続ける。


「オタクとはなんだ、ファンとはなんだ!!」


それに対しリーゼント頭が一歩前に出て答える。


「オタクとは、ファンとは、推しと常にともにあるものだ!」


眼鏡もリーゼントに並び立ち答える。


「そして、推しが俺達に力を与え、俺達が推しに力を与えるんだ!」


朧桜を握る手に力が入る。

そうだ、それが分かっていてなぜ見えない。


「そうだ、オタクとは推しを常に輝かせるもの、推しのために全身全霊を尽くすものだ!!

そしてそれが生きる希望になる!!

だが、見ろお前たちの推しを!!!」


二人が不思議そうに自らの手の内を見つめる。

まだ気づかないのか?

なら俺が言ってやるしかない、気づかせてやるしかない!!

よく聞け、それがお前たちの罪だ!!


「推しが泣いているだろうが!?」


そう、あいつらの手の中の武器が、そこに括りつけられたフィギュアが、服のプリントが激しい攻防により一部が欠け、汗に汚れ、まるで敗北シーン後のチョメチョメ状態になってしまっているのだ!!


「オタクである俺達が、そんなことしたらダメだろうが!!」


二人の表情が一瞬で青ざめる。その表情は驚愕と絶望。

やっと気づいたか・・・・・・。


恐らく、入学式に気合を入れるために推しのグッズを身に着けたのだろう。

その気持ちはオタクとしてはよくわかる、けれどな、それは悪手なんだ。


「そもそも、俺達は、推しを輝かせるためにある!

なぜか?それは推しが星だからだ!!

天に輝く星、決して手の届かない星、けれど俺達オタクを導いてくれる星!

それが推しだ!!!

推しは俺達の希望をくれる、俺達に生きる意味をくれる、俺達が道に迷った時にそっと導いてくれる!!

だから、だからよ、そんな俺達がさ、天に輝く推しにさ、手垢をつけるなんてそんなことは、あっちゃいけないだろ!!

そんなことしなくても、例え身に着けていなかったとしても、推しは常に自分の心の中にある、そう、俺達の心の中にあるもんだろーーが!!!」


俺は力強く自らの胸を叩く!!

ドン!!という音が講堂中に響き渡る!!


「だからさ、俺達は推しを決して汚しちゃいけないんだぁあああ!!!」


俺の魂の叫びに、二人は数歩よろめき、そして膝をつく。


「なんてことだ、俺が、俺達が間違っていたのか・・・・・・」

「私はただ、月夜様にお兄様と呼ばれたかっただけなのに・・・・・・」


二人が沈痛な面持ちで俯く。

あれは知っている、絶望のあまり切腹しようとしている者の顔だ。

思いのたけを吐き出して少し冷静になった俺は、二人を見て悟る。


ああ、こいつら悟ったんだな・・・・・・。

自分がいかに罪深いことをしてしまったのかを・・・・・・。


俺は、その表情があまりに見ていられなくて、静かに二人に歩み寄る。

そしてその肩に手を置く。とても優しく、まるで壊れ物を扱うように。

俺の頬を一筋の涙が伝う。


「分かる、分かるぞ、その気持ち。俺もかつては通った道だ。

推しとともに居たい、常に一緒に居たい。だから武器にも。

その気持ち自体は尊い。

だけどな、それは俺達のエゴなんだよ。

推しに戦いを強要するなんて、そんなことはしちゃいけない。

ましてやその存在を汚すなんて決してあっちゃぁいけないんだ。

俺達はあくまで推しを輝かせる舞台装置。そう、サイリウムなんだから。

だからさ、それに気づいたならやり直せるぜ」


二人は俺の顔をじっと見つめると、その目に一杯の涙をためる。

大丈夫、こんな顔が出来るこいつ等ならきっと大丈夫だ。

やり直せるはずだ!


「くぅううう~~~~」

「うおぉ~~~~~~」


二人はそのまま四つん這いになり泣き始める。

そして、それぞれのフィギュアに頬を寄せながら謝り始める。


やめろよ、俺までもらい泣きしちまうじゃないか。

周囲でもすすり泣きのような声が聞こえる。

まったく、この学園は本当に最高だぜ!



そうして、どれだけたった頃だろうか、二人はゆっくりと立ち上がった。

その目尻は赤くはれている。

けれど、


「申し訳ありませんでした、お義兄様」

「恥ずかしい所を見せちまったぜ」


その表情は晴れ晴れとしたものに変わっていた。

そうだ、それでいい。

オタクは常に前を向いて、推しを見つめ続けなければいけないんだ。

だがお義兄様はやめなさい。思わず殺意が漏れそうになる。


二人はで武器を構える。二人ともとてもいい表情になった。


俺は満足げに頷く。

二人もそれに恥ずかしそうに応じる。


そしてお互いどちらともなく真剣な顔つきになると、向かい合う。


「改めまして、私は、月夜ちゃんのお兄ちゃんと呼ばれ隊、通称TOY第2席、パーシ・バール」

「俺は、ノエルちゃんの甘くて尊い太ももにおぎゃり隊、通称NATO、一番隊隊長、近藤イサオ」


故に俺も全力で答える。二人の友と全力で語り合うために。


「鮮血の剣鬼、神代刀祢――――」


そして、全員の声が重なる。


「「「()してまいる!!!!!!」」」


◇◇◇



そこからの戦いは激しいものだった。

実力は圧倒的に俺の方が上だった。

動揺から立ち直った俺は、二人を終始圧倒した。

けれど、それでも死闘だったのは二人が何度も立ち上がって来たからだ。


推しへの愛を叫びながら。

月夜のため!!ノエルのため!!


俺はその二人に全力で応えた。


「「はぁ、はぁ」」


バールと近藤が荒い息をついている。

既に全身ボロボロで、なぜ立っていられるか不思議なぐらいだ。


なお、月夜達がプリントしてあるシャツは講堂の端に丁寧に折りたたまれ、グッズ類も綺麗に陳列され俺達の死闘を見守っていた。

きっとそれも彼らの力になったのだろう。


「全ては推しへの愛ゆえか・・・・・・」


俺が呟くと二人は嬉しそうな顔を浮かべる。


「はは、お義兄さんにはかないませんね」

「だが、俺達にも意地があるんでな」


そして、よろめきながら構えをとる。


恐らくこれが最後。

これ以上長引かせるのと本当に剣士生命にもかかわってしまうかもしれない。

それに何より、


「その熱い思いを受け止めないわけにはいかないよな!!」


だから俺も、最高の一刀でもって、切り伏せる。そう決意する。


俺達の間の空気が震える。


お互いの一挙手一刀足を流さぬように、集中を高める。

周囲も固唾をのんで見守っている。


俺達だけの世界。極限の集中。心地いい時間、闘争の最後。


俺はそれに心を震わせる。

そして、


バン!!!!


二人が一気に床を踏み込んだ。

それは今日最速の踏み込み。

超速の加速!


「良い踏み込みだ――――」


瞬間、俺も居合の状態の朧桜を抜き放つ。


「桜華天元流・瞬閃」


超速を超えた神速の一撃が走る。


その一撃は確実に二人の一撃を凌駕する。

そう確信できる一閃。


極限を超えた中で、全員の体感時間が引き延ばされる。


体が反応できずとも、その一閃を視界にとらえる二人。

迫る一撃。


その瞬間、二人は納得とも喜びともつかない表情を一瞬浮かべた――――


そう、俺達はその瞬間、確かに通じ合ったのだ。

推しへの愛を、ファンとはいかなるものかを。


そして、俺の一撃が二人に届く


その瞬間――――



バッッゴゴーーーーーーーーン!!



二人の姿が俺の視界から消えた―――――


「はぁ??」


いや正確には、横から飛んできた何かにぶち当たって、吹き飛ばされたのだ!


二人はそのままきりもみしながら飛んでいく。


そして、講堂の壁にぶち当たると、きゅーと言いながら気絶してしまった。


「なんだ、何が起こった・・・・・・?」


吹き飛んできたのは生徒のようにも見えたが?


あまりの事態に思考が追い付かない。

俺が立ち尽くしていると、


「いや、悪いの。手加減を誤って、そちらに飛んで行ってしまったのじゃ。」


そう言って、カラコロと下駄を鳴らしてやって来る一つの影。


茫然としている俺のことを見たのか、


「もしかして取り込み中だったかの。それは悪いことをしたのじゃ」


そう言って腕をブンブンと振り、慌てた様子を見せる一人の幼女。

その顔の上半分は兎の仮面で覆われている――――


「ごめんなのじゃ、決してワザとでは無いのじゃ。この通り」


幼女は手を合わせ、一生懸命に謝っている――――


「あ、そうじゃ、もし戦いが中途半端なのであれば、代わりに儂が相手をするぞ」


特徴的な白髪と先ほどと同様の狩衣――――


「ほら、お主も戦い好きじゃろ、興奮するじゃろ?」


ただし、兎の仮面により口元でしか表情は判別できない。

だが知っている、この人は俺の推しだから――――


「儂との戦いはきっと楽しいぞ」


一転、そう言って身の丈ほどもある刀を肩に担いだ幼女は楽しそうに口元を歪ませる。


ああ、最高だ――――――


懐かしい、最初にこの表情に胸を貫かれたあの日が。

俺の大好きな、あの憧れの人が、強敵を前に浮かべる笑顔。

そうこの笑顔!


この笑顔に、何度心が湧きたったことだろう!!

何度戦ってみたいと思ったことだろう!!!


自然、俺の口の端にも笑みが漏れる。

そうして、俺は改めて彼女に向き直る。


流れる白髪、仮面から覗く琥珀色の瞳、肩に担いだ白銀の輝きを放つ大太刀。


学園最強が、そこに、立っていたのだった――――。


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