1-5 神代刀祢
そうして月夜から現状を聞いた結果、俺が理解したのは、やはり自分は別の世界に転移してきた、しかも自分が前世で初めてプレイし、最期の瞬間に抱えていたエロゲである、ソード・アンド・ハーレム、通称SAHに非常に酷似した世界だということだった。
しかも、この体の持ち主の名前は神代刀祢。そう、あの神代刀祢だったのだ。
では、その神代刀祢について語るにあたり彼のバックグランドから整理しよう。
家族は両親と月夜の4人家族で、現在両親は海外赴任中。
元々は刀祢は父子家庭、月夜は母子家庭だったそうだが、両親の再婚に伴い家族となったらしい。
つまり、月夜は義妹。
そう、義妹であったのだ!!
大事なことなので2回言った。
ごほん、まあそれはそれとして、そんな俺と月夜だが、現在は白亜を含めた三人で生活をしている。
元々は刀祢と月夜の二人暮らしをする予定だったのだが、刀祢の父親が
「可愛い娘と、どこの馬とも知れんバカ息子を二人きりで残しておけん」
とか言い出し、どこからか白亜をスカウトしてきたとのこと。
その話を聞いた俺は
『どこの馬とも知れんって、あんたの種から生まれた馬だろうに!!』
と心の中でツッコみを入れたが、もちろん遠い空の下に居る父親にそんなことが伝わるわけもない。
だが、親父の気持ちもよくわかる。
海外赴任から戻ってきたら、ぜひ俺一押し義妹ものエロゲセットをプレゼントしてやろう。
いや、いっそ、母親にも分かるように、親父のクローゼットの中を、店舗特典商品の展示場所にしてやってもいいだろう。
きっと阿鼻叫喚の地獄絵図が見れることだろう。
はっ、いかんいかん、肉体に影響されて精神まで若返ってきているようだ。
エロゲ布教の熱量が抑えきれないな。
一方で、白亜がメイドとして雇われた詳細も気にはなる。
だが、そこはきっと異世界なりのご都合展開があったのだろう。
そこに関してだけはグッジョブだオヤジ!
実際、メイド付き一軒家はエロゲーマーとしては願っても無いシチュエーション。
例え少し不思議な力を持っていたとしても、それはメイドとしてのオプションである。
実際前世ではエロゲ内におけるメイドを何人も見てきた。
彼女らはメイドであることに誇りを持ち、主を護るために様々な技能を持っていた。
故に、例えスカートの中に重火器を隠し持っていても何ら不思議ではない。
そう不思議ではないのだ。
『メイドのスカートの中には無限の可能性が広がっている。そう、メイドのスカートの中は深淵、メイド・イズ・アビスなのだ』
それは、俺が前世でとっていた数少ない弟子たちに残した金言の一つだ。
あの時のむせび泣く弟子達の姿は今でも忘れられない。
特に一番弟子は
「どんだけメイド好きなんですか!!」
なんて言いながら泣きながら切りかかって来たな、懐かしい。
あれは本当にいい太刀筋だった。
そんなことを思い出しながらも、月夜から与えられた情報で、ある程度自分の状況は理解できた。
それら情報を整理したうえで、じゃあ神代刀祢とは何者なのか、だ。
それはSAHの噛ませ犬系中ボスにして、〈狂楽〉と呼ばれた神代刀祢、その人であろう。
名前も含め、黒目黒髪といった特徴も一致するし、月夜と言うサブヒロインもいるので間違いない。
残念ながら同姓同名の別人ではないようだ。
ということは近い将来、俺の人生にSAHの主人公が絡んでくる可能性も考慮しなければならなくなってきた。
では主人公と〈狂楽〉との関係だが、それを語るにあたりそもそもSAHとはどんな世界なのかの説明も必要となってくるだろう。
簡単に言えば、SAHは剣と闘争とエロの物語である。
いや、エロは主人公の周りだけだが。
何にせよ、この世界はとある戦いの伝承の上に成り立っている。
その昔、霊長の頂点として地上を支配していた人間。
その発展は凄まじく神にすら届くと言われていた。
栄華を極めた人類。
けれどそんな中、空間を引き裂きひと柱の神が舞い降りたことで状況は一変する。
その神は人類の虐殺を始めたのだ。
蹂躙される人類、猛威を振るう神と眷属。
その神はいつしか邪神と呼ばれ、人類の存続は絶望的となっていた。
そんな中、人類を哀れに思ったのかさらにひと柱の神が地上に舞い降りる。
その神は〈剣神〉。
〈剣神〉は邪神に蹂躙される人類に三振りの神剣を与えた。
そして神剣は人々の中に〈神気〉と呼ばれる力を目覚めさせた。
〈神気〉はただ一方的に蹂躙される人類に力を与えた。
〈神気〉を纏うことで、人類は超常の力を振るえるようになったのだ。
人類は邪神と眷属に対抗する手段を得た。
そして、それからの争いは熾烈の一言だった。
激化する戦闘、荒廃する大地。鮮血と悲鳴が世界を満たした。
どれほどの時が経っただろう。
長い戦いの末、しかし人類はついに邪神を封印することに成功した。
歓喜する人類。
けれどそれも長くは続かなかった。
戦いの傷跡は深く、大地は荒廃し、人の住める地は無くなってしまっていたからだ。
だが、それでも人類は諦めなかった。
人類は神剣を核にして、結界を張り、3つの都市を作ったのだ。
都市を中心に人類は徐々に復興していった。
一方邪神は封印されながらも人類への恨みを抱き続け、荒野に眷属を送り出し、荒野に出た人類を殺し続けた。
それから数百年、人類と邪神の眷属は生存圏をめぐり争い続けている。
それがSAHに伝わる伝承。
そしてそんな世界の中、主人公は第一都市に生まれ、学園で仲間を作り、最終的に復活する邪神に立ち向かうのだ。
じゃあその上で神代刀祢の立ち位置はと言うと、簡単に言えば中ボスである。
第二都市に主人公が訪問した際いちゃもんをつけて喧嘩を売り、結果惨敗するという負け犬ポジション。
さらに、自分の実力を過信していた神代刀祢は敗北が認められず闇落ち。
とある教団に入りびたり、自らを〈狂楽〉と名乗るようになるのである。
一方の月夜は第二都市の案内役として主人公に同行。
その頃の神代家に両親はおらず、刀祢に虐待されていた月夜は常に暗い表情をしていたが、主人公との交流を通じて徐々に心の氷を溶かしていく。
だがそんな矢先、闇落ちした刀祢もとい〈狂楽〉が月夜へと魔の手を伸ばす。
結果、月夜は邪神への生贄として捧げられる。
生贄となった月夜は完全に人格を破壊され、邪神の操り人形となってしまい、〈狂楽〉と共に市民の虐殺を始めるのだ。
そして、そこに主人公が介入。
〈狂楽〉は中ボスとして倒され、月夜は救われた――――かと思わせきや、教団により埋め込まれていた術式により月夜は爆発四散。
腹部から大量の血を流す月夜、それを茫然と支える主人公。
月夜は最期に主人公に思いを告げて、そのまま短い生涯を終える。
そういった流れだったはずだ。
だが・・・・・・
俺は静かに思考を回転させる。
確かに、自身の特徴は〈狂楽〉に酷似しているが、白亜のことや月夜の魔法のような力は出てこなかった。
闇落ち前の月夜にはもちろん、闇落ち後の月夜にもそんな能力は無いはずだ。
自身が忘れているだけか?
いやそれはない。俺はSAHのほぼ全てを網羅している。
あれほどの特徴であれば、覚えていないはずはない。
それに神代家の両親が生きていて月夜との関係も破綻してはいないというのも、原作との大きな差異だ。
俺が更なる思考の渦に沈もうとしたところで、しかし月夜から声がかかる。
「そうだ、お兄様。念のために確認しておきますが、今日が高等部の入学式だということまではお忘れではないですよね?」
「・・・・・・なに?」
一瞬の空白。思考の渦に沈みかけていた俺には一瞬その言葉が理解できなかった。
だが、次の瞬間、即座に意識が現実に引き戻され、ガタンと椅子から立ち上がる。
「入学式だと!?」
「え、ええ、入学式です」
月夜が驚いた顔でこちらを見上げている。
しかし、今はそんなことは気にしていられない。
入学式。それは新たな出会いの場面にして最初のイベント会場。
主人公目線では第一学園の入学式で今後を左右する重要イベントがあった。
であればもちろん、第二都市の白筑学園でもそれは同様のはずだ。
せっかく転生できたのにイベントを逃すことは死と同義。
いや、一度死んでやっと手に入れたチャンスと考えれば死よりも重いじゃないか。
「お兄様?」
動揺した声が月夜からかかるが、今はそれどころではない。
それに加えて白筑学園高等部であればあの人も居るはず!
エロゲーマーとしても彼女のファンとしても、それを逃すことは絶対に出来ない。
つまり、入学式のイベントだけには絶対に遅れるわけにはいかない!!
俺は瞬時に意識を切り替える。
とりあえず必要最低限のことは聞けた。
であれば今はなすべきことを行う。
常在戦場!!
ここから先は、どこにイベントが転がっているか分からない、気を抜くことは死を意味する。
そう自身を叱咤し、立ち上がる。
現在は朝の7:30。多少のごたごたがあったとはいえ、まだ十分間に合う時間だ。
「急ぐぞ、月夜!!!」
俺は早々に朝食を済ませると、学園への準備を急ぐのであった。




