1-3 妹強襲
「あのー、白亜さん。ここはペットショップじゃないですよ?」
恍惚とした表情を浮かべる白亜。
「大丈夫ですご主人様、楽しみましょう」
何が大丈夫なんだろう?
そう考える間もなく、白亜の手が俺の首に伸びる。
首元に冷や汗が流れる。
よく見ると後ろの方にはムチも見える。
あ、選択ミスった。これ結構やばいやつだ。
迫る白亜。必死にそれを避けようとする俺。
しかし、体勢が固定されて以上限界がある。
首に触れた白亜の手の冷たさに思わず体がビクンと跳ねてしまう。
「くっ」
思わず声が漏れ、すわバッドエンドか、と体と局所を固くしたその時、
「お兄様に何をされているんですか、白亜さん・・・・・・」
室内に絶対零度の怒気を孕んだ声が響いた。
次いで、ギギギと音を立てて開け放たれる扉。
まさかの救出イベント発生!?男女が逆な気がするけどね!
そうして反射的に視線を向けると、目に入ったのは濡れ羽色の髪をした小柄な少女だった。
その少女はとても愛らしい。
「あら、月夜様、おはようございます」
白亜に月夜と呼ばれた少女は、身長はまだ小柄ながら、白のワンピースを纏い、整った顔立ちで、いかにも深窓の令嬢と言った様相だ。
何処か見覚えがある少女、聞いたことがある名前。
その事実に脳がハンマーで殴られたような衝撃を受ける。
あれはまさか!?
記憶にあるその顔にあり得ないと思いながらも、しかし少女の瞳にハイライトが残っていることに安堵する。
俺の知っている彼女は、目からハイライトが消え、全てに絶望していたからだ。
それに冷静に見て見ると、顔つきはそっくりだが、俺が知る彼女よりは少し幼い?
思考が纏まらないまま眺めていると、少女はクリっとした瞳をニッコリと笑みの形にし、俺達をしっかりと見据えてきた。
「な・に・を、しているんですかぁ??」
そうだ彼女がこんな風に笑うはずがない。笑うはずがないのだが。
ゾクリ
背筋に氷を差し込まれたかのような冷たさが走る。
笑っている、そう確かに笑っているのだ。
だが、彼女から発せられる雰囲気は重い、とても重い。
ヤンデレのヒロインを攻略している時ぐらい重い。
髪の毛はわなわなと震え、ドア枠を掴んでいる場所からはメキメキと破砕音が聞こえる。
背後から怒りのオーラをまき散らし、ゴゴゴといった擬音さえ聞こえてきそうだ。
「いえ、ただ、ご主人様と愛を確かめ合っていただけでございます。なので、今はとても忙しいのです。もしご用件がありましたら後ほどお伺いいたしますが」
「へー、そうですか、そうですかぁ」
笑顔でそう応じる白亜。
メキメキメキ。ドア枠からパラパラと木片が零れ落ちる。
月夜と呼ばれた少女の笑顔がさらに深くなる。
「私、お兄様にふしだらな真似はしないようにと何度も忠告しましたよね?」
メキメキメキメキメキ。
確実に怒ってらっしゃる。それも相当。
けれどそれを見ているはずの白亜はどこ吹く風。
「あら、月夜様。ドア枠の破砕強度を計ってらっしゃるのですか。それでしたらご自身の部屋で試されるのがよろしいかと」
「あはは、これはメイドの頭を潰すための練習ですからお気になさらずにぃ」
月夜もニッコリ、白亜もニッコリ。俺はブルブル。
それでもメイドの少女の煽りは止まらない。
「おお怖い。でも、私はご主人様がお喜びになることをさせて頂いているだけなのです。
このご主人様の蕩けた表情を見てください。
これはあくまで双方同意の上の行為でございます」
涼しい顔で応える白亜。いや、俺蕩けた表情なんてしてないからね!?
「お兄様がそんなことを望んでいるわけがないでしょう!!」
間髪入れず反論する月夜。
あ、でもすみません。少し期待はしていました。
だって銀髪メイドさん相手なんだもん!仕方ないだろ!?
そんなことを心の隅で思ったが、紳士たる俺はもちろんそんなことを言葉にはしない。
そのまま二人を見守る。
「それに、お兄様は私のお兄様です。他の人には渡しません!!」
睨み合う二人、間には火花が散っている。
だが、それも束の間。先に折れたのは白亜だった。
「そうですか。これは大変失礼をいたしました。
確かにご主人様は月夜様の大切なお兄様ですものね。それは認めましょう」
それを聞いてうんうんと頷く月夜。一瞬その表情が解けかけるが、
「ですが、月夜様!!」
そこで白亜が胸元を腕で支え強調する。
「月夜様はあくまでご主人様の妹、妹に欲情する兄はいません!!
それに、ご主人様は大きいのがお好きなのです。そう、私の様な!!
正直、月夜様のお胸では、ご主人様の恵方巻を挟んで膨らませるのはもちろん、飛び出した中身すら受け止められないでしょう?」
「なっ、なぁっ」
白亜のそのセリフに一瞬で顔を真っ赤にした月夜がパクパクと口を動かしている。
その視線は、俺の鼠径部と顔、そして白亜の胸を行ったり来たりしている。
同時、俺の眼も白亜の胸と月夜の胸の間をさ迷い、そして、最終的に胸元が開きかけている白亜の胸へ吸い込まれた。
「つまり、そういうことでございます」
それを確認した白亜は、俺の上に跨ったまま月夜に向かって優雅にお辞儀をする。
月夜は先ほどまでの気勢が嘘のように、顔を茹でダコの様にしてうろたえている。
その口からは、あわわ、とかうーーーといった言葉しか聞こえてこない。
顔を上げた白亜はさらに勝ち誇った顔をする。
「あらあら、まったくお顔を真っ赤にしてお可愛らしい。
うふふ、そのご様子では、こういった話は月夜様には早かったですかね。
申し訳ありません。成長してから出直してくださいませ。
では、私とご主人様は続きをさせて頂きます。
月夜様は学校もありますし、下で待っていてください。
あ、朝食の下準備は出来ておりますので、あとはレンジで温めて頂ければよろしいかと。
ではご主人様、よろしくお願いいたします。チロリ。」
と、そこで正気に戻ったのか、顔を真っ赤にしたまま月夜が再び気勢を上げる。
「っつ、そんなこと出来るわけないでしょう。
お兄様のピンチを見過ごすわけにはいきません。といいますか、私は成長途中です!!!
それに何より、お兄様は縛られているではありませんか!!
大方、白亜が朝からお兄様の寝所に忍び込んだんでしょう!」
はぁはぁと涙目で荒い息をしながらもズビッと指を指す月夜に対して、白亜は肩をすくめ悪戯がバレた子供のような顔をしている。
けれどすぐに、妖艶な表情に戻ると、再び指先でチョンチョンと俺の胸をつつく。
「あら、ばれてしまいました。けれど大丈夫でございます。
今から、私がご主人様にご奉仕すればいいだけの話なのですから。
どろどろイチャイチャのラブラブのドロドロタイムです。
ご主人様を私なしでは生きていけない体にしてみせましょう」
白亜さん、またルビとセリフが一致していませんよ??
だが、俺のセリフはその妖艶な指使いに封殺される。
「くっ」
油断していた口から思わず声が漏れる。
その声に白亜が嬉しそうな笑みを漏らし、さらに指を動かしていく。
一方の月夜は指を指したままの格好で微動だにしない。その顔は耳まで真っ赤だ。
「ほら、ご主人様、ここがいいんでしょう」
「っく、やめ」
「素直になって下さい。ほら。」
「くそ、これ以上はぁ」
「そんなこと言って、ここが、好きなんですよ、ね」
白亜の指が、敏感な部分に触れる。
「あっ」
それが引き金だった。
プチン
部屋に何かが切れる音が響く。
思わず白亜と揃って月夜の方に目を向ける。
するとそこには眼からハイライトを消した月夜が居た。
そして先ほどよりも低く重い声を発する。
「ああ、そうですか。何を言っても無駄なんですね、そうなんですね。白亜、あなたはどうあってもお兄様にチョメチョメすると、そう言っているのですね」
「チョメチョメ(笑)」
白亜が軽く噴き出す。月夜の額にさらに青筋が浮かぶ。
部屋の温度が急激に下がり、室内にも関わらず月夜を中心に風が渦巻く。そして月夜が告げる。
「―――イクリプス―――」
パキン。
空間がひび割れ甲高い破砕音が響く。次の瞬間、月夜の右手に1本の杖が出現する。
それは、彼女の身長を上回るほど長く、精緻な細工が施された杖。
まさしく魔法少女が持つような杖。
エロゲーマー的にはポイント高い、ちょっとクルクルしてみたい。
だが、そこからはとてつもないプレッシャーが放たれている。
全身に悪寒が走る。
思わず右手が愛刀を探すが、当然そんなものはここにはない。
『あれはヤバい、すぐにここから退避しなくては』
だが、体の上には白亜が居る。動くことが出来ない。
そうこうしているうちに、月夜は杖の先端を白亜に向ける。
「来たれ祝福の光、集え、集え、集え、我が祈りは切なる願い。詠え、詠え、詠え、そは破滅への調べ」
そこにはサッカーボール大の美しい宝玉。
ヴーンヴーーンと重低音を響かせその宝石が淡く輝きだす。
一方それをみた白亜は、
「やれやれ、月夜様のお転婆にも困ったものですね。せっかくのラブラブタイムでしたのに」
そう言って名残惜しそうに俺から指を離すと、
ストンと、メイド服のスカートの裾を翻し優雅にベッド横に舞い降りる。
だが、俺自身はまだベッドに縛り付けられたまま動けない。
せめてこの縄もほどいてください!
「励起せよ、あなたに銘を授けましょう、ミニュアースの蔵」
白亜が呟く。
ドカドカ、ズシン
何か重いものがいくつも床に落ちる音がした。
反射的に目線だけで音の発生源を見やる。
すると、何故か白亜のスカートの周りには機関銃やらライフル銃やら刀など、多種多様の武器が散らばっている。
どう見てもメイド服の内側に入るはずのない大きさの凶器達だ。
同時、月夜が持つ杖から響く音が徐々に高音になっていき、先端がいよいよ強烈に光り出す。
そして、
「お兄様の上は私の場所、お兄様の下も私の場所、お兄様の初めては私の物、お兄様の全ては私の物。それを奪うというのであれば許さない。塵も残さず吹っ飛びなさいdeth、この淫乱メイド!!
破砕せよ、マテリアルブレイカーーーーーー!!!」
杖の先端で形成された眼を焼くような光球が白亜めがけてうち放たれた。
それは破壊。
周囲の家具が軋みを上げ、壊れていく。
余波だけでその威力。通常であれば近づくだけでも致死的なそれを、わずか数mの至近距離から放たれた白亜はけれど涼しい顔をして見据えている。
逃げろ!!
思わずそう声に出しかけるが、白亜の手にはいつの間に出したのか身の丈を超える大鎌が握られている。
スッと白亜の気配が鋭さを増す。
そのまま大鎌を、向かってくる光球に振り下ろす。
「切り裂け、クロノス」
ざしゅっ!!!
瞬間、高速で飛来する光球が上下真っ二つ切り裂かれた。
ゴオオオオォォォォ!!
半分に割れた光球がベッドの左右をすごいスピードで過ぎ去っていく。
轟音と暴風、その後の静寂。
「ふぅ」
一仕事終えたと息をつく白亜、真っ赤な顔でハアハアと肩で息をする月夜、ベッドの上で縛り付けられながら茫然とする俺。
ベッドの後方を振り返ると、光球が過ぎた後、左右にあった家の壁は消失し、その断面からぱらぱらと壁のかけらが落ちるのであった。




