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1-18 混神の盃

「ありえない・・・・・・」


赤い世界ごと斬りさかれ、夜空が見えた荒野の中、そう言って邪神は目を見開いている。


そう、確かにあり得ないことを俺はした。

それはエーテルの直接利用―――――


SAHの世界において、エーテルは根源要素である。

けれどその根源はあまりに苛烈であまりに暴虐。

故に、邪神や剣神ですらエーテルの直接利用は出来ず、神気や邪気といった扱いやすいエネルギーに変換して使用している。

もちろん、その際に膨大なエネルギーロスも発生するが、それでもなお、エーテルというのは神にとっても生物にとっても猛毒なのだ。


それをただの人間が?


だが、これこそが俺を盃砕きを決行した目的だ。

神気の盃を何度も砕き、叩き、錬成する。

それにより、通常では考えられないような強度を持った盃はエーテルすらも受け入れる。

ただし、その発動条件や使用時間には制限が付くが、それでもエーテルを使用できるメリットは大きい。


通常であれば―――――


「がはぁっ」


俺は血反吐を吐いて前方に倒れ込む。

やばい、意識を保っていられない。

全身から命の灯が消えていく感覚がする。


そう通常であれば30回の盃砕きを経て、やっと使用できるエーテルバースト。

それを今の俺は、神気レベル0の壊れた盃で行った。

29回の盃砕きが完了しているとはいえ、それは正に自殺行為だ。

今も、壊れた盃から漏れ出したエーテルが体中、いや、魂までも犯し壊していっているのが分かる。


あ~、だめだったかー――――


そんな感想がぼんやりと脳裏をかすめる。命の蝋燭が今すぐにでも消えそうな脱力感。


けど、まだ俺、ヒロイン達とイチャラブ出来てないんだよな――――


月夜やノエル、瑚兎達の顔がよぎる。


それに、まだ出会いたいヒロインもいっぱいいるし、主人公にも会ってない――――


それらを思い出し、ふと笑みが浮かぶ。


何より、推し達の悲劇を救うっていう、

信念を、俺は、貫き通せて、いないのに―――――


だから俺は、消えいりそうな蝋燭の灯に、まだ死ねないと、強く強く強く念じる。



ポスン―――――



瞬間、俺の頭が、何か柔らかくて温かなものに受け止められたのを感じた。


辛うじて目を開くと、そこには肌色の双丘。


深い谷間と、張りのある肌。そして顔全体を包み込むような柔らかさ。

それになんだかいい匂いもする。


そう、それはローブごと袈裟切りにされ露わになった、邪神の身体だった。

その肌には傷一つない。


あの攻撃の傷さえもう回復してんのかよ・・・・・・

こりゃ、いよいよ打つ手なしか・・・・・・


そう考えたところで、俺の身体を邪神の両腕がそっと包み込む。


「!?!?!」


顔面に触れる柔らかい感触と鼻腔をくすぐる甘い匂い。

その状況に理解が追い付かず、俺の頭が疑問符で埋め尽くされる。

さりとて、体は既に死に体で逃げることも出来ない。

邪神から哄笑が漏れる。それは心からの歓喜の声。


「ふふふ、あは、あははははっは。

そう、そうなの、貴方、貴方が!!

あはははははははははは」


一方の俺は、邪神から響く振動に体全身が痛くて意識が飛びそうになる。


まったく、何を笑っているんだか。

こちとら死にそうなのを必死に我慢しているのに。

今もほら、体に力が入らなくて、その御立派なお胸から頭が離れませんよ。


だが、そんな俺をよそに邪神はひとしきり笑った後、かがみ込むと


「あは、本当に愉快だわ。貴方いい、とてもいいわね」


今度はその両手で俺の頬をそっと包み込み、じっと目を合わせて来た。


「なるほど。だいぶ無茶をしたのね。このままじゃ魂が砕けてしまう」


その顔は邪気ではっきりとは認識できないが、先ほどまでの戦いの余韻はどこに行ったのかというほどに穏やかな表情をしているのが分かる。


「そうね、それじゃあこれは私からのプレゼント」


そう言って、顔を近づけるとそのまま俺の唇に自らの唇を触れさせる。

触れ合う唇。伝わる熱と柔らかさに頭が真っ白になる。


「あぅ、はぁ、あは、じゅる」

「!?」


混乱する俺をよそに、邪神はその舌で俺の唇をこじ開けると、さらに舌を絡ませてきた。

絡み合う舌と舌。邪神はこれでもかと口腔内をねぶってくる。


それと同時に邪神から何か、唾液とも違う何か熱いものが俺に入り込んでくるのを感じる。


気持ちいい、素直にそう思った。


邪神から流れ込んでくるもの、それが沁み込んでいくのに合わせて、体が、魂が癒されていくのを感じる。


これは、盃の復元?


そう、この感覚は神気の盃がレベル0からレベル1になる時の感覚に似ている。

けれどそれは、神気の盃の感覚とは何かが違っていて・・・・・・。


だが、それを考える間もなく、邪神の舌使いはさらに激しさを増していき、俺はその快楽に飲み込まれる。

はぁはぁという俺の荒い呼吸と、邪神の甘い声が夜の荒野に響く。


「あはぁ、はぁ、あん」


舌から伝わる甘美な刺激に思わず体がビクンと跳ねる。

その拍子に、俺の手が邪神の胸に触れる。


「あっ、はぁあん」


邪神の口から嬌声が上がる。


「んぅ、くぅううん」


重量感のある双丘と、けれども瑞々しく、しっかりと張りのある肌。

いや、ダメだ、流されるな。

俺は理性を総動員させて、邪神から離れようと邪神との間に腕を入り込ませる。


邪神の体がビクンと跳ね、邪神の舌から俺の口腔内にも甘いしびれが走る。


ダメだ、右手だけじゃ抜け出せない!!

せめて左腕が有ったら!!!


と、そこまで考えたところで違和感に気付いた――――


左腕が、先ほどマルドゥークに切り落とされた左腕の感覚が、あるのだ――――


「!!??」


その驚愕に動きを止めた俺を察したのか、邪神が甘い吐息を吐きながらゆっくりと唇を離す。

舌と舌を繋ぐ唾液が橋を作り、淫靡に光る。


思わず俺は、大きな安堵と若干の喪失感を感じ邪神を見つめてしまう。

すると邪神はそっと俺の頬に手を添えて、


「まったく、そんな子犬みたいな顔しないでよ。

止まらなくなっちゃう」


その言葉と快楽の波に背筋がゾクリと震えた。

あの甘美な時間が味わえるならもう一度そう思ってしまう。


けれど、邪神の誘惑に乗るわけにはいかない。

それに今はそれより優先するべきことがある。

俺はなけなしの童貞力を奮い立たせ、必死にその手を引きはがす。


ああ、きっとこれは俺が童貞じゃなかったら耐えきれなかっただろう!

くそぅ、柔らかかったぁ!!


俺の心の中ではミニ刀祢が血涙を流しながら邪神の双丘に必死に手を伸ばしている。

だが、たとえ本心では血涙を流していながらも、表に出さないのが紳士というものだ。

俺は表情を取り繕い邪神に問う。


「左腕、治してくれたのか?」


俺は左腕を掲げる。

そう、そこには傷一つない左腕。


「うふふ、そうね。それはサービス。

それよりもほら、体の中の異変に、もう気付いているでしょう」


邪神は自らの腕を胸の下で組み、そのエベレストの高度をさらに高くする。

さっきまであれに触れていたのかと思うと、頭の中がエベレストで一杯になる。


「エベレスッ、違った、神気の盃の事か?」


すみません、邪神さん、集中できないので今は止してもらえないでしょうか。

そんな願いが通じたのか、右腕を解くと邪神はその指を立て、そして俺の心臓のあたりにトンッと置いた。


「そう、神気の盃。正確には今は混神の盃といったところかしら。

壊れかけの神気の盃に私の邪気を練り込んで、錬成し直したの」


「っつ、それは、大丈夫なのか?」


初めて聞く単語に俺は動揺を隠せない。

俺が知る限りSAHの世界において混神の盃と呼ばれるものは出てこなかった。

体の中心、その中で混沌の盃がドクンと跳ねた気がして胸を押さえる。


「大丈夫か大丈夫じゃないかで言えば、間違いなく大丈夫じゃないわ。

通常であれば邪気が混じった瞬間、神気の盃ははじけ飛ぶでしょうね。

けれど貴方の盃は既に普通のそれじゃ無かったでしょう?

だから私の邪気を練り込んでも壊れないで融合した。

死にかけのあなたの盃を救うにはそれしかなかったし、そうでなくても私はそうしたでしょうね」


「――――それは、何故?」


そう、邪神は何故そうまでして俺を救ったのか。

しかも左腕まで再生させて。


ただの敵として認識しているのならそんなことはしないで俺のことを殺したはず。

少なくとも邪神にはそれが出来た。

わざわざキスして胸まで触らせてくれる必要はなかったはずだ。

いや、胸は触る必要はなかったかもしれないですが。

でも、しょうがないだろ!!

目の前に山があったら登りたくなる、それが童貞だろ!?


そんな俺を優しく見つめ、邪神は穏やかに返す。


「そうね、それはーーーーおいおい分かるかしら。

何にせよ、私はそろそろお暇するわ、お迎えも来たみたいだし」


そう言って都市の方に視線を向ける。

するとその方向には、猛スピードで迫って来るピンクの塊。

その手には、巨大な枝切り鋏。


あー、あれはうん。見なくてもノエルだよな。

なんかピンクの粒子まき散らしてるし。


「それじゃあまたね、貴方には期待しているわ。

次も、共に闘争と快楽の時を過ごしましょう」


その言葉と共に邪神の後ろの空間に罅が入り、そこからぽろぽろを次元の壁が崩れ落ちる。


「っちょ、まだ聞きたいことが――――」


俺は手を伸ばすが、邪神はローブを翻す。

そして俺の静止を待たず来たときと同じく空間を裂いて消えていってしまった。


俺は宙ぶらりんとなった手を、そのまま硬く握りしめる。


「ったく、つくづくハードな世界だぜ・・・・・・」


そして、どしんと尻もちを着いて天を見上げる。


はぁ、ほんときつかった。

全身ボロボロ、精神もボロボロ。

盃砕きに大型眷属、最後は邪神だもんな。どんだけ詰め込んでくるんだよ。


俺はため息をつく。


けれどもニヤリと口角を吊り上げ――――


「でも、まあ、サイコーーにオタク冥利につきるよなぁ!!!!」


俺は天に広がる満天の星空に拳を突き上げ叫び、意気をあげる!!


そのまま大の字に寝転がる。


そうして俺は、荒野の冷たさを背に感じながら、連戦の疲れと、戦いが終わった安堵から、ゆっくりと意識を手放すのだった。






―――転生補助システム―――


転生者【神代刀祢】と邪神【ティアマト】との接触を確認。

神気と邪気の融合を検知しました。


【神代刀祢】の神気の盃の性質が【混神の盃】に変化しました。

進化条件、スキルの検索――――該当ありません。


【神代刀祢】がエーテルラインと接続しました。

根源への直接介入を確認。星のエーテルの変化、見られません。


複数のエラーを確認。

システムのアップデートを行います。



アップデート完了しました。

盃の進化条件および及びスキルを再設定しました。

エーテルラインの監視を強化しました。

【神代刀祢】の事象改変の可能性を再評価し、対象の重要度をBからAへ引き上げました。


今後の監視を継続します。

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