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1-17 根源解放

俺は朧桜を肩に担ぎ、余裕の表情を作って笑う。


周りには激しい攻防を俺が制しているように見えるだろう。

だが、正直こっちはぎりっぎりですよ!!


結局のところ、今の俺はダメージソースに乏しすぎる。

神水による微ダメージとカウンター縛りとか、24時間365日亀甲縛りをしているぐらいのド変態だわ。


これなら流石にダメージ入ってますよね。お願い、入ってて!!


心の中で神様仏様ティアマト様と手を合わせるが――――


その願いも空しく、呪い渦巻く土煙の中、無傷の邪神がゆっくりと歩き出て来る。

先ほどとの違いと言えば、邪神のそのローブにすらわずかに汚れが付いた程度だ。


その事実に俺は思わず絶句する。

額に一筋の汗が流れる。


「まったく、嫌になるわね。こんな羽虫に服を汚されるなんて」


その口調は存外に静かだ。先ほどの興奮が嘘のよう。

ってか、嫌になるのはこっちですよ。なんであれでノーダメージなんだよ!!


「流石あいつらの眷属、本当に鬱陶しい」


しかも、一撃喰らったせいか冷静になっていらっしゃるようで。

これ、怒りが一周回って冷静になっちゃったパターンじゃなかろうか。


「だからもういい、終わりにしてあげる」


そうですね、お帰りはあちらですので、眷属さん達を連れて回れ右して家に帰って茶を飲んで、エロゲしててくれ。


「死になさい。バビロンの呪い(バビロニアカース)


邪神が水平に掲げた指先から一滴の赤黒い雫が落ちる。


やばい、あれは!?


SAHの記憶と、自らの危機感知能力が全力で警鐘を鳴らしている。

その予感に逆らわず、俺は全力で後方へと跳躍する。


同時、雫が地面に落ち、弾ける。


瞬間、そこから爆発的に赤黒い何かが地面を広がった。


それは呪い――――


極濃の呪いが見渡す限りの地面を犯し尽くす。

触れれば即死。

僅かに残った岩の上、そこに着地するも、足元からは無数の異形の腕が蠢き、今も俺の脚を掴もうと襲い掛かる。


「くそっ」


それを連続で回避し、何とか邪神と距離を取る。

けれど、


トプンッ


そんな音を立てて、邪神が視界から消える。

瞬間、とっさに朧桜を胴を庇う様に掲げる。


ドゴォォン!!!


「っかはっ!!」


気付いた時には、俺は空中を真横に吹っ飛ばされていた。

辛うじて見えたのは、しなやかな脚を振り抜く邪神。

けれどそこから叩きだされた威力はミサイルもかくやというほど。


けれど、何とか朧桜を間に入れたことで威力は軽減できた!

俺は空中で体勢を直すと、地面に叩きつけられる前にわずかに残った足場に土煙を上げながら着地する。

そして、さっきまで俺が立っていた場所を見やる。


ゾクリ


そこには既に邪神はいない。


トプンッ


背後から響く水音。


その音が聞こえたか聞こえないかの瞬間、とっさに半歩前に出る、そのまま回転しながら朧桜を振り切る。


ガキン!!!


邪神の薙ぎ払われた右腕と朧桜が交差する。

本来木刀と腕ではならないような音が響く。

一瞬の均衡けれど、


バシン!!


俺の腕が朧桜ごと弾き飛ばされる。


そのまま紡がれるのは邪神の調べ―――


「マルドゥーク」


その調べに導かれるように、邪神の右手に巨大な両刃斧が顕現する。


鮮烈な死のイメージ――――


斧の赤黒い輝きを見た瞬間、その強烈な確信が脳を焼く。

数多の怨嗟の声と狂喜する異形の歓声が耳に響く。


一瞬の硬直。


固まってしまう俺を前に、その隙を逃さず邪神はそのままマルドゥークを叩きつけて来る。


眼前に迫る死。

止まる思考。

けれど戦場を渡り歩いてきた本能がとっさに半身をずらす。


ズシャァ!!!


飛び散った鮮血が俺の顔を生暖かく濡らす!!



「―――――――――――――っ!!!」



くっそいてぇ!!!!!


叫び出したい衝動に駆られるが、悲鳴は奥歯の内でかみ殺す。

今はそんなことをしている場合ではない!!


切られたのは左腕の根本。何とか、半身ずらしたおかげで体を真っ二つ、というのは裂けられたようだ。


吹き飛んだ腕に構わず、俺は残った右手で朧桜を構える。


だが、それより早く邪神の左手が消えた!?

同時、腹部に感じる凄まじい衝撃!!


ドゴッ!グシャッ!!ザザザァァ!!!


殴られた、そう理解するよりも早く、俺の体が地面をボールのように跳ねて転がる。

全身が焼けるように痛い。

脳が甲高い危険信号を叫び、失った左腕の断面から血があふれ出ている。


「はぁはぁ・・・・・・・」


逃げろ逃げろと本能ががなりたてている。

俺は何とか立ち上がるが、吹き飛ばされた背後は崖、エーテルライン。

背後には引けない。


と、そこまで認識したところで、


ガシッ!!


既に眼前まで迫っていた邪神の左手が俺の首を捉えた。

そして、そのまま吊り上げると、俺の首をぎりぎりと締め上げてくる。


「っかはっ」


足が浮く、息が出来ない、体中の細胞が酸素を求めて叫んでいる。

だが、邪神が手を緩めることはない。


「まったく、本当に手を焼かせてくれるんだから」


邪神の指が俺の首に食い込む。

俺の首を絞めつける力がさらに強くなる。


意識が徐々に薄くなる。

それでも朧桜だけは離すまいとわずかに残った力を右手に込めるが、徐々に全身の感覚が薄くなっていく。


まったく全身ボロボロ、体力は底をつきかけ、あまつさえ出血と呼吸困難のせいで意識は飛びそう。

正直、前世で死んだ時よりひどい状態だ。

そんな俺の耳に邪神の辟易したような声が届く。


「本当に嫌になるわ、あなたみたいのに入り込まれるなんて」


ああ、本当に嫌になるよな。俺の方こそ、この前死んだばかりだってのにさ――――


邪神は俺を掲げたまま、右手に持ったマルドゥークを頭上に掲げる。

そしてそこに集まる膨大な邪気。

俺はそれをぼんやりと目に映す。

渦を巻き、赤黒く濁り、光さえも歪曲させる呪いの塊。

掠るだけでも即死は間違いないだろう。


「せっかく準備が整って来ていたのに、理不尽よね」


本当にマジで理不尽。なんでこんなところに邪神がポップするんだよ――――

頭から流れた血が唇を掠り、口の中に血の味が充満する。


「念のためあなたの関係者も潰したほうがいいかしら」


ああ、それはやめてくんねーかな――――

ぼんやりとした意識の中、脳裏に月夜や白亜、ノエル、瑚兎達の顔が浮かんでは消えていく。

その陰に手を伸ばすが、空を切る。


「まあ、いいわ。まずは奴らの眷属であるあなたから」


ああ、死にたくない、死にたくないな――――


死が目前に迫まり、そんな言葉が脳裏をよぎる。

辺りの時間がゆっくりになり、その思考ばかりが駆け巡る。


けれど何故??



何で、俺は、死にたくないんだっけ――――――



マルドゥークが血を求める様に、異形の声を響かせる。

邪神の声にもわずかな高揚が籠る。


それは強烈な違和感。

前世ですら無念とは思っても、死にたくないとは思わなかった。

そりゃあ、俺はまだこの世界でやり残したことがある。

月夜の事をもっと知りたい、白亜のメイド服の中の秘密も知りたい、瑚兎ともっと切磋琢磨したい、ノエルのお山に包まれたい。けれど――――


「それじゃあ、存在ごとさようなら」


閉じかけていた眼を意志の力で開き、邪神を見る。

俺の視線と邪神の視線が交差する。


その顔には暗い歓喜と、わずかな憐憫――――


瞬間、俺の中で何かが弾け、理解する!!



ああ、そうかこれのせいだ!!



それは後悔、悔恨、懺悔、そして自分自身への怒り――――



ああ、そうだ、ふざけるな、ふざけるなよ!!



全身に活力が戻って来る。

全身全霊でもって朧桜を握り込む。

手の内で、朧桜がドクンと跳ねた気がした。それは歓喜!



そうだ、思い出した!!

俺は知っている、知ってるんだ!

月夜の悲しみも、瑚兎の献身も、そして―――邪神の悲劇も――――



そう、俺は知っている。

これまでに起こってしまった悲劇も、これから起こる絶望も!!


「だから、だからそんな俺がさ、SAHのオタクの俺がさぁ!!!」


俺の中を激情が満たす。

それは決意、それは覚悟!!


邪神がマルドゥークを握る手に力を込めたのが分かる。


「そんな俺がぁ、推しが不幸になるのを認めるわけにはいかねーよなぁ!!」


そして、両手でマルドゥークを振り下ろすべく、俺の首から手を離し、


「死になさい、叙述詩の終焉エピック・ゼロ・レクイエム!!」


邪神の両腕でもって、高速で振り下ろされたマルドゥークが空気を切り裂き迫って来た。


それは絶対の死を運ぶ福音!!


邪神をもってして必殺の一撃と言わしめる呪い!!



だから―――――

だから俺は――――――

それの理不尽を、その呪いを、睨みつけ、そしてそれでも自らの意志を貫くために


叫びを上げる!!!!!!!



「推しの全部を救ってやるよぉぉおおおおお!!!!!

原初回帰(ルートオリジン)!!!!!

根源解放(エーテルバースト)ォォォオオオオ!!!!!!!!」



瞬間、俺の全身を光る線が幾本も駆け巡った。

それはまるで大樹の枝の様。

それが全身を包み、眩いばかりの光を、エーテルの光を迸らせる!!


呼応するように朧桜が輝き、背後のエーテルラインからは眩いばかりの白金の閃光が吹き上がった!!


そして―――――――――


「オタクをなめてんじゃねぇーよぉおおおおお!!!!!!」


俺の放った白金の閃光がマルドゥークごと、邪神の体を袈裟切りに叩き切るのであった。

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