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1-16 邪神


〈邪神ティアマト〉


それはSAHにおいて恐怖と畏怖の対象。

女子供関係なく殺戮と暴虐の限りを尽くし、エーテルを啜り、この世界の全てを破壊しつくす存在。

それが邪神――――


本来であればその身は幾重もの封印により縛られ、次元の狭間にて厳重に隔離されている。


しかし、物語の終盤。

邪神教の暗躍により封印を解かれた邪神は、復讐の魔の手をこの世界に伸ばす。


そこには慈悲や配慮といったものは一切なく。

第一都市・第二都市・第三都市、およびその衛星都市群の悉くを蹂躙し、さらには眷属のスタンピードにより生き残った市民達をも虐殺した。


しかも、眷属達はその市民たちの屍を食し、そこから得たエーテルで邪神は神剣までをも破壊したのだ。

それが過去から続く邪神の悲劇の運命によるものだとしても――――――


ただ、どうあっても邪神の行いは悪だった。

人々は恐怖し、嘆き、悲しんだ。

多くの死と絶望。


その中において、しかし、主人公は諦めなかった。

主人公はそれまで苦楽を共にした仲間達、そしてヒロイン達と共に邪神に特攻を仕掛けるのだ。

もちろんその前の晩にはヒロインとのチョメチョメもある。だってエロゲだもん!!


まあ、それはそれとして、最終的には愛と絆のパワーで邪神を撃破。

さらには邪神がため込んでいたエーテルを使ってこの世界を再生したのだ。


その最後のスチル、破壊された都市に下草と花が咲き誇り、主人公とヒロインが肩を寄せ合いながら青空を見上げたシーンは涙なしには見られない!!


だが、SAHにおいて邪神により世界が滅ぼされかけたのは事実。


最終的には主人公に倒されたとはいえ、邪神は非常に強力で、主人公を含め武技レベル、神気レベルいずれも8以上の猛者複数人をもってしてようやく勝てるかどうかといったスペックの化け物である。



そんな超常の存在が、今、俺の目の前にいる。

振り向いた紅い視線が光を引く――――


それはまるで虫を見るような、けれど不快さを多分に孕んだ視線。

俺を人とも敵とも見なしていない、興味もない、ただただ鬱陶しい。

そんな視線――――


それはゲームの中で邪神が虐殺した人々に向けていた眼だ。


だが、そこに含まれる死の気配は濃密にして重厚。

その視線に全身が小刻みに震え、今すぐ叫び出したくなる。


絶対的な存在を前にした根源的な恐怖。


ゲームの中では幾度も相対し、最終的には何度も撃破した敵。

けれど実際に目の前にいるその存在に、全身の細胞が震えているのが分かる。


逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ!!

絶対に敵わない!!

命乞いをしてもいい、地べたを這いずり回ってもいい。

全力で、何をおいても逃げろ!!


そうでなれば


お前は死ぬぞ


と。


対して邪神は俺を気だるげに眺めた後、告げる。


「ねえ、質問をしているのだけれど」


途端、周囲の圧力が一気に増した気がした。


「答えられない?それとも答えない気なのかしら」


そう言って、邪神がゆっくりと一歩踏み出す。

邪神から漏れ出すオーラが一気に増大し、周囲が濃厚な死の香りに包まれる。


「っはぁっ」


息が出来ない。息が詰まる。

死が脳裏を埋め尽くす。


「はぁ、しょうがないわね」


そして邪神がさらにもう一歩踏み出そうとした、


その瞬間――――


ドロリ


時間の流れが緩慢になり


世界が止まる。


この世界に来て何度も経験したあの感覚。


『致命の選択肢』


それを自覚した途端、どっと息が漏れる。

淀んだ空気が肺から吐き出され、代わりとばかりに新鮮な空気を思いっきり吸い込む。


時の流れがほぼ止まっていてもなお分かるほどのビートで心臓が早鐘を打っているが、おかげで冷静な思考が戻って来る。


相手は邪神――――


これ以上動揺している隙も時間もない。


意識を切り替えろ、思考を回せ!!


相手はレベル8も圧倒できるほどの化け物、それ対してこちらはレベル0の雑魚。

彼我の戦力差は圧倒的だ。


であれば、今とれる選択肢は、


【1】逃げろ!!!

【2】逃げろ!!!

【3】逃げろ!!!


それしかないよな・・・・・・。


だがそれが簡単に出来れば苦労はない。

苦労はないが、選択肢に出ている以上可能なのか?


とういうか、選択肢が『逃げる』ではなく、『逃げろ』って・・・・・・


と、そこまで思考したところで――――


パキンッ!!!


何かが割れるような、砕けるような硬質な音が響いたかと瞬間、灰色の世界に罅が入った!!


「そう、そういうこと――――」


そして、澄んだ声と共に感じる死の予感。


「霞ぃいいい!!!!」


瞬間、俺は無意識のままに叫び、全力で霞を発動する。


だが――――


ガシッ!!!!


灰色の世界を砕きながら、何かが俺の首を捉える。

見るとそれは邪神の右手!!


致命の選択肢が破られた!?


「っかはぁ」


「あなたあのカス共の使いだったのね」


言って邪神の右手に力が籠る。


至近で俺を覗き込む邪神の眼が狂気と歓喜に揺れている。


一方の俺は抵抗も出来ず、吊り上げられる。

そして、そのまま思いっきり投げ飛ばされた!!


ドン!グシャ!!バゴン!!!


地面をボールのように転がり、何度もバウンドしながら神殿の円柱の一つに叩きつけられる。

円柱が陥没し、壊れた石材が土煙となって辺りを包む。


天地が分からないほどの衝撃と全身の神経が悲鳴を上げているかのような激痛が俺を襲う。

肺からは全ての空気が漏れ、脳が酸素を求めて絶叫を上げている。


だがまだ動ける!

土煙の中、俺は何とか体勢を整える。


「せっかくここまで準備を整えてきたのに。まさか嗅ぎつけられるなんて。

いや、でもまだ――――」


一方の邪神は、全身から怒りのオーラを吹き上げている。

それにより大気が悲鳴を上げ、空間が軋んでいるが、何事か考え込んで俺からの注意が外れている。


ならば!!


俺は瞬歩で一気に距離を詰める。


「はぁぁああ、桜華天元流奥義・百花繚乱!!!」


激痛を意志の力で抑え込んだ俺は、瞬歩で邪神の後方に回り込み、全力で朧桜を振り抜く。


百花繚乱は桜華天元流の中でも最大ヒット数を誇る攻撃。

縦横斜め、全方向から迫る斬撃はまるで百の花が舞い踊るがごとし。

もちろん、今の俺は神気レベル0ですからね、朧桜には神水を大量にぶっかけておりますとも!!


俺の攻撃が直撃した邪神はわずかによろめく。

そして、全身から怒りを孕んだ邪気を発散し、俺にその右腕を振るってくる!


俺はその攻撃の起こりを察知して、すぐさま後方にバックステップして回避。

俺の横を、邪気を纏った衝撃波が空気を切り裂き、その先の円柱を破壊する!!


あっぶねぇーーーー!!??


正直、その威力に内心では冷や汗が止まらない。

けれどもそんなことはおくびにも出さず俺は余裕の態度を崩さない。

それに邪神がさらに激高する。


「邪魔を、するなーーーー!」


邪神がその鋭い眼光を飛ばして来る。

いいね、もっと、もっと怒れ!冷静さを失え!!


「あんま怒ってばっかりだと皴が増えますわよ」


「羽虫が!!!」


俺の煽りに対して、邪神は纏っている邪気を蛇のような形状に変化させると、それを操り四方八方から俺を襲ってきた。


バシン!!ドゴン!!


蛇が大口を開き、俺の頭を、心臓を、胴を次々と狙ってくる!


俺はそれを時に避け、時に弾き、時にいなす。

一撃一撃はとても重い。けれど怒りで攻撃が単調になっている!


よっぽどその『やつら』ってのが嫌いなのかねぇ。


だがそれは俺にとっては好都合だ!!

狙ってくるところが分かっていれば、いかに重い攻撃でも対処は可能。

その間に少しでもダメージを蓄積させてやるぜ!!


一瞬の隙をついて俺は朧桜にさらに神水をかけていく。


これはSAHでも邪神にも有効だった方法だ。

ただし微々たるダメージしか与えられないため、ドMの縛りプレイとして有名だった。

だが、それでも今の俺にはこれしか攻撃手段がない。

盃砕きが完了していれば必殺の攻撃も出来たかもしれないが、今の状態ではリスクが高すぎる――――


であるならば、この状況で出来ることは神水を纏わせた技でちまちま邪神のHPを削っていくのみだ。

完全に無理ゲー。

もし本当に運営が居るなら、炎上間違いなしのこの状況。

もはや笑うしかないだろう。

そう笑うしかない。ならば笑おう!!


理不尽も、無理ゲーも、邪神の相手も、すべて笑って踏み倒してやる!!


「なぜ笑ってられるの!!」


あら、どうも俺が笑っているのが気に入らなかった様だ。


「はは、笑顔はコミュニケーションの基本だぜ。

そんな怒ってばっかだと、ヒロインに愛想つかれちまうからなっと」


地面すれすれから俺の顔面を狙ってきた蛇を朧桜で弾き飛ばし、別の蛇に噛みつかせる。

うむ、蛇同士のからみってなんかグロいなぁ。


「わけの分からないことを!!!」


邪神が怒りのままにその手を大ぶりに振ってくる。


とたん蛇達が勢いよく俺に殺到してくる!

目の前を蛇の津波が覆いつくす。


だが――――


「隙ありだ、桜華天元流奥義・流水円転」


俺はその蛇達をまとめて受け流し、それを倍の威力にして邪神に返す!!


これは円転の発展技!!

蛇の津波が、あたかも見えない壁にぶつかったのがごとく大きく波打つと、その勢いを倍にして邪神に殺到していく。


流石にこれには邪神も驚愕の様子を見せた、が遅い!!


その時には既に蛇達は邪神に衝突、爆発し、周囲に呪いをまき散らす。


「汚ねー花火だぜ」


俺は朧桜を肩に担ぎ、余裕の表情を作って笑うのだった。

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