1-15 vs ウシュムガル
「だと、思うよなぁ!!」
俺は叫び全力でポーチから取り出した複数の邪気丸を上空へ投げ放った!!
すると、ウシュムガル達が一斉に上を見上げ、邪気丸に視線を向ける。
予想通り!!
瞬間、朧桜を突きの形で構え瞬歩を発動。
「絶望的な状況を覆すことこそがぁ、」
そのままウシュムガルの一体の懐まで間合いを詰める。
「オタク冥利ってもんだぜ!!!桜華天元流・華突乱舞!!!!」
そして、唯一邪気の防御がない逆鱗、ウシュムガルの首の根元にあるそこに神速の突きの連打を叩きこむ。
ウギャァアアアア!!!!!
荒野に汚い悲鳴が木霊する。
それを聞いて、残りの2体のウシュムガルがハッとしてこちらを見る。
そしてすぐに強烈な殺気を俺に向かって飛ばして来る。
当然、攻撃を受けたウシュムガルもそのままではいない。
怒りのままに複数の脚を振り上げると、連続で振り落として来た。
ドガン!ドガン!ドガン!
強烈なスタンピング!
周囲の地面に次々とクレーターが出来る。
だが、その時には俺はその場から離脱している―――
多脚の間を縫うように走り抜け、ウシュムガルの後方に移る。
「いつまでそんな方向見てやがる。そんなんじゃ、プロローグすら見逃すぜ!!!
桜華天元流・流崩」
相手の重心を見極め、流崩でもって体勢を崩す。
「知ってるぜ、お前はその巨体のバランスを尻尾でとってるんだよな!!」
俺はウシュムガルの塔のように太い尻尾をかち上げる。
それによりバランスを崩したウシュムガルがたたらを踏む。
それをさらに――――
「続けていくぜ!桜花天元流・円転」
円に巻き込み、そのまま別の個体の方へ投げ飛ばす!!
ぶつかった2体は、数十m先まで絡み合いながら転がっていく。
そして、お互いの牙や爪で浅くはない傷を負って血を流している。
これぞ、『自分で傷をつけられないならウシュムガルを投げればいいじゃない』作戦だ!
ウシュムガル達はお互いがお互いをののしり合うようにギャアギャア騒いでいるが、ふん、まったく、見苦しいぜ。
オタクたるもの、興奮しても急がず走らずが基本だ。
じゃないと、ビッグ●イトで怪我もするしエレベーターも止まるからなぁ!!
過去の出来事にオタク達の狂気を改めて思い出す。
あそこは戦場だからな――――
はっ、いやいや違った、今は本当の戦闘中だった。
さて、馬鹿な事を言ってないで、何でこんな作戦が通ったかだが、それにはもちろん理由がある。
それはやつらの特性に由来する。
その特性とは、ウシュムガルは本能的に強い邪気や神気に反応する、というものだ。
ウシュムガルは眷属の中では比較的強力な方に分類される。
つまり、こいつらは強い神気使いを殺すために邪神に作られた。
では強い神気使いはどこにいるのか?
それは眷属が多く屠られている所である。
強い神気がある所はもちろん、眷属が死ぬ際に発散される邪気が溜まっている所、そこには必ず強力な神気使いが居る。
そして、それを殺す。それがウシュムガルの役割なのだ。
故に、ウシュムガルは邪気や神気に強烈に引き寄せられる。
ではそんなウシュムガルに邪気丸はどう映るか。
俺が持つ邪気丸は邪気を固めた物。当然、放ってはおけない物として映る。
獲物じゃないが、目を引き付けて離さない。
まあ、猫に対する猫じゃらしみたいなもんだ。
っていうか、今回ウシュムガルが3匹も釣れたのって邪気丸のせいじゃなかろうか?
ナイアさん、店から出る時にすげー気味悪く笑ってたし、もしかしてこれを予想してたんじゃ・・・・・・。
頭の端に、腹を抱えてひゃひゃひゃと笑うナイアさんの姿がよぎる。
その様に思わずイラっとしたので、イマジナリーナイアにジャーマンスープレックスをかましておく。
それで少し溜飲は下がったが、現状が変わるわけではない。
そんなことをしている間に、今度は被害を免れた個体が凄まじい土煙を上げながら俺に迫っ
「あいつら、重そうな見た目して、多脚での速力は相当早いんだよなぁ」
特に勢いに乗り切った時はヤバい。ヤバいが、
「それは、悪手だぜ。前方には常にご注意下さいってな。桜華天元流・流崩」
俺はウシュムガルの前足に朧桜を添わせると、そのまま奴の突進の方向をずらす。
進行方向にはなだらかな小山。そしてその先には――――
「一名様、絶叫フリーフォールにご案内でーす」
ウシュムガルすら容易に飲み込むほどの大地の大断絶。
そこはエーテルライン――――
星に流れる膨大なエーテルによって生じた亀裂。
エーテルラインの中には嵐のようなエーテルが渦巻き、中に落ちた悉くをエーテルの海へと還す。
ブレーキが間に合わず、慣性の法則に従ってウシュムガルはその亀裂へ突っ込んでいく。
「戦闘の時、地形把握は基本のキですわよ」
ギャアギャアとわめく声が遠くなっていき、数秒後、遥か深い地底から巨大な質量が地面に激突する音が響き、次いで地の底から吹き上がる白金の燐光が瞬いた。
「哀れウシュムガルさんは星に帰りましたとさ」
とまあ、とりあえずこれで残り2匹に集中できる。
俺は朧桜を正眼に構え、残り2匹のウシュムガルに向き直る。
そこには怒りを湛えた多眼でもってこちらを睨む巨大な獣たち。
全身から赤紫色の体液を流しているが、その殺意は未だ衰えることを知らない。
それを見て、ごくりと唾を鳴らす。
ここまでの流れ、一見すると余裕にも感じられるが、俺としては正直内心ひやひやものである。
なにせ、こちらにはウシュムガルを傷つけられる方法がほぼ皆無だ。
邪気丸による逆鱗への不意打ちも何度もさせてもらえるような相手じゃねーしな。
「っと、さっそく来ますかね」
俺の視線の先、ウシュムガルがその巨大な口を開く。
それは顎の可動域限界を超えて上下に開き―――――――。
開いた顎、そこに生える巨大な歯が全てこちらを向く。
そして――――
ドガガガガガガガガ!!!!
マシンガンのような勢いで、無数の巨大歯が飛んでくる!!
それは空気を切り裂き、地面を抉り、俺目掛けて殺到する。
瞬間、俺もウシュムガルに向けて全力で走り出した――――
眼前に迫る巨大歯。
それを時に弾き飛ばし、時に回避し、時に足場にして三次元的に跳躍する。
だが、ウシュムガルの口の中では打ち出した端から新しい歯が生えてきて、それがさらに勢いを増して打ち出される。
接近するほどウシュムガルからの弾幕は厚く、苛烈になっていく!!
まったく、弾数制限なしの巨大マシンガンとかチートかよ。
「しかも、それに加えて―――」
たった今、足場にした巨大歯から紫色の靄が立ち上がり、俺の脚を捉えようとしてきた。
とっさに身を捻って回避する。
そのまま飛び去って行く巨大歯を目で追うと、地面についた瞬間、ジュワっと周囲の地面が溶けおちた。
「あれって、呪い持ちってことですよねぇ」
攻撃悉くを捌く俺に業を煮やしたのか、その巨大歯に邪気を付与してきやがった!!
呪いに捕まったらそのままドロドロのグチャグチャ。
歯にぶつかってもバキバキのグチャグチャ。
「もうこれ完全にオーバーキルだろ!?」
こちとら神気レベル0の糞雑魚剣士ですよ!?
「ちょっと必殺の気合を入れすぎじゃぁありませんかねっと」
そう言って俺はさらに加速する。大きく飛び上がり、邪気の付与していない歯に着地。
「まったく、これじゃあ、『巨大歯を、弾いてぶつけて、ストライク』作戦が使えないいじゃないか、よっと」
だが、と唇の端をつり上げる。
そのまま踏み込み、稲妻の様に鋭い3次元軌道でもって、上下左右に残像すら残しながら、迫りくる巨大歯の間を駆け抜けていく。
「当然まだ他にも攻撃手段はある!!」
荒野に来るんだ、それぐらいの準備はしてて当然だろ?
怒涛の勢いで迫る巨大歯を捌き、俺はウシュムガルの眼前に迫る。
もう、ウシュムガルは目の前だ―――
「その大きく開けた口に、特上のデザートを届けてやるぜぇ!!」
ポーチに片手をつっこみ、目的の物を出そうとする。
と、そこで頭上に影が差した――――
頭上から降り注ぐ強烈な殺気。
瞬間、俺は全力で真横に回避した!!
バゴァーーーン!!!!
振り返ると、振り下ろされた巨大な何かによって、一瞬前まで俺が居た地面が大きく破砕され、ひび割れている。
それはもう一体のウシュムガルの尻尾だった。
俺が巨大歯を避けている隙に、横合いから必殺の一撃を振り下ろしてきたのだ。
「まったく、HPもATKもバカ高い癖に連携までしてくるとか、マジで厄介」
そして今度はその巨大な尻尾を横に振り回してくる。
俺はそれを跳躍して躱すが、正面を向いたウシュムガルがそのまま巨大な鋸歯で噛みつこうと大口を開いてくる。
「桜華天元流・霞」
俺は今も横合いから飛んでくる巨大歯を足場に、特殊な歩法で残像を残す。
残像を飲み込むウシュムガル。
そのまま咀嚼をするが、違和感に首を傾げている。
「桜華天元流・円転」
その隙をついて、俺は残像を飲み込んだウシュムガルの横っ面に、新たに飛んできた巨大歯を弾き飛ばす!!
その巨大歯がウシュムガルの眼球の一つに突き刺さる。
ギャァアァアァァーーーーー!!!
これには流石にウシュムガルも大ダメージを受けた様で、怒りに燃えた複眼で俺を睨むと、巨大な多脚を何本も振り上げ、強烈なスタンピング攻撃を仕掛けて来た。
まったく短気なものである。
避ける俺。周囲に舞い上がる土煙。
その中で、俺は唇の端を上げてニヤリと笑む。
「俺との攻撃もいいけどよ」
俺は土煙にまぎれると、今も巨大歯を飛ばして来るウシュムガルの側面に回り込む、
奴は今、お仲間の起こした砂ぼこりで俺の姿を見失い、その攻撃範囲を薄く広く広げている。
だがな、それでは俺は捕らえられないぜ。
俺はそのまま、大きく開いた口腔内に飛び込んだ。
「お仲間同士の連携は、もっとフレンドリーにこなそうぜ」
そして、口腔内の上面。その直上に脳があるであろう位置に、ポーチから取り出した瓶を全力で投げきつける。
パリンッ!!
乾いた音共に、飛び散った液体がウシュムガルの粘膜を焼く。
それは神気を封じ込めた『神水』―――
教会でお布施をするともらえる便利アイテム。
通常であれば、消耗した神気を補充する時に使うそれは、まさしく邪気の天敵。
ウシュムガルの邪気の防御が剥がれる。
ギャーーーーー!!!!!
ウシュムガルの声が、衝撃波となって口腔内にいる俺の全身を震わせる。
だが、そんなもので俺は止まらない。
そのまま、邪気が剥がれた上顎目掛け全力で跳び上がる。
「じゃなきゃ、イベントの情報を聞き逃すぜ。桜華天元流奥義・桜天穿!!」
そして、天へと突き刺さる一閃!!!
数多の花びらが舞うがごとき技が華突乱舞ならば、桜天穿は天を貫く桜の大樹がごとし!
その一撃は、ウシュムガルの口腔を裂き、頭蓋を砕き、その脳を破壊する。
上方から大量の脳髄とも血液ともとれる液体が降り注ぐ。
俺はそこから瞬歩で退避し、ウシュムガルの体外まで脱出する。
荒野に轟くウシュムガルの断末魔。
しばらくは痛みのあまりのたうち回っていたウシュムガルだが、その動きが徐々に緩慢になり、最期には地面に倒れ伏した。
そして、その横では憎々し気に俺をねめつける残り一匹のウシュムガル。
「まったく、そんなに熱烈に見つめるなよ。照れるだろ」
俺の軽口に応えるようにグルルと汚い咆哮を上げるウシュムガル。
けれど、ここまで来たらあとは少しだ。
俺は、朧桜を担ぎ、悠然とウシュムガルとの距離を詰める。
警戒して半歩後退るウシュムガル。
彼我の距離は数m。
既に勝ち筋は見えた。
たとえウシュムガルでも一体であれば負ける通りはない。
さて、都市に帰ったらついに盃砕きも完了だ、晩御飯は豪勢にしよう。
そんなことを考え一歩踏み出すと――――
そこで――――
「あら、本当にイレギュラーが居るのね、あの子の言った通り」
声が――――
響いた――――ー
それは荒野には似つかわしくないほど澄んだ美しい声。
それは世界に澄み渡るように広がっていくと
ガキン
何かが軋むような音がして――――
世界が
色を
変えた
赤く、朱く、赫く――――――
それと共に轟音を伴って、地面から幾本もの円柱がせり上がる。
その天を突くかのような威容と、荘厳さに息を呑む。
まるで神殿のような、いや、正に神殿を構成する支柱なのだろう。
円柱が支える天蓋は血のように赤く淀んだ太陽を掲げ、その中からは数多の異形の腕が突き出し蠢いている。
それはまるで煉獄に囚われている亡者や、地獄から這い出そうとしている悪魔の腕。
正常な空間が、世界が犯されている。
そう、感じた。
そして――――
ベキベキベキッ!!!
ウシュムガルの横の空間が歪む。
頭上の汚れた太陽から、歓喜するように甲高い嬌声が上がる。
さらに、その声に合わせるように空間が剥がれ
「まったく、困ったものね」
一人のローブ姿の人物が姿を現した。
「っかぁは」
瞬間、全身の毛穴からブワッと嫌な汗が流れ出す。
今すぐ地に伏せ、命乞いをしなければと本能が叫びをあげるような、重圧、恐怖、諦念、絶対なる死の予感。
俺の喉の奥から声にならない声が吐き出される。
その人物はこちらを向いてすらいない。
その顔や体型は目深にかぶったローブと全身を包む赤黒い靄でよく見えない。
だが、それが居るだけで世界が軋む。
「この子達をこんなにしちゃうなんて」
そう言って、ウシュムガル達に手を触れると、時間が巻き戻されるように二匹のウシュムガル達の傷が一瞬で癒える。
ウシュムガル達はそのまま、ローブの人物に平伏するかのように頭を垂れる。
それはまるで主人に甘えるペットの様で。
ローブの人物はそれ対して満足そうに頷くと、
「離れていなさい、危ないから」
そう言って、ウシュムガル達を下がらせる。
そして、今度はゆっくりとこちらに向き直り、
「それで、あなたは―――
その朱い瞳で、
「誰の差し金なのかしら」
俺を見据えてきた――――
朧桜を握る右手が小刻みに震える。
今起こっている現実が信じられる目を見開く。
全身が自分の物ではなくなったかの様な喪失感。
俺の口から乾いた声が漏れる。
「邪・神・・ティア・・・マト・・」
それは本当に自分の口から出た言葉だったのだろうか。
現実感のない光景に、脳が体が目の前の光景を受け入れられない。
それは、本来こんな場所に居るはずのない存在。
居てはいけない存在。
凶悪にして絶対の存在。
そう、
SAHにおいて邪神ティアマトと呼ばれる神が、
俺の目の前に降臨したのであった。
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