1-14 盃砕き
最初の頃と昨日、ブックマークを頂きました!!
本当にありがとうございます!!今後も頑張ります!!
「ヒャッハーー、その首置いてけやワレェーー!!」
目の前で、蠍とムカデを歪に組み合わせたような邪神の眷属が、赤紫色の霧となって散っていく。
その光景を最後まで確認せず、俺はさらに走り出す。
荒野に出た俺は一匹の獣と化していた――――
体調は最悪。体は四肢は重く、頭の中ではガンガンと銅鑼がなっているようだ。
けれど、その全てをテンションというエリクサーで踏み倒す。
今もまた、岩陰から一匹の邪神の眷属が顔を出す。
体は獅子のような中型の四足獣だが、頭部に当たる部分にはイソギンチャクのような触手を生やし、尾はコブラのような形状をしている。
一歩踏みしめるごとに、地面がジュウジュウと音を立てて腐り落ち、紫色に変色していっている。
見るだけでSUN値を削ってくるその獣の名は『ウガルルム』――――
実際、その四肢には呪いが込められ、地面も毒ではなく呪いにより腐り落ちている。
ひとたびあの爪に切り裂かれれば、発狂した後の死が待っているという致死の爪をもつ獣だ。
上級剣士でさえ一人で相手取るには死を覚悟しなければならない。
そんな異形の怪物を前に俺は――――
「エーテル袋じゃーーーー!!!」
叫びながら全力で飛び掛かった。
ルパンダイブである!!
そんな反応をされると思っていなかったのか、悠然と出てきたはずのウガルルムは俺の姿を捉えると、そのイソギンチャク頭をビクッと震わせ、一歩後ずさる。
その様は、
『え、なにこの人!?コワァ(泣)』
と言っているかのようだ。
尻尾のコブラにいたっては、
『こいつヤバいっすよ、目が、目がイってますって(泣)』
なんて表情をしながら本体の影に隠れていやがる。
ははは、結構結構。そのまま、俺の養分にしてやるよ!!
「桜華天元流・天斬!!」
俺は空中で上段に構えた朧桜を振り下ろす。
ことここに至り、ウガルルムも迎撃の体勢を取る、が、遅い!!!
俺の朧桜が、一瞬の防御も許さずウガルルムを縦に切り裂く。
ウガルルムの双眸が大きく見開かれる。
赤紫色の霧となって消えていくその顔には
『お前、人間の心とかないんか・・・??』
と書いてあったが、一笑にふす。
はっ、そんなものは知るか。
こちとら、戦場で何十年戦ってきたと思っていやがる!!
相手の準備を待っているぐらいなら、エロゲのイベントシーンを進めるわ!!
俺は、顔についた赤紫色の粒子を拭うと朧桜を肩に担ぎ直す。
「さてと、もうひと狩りしていきますか」
そう言って、再び戦場へ足を向けるのだった。
◇◇◇
時を数刻ほど遡る。
さて、荒野に出た俺は、早速ポーチからいくつかのアイテムを取り出した。
荒野に出る際には、門番ともひと悶着あったが、そこはSクラスの生徒手帳様様だ。
門番も俺が単独で荒野に出ることを渋々ながら見逃してくれた。
でだ、まず取り出したのはステータスペーパー。
これは現在の簡易ステータスを確認できる代物だ。
「ステータスオープン」
すると、何も記載されていなかった羊皮紙に、文字が浮かび上がってくる。
『個体名:神代刀祢
武技:剣術レベル10、槍術レベル5、拳闘術レベル8、弓術レベル3、
神気:レベル1
特殊スキル:ラッキースケベ、巻き込まれた体質、致命の選択、■■の加護
称号:千人斬り、剣鬼、桜華天元流開祖、天下無双、世捨て人、鈍感師匠、限界突破童貞、エロゲインストーラー』
うん、なんか書いてあるよね。
武技はいい。これは前世で鍛え上げたものがそのまま反映されているようだ。
だが、その下を見てみよう――――
特殊スキルと称号ってなんですか!?
特殊スキル自体初見な上、致命の選択と閲覧不能の加護とか書いてあるし。
転生してからの事を考えると致命の選択というのは、あの時が止まる選択肢の事だろうが。
名前からして不穏すぎる。
致命ってことは、今更だけどあの選択肢、失敗してたら死亡だったってことですか?
確かにエロゲで選択肢をミスるとバッドエンドの場合もあるけどもさ。
いや、マジで、本当に事前説明ぐらいは欲しいものである。
とまあ、致命の選択肢に関しては今後気を付けるってことにして――――
そこで俺の額を汗が流れる。
次の特殊スキルに目を向ける。
そこには
『■■の加護』
はぁ~~、これは絶対ヤバいよなぁ。
閲覧不能、しかも加護。
俺の危機察知がガンガンと鳴り続けている。
エロゲーマーのカンもこれは原作ブレイク級の危険度だと告げている。
出来ればクーリングオフをして、送り返したい。
この世界に消費者カスタマーセンターはあるのだろうか。
え、そんなものは見たことも聞いたことも無い?
ですよね~
その特大の爆弾に頭痛がイタタをしてみるが、実際現状ではこれを解読する方法がない。
方法がない以上は放置するしかないのだろうが。
「あ~~、あとから絶対厄ネタが降り注ぐ気がするな~~」
まあ、今は見なかったことにしよう。
忘却は人間が生きていくために必要な技能とも言うしなぁ。
そうして、俺は記憶に蓋をすることに決めた。
きっといつか未来の俺がこの記憶の箱を開けてくれるはず。
今は未来の俺を信じよう。
あとは・・・・・・まあラッキースケベと巻き込まれた体質ですか?
これはとてもいいもの、そういいもののはずなのだが、これに関しても転生後の出来事を思い出すと自然と顔が苦渋に歪む。
あれもこれもどれも、全部厄介ごとを潜ませたイベントばかりじゃぁありませんでしたかね。
この特殊スキル、きっと後ろに【地雷つき】とか隠されているに違いない。
本来であれば嬉しいはずのスキルも、厄介なスキルに見えて来るのは決して被害妄想なんかじゃないはずだ。
それに、称号。
ここに限界突破童貞とか要らないよね?
あ、タップすると詳細のタブが出るじゃん。
えーっと、なになに?
限界突破童貞:限界を超えた童貞。キングオブ童貞。童貞の勇者。
魔法使いをはるかに凌駕するその無垢な体と魂は世の不浄の一切を清め、魔を滅ぼし、世界に光をもたらすだろう。
童貞である限り、無限の童貞力が湧いてくる。ただし、ため込みすぎると爆発するぞ!
爆発するって、何が爆発するんですか?
俺の事、精神的に追い詰めに来てるよね!?
くそぅ、運営が出てきたら不眠症になるまでDM爆撃してやる!!
運営こそ爆発するべきだろう!!!
そんな感じで一通り悶絶した後、深呼吸して気を落ち着ける。
落ち着け俺、荒野に出た目的を思い出せ。
そうして俺はもう一度ステータスペーパーを確認する。
現在の神気レベルは1。
そして、ここは荒野。邪神の眷属が跋扈する領域。
そんな危険な場所で何をするか。もちろん強くなるための修練をするのである。
俺は、先ほど取り出したアイテムに改めて視線を落とす。
それは『ナイアの工房』で購入したアイテム。怪しい赤紫色の丸薬。
これは何か?
このアイテムの名は『邪気丸』。
決して邪気眼ではない。
話が逸れたな。
この邪気丸だが、これは邪神の眷属が消滅する際に残す赤紫色の粒子を特殊な製法で固めたものである。
細かい製法に関しては『ナイアの工房』にお問い合わせください。
まあ、詳細資料集には載ってるんだけどね。
この世界でもナイアさんを攻略すれば教えてもらえるかもしれないぞ。
まあ何はともあれ、この『邪気丸』には、なんと神気レベルを下げる効果があるのだ。
元々はヘビーユーザー用の縛りプレイアイテムとして重宝されていたのだが、ある時とある廃人ユーザーがフレーバーテキストにある
『邪気により、神気の盃を破壊する』
の一文に着目。
試行錯誤の末、神気レベル1の時に30錠まとめて内服すると神気レベルを0まで落とせる、ということを発見した代物でもある。
まったくオーバードーズも甚だしいよね。
なんにせよ、神気の盃を邪気丸で破壊することで、あり得ないと思われていたレベル0になる術を発見したのである。
それを30錠――――
「じゃあ、いきますか――――」
俺は、邪気丸を一瞬の躊躇もせずに飲み下す。
途端、全身に凄まじい痛みと倦怠感が駆け巡る。
「はは、これはきっついな」
思わず胸元をギュッと押さえる。
脂汗が流れ、心臓が早鐘のように脈打っている。
本来、この世界では神気に適応がない人間はいない。
ほとんどの人間は神剣の加護がある都市で暮らしているからだ。
多かれ少なかれ神剣の影響で神気の盃が出来ているし、その恩恵を受けながら生活している。
だから、この邪気丸による神気の盃の破壊は、人体に多大なダメージを与える。
例えるなら、鳥が翼を折られるようなもの、獣が足を折られるようなものである。
通常であれば、そのまま生きていくのは非常に困難だ。
だが、それでも生き延びられればどうなるだろう。
そして、それを何度も繰り返したらどうなるだろう。
SAHでは神気レベルが高いほど、次のレベルへのエーテル量は多くなるが、レベル0から1へ上げるのであれば邪神の眷属数体分で事足りる。
その上、特殊クエストは都市の剣神を祀る教会で祈りを捧げるだけだ。
もちろん、レベルが下がった分、全身には重りを付けたような倦怠感がまとわりつくし、インフルエンザの症状を10倍に濃縮したかのような頭痛と吐き気が襲ってくる。
この状態での戦闘は、俺であっても正直辛い。
だが、何度も作り直された盃は、叩き鍛え上げられた玉鋼のように、しなやかさと強度を得る。
そしてそれによりあのスキルが手に入るんだ――――
それに、今の俺はSAHの世界に転生できたことや、これからの主人公との邂逅やイベントを期待する興奮でテンションマックスである。
この程度の不調は問題にもならない、いや、問題にもしない。
俺は朧桜を担ぐ。
「っつ、さてと、それじゃあ、目指せ30回の盃砕き。気合入れていくぜ。
神代刀祢、推して参る!!」
そして俺は、邪神の眷属が跋扈する荒野を走り出すのだった。
◇◇◇
そして現在、30回目のレベル0。
それそろ太陽も地平線に沈み、周囲も茜色から夜色へとその容貌を変え始めている。
そんな中、俺の周囲には3体の大型眷属。
いずれもトカゲ型でその大きさは10mにも及ぶ。
それはいっそ地上のドラゴンといってもいいような巨大さだが、体表は濁った赤紫色で、左右6対12本の多脚を持つ、禍々しい形状をしていた。
その上、頭部は歪に歪み、顎が外れたような巨大な口腔には血で汚れた鋸の様な歯が何列にもわたり並んでいる。
その獣の名は『ウシュムガル』。
HPとATKが高い上に集団で襲ってくるため、SAHでもウシュムガルが湧くエリアを突破するには骨が折れた。
通常であれば神気レベル4以上で挑むことが推奨される、そんな敵。
その硬質な肌には、神気による身体強化と武器強化が無ければその傷一つつけられない。
そのウシュムガル達が舌なめずりをして俺を取り囲んでいる。
「あー、これはミスったかも・・・・・・」
俺は冷や汗をかく。
あともう少しで30回終わりそうだからって調子に乗った。
いや、だってさ、こういうのってキリがいい所までやっときたいじゃん!
これが終われば、盃砕き完遂だったんだよ。新生刀祢君見たいじゃん!!
だけど、それが悪かった。
5分ほど前、俺は最後のウガルルムに朧桜を叩きつけていた。
ウガルルムの眉間に綺麗に吸い込まれた朧桜は例のごとくウガルルムを切り裂き、その体を赤紫色の霧へと変える。
そこまでは良かった――――
規定数の眷属を倒し終えた俺は、そのまま意気揚々と都市へ足を向けたのだ。
だが、その時の俺は気付いていなかった。
俺が眷属達を倒しすぎたせいで周囲の邪気濃度が上がっていたことに。
そして、それに引き寄せられるようにウシュムガルが集まってきていたことに。
結果、俺はめでたく周囲を取り囲まれたというわけだ。
いや、まいったねほんと。これ、ゲームだったらセーブ地点からやり直す状態だぜ。
神気レベル0でウシュムガルに挑むとか、無理ゲーだっての。
しかも、それが3体。
どうあっても攻撃が通らない上に、急所の内臓もその分厚い皮膚の下だ。
であるならば俺の出来ることは、普通は逃亡一択。
故に俺は、懐に手を差し込む。
そして――――
「だと、思うよなぁ!!」
全力で行動を開始するのだった!!




