1-13 神気と武技
さて、ここでSAHの戦闘システムについて説明しようと思う。
SAHにおいてキャラクターを強化する方法は2つある。
一つは武技レベルの強化、もう一つは神気レベルの強化である。
武技レベルは、剣術、槍術、斧術など様々あるが、鍛錬や戦闘を行うことで各レベルが伸び、新たな武技スキルを習得する。
これは対人戦においても成長するが、その練度を上げるには非常に多くの戦闘を必要とする。
もう一方は神気レベル。
こちらは神気に目覚めた者が特殊な条件を満たすことで伸びるもので、レベルによっては特殊なスキルも覚醒する。
それぞれ、1~10までのレベルがあると言われており、剣術であれば、レベル1が一般人、レベル2が初級剣士、レベル5が上級剣士、レベル7が達人、レベル10が武の極致に至った者、と言った具合だ。
ちなみに、武技レベル10保持者は現在世界に5人。
実はその中の一人が瑚兎だったりする。
一方、神気レベルは神気に目覚めることが基礎になる。
と言っても、都市に暮らしている人間は大なり小なり神剣の影響を受けているため、一般人ですら神気に対する適性を持っている。
仮に神気に適応がないものが居れば、それは生まれた時から長期間、邪神の眷属が蔓延る荒野で暮らしてきた者だけだろうが、あの環境は人が生きていくには過酷すぎる。
十中八九、邪神の眷属に殺されるか食料が尽きて餓死するかの二択だろう。
話が逸れたが、神気には誰でも適性があるということだ。
ただし、その発現レベルは多くがレベル1~3だ。
神気においては、レベル1が一般人、レベル3で神気を威圧に使える程度。
そのためレベル3まででは戦闘に大きな違いは生まれない。
ただし、レベル4以上になるとその差は顕著となる。
レベル4以降は神気による全身強化が可能となるのだ。
そうなると速力、攻撃力、防御力の補正がえげつないことになる。
さらに、レベル4から先はレベル毎の強化幅が大幅に上昇し、さらには個々人によって神気の特性が生まれてくる。
それは、速力特化だったり、未来予測に近い先読みだったり、邪神の眷属特化だったりと、
その特性によってはレベル下位がレベル上位に勝つようなジャイアントキリングも発生することがある。
神気レベルの上昇時に取得するスキルも優秀で、瑚兎が使った、神気が形を持つことで特性をより強く発現させるスキル、『神衣纏装』は神気レベル6で覚えるスキルである。
そんな神気スキルだが、実は発動するには一つの条件がある。
それは誓言を唱えることだ。
神気とは己の魂の力である。
故に、自らの魂に誓った言葉、それが発動の条件になる。
より深く神気を扱うには己の魂との対話が求められるのだ。
では、その神気のレベルを上げるにはどうすればいいのか?
それは邪神の眷属を数多く倒したうえで、かつ剣神に認められるための特殊イベントをクリアすればいい。
これはSAHの詳細設定集に記載されていた内容でもあるのだが、もともと、剣神と邪神の力の源はこの世界に流れるエーテルと呼ばれるエネルギーである。
剣神はそれを神気に変換することで人々にスキルを、邪神は邪気に変換することで眷属を生み出してきた。
つまり、邪神の眷属を倒すことで邪気の一部をエーテルに還元し、それを取り込むことで自らの力と変えることが出来るのだ。
例えるなら、神気レベルは盃の大きさで、盃に満たしたエーテルを剣神に献上することでさらに大きな盃を手に入れる、と言った具合だ。
ただし、神気レベルが上がるごとに盃を満たすためのエーテル量は指数関数的に増加するうえ、特殊クエストの難易度も跳ね上がっていく。
ネット上では、武技・神気共にレベル10に到達した者は神として崇められていたほどだ。
このようにSAHのキャラ育成には非常に時間がかかる。
そう、時間がかかるが――――
これから起こるであろうイベントを考えれば自らの強化は必須だ!!
今の俺は主人公に負けた程度で闇落ちするほど繊細ではないが、例の教団がどのように関わって来るか分からない。
ならば主人公が第二都市に来るまでに、出来るだけの力をつけておく必要がある。
ではその上で、まず最初に俺がやるべきことと言えば――――
「やってきましたスラム街!!」
そう、スラム街でのお買い物である。
入学式の翌日、準備を整えた俺はスラム街へと足を向けた。
第二都市の北端、荒野と面する都市の最外側。
酒と薬物とアウトロー溢れるアンダーグラウンド。
実はここに初期育成に必要なとある物品が売られているのだ!
何故そんなものがスラム街にと思う人も居るだろう。
それはもちろん、その物品がイリーガルなものだからに決まっているだろうが!!
初めてのお使いにしてはハードな場所じゃないかって?
いやいや、SAH熟練者の俺にとっては爽やかな朝の公園の散歩道みたいなものですよ。
ん?なら、後ろに転がっているムサイ野郎どもは?
それはほら、あれです。
裏路地に入ったらすぐ、「あ~そ~ぼ~」って絡んで来たので、代わりに俺の桜華天元流の技をプレゼントしてあげたんですよ。
そしたら嬉しさのあまり、ゲロ吐きながら倒れちゃってさ。
きっと、癒しが足りてなかったんでしょうね。
しょうがないから、皆さんの額にお勧めのエロゲの名前を太マジックで書いてあげました。
それをプレイすれば、きっと次回はもっと仲良くなれると思うんです。
前世でも、同じように親友となった敵兵たちもたくさん居たしね。
皆、人生が変わったって涙を流していましたよ。
というわけで、スラム街でのお散歩は、布教も含め順風満帆に進み、俺の満足度も非常に高いものになったのです。
うむ、いいことをした後は気持ちがいいね。
皆様から頂いた銀貨を指ではじきながら、俺は満ち足りた気持ちで散歩を続ける。
そして俺はスラム街を奥へ奥へと進み、一軒の店の前までたどり着いた。
そこには、壊れた木製の板にかすれた文字で
『ナイアの工房』
それを見て、俺は安堵のため息をつく。
良かった、ちゃんとこの世界にもあった。
壊れかけた木製の扉。
それを押すと、ギーっと蝶番が軋む音を立てて扉を開く。
そこには俺が知っている通り、虫や蛇が何かの液体に付け込まれた瓶詰や、見たこともないような禍々しい形をした植物を乾燥させたものなど、明らかな普通では無い商品が並んでいる。
「いらっしゃい、ゆっくり見ていきなされ、ひゃひゃひゃひゃひゃ」
店の奥には目深にローブを被ったいかにも魔女といった老婆。
それがこちらを見てニヤニヤ笑っているのだから、店内が閑散としているのも頷ける。
でもまあ、やっぱりいたかナイア婆さん。いや、ナイアさん――――
その視線は完全に実験動物を見るようなそれだが、まあ、このばあさんのバックグラウンドを考えればあながち間違いでもないのだろう。
積極的に関わればサブストーリーも解放される存在だが、今回は無視だ無視。
それに関わるのは今ではない。
だから、今日は普通の客として接すればいい。
今の俺に必要な物は――――
「お、あったあった」
俺は怪しい商品の中から、赤紫色の一つの丸薬を拾い上げる。
これが欲しかったんだよ!!
初期ステータスの強化のために必要な物の中で、最もイリーガルなもの。
これだけはもしかしたら売ってないかもと心配したが、幸いゲームと同じように手に入れることが出来た。
それを複数個購入。
その際に、ナイアさんから面白そうなものを見るような視線を向けられたが、決して目は合わせない。
もしかしたら、興味を持たれてしまったかもしれないが、今回ばかりは背に腹は代えられない。
ナイアさんの相手は、そうだな俺が強くなって邪神の相手も出来る様になったら挑戦してみよう。
だがまあ、これで準備が整った。
俺は一つ息を吸うと、ナイアさんの視線を背にそそくさと店を出る。
最後まで俺を観察するような視線を感じたがしょうがない。
そして、うーーんと伸びをする。
「それじゃ、早速荒野に行ってみますか」
そして俺は、朧桜とSクラスの学生証をもって、都市の出入り口を目指すのだった。




