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1-11 鬼 vs 兎②

「はぁ、はぁ、はぁ」


講堂の壁がガラガラと粉塵を上げて崩れ落ちる。

その中で倒れているのは〈白光〉。


俺の渾身の一撃を受けた彼女は、講堂の壁まで吹き飛ばされていた。


一方の俺も、全身に浅くはない傷を刻まれ、立っているのも正直きつい。

だが、確かに〈白光〉に一撃を入れた。

その感触が手に残っている!


よしっと、思わず朧桜を強く握りしめる。


周りからも俺達の戦いの決着に歓声が上がっている。


勝った、〈白光〉に勝った。俺の刀は確かに俺の理想に届いたのだ!!


その実感が胸を満たし、意識が弛緩しかけた、


その時――――


『我が身は一条の閃光なり、形為せ、神衣纏装しんいてんそう


ゴオゥゥゥゥゥ!!!


〈白光〉が倒れていたあたりから、とてつもない気配が吹き上がる。


立ち昇る蒼白いオーラ、その中でゆらりと立ち上がる一つの影――――



カラン―――――――



幼女の顔にあった、兎の面が床に落ちて乾いた音を立てる。


「ははっ」


俺の口からも渇いた笑みが漏れる。


まったく何を勝った気になっていたんだ、俺は。

相手はあの〈白光〉だぞ?

この程度で終わるはずがない!!


立ち昇るオーラと吹き飛ぶ粉塵。

その中で爛々と輝くその琥珀色の瞳に背筋がゾクリと震える。


体中を、戦慄とも興奮ともとれる感覚が駆け抜ける!!


見ただけで分かる。

今までとは根本的に違う。



絶対的な強者―――――



自分こそが最強であると示し、ひれ伏せさせる、圧倒的な存在感。


俺はあれを知っている。

そう、あれこそが、


「神気・・・・・・」


面が外れた〈白光〉が、額から流れる血を袖で拭いながらニヤリと笑う。


「よく勉強しておるの、そうじゃこれが神気じゃ」


〈白光〉から溢れ出る蒼白いオーラがさらに勢いを増す。

それはさながら蒼い炎のようにゆらゆらと揺らめいている。


「どれ、せっかくじゃ、新入生に神気についてレクチャーしてやろう。

神気とは神剣により見出された人の可能性。魂のエネルギー。

自らの魂に刻んだ誓いの言霊により起動する、邪神とその眷属に対抗する力なのじゃ」


〈白光〉が一歩踏み出す。

床が軋む―――――



「それは、心身を強化し、武装を強化し、時に特殊な力さえも発現させる。

一部の生徒は既に神気の入り口に立っている者も居るようじゃな」


〈白光〉は「かかか、今年は豊作じゃの」なんて言いながら吼丸を担ぐ。

空気がビリビリと震える――――



「じゃがの、それはあくまで入り口にすぎぬ」


途端、吼丸からも膨大な神気が立ち昇る!!

その神気に歓喜するように吼丸が震え、吼丸が纏う神気が兎の頭のような形状に変化していく!!



「これから見せるのは神気の最奥、その極地」


〈白光〉と吼丸から放たれる威圧により周囲では泡を吹いて倒れる者が出始める。


だが、それを直接当てられている俺への圧は他の比ではない。


直接頭を押さえつけられているかのような感覚、今すぐ膝を着いてしまいそうな重圧。


だけど――――

ああ、だけどな!!!

そんなものは俺が退く理由にはならない!!!!


だってそうだろ、俺は最強の〈白光〉に憧れた!!

であるならば、そう、これはむしろ、最高じゃないか!!


興奮で口の端が歪む。

上段に朧桜を構え、精神を集中させる。



細く、鋭く息を吐き、全ての神経をこの一瞬に――――



その様子をみて〈白光〉が嬉しそうな表情を浮かべる。

俺の集中が最高潮に達する。


そして、その俺の準備を待っていたかのように、〈白光〉が声を張り上げた!!


「ゆえに心して受けよ、これこそが我が魂の咆哮じゃ!!」


〈白光〉が姿勢を深くして、構える。

〈白光〉の神気が、吼丸の唸りが、さらに勢いを増す。


それに応え、俺の口からもおのずと言葉が漏れる。



「心して受けよだって、ははは、当たり前だろ、なあ・・・・・・」



「ピョンピョン流奥義――――」


〈白光〉が床を蹴る――――


白兎(しろうさぎ)!!!」


ドン!!!!


瞬間、神気を纏った〈白光〉が一条の光になった!!


その閃いた刃の軌跡に、俺は反射的に反応する!!


己の矜持、譲れない想い――――


その思いを乗せて俺は叫び、全力で朧桜を振り下ろす!!


「だってよぉ、推しの全てを受け止めるのがオタクの誇りだからなぁ!!!!

桜華天元流奥義・天斬裂破!!!!!」


それは神速の振り下ろし。

防御を捨て、ただひたすらに一刀に魂をかけて振り下ろす、一撃必殺の剣!!


その刃が、朧桜が、神気を纏った吼丸と激突する!!



ドガァーーーン!!!!!



爆音!!

衝撃!!


あまりの威力に、ギャラリーが吹き飛ばされ、講堂の窓ガラスが割れ舞い踊る。


そして一瞬の均衡――――


永遠にも感じられるコンマ数秒の拮抗。

奇跡のような一時――――


その中で俺と〈白光〉は確かに笑いあった。




だがそれも一瞬で――――




ドガン、ドシャ、ズザザザ!!!


俺はそのまま吹き飛ばされると、壁に激突し意識を失うのだった。



◇◇◇


 

まさか、神気を纏った奥義まで繰り出すことになるとは思わなかったのじゃ。

相手はそれほどまでに強敵じゃった。


今回、儂が任された仕事はSクラスの選別じゃ。

神気がすでに発現している者、今後の著しい成長が望める者、既に一定以上の実力を身に着けている者、そういった者を選別し、Sクラスに相応しいかを見極めるため、変装し、学園長であることを隠してクラス分けに参加した。

その中で、何人か目ぼしい者を見つけては刃を合わせてみた。


結果、今年の新入生は非常に豊作じゃった。

うむ、よいことじゃ。


何やらキラキラして奴や、前髪で顔を隠しぶつぶつ呟いている奴、その他にも色々おったな。

直接は戦っていないが、お兄ちゃんがどうこう言っている奴やリーゼント頭の奴もいい線をいっておるじゃろ。

並べてみると変な奴ばかりじゃが、まあ、個性があるのは良いことじゃ、うん。


それに一人、とても気になる奴もいたのじゃ。

そやつの剣は見事としか言いようが無かった。

研ぎ澄まされた剣筋、無駄のない体捌き、それでいて視野は広く。

まるで達人の剣。


幾百、幾千の戦いを経ればあのような剣になるのじゃろうか。

思わず歓喜に背筋が震えた。

この者と戦ってみたいと、剣士としての儂が叫んでおる。


故に、他と戦っていたところに乱入する形でちょっかいを出してみたのじゃ。

ちなみに弾き飛ばした生徒に関しては心の中でごめんなのじゃと謝っておいたので恐らく大丈夫じゃろ。


さて、そこからは至高の時間じゃった。

繰り出される剣戟、打ち合わせた刃、そこから伝わる研鑽と精神性。

どれをとっても極上じゃった。


純粋な剣技では互角、いや相手の方がわずかに上か。

いや、やはりそんなことはない。儂が万全な状態であれば儂の方が上のはずじゃ、うん。


今回の儂の仕事はSクラスの選出。

故に、ある程度相手の技を受けるために、服の下に鎖帷子を着こんでおる。

これが思いのほか邪魔で、今回は完全にはスピードに乗りきれなかったのじゃと思う、きっとそうじゃ。

まあ、これがあったから助かったところもあったがの。


その中で、奴の一閃。

儂の八艘跳びを避けた後に繰り出したあの一閃は殊更見事じゃった。

恐らく、生身で受けていたらあの時点で勝負はついていたじゃろう。

ただし、鎖帷子が無ければそもそもあの技も受けなかったはずじゃからノーカンってやつじゃな。


じゃがの、あの技を受けて儂も興奮、げふんげふん、闘志に火がついてしまったのじゃ。

ゆえに見たくなってしまったのじゃ。

神気による奥義と対した時、あやつがどんな反応をするかを。


ああ、今思い出してもゾクゾクするのぉ。


あやつ、事もあろうか儂の奥義を真正面から受け止めおった。それも自らは神気も無くじゃ。

思わず笑ってしまったぞ。

そんなことをしでかした者は今までいたじゃろうか?

いや、居なかった!!

あやつが初めて、初めての相手じゃ!!!


流石のあやつも奥義の前には数瞬ももたなかったが、だが、あやつの刃は最後に儂に届いた。

痛みを訴える右肩が、そこに燻る熱が今も儂の中を疼かせておるのじゃ。


その疼きが劣情にも似た感覚が沸き上がってくる。

思わず、顔が熱くなり、下腹部手を当ててしまう。


いかん、いかんのじゃ。今はまだ試験の途中。

儂は学園長としての仕事をしっかりと果すのじゃ。

儂は頭をブンブンと振る。


それにの、気付いておるよ、儂に強烈な殺気を放っている者が居ることに。

あやつを倒した後からずっと、向こうにいるピンク髪の女生徒が親の仇のようにこちらに殺気を飛ばしているのじゃ。

であるならば、ここは受けて立つしかあるまいよ。

それにあの女生徒も気になっていた者の一人じゃ。


そうして儂は吼丸を担ぎ直し、その女生徒の方に歩き出す。


「待たせたのじゃ」


では、クラス分けを再開するのじゃ。

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