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1-10 鬼 vs 兎①

 ここで、SAHにおける楯無瑚兎について語ってみようと思う。

またの名を〈白光〉。


そのあまりにも不規則かつ高速で動く彼女の戦闘を見た者が、白い閃光が戦っているようだと評したことが由来とされている。


その戦闘は速さ全振り。何者も寄せ付けないスピードで相手を撹乱し、神速の威力が乗った一撃でもって相手を叩き切る。


速さこそ強さである、とは彼女の言である。


そして、それを可能とするのが、彼女の異常なまでの脚力、それはまるで兎の様だ。


あの細足のどこにそんな力があるんだと言うほどの力でもって、彼女は床をぶち抜く。

故に、戦った場所の地面には数多のクレーターが残るのである。


その一方、彼女の防御は紙装甲だ。

重さを嫌う彼女はその身を護る装備をほぼ放棄している。

故に、彼女に勝つためには一撃、ただ一撃を入れれば事足りる。

その一撃が、どれだけ遠い所にあるかは別にして―――――



では、そんな彼女がなぜ身の丈ほどもある大太刀を用いているか?


その答えは単純である。

それは、その大太刀にほとんど重さが無いからである。


いや、正確に言うのであれば、使用者のみほとんど重さが感じられなくなる鉱物で作られているからである。

その摩訶不思議な鉱物の名を〈神鋼(かみはがね)〉!!

SAHにおけるレジェンダリーアイテムである。


その製造方法は、いたってシンプル。

鍛え抜かれた玉鋼の中でもごく一部。

極上と呼ばれる玉鋼を数十年間、神剣の傍に安置することで玉鋼にも神気を帯びさせ、この世界の理から解き放たれた鉱物にしたもの。

それこそが〈神鋼〉である。


その〈神鋼〉を特殊な製法により加工し製造した武器は、折れず、曲がらず、錆びない上に、使用者が望む性能を一つ顕現させる能力を持った武器となる。


ただし、その能力は使用者の想像力に依存する――――


そんな〈神鋼〉を用いた彼女の武器の銘は〈吼丸(ほえまる)〉。

大太刀〈吼丸〉の使い手に選ばれた時、瑚兎は望んだ、羽のように軽い大太刀を、と。


結果、それは瑚兎を最強まで押し上げた。


白光と呼ばれるほどのスピード、そこから打ち出される大太刀の一撃。

瑚兎にとっては羽のようでも、その重量は大太刀のそれ。


質量×速さはそのまま威力となる。


ほとんどの敵は、そのスピードに刀を合わせることすらできず打倒され、よしんば打ち合いに持ち込めたとしても大太刀に乗ったエネルギーに押しつぶされる。


加えて、攻撃をしようにも、そのスピードであっさりと躱される。


攻撃においても、回避においても対抗するすべがない。


故に最強!

それが楯無瑚兎である!!


そして、そんな彼女を前にして俺が次に何と言うか・・・・・・。


そう、俺の目の前には絶賛選択肢が表示されているのである。


【1】あ、あの僕モブなんで、弱いんです、見逃してくだひゃい

【2】全身全霊をもって仕合おうか!!

【3】瑚兎ちゃんは何カップですか?


選択肢を眺める。


はっ、こんなの迷うまでもない!!


静止した時の中、彼女、楯無瑚兎が俺の目の前で大太刀を構え佇んでいる。


その姿は、纏う闘気は、先ほどの壇上で見せた姿とは見ても似つかない。


絶対の自信、隙の無い物腰、止まっている世界の中でさえ彼女の闘志がビリビリと伝わって来る。


『相手は最強。勝ち目なんかない。

普通だったらそののまま諸手を上げて、ハイ降参だ。

だが、だがな、それはあまりにもったいない、そう、もったいないじゃないか。


最強の剣士の眼には、今、俺が、映っている!!!


俺が剣士を志したのは何故だ?

SAHの剣士に憧れたからだ!!


幾度も死を覚悟する戦場で、それでもなお生き残れたのは何故だ?

この白兎の笑みに心を燃え上がらせたからだ!!


前世で最強と讃えられても満足しなかったのは何故だ?

この最強の剣士と戦ってはいなかったからだ!!!


なら、その白兎にこんな目を向けられて、俺が憧れた笑みを向けられて、それに応えないわけがないだろう!!!


それにな、こちとらSAHはファンディスクや設定集まで完璧に読み込んでるんだ!

アホ毛ちゃんのスリーサイズなんて、聞かなくても分かってるに決まっているだろう!!

AAAだ!!!!』


故に、俺の選択は【2】だ!!!!



途端、止まっていた世界が動き出す。


戻る世界の中で、俺は一つ深呼吸をする、薄く、長く。


極限の集中。朧桜を正眼に構える。


余分なものを意識の外に追い出し、自らと〈白光〉のみの世界に没入する。


思わず口角が吊り上がり、獰猛な笑みが浮かぶ。

手の内にある朧桜から、ドクンと鼓動が聞こえた気がした。


「うむ、良い眼じゃ。それに構えも見事。学生の身でよくもここまで練り上げたのじゃ」


対する〈白光〉も口元を綻ばせると、〈吼丸〉を肩に担いで、構えをとる。

闘気がせめぎ合い、俺と〈白光〉の間で空気がチリチリと爆ぜる。


永遠とも思える数秒の沈黙―――――


一挙手一刀足を逃すまいと、お互いの視線が交差する。

高まる緊張、ごくりと誰かの喉が鳴る音がした。


瞬間―――――


ドンッ!!!!!!!!!!!


〈白光〉がその強靭な脚力で床を踏み込んだ。

音が俺に届く時には既に〈白光〉はそこには居ない。

白い閃光が講堂を奔る!!


「速い!!」


それは、稲妻のよう。

何度も何度も鋭角を描きながら俺へと迫ってくる。


白い稲妻、その中に琥珀に輝く瞳の軌跡に戦慄を覚える。


それはコンマ数秒―――――


直進してくる弾丸であれば避けられる、遠距離からのミサイルであれば切り裂ける。

けれど、この不規則な軌道は全く読めない。


既に一刀の間合い!!

その速力は今までに比肩する者がいない!!


だが、だが、それでこそだ。

それでこそ〈白光〉、それでこそ最強だ!!!


見るだけでは足りない、聞け、触れろ、五感全てで感じ取れ。


空気の流れを、踏み込みの音を、肌を焼く闘気を、その全てを経験からくる直感で束ね、迎え撃て。


「ピョンピョン流・和邇切り(わにぎり)


白い閃光が瞬く。

瞬間、俺の真横、床を踏み抜き、吼丸を横ダメに構えた〈白光〉が現れる。


ブン!!


それを知覚した時には既に吼丸は横ダメから解き放たれ、うなりを上げて俺の首元に迫っている。

だが、


「桜華天元流・流崩りゅうほう!!」


この技は相手の攻撃を受け流し、重心を崩す。


俺は半歩左足を引いて、間に朧桜を割り込ませる。

そして、そのままその吼丸の側面に朧桜を滑らせ、逸らし、吼丸をかち上げる。


耳のすぐ横を通り過ぎる吼丸。

その呼び名に相応しく、低い唸り声が鼓膜を振るわせていくが、それすらも戦いの高揚感に変わっていく。


「桜華天元流・円転えんてん!!」


俺は、そのまま円を描くように体を回転させ、吼丸をいなした際のエネルギーを朧桜に伝える。


繰り出される、回転エネルギーと〈白光〉自身の力を乗せた神速の横なぎ。


ギュュオッ!!


空気があまりの衝撃に悲鳴を上げる中、俺は〈白光〉の胸部目掛け、朧桜を全力で振り抜いた。


だが―――――


ダン!!


〈白光〉は、吼丸が弾かれた力に逆らわず、そのまま自らが跳躍し朧桜の一撃を避けて見せた。

その様はまるで曲芸師の様だ。

心の中で感嘆の声を上げる。


さらに、〈白光〉は空中で吼丸を担ぐと、


「ピョンピョン流・渦潮割り(うずしおわり)


回転しながら俺の頭上に吼丸を振り下ろしてきた。

縦回転のエネルギーを乗せた吼丸が先ほどのお返しとばかりに唸りを上げる。


「ははっ」


思わず口から笑いが漏れる。


ああ、最高、本当に最高だ。

それでこそだ!!!


俺は、円転の軌道を無理やり斜め上方向に捻じ曲げ、吼丸を受け止める。

無理な軌道変更に筋肉は軋み、骨が悲鳴を上げているのが分かる。

全身を鋭い痛みが駆け抜けていく。


吼丸のあまりの衝撃に思わず膝を着きそうになるが、俺は、意志の力でもって、それを弾き飛ばす。

弾き飛ばされた〈白光〉は、一瞬驚きの表情を浮かべるが、すぐにその表情を獰猛な笑みの形に変えると、空中で体勢を立て直しながら数m後方へと飛びずさった。


愉しい、とても愉しい!!!


きっと今、俺も〈白光〉と同じような表情をしているだろう。

興奮が止まらない。


最初の立ち位置に戻った俺達。

再び構え、お互いに見つめあう。


お互いに、この戦いを愉しんでいる、それが伝わる。

もはや、世界には俺達しかいない、そんな感覚すらある。


ニヤリ――――――


二人同時に笑みを浮かべる。


バン!!


再びの轟音!!

今度は俺の方から瞬歩でもって踏み込む。


同時、消える〈白光〉。


直後、最初の立ち位置のちょうど中央、俺と〈白光〉が、朧桜と吼丸が打ち合わされる。


ガキンッッッッ!!


一瞬の拮抗、そして直後に繰り出される剣閃、剣閃、剣閃!


時に躱し、時にいなし、時に打ち合い。何度も何度も、激しい衝撃と共に周囲に爆音を響かせる。


すごい、すごい、すごい!!!!


俺は剣戟を交わしながら〈白光〉のあまりの技に驚愕する。


俺は何度も何度も神速の剣閃を走らせている。

けれど、〈白光〉はその悉くを回避し、返す刀で俺を狙ってくる。


首、胸、胴。


それに対して俺は、時に流崩でいなし、いなしきれないものは受け止め円転でもってその衝撃を攻撃へと転化する。


俺の攻撃は苛烈。波濤のごとし。

だが、それでも攻めきれない。

寧ろこちらの方が押されている。


何合、いや何十合打ち合っただろう。

〈白光〉の動きについていくために、何度も無理な動きをしたことで、体中から鋭い痛みが走っている。

体内に乳酸が溜まり、全身の筋肉が休息を求め騒いでいる。


だが、それが何だ!!

今、〈白光〉の瞳には俺が映っている。

その剣を、その視線を、その息遣いを、その技こんなにも感じられる!!

これが、至高と言わずなんだというのか?


「桜華天元流・華突かとつ


〈白光〉の突撃に合わせて、刺突を放つ。

相手から見れば点にしか見えないその一撃を〈白光〉は難なく躱す。


だが――


「桜華天元流・華突乱舞かとつらんぶ


〈白光〉の避けた先に、さらに追加で十数もの刺突を見舞う。

それは、舞い散る桜びらすらも、突き貫く連続の刺突。

逃げ場はない。


その核心と共に次の一手に備えて追撃を準備する―――――


が、その思考も一瞬で打ち砕かれる。


「ピョンピョン流・八艘跳び(はっそうとび)


〈白光〉は兎にように踏み込むと、そのまま空中に跳び上がったのだ。


そしてさらに空中を蹴り軌道を変える。


〈白光〉の踏み込みに打ち抜かれた空気の壁が波紋を広げ、轟音を響かせる。


轟音、轟音、轟音。


俺を中心として巻き起こる、いくつもの轟音と衝撃。

それの度に、空中を白い軌跡が走り輝く琥珀色の瞳の光が舞い踊る。


高速空中歩法―――――


そのロマンくすぐる響きが脳裏をかすめるが、今は対処が最優先だ!


三次元的に襲い来る攻撃が、俺の腕に、大腿に、胴に、次々と傷を刻んでいく。

弾き、いなすが今のままでは受けきれない。


故に、俺は先ほどよりもさらに自身を研ぎ澄ませる。

肌がひりつく。

四方八方から〈白光〉の闘気が叩きつけられる。


致命傷にならないものは切り捨てろ!

その中から、本命。俺に迫る致命の一撃のみを感じ取れ!!


舞う血しぶき、迫る大太刀。

その中で、


ドゴン!!


右側方からひと際強く空気がはじける音。首筋にビリビリとした感覚が走る。


ここだ!!


「桜華天元流・かすみ


それは特殊な歩法、自身の幻を見せ相手の間合いをずらす技。

半歩身を引き、〈白光〉の闘気の通り道から身を逸らす。


瞬間―――――


ズバッ!!


俺の首が元あった場所を、巨大な鉄塊が通過する。


それが過ぎる瞬間、俺と〈白光〉の眼が合う。


その表情は、とても愉し気で、永遠にこの時間が続いて欲しい、そう思っているように感じられた。


俺も同じだ、永遠にこの時間を愉しみたい。

けれど、終わりはくる。

だから・・・・・・。


左手を鞘として、居合の型でもって納めていた右手の朧桜を握りしめる。


「桜華天元流」


だから俺は・・・・・・。


「奥義」


全身全霊をもって、あなたを倒す!!!


桜華瞬閃おうかしゅんせん!!!」


光速を超えた、極限の一撃。


〈白光〉の胴に吸い込まれるように伸びる一閃。


〈白光〉もとっさに吼丸を手元に戻そうとするが、それすらも間に合わせない。


「うおおおおぉおぉぉぉーーーーー」


吼える、吼える、吼える。


俺の全身全霊、意志の全てを乗せた一撃。


それが光を引いた時―――――


その瞬間、俺の刃は確かに〈白光〉を捉えたのだった。



だが――――――――



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