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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

魔女狩り

作者: 山菜おこわ
掲載日:2026/02/22

とある山奥にて。

男は一つの小屋を見つけて、近くの茂みに身を隠す。と言っても枯れ木しかないのでそれほど効果があるかは分からない。

それでも身を寄せねばならない理由があった。


「あそこか」


男はゴクリと生唾を呑み込んで呼吸を整える。

数分前までは鬱蒼とした森が広がっていたのだが、途中から木々が枯れ果てて、まるで山火事にでもあったのかと思えるほどに雑草一つ生えてはいない。間違いない。それが噂に聞いていた”魔女の境界線”なのだろう。


入ればたちまち魔女の餌食⋯⋯などと噂が飛び交えば、流石に男は慎重にならざるを得なかった。


「ようやくだ⋯⋯」


それでも男は八重歯をギラつかせて、目は蘭々と輝かせて見開かれる。それは男が狂ったからなどではない。


魔女の境界線。それは今目の前に見える小屋に魔女がいるという事を証明している。

男の口角が不気味につり上がる。


「魔女を殺して、俺は自分の村を救う」


男は野望を世界に吐露して、自然と手にしていた剣を握る手に力が籠る。男の獲物はこれだけで、防具の類はない。ごく普通の平民の服装だ。


理由は、魔女が”マホウ”という得体の知れない力を使って、金属製の防具もいとも簡単に溶かしてしまうと言われている。

それならば守るよりも躱す方がいい。


「それに俺は村で一番すばしっこい」


何度も晩に物を盗んでは、ただの一度も捕まったことが無い。

その小さくも根拠のある自信が、余計に野心を駆り立てる。


「さぁて⋯⋯」


男はまるでハイエナのような獣の目つきで、何処から小屋に攻め入ろうか決めあぐねていると、突如、小屋の扉が開かれて、誰かが飛び出てくる。


それは息を呑むほどに美しい女性だった。

紫のウェーブ掛かった長髪に、白雪のような穢れを知らぬ肌。そして大きな紫色の瞳は宝石のように綺麗だった。


「あれが、魔女⋯⋯?」


男はあまりの美しさにたじろぐ。刹那、その女はこちらに振り向いた。

男は動揺に身体を揺らしたせいで、女がこちらの存在に気がついてしまったのだ。


「まぁっ!」


男と女の目線が合う-すると、女は嬉しそうにその宝石のような瞳を輝かせ、手を叩いてこちらに駆け出してくる。


「止まれ--ッ!」


慌てて男は手にしていた剣を掲げて威嚇する。これに女は驚いたように足を止める。


「それ以上近付くなッ!」


男は剣を正眼に構えて、射線上にその女性を重ねる。女は悲しそうに顔を歪ませた。


「どうして?⋯⋯あなた、怪我してる」


「はぁ?」


「痛そう⋯⋯」と口元に手を当て呟く女から視線を外さないように、男は自分の身体を見渡す。すると、数多の擦り傷が出来上がっていた。


「いつの間に⋯⋯」


夢中になって森を突き抜けてここまで来た。気付かないうちに乾燥した木々で切ったのか?


ザッと聴こえる足音で、男は自分が目線を外してしまっていた事に気が付いて、また女に向けて剣を構えた。


「止まれぇッ!」


しかし女は止まらない。駆け寄る女に男は剣で叩き切ろうと上段に構えるも、その美貌に構える剣に迷いが生じる。


「はやく手当てしなきゃ!」


女は男に触れると、上目遣いで「私の家で休みましょ」とそのぷるんとした唇を動かす。

女はキャミソール一枚の姿であり、見えそうで見えないチラリズムが男をくすぐる。そこから伸びる肢体はスラリとしてモデルのようだ。

さらにその豊満な双丘を押し付けられては、男の思考は正常では無くなった。


「くっ⋯⋯わかった」


痛む身体。男は、観念したように剣を投げ捨てて「よろしく頼む」とこぼした。




「そこに座って」


男は女に促されて一つの椅子に腰掛ける。


「少し待っててね」


女は横長の棚を開いて薬を探し始める。

その間、男はぐるりと小屋の中を見渡す。


中に入った小屋は今居る一部屋しかなく、テーブルに置かれたロウソクで明かりを取っているので、全体的に暗くて見えずらい。


それでも凝らして見れば、簡素な造りに驚かされる。

生活する最低限の品しかない。こんな森深くに?


まだ薬を探している女を見やれば、キャミソールで隠しきれない下着からお尻が覗き、思わず男の中の獣が飛び出してしまいそうになる。


そうじゃないと男は首を振って、改めて女を観察する。


理想的な腕と、ロウソクに照らされ見えるその白くて細い首筋に、女のか弱さが窺えた。

しかも枯れ果てた木々がお生い茂る中、到底女一人で生活できるとは思えなかった。


「遅くなりました」


男は「どのように生活を?」と聞こうと思ったのだが、女の振り返った女神のような笑みにドキッと胸が高鳴り、男は後でいいかと口を閉ざす。


「では、塗りづらいので服を脱いでください」


「それが薬か?」


男は女の手にした小瓶に入った緑の液体のようなものを疑り深く凝視する。

何度か街に繰り出した事はあるが、そのような物は見たことが無かった。


「スライムは初めてですか?」


「スライム?スライムって、ゲル状のあれか?」


スライムは粘土細工など固定する際に使う。

確かに粘着性はあるが、傷口に塗り付けたりする物じゃない。


「これは私が改良した物ですよ」


「⋯⋯それが薬だと証明出来るか?」


「証明、ですか⋯⋯」


女は数秒考えたあと、躊躇いなく着ているキャミソールを脱ぎ捨てる。ぷるんと大きな胸が露わになる。


「ちょッ-!」


男が止めるも女は聞かず、小瓶からスライムを取り出すとそのくびれのある腰や胸近くに押し当てる。


「ンッ⋯⋯」


女はスライムが冷たいのか、顔を潤ませて息を荒くさせた。


「これで、信用してくれますか?」


「あ、あぁ⋯⋯信用する。信用するから服を着てくれ!」


男の声に女はスライムを小瓶に戻して、投げ捨てたキャミソールを着なおした。


てっきり男は他のスライムを使うのかと思ったが、女は小瓶に戻したスライムを使うようだ。

男は心配事が吹き飛び、その代わり鼻の下が伸びた。


「じゃあ服を脱いでください」


男は服を脱ごうと苦戦していると、女が手伝ってくれた。女から香る何とも言えない色気が男をリラックスさせる。


「わざわざこんな所まで⋯⋯どうしたんですか?」


スライムを傷口に塗りながら、女は問う。


「⋯⋯魔女を殺しにな」


「魔女?」


「あぁ⋯⋯」


男は女をまた疑って言葉を慎重に選んでいたつもりだったが、目線が合う女の魅力的な瞳に口が自然と動いてしまう。


「魔女はマホウという人以外の力を使って人々を苦しめている。現に俺の住む村だって、このハールンの森の魔女のせいで城に献上する物に重い税を掛けられているんだ。⋯⋯そのせいで俺たちの村はろくに買い物も出来やしない。元々やせ細った土地だがら、それだけが食いぶちだったのに」


男はどうしてそんな事を女に喋ってしまったのだろうかと困惑するも、薫る心地よい匂いがそれを狂わせる。


「そうなの⋯⋯だからいつも私のところに人が来るのね」


ロウソクが揺れて照らされる女の顔は、一瞬、鋭く目線が絞られたように見えた。


「それは城の人かもな。ほら、防具とか着込んでいるんじゃないのか?」


「うん⋯⋯いつも鉄の重りを付けていたわ。⋯⋯そういえば貴方はどうして着ていないの?」


「俺は村の者だから、そんな高価な物なんてとても。それでも魔女を殺せば、城から重税から逃れられるし、報酬も貰える。そうしたら俺たちの生活は随分と楽な物になる」


「そう⋯⋯でも残念だけど、此処にはいないわ」


「そのようだな。綺麗な女が一人だ」


「まぁ⋯⋯」


女は嬉しそうに顔を赤らめて、目線を逸らす。


「⋯⋯なぁ、どうして-」


「ねぇ、貴方⋯⋯出来るのなら城の人達にここにはもう来ないでって伝えてくれない?」


男はぴとっと女の人差し指があてがわれて制される。

またしても女の上目遣い。そしてその下からたわわな双丘が男が逃れなれない色気を放つ。


「い、いやっ⋯⋯俺じゃあ無理なんだ。村の人の言うことなんて城の人が聞いてくれるとは思えなくて」


「⋯⋯そう」


刹那、視界が揺れる-⋯⋯気付けば床に転がっていた。


「えっ、へっ⋯⋯?」


身体が動かない-。まるで見えない何かに身体をがっちり押し込められているような感覚。


「なら生かす必要がないのね」


男は唯一動く顔を持ち上げて、自分の前に立っていた女へと顔を向ける。

女は先程とは違い、その大きな瞳から冷徹な眼差しでこちらを見下ろしていた。


「なっ⋯⋯何をしたぁッ-ッ!」


身体が痛い⋯⋯先ほどスライムが塗られた所がぐちゅぐちゅと蠢いている。まさか、俺の身体を喰ってるのか?


「うぐっ⋯⋯あぁぁぁあああああああ!」


生きながら自分を食い破られる感覚に男はのたうち回る。何度も頭を床に打ち付けては、狂ったように暴れ回る。


女はしゃがみこむと、男に冷たい視線を向けたまま話しだす。


「私の身体、人間には毒になる物を塗り込んでいるの。前に人間に乱暴されてからね。スライムには私の体液を取り込ませて貴方に付着させたの。それだけじゃ身体が痺れるくらいだけど、貴方を生かす必要が無くなったから起動させただけ」


「あぁぁぁああああああぁぁぁ⋯⋯」


女の大きく見開かれた紫紺の瞳は、人の域を超えた何かを感じざるにはいられなかった。その完成された美貌を持って人を惑わし殺す-。


「ま、じょ⋯⋯」


どうして最初、警戒していたのに止めてしまったのか。後悔はもう遅い。


とけるとける溶ける解ける-⋯⋯


男はもう思考する頭は残っていなかった。


「アガっ⋯⋯ガッ⋯⋯⋯⋯」


男は声にならない声を発して、スライムにより身体の至る所が溶けて絶命した。

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