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仮面の貴公子=最強の魔剣士?【エウレア皇紀・異世界編】  作者: 嶋 秀


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第39話(卒業実技試験とその後)


 「おい、何が起きているんだ?」

 「これは、高等部の卒業試験だよな?」


 ざわめく小スタジアム内。

 本来攻撃を受け止めるべき学生側が、受験者の生徒に対し先制攻撃するとは、想定外の事態。


 同じような状況で始まったリオーヌの試験の場合は、大した攻撃魔術を使えないという最大の欠点を誤魔化してあげようと、セリスが断続的な攻撃をしてみせ、リオが身に秘めている魔剣の潜在能力と、膨大な魔力から自動発生する防御力を披露させることで、高得点を叩き出すという目的があったが、シェーリーとレゴールの対戦の場合は大きく異なる。

 潜在力と将来性はシェーリーの方が高いが、現時点での魔術師としての実力は、4歳年上のレゴールの方が明らかに上。

 そうである以上、攻撃を受け止め切れない可能性が高い。



 「きゃ~」

 「ヤバいよ〜、これは......」

 観客から悲鳴が上がる。

 レゴールは、次々と魔術を放ち、最初に放った風魔術『暴風の嵐』を複合技の『サンダーストーム』に強化してゆく。

 シェーリーが取り囲まれている、超高速で渦巻く強力な暴風の中で、稲光と雷鳴が響く。

 「シュッシュッ」と空気との摩擦で生じるウオーターブレッドの風切り音も。

 そのヤバさは、レゴールの魔術を外側から見ている者達の視覚や聴覚にもハッキリと認識出来るモノとなっていた。


 流石にやり過ぎだと感じたリオーヌ。

 精神攻撃魔術をレゴールに放ち、攻撃を止めさせようと動いた瞬間、

 「介入はまだよ、リオ」

 セリスに制止される。

 「いつの間に、僕の隣へ?」

 いつも通りの、彼氏の呑気な反応は無視して、

 「彼女はまだ大丈夫だと言っているわ」

 止めた理由を答えるセリス。

 「聞こえるの?声が」

 「そうよ。 だから、教授も止めないでしょ?」

 セリスの説明で、パーシル教授の方へと視線を動かすと、アンジェは腕組みをしたまま実技試験の状況を凝視している。


 その時であった。

 サンダーストームの中心部から、眩い光が輝き始めたのだ。

 「反撃が始まるわね」

 セリスは呟くと、サングラスをかける。

 「何故、そのようなモノを......」

 リオが疑問を口にした直後、何も見えなくなる程にまで、輝きが一気に増す。

 「まぶしい......」

 「何、これ?」

 殆どの者達が自身の手で、シェーリーが戦っている方向に手を翳し、眩し過ぎる光を遮ろうとする。

 しかし、輝きは止まらない。


 やがて光が収束し、視界が回復した時であった。

 競技場で倒れているのはレゴールの方。

 シェーリーは、兄の更なる反撃に対処する為、身構えて立っていたのだ。


 「何が起きたんだ?」

 「形勢が大逆転しているわ」

 みんなが驚き、興奮状態で2人の方を指さしている者も。

 その時、イリアム教師が、

 「試験終了」

と大声を出し、2人を制止する行動に。

 アンジェも目の前の柵を乗り越え、シェーリーの元に駆け寄る。

 それを見てイリアム教師は、倒れたまま意識を失ってしまったレゴールの方へ。

 卒業実技試験の最後の対戦は、このようにしてあっけなく終幕となったのであった。




 「あの子、光の魔術が使えたのね、やっぱり」

 セリスは予測が当たったという感じでほくそ笑んでいる。

 「光の魔術?」

 リオの質問に、

 「4大自然魔術の上位魔術の中に光系統の魔術っていうのが有るのよ。 知らなかった?」

 「うん」

 「五大魔塔も、『光』とは呼んでいないものね。 水・火・土・風と治癒回復系で五大だから」

 「そうだよね」

 「光の魔術は別名『聖女の力』。 あらゆる魔術の攻撃を一瞬で弾き返し、攻撃者にそっくりそのままお返しするという、最強の防御魔術が使えるのよ」

 「聖女の力か〜。 ということは」

 「治癒や回復魔術も当然使えるわ」

 「なるほど」

 「ただ攻撃力は無いの。 だから光の魔術は人を殺めない。 あくまで攻撃者が死んだ場合には自業自得という訳」

 「それで聖女っていう別名が付いたんだ」


 リオーヌはセリスの説明を聞きながら、少し違和感を感じていた。

 それは、

 『何故、19歳で深窓の皇女様が、世の中の事情に詳しいのだろうか? 西方世界に来たことが無い筈なのに』

というものであった。

 「セリス様は、西方魔術のことにも詳しいね」

 「魔術と術、東方も西方も関係無いわ。 呼び名が異なるだけで、基本は一緒。 東方では、聖女じゃなくて『神聖なる力』とかと表現するけど」

 「そうなんだ」


 ここでセリスは真剣な表情に。

 そして、周囲に聞かれないよう、リオーヌの脳内に直接語り掛ける。

 『リオ。 貴方は『闇の魔術』の遣い手なの。 薄々気付いていたかと思うけど』

 「そうか......闇の魔術ね〜」

 『光の魔術の真逆で、ほぼ攻撃に特化している魔術。 双剣の魔剣が使えるのも、貴方が極めて希少な闇の魔術師だからよ』

 「......」

 『闇の魔術という表現を勘違いしないで欲しいのだけど、暗黒世界の魔術とか陰影な意味では無いの。 光に対する対義語で『闇』と呼ぶだけ』

 「......」

 『闇の魔術の遣い手は、自然系4大魔術に適性が出ないのが特徴ね。 だって、闇の魔術は4大魔術より遥か上位の特別な魔術だから、格下の魔術なんて使う必要性が無いでしょ?』

 「道理で、僕が自然系の魔術を苦手にしている訳だ。 魔力は十分なレベルのモノを持っている筈なのに」

 『君の場合、魔術師というよりは魔剣士だから、闇の攻撃魔術を放っているという認識は無いだろうけど、双剣の魔剣を媒介として、魔剣を振るう度に闇の魔術を放っているの。 その実態は』

 「そうだったんだ」

 『精神攻撃魔術も闇の魔術の一形態。 使える魔術師が皆無なのも当然でしょ?』

 「ようやく得心がいったよ」


 「まあ、そういうこと。 光の至高の術師である私と貴方は表裏一体。 婚約者とかそういうのは関係なく、一致協力して敵対勢力を打ち負かし、将来の2人の幸せを掴みましょうね」

 脳内への直接の呼び掛けを打ち切り、自身の声で耳打ちしながら話を続けると、笑顔を見せる皇女セリス。


 「あれっ? この間、光の魔術は使えないようなことをみんなの前で話していなかったかな?」

 「手の内を全て晒す訳が無いでしょ? もしかしたら、新帝国の一派に味方して、私達に攻撃を仕掛ける者が居ないとも限らないし」

 小声でそう答えるとニヤリ。

 新帝国を抜け出してから数ヶ月が経ち、皇女セリスの降嫁を執念深く狙っていたカトルがそろそろ大きな動きを見せて来るだろうと予測し、今後の展開を楽しみにしている様子を全く隠そうとしない皇女。

 それに気付き、肩を竦めるリオーヌであった。




 一方、小スタジアム内のザワザワは続いていた。

 「これは驚いた〜。 ブレーメベルン公爵令嬢が、あの年齢で光の魔術を使えるとは......」 

 五大魔塔の幹部達が、感嘆の言葉を述べている。

 「スカウトとか、そういう次元の話では無くなったかもな」

 「ゆくゆくは、女王陛下直属の特級魔術師に推挙するとか、そんな類稀の存在になってゆくだろう」


 「ところでブレーメベルン公爵家としてはどうするのだ? 現当主隠居後の跡継ぎは、シェーリー嬢が重ねて辞退したことで、漸くレゴール殿に決まったと聞いているが......」

 魔塔の幹部達はそんな話をしながら、競技場から担架で運び出される気絶したままのレゴールを呆れた表情で見ている。

 「学院の卒業実技試験で、受験者である最大のライバルの実妹に先制攻撃を仕掛け、魔術師として自身の能力が上だとアピールを狙った結果が、惨敗とは......人となりの小ささを見せ付けただけか」


 「先物買いした風の魔塔は、今後もレゴール殿を引き立て続けるご意思かな?」

 4大魔塔の幹部達は気の毒そうに、風の魔塔の幹部達の対応を見詰めている。

 それに対し、レゴールの醜態に動揺を隠せない風の魔塔の幹部達。

 慌ただしく動き始めていることから、魔塔として、更なる情報収集や塔主への報告やらと、レゴールの失態の後始末の対応に追われているようだ。

 公爵家の後継者であるからこそ、引き立てて来たのに、妹のシェーリーの潜在能力の高さが改めて示されたことで、今後どんでん返しが発生し、シェーリーが跡継ぎに指名され直される可能性を考えねばならぬ状況に陥ったのだった。




 そんな大人達の事情は他所に置き、控室に戻った当のシェーリーは、スタジアムの観客席から移動して来た魔術課程の同級生達から祝福の言葉を受けていた。

 「おめでとう」

 「卒業実技試験も、シェーリーお嬢様がトップよ」

 発表された得点は、リオーヌの96点を上回る99点。

 一級魔術師である兄をたった一撃で戦闘不能に追い込んだのだから、当然の結果である。

 「ところで、あの魔術は?」

 「初めて見る代物でしたよ」

 次々と飛ぶ質問に苦笑いで受け止めながら、無言を貫くシェーリー。

 困惑の表情を浮かべながら。


 すると、何処からともなく助け船が。

 「シェーリーは疲れているの。 余り質問攻めをしないであげて」

 セリスが生徒達に声をかけたのだ。

 この時、『魅了』の能力が自然に使われたことで、生徒達の興味はシェーリーからセリスに移った。

 「そうよそうよ」

 「シェーリー様は、レゴール様の強烈な魔術で攻撃されたのだから、激しく消耗されているわ」

 「少し休ませてあげるべきだな」


 豹変し、それまでの態度を翻してしまう生徒達のその様子を、苦虫を噛み潰したような顔でリオーヌが見詰めている。

 『魅了も光の魔術の一種なのかな』

と思いながら。

  

 その後、セリスはさり気なくシェーリーに治癒魔術を掛けてあげる。

 回復魔術では無く、治癒魔術。

 光の魔術師だけが使える治癒魔術は回復魔術の上位互換。

 回復魔術同様に、死者を蘇らせることは出来ないが、擦過傷ぐらいならほぼ元通りに治すことが出来る。

 シェーリーは、兄の強烈な攻撃魔術を奇襲で受けたことにより、身体じゅう小さな傷だらけになっていた。

 しかし、あっという間に目立たないレベルへ修復。

 それに気付いたシェーリー。

 セリスが光の魔術を使えることで、非常に驚いた表情を見せていたが、皇女は、

 「女の子に傷跡を付けるような男は、最低よね〜」

と答えながら、

 『このことは2人だけの秘密よ』

という意味を込めた笑顔を見せる。

 そして、リオに、

 「さあ、教場に戻らないと。 教授から実技試験の総括が有るわよ」

と促し、他の生徒達と共に控室を出て行くのだった。 




 「みんなお疲れ様」

 アンジェが教壇に立ち、卒業実技試験を終えたばかりの高等部3年次の生徒達に労いの言葉をかける。

 「卒業式が終われば、それぞれの道を歩み出すことになる。 大学部に進学する者。 軍や政府に就職する者。 帰国したり、家を継ぐ者。 等々、まだ18歳の君達が、人生の分かれ道に立つ訳だ」

 ここで言葉を区切り、生徒達の表情を見渡す。

 皆、真剣に聞いてくれているようだ。


 「ただ、忘れないで欲しいのは、魔術師は貴重な存在であると共に、一歩間違えれば魔女狩りの対象になり易いということを」

 近代に入り、魔術師の存在意義が揺らぎ始めている。

 それは、技術の急速な進歩による影響であった。


 「人は、他人と異なる少数派を排除しようとする傾向が有る生き物。 私達は少数派でしかも異端。 その能力を常に恐れられている存在ということを意識し、ここで学んだことを活かして、君達の人生が終幕を迎えた時、『幸福だった』と振り返れることを切に願う」

 説教じみたパーシル教授であったが、魔術課程の生徒達にも、西方世界における魔術師の微妙な立ち位置を少し実感出来たことであろう。


 「最後に、実技試験で協力してくれた先輩達に改めて拍手を」

 その紹介で、キャスオンとセリスが立ち上がる。

 盛大な拍手が送られると、そのまま教場を出て行く

2人。

 やがて、魔術課程最後の実技授業は終了となり、後日行われる卒業式を待つだけの身になるのであった。 




 その日の夜中。

 『おい、リオ。 招かざる客がやって来たぞ』

 魔剣ダィンの声がリオーヌの脳内に響く。

 「客?」

 眠気眼を擦りながら周囲を見渡すと、枕元に見知った姿が。

 「......オグニ?」

 全身を覆う灰色装束で身を固めているので、表情を見ることは出来ないが、術師独特のオーラから、見間違うことは無い。

 「呑気なものだな、リオーヌ。 お前は暗殺者だというのに熟睡していて」

 キノルザ・オグニの第一声は嫌味であった。


 リオは常に魔剣がその身を護っており、寝込みを襲われたとしても、返り討ちにしてしまう。

 双剣の魔剣自身が意思を持っているので、リオの意識が無い時にはダィンとティルの判断で、近付く怪しい者を勝手に殺すのだ。


 「久しぶり。 ところで用件は?」

 「皇女様が張り巡らせていた結界が破られた」

 「ふ~ん。 その結末は?」

 「学院の敷地内に侵入して来た曲者の大半は、皇女様と私とで始末したものの、高位の術師2名には逃げられた」

 「へ〜~。 捕らえた者は居るの?」

 「生捕りは、クラス7の術師一名のみだ」

 「わかった。 場所の案内を」

 「付いて来い」

 随分省いた会話内容だが、事務的な関係のリオとオグニの間で、余計な話をすることはまず無い。


 その後オグニが案内したのは、ベールが滞在しているあばら家の地下室であった。

 「こんな場所が、ね〜」

 床下の片隅にレバーが設置されていて、それを操作すると、リオも知らなかった地下へ続く階段が現れる。

 降りた先は、小さな教場位の大きさの空間で、鉄格子製のブースが幾つか設置されていた。


 「状況は?」

 「皇女様の指示で私がここに幽閉をした。 尋問はリオーヌの得意とするところだろ?」

 オグニの説明に、怪訝な顔をしていたベール。

 『ん? 皇女様の指示で、俺がコイツを秘密の地下室に幽閉した際、オグニの姿は無かった筈だが......』

 そう考えていたところ、リオーヌから見えない角度で、喉元に刃が。

 『リオーヌに余計なことを喋ったら、この術師と一緒に、ベール、お前も殺す』

 オグニがベールの脳内に直接告げたのだ。

 それに対し、

 『わかったわかった』

という感じで、軽く頷くベール。

 クラス10の術師の実力は、かつて戦場を共にしたフマ・ホムラとの付き合いから、よく分かっている。

 だから、素直に従うことに。


 「どうした?ベール」

 ちょっとした異変に気付き、リオが確認をしてくる。

 「いや、真夜中の騒動で眠いだけです、公子」

 ワザと欠伸をして見せ、今思っていた疑問を心の内に仕舞ったベール。


 そのやり取りを確認し、装束の下で安堵の表情を見せていたオグニ。

 「リオ。 ひとまず、尋問は任せたぞ」

 セリスの指示をリオに告げると、いつの間にか姿を晦ましてしまう。

 「いやいや、任せるって......尋問後、コイツをどうするんだよ?」

 再確認したものの、返答は無い。

 困った表情で、鉄格子の檻内で気絶している男の術師を見詰めるリオーヌ。

 「とりあえず、新帝国の現在の情勢でも質問してみるかな」

 そう考え、尋問用の精神攻撃魔術を、魔剣を介して気絶している男に放つリオーヌだった。


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