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仮面の貴公子=最強の魔剣士?【エウレア皇紀・異世界編】  作者: 嶋 秀


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第38話(卒業試験・その2)


 「イブラ・マコーミル。 準備は整ったか?」

 イリアム教師の確認に頷くイブラ。

 学年2位の成績を誇る彼の対戦相手は、キャスオン・スルーズである。


 キャスオンは、スルーズ王国の前国王の異母弟を父とする、れっきとした王族なのだが、父の母、キャスオンから見ればその祖母は、王の正妻でも側室でも無く、国王側近の魔術師の一人であった。

 それ故、その子供は庶子に当たる為、継承権を放棄することで、王族に名を連ねることが許されている。

 亡き祖母の国王護衛魔術師の血を色濃く受け継いだのか、キャスオンは幼少の頃から優れた魔力を見せており、魔術師育成の名門であるアンフルル学院に進学し、以後常に学年首席の座にある、学院きっての有名人である。



 「いくらイブラでも、キャスオン様が相手では......」

 「秒殺かな?」

 既に、卒業実技試験を終えた魔術課程の同級生達は、ヒソヒソとそんな予想を話している。

 しかし、リオだけは意外と健闘するのではないかと期待していたのだ。

 それには理由が有った。



 数ヶ月前。

 場所はイーノハ城塞。

 「シュルツェル伯爵様の客将って、君達のことだよな? リオーヌ達の戦場での活躍に、俺が治療した怪我人の全員が感謝していたよ。 それに比べて俺は、何の貢献も出来ていないような気がするんだ......」

 イブラはフラー王国民なので、予定通り従軍していたのだが、まだ高等部の生徒、しかもフラー王国では希少である魔術師の卵という立場から、戦場に出ることは許されず、得意の回復魔術を活かすべく、後方支援で怪我人の治療に専念していた。


 「そんなことは無いさ。 僕には回復魔術は使えない。 君と僕とは魔術課程の生徒という同じ立場だけど、それぞれが得意とする分野で能力を活かせれば、それで十分だと思うよ」

 停戦交渉が停滞していた頃、リオーヌはエウレイアやベールと一緒に、衛生状態が悪化の一途を辿る市内の巡察へ出た際、偶々イブラが従事していた救護施設を訪れたので、会話をする機会が有ったのだ。


 リオの慰めるような言葉にイブラは、

 「俺も魔術師の端くれとして、攻撃魔術も防護魔術も一定レベルのモノを使うことが出来る。 同じ高等部の生徒でも騎士課程の奴らは戦線に出ただろ? だから余計に歯がゆくて......」

と、不本意の本音を語り始める。

 それを聞きリオーヌは自身の思うところを話すことに。

 「僕の国は貧しく、傭兵稼業で生計を立てている者が多いことは知っているよね?」

 「おう」

 「公子であるとはいえ、かつて僕も戦場に出ていたんだ。 だから、戦いに慣れているからこそ言える真実がある」

 「そうだったのか。 道理で、尋常じゃない活躍が出来た訳だ......」

 「前線で戦うのも、後方支援で働くのも、その場で命のやり取りをしているのだから、その価値は一緒なんだよ」

 「......」

 「それに、出来ることなら命は、奪うよりも救う方が断然イイってこともね」

 リオの話を聞き、イブラはモヤモヤしていた気持ちが少し晴れるような気がした。

 それに伴い、笑顔が戻る。


 2人の会話を黙って聞いていたエウレイアとベール。

 口を挟む部分が一つも無い位の素晴らしいリオのアドバイスであったことから、2人も負傷者の救護に尽力しているイブラの肩を軽く叩き、激励の意を示すと、手を振りながらリオと共にその場を立ち去る。

 その姿を見送りつつイブラは、自身も戦いに参加していたのだと改めて気付かされ、心を入れ替えて救護に当たり、その後病人が爆発的に増加し衛生環境が最悪となる中、イーノハ城塞を去るその日まで、彼は全力で与えられた任務を全うしたのであった。


 それを人伝に聞いていたリオーヌ。

 だからこそ、実力差は歴然であっても最初から諦めることなく、今出来る全力を持って上級生にぶつかって行くのではないかと感じていた。




 「始め」

 イリアム教師の合図と共に、キャスオンは防護姿勢を取り身構える。

 卒業実技試験は、基本的に生徒側が先手で攻勢をかけ、それに対し学生側が受け切った後、反撃をする形態となっている。

 リオとセリスの対戦だけが、それに反する形で行われたが、それはリオーヌの魔剣士としての実力を知るセリスだからこそ、先制攻撃が許されたとも言えるのだ。


 イブラは先ず自身に防護魔術を掛けると、直ぐに砂塵を巻き起こし、キャスオンの目を晦ませようと試みる。

 魔術での攻撃で来るだろうと思っていたキャスオン。

 少し拍子抜けしつつ、視界を保つ為、風魔術を打ち消す魔術を放ったが、今度は突如濃霧状態となり、再び視界を遮られてしまう。

 キャスオンが放った打ち消し魔術を利用し、イブラが無風状態で最も威力を発揮する霧をタイミング良く発生させたのだ。

 そこで仕方無く今度は、霧を一気に晴らす為、風魔術で上空に向け強風を引き起こす。


 その時であった。

 イブラが、地面の表面を軽い微細な砂状に変化させた上で、同時にランダムな風魔術を乱れ打ちしたので、キャスオンが引き起こした強風によって、スタジアム内が砂嵐状態となってしまう。

 「きゃ~」

 「目が痛い〜」

 「何も見えないぞ......」

 観客達から悲鳴が上がっていたが、その時イブラは氷のソードを手に持ち、キャスオンに一気に迫る。

 予想外の状況に集中力が乱れたキャスオンであったが、直ぐに再び風魔術を打ち消しながら、防護魔術を強化。

 魔術による直接攻撃に備える。


 そして視界ゼロの中、イブラの接近に気付いたものの、予期せぬ物理攻撃が彼を襲う。

 防護魔術はあくまで、魔術による遠距離攻撃から身を護る為のもの。

 回復魔術を最も得意とするイブラ・マコーミルが、リオーヌが乗り移ったかのような直接攻撃に出るとは誰もが思ってもいない。

 意表を突いたことで、右手に把持する氷の刃がキャスオンの喉元を掠め、僅かばかりの擦過傷を負わせることに成功したが......

 危機対応能力では一日の長がキャスオンにあったことから、間一髪で刃を躱すと、風魔術を応用した衝撃波を次々と放ち、イブラのこれ以上の接近を阻止する。


 奇襲も、ここまでであった。

 一級魔術師が本気で放った強烈な衝撃波を、イブラの実力では避けることは出来ない。

 予め掛けていた防護魔術も役に立たず、遠くに弾き飛ばされてしまう。

 地面に叩きつけられたイブラの口の中は、自身の放った魔術が仇となって微細な砂に塗れていた。


 「勝負あり。 ここまで」

 イリアム教師の合図で、イブラの卒業実技試験は終了となった瞬間だった。


 思わぬ健闘に、スタジアム内はやがて拍手に包まれる。

 キャスオンがイブラに近寄り、手を差し出す。

 その手を掴み、立ち上がったイブラ。

 そして、キャスオンがイブラの手を高々と持ち上げると、拍手は一層大きくなるのであった。

 



 その後歓声の中、小スタジアム内の生徒控室に戻って来たイブラ。

 すると、クラスメイトから温かい拍手が。

 高等部の3年間、万年2位だったイブラ。

 勿論優秀な生徒であるのだが、首席のシェーリー嬢とは大きな差が付いていて、アグレッシブさに欠ける面が有ったことは否めなかった。

 そんな彼が、初めて人前で見せた挑戦する姿勢。

 戦場に赴いたという人生初の経験が、彼を大きく成長させていたのであろう。

 そのことにクラスメイトも、そして本人自身も初めて気付かされたのが、この卒業実技試験での頑張りであった。


 「リオーヌ」

 「どうしたんだい?」

 学校内でイブラからリオに話し掛けて来るのは、かなり珍しいことである。

 「君の真似を少ししてみたのだけど、あと一歩だったな〜」

 「イイ挑戦だったと思うよ」

 三級魔術師相当の実力であるイブラが、一級魔術師に認定されているキャスオンに一矢報いたのだから、相当良くやったと言える戦いだった。


 「色々とありがとう」

 「どうして僕に感謝を?」

 「君が学院に編入して現れ、戦場で英雄と称される活躍をしていなかったら、俺は失敗を恐れて挑戦出来ない、ちっぽけな人間のままだったろうからさ」

 そう答えると、少し恥ずかしそうに手を差し出す。

 イブラは学院大学部に進学せず、フラー王国軍魔術師部隊に配属され、今後はそこで実力を磨いていくことが決まっているからだ。


 リオは、その手を握りながら、

 「挑戦も大事だけど、軍に入ったら今まで通り、飄々としている方が良いと思うよ」

と意外な返答を添える。

 ちょっと驚いた表情のイブラ。

 「軍で目立つと早死にする。 それが僕が経験して来たことから導き出した、他人に言える唯一のアドバイスなのさ」 

 理由を聞いて笑い出す。

 「なるほど。 確かにそうかもな。 だがそうすると君は......」

 「僕は早死にする運命だよ。 間違いなく」

 こともなげに答えたリオーヌ。

 『詳しくは知らないが、何か達観するような険しい人生を歩んで来ているのだろう。 だから同級生なのに凄く大人びていて、あの厳しい戦況にあっても常に冷静で、敗残兵の救命だけに特化していたと聞く』

 この時イブラは、背筋がゾクッとする感を覚えていた。

 それはリオの様に、多くの命を殺めてきた歴戦の戦士だけが持つ、心の奥底に漂う凍てついたモノに一瞬触れたからであった。





 「最後の対戦は、まさかの兄妹きょうだい対決。 シェーリー嬢。 準備は整ったか?」

 「はい」

 表情を一切変えず、シェーリーが睨み付ける視線の先には、兄であるレゴールが立っている。

 妹のシェーリーが学院に入学以来、殆ど接触の無かったこの2人。

 同母兄妹とは思えない程、交流が無いのには理由が有った。


 ブレーメベルン公爵家は、レルタニア王国でも魔術師家系として随一の名門。

 王国はレ・ルタニア大帝国時代に、魔術師の大家であるエウ・レイア・シエラスを輩出して以降、西方世界の魔術師界をリードし続けて来れたのは、大魔術師エウ・レイアに実力を認められた数名の弟子達の存在が有ったからこそ。

 その中でも、ブレーメベルン公爵家の始祖レイは、最も能力が高かった。

 大帝国崩壊以後も、代々魔術師の実力者を輩出し続けているブレーメベルン家は、レルタニア王国建国の際に大きな功績を立てたこともあって、筆頭公爵家に位置付けられ、以後その地位を維持し続けている。

 ただ、他国と異なり、レルタニア王国は跡継ぎとして男系を尊重する習慣が弱く、実力が有れば女性であっても国王に就く傾向がある。

 現国王は女王であり、前身の大帝国時代も第2代皇帝アーシアは女帝。

 西方世界を一度は統一した大帝国建国当初の柱石であった大魔術師エウレイアも大魔女アイルーシアも女性だったという事実は、現代の王国内の大貴族達の跡目争いにも大きな影響を与えているのだ。


 そんな傾向のある王国の筆頭公爵家。

 その家中では、兄レゴールより妹シェーリーの方が魔術師として大成するであろうと幼少期から言われており、公爵家の跡取りの座を巡って、両者の側近達が互いに激しいライバル心を持ってしまっている。

 それが兄妹の関係に大きな亀裂を産む原因となっていた。



 「構え」

 イリアム教師の合図で相対する兄と妹。

 「始め」

という大声が小スタジアム内に響いた、そのやにわの瞬間。

 シェーリーは魔術を繰り出す前に、強大な暴風の渦に襲われ、その中心に居て防戦一方となっていたのであった......



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