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仮面の貴公子=最強の魔剣士?【エウレア皇紀・異世界編】  作者: 嶋 秀


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第34話(皇女の秘密)


 「セリスさんって、どういう人? どうして、あんなに凄い魔力量なの?」

 その後、シェーリーの質問攻めに辟易していたリオーヌ。

 大きな魔力を生まれつき持っていて、術師として独り立ちを目指し、極秘に鍛錬を受け続けてきたということ以外、リオは詳しい経緯を知らない。


 興奮状態の公爵令嬢をこの日ずっと宥めながら、皇女の秘密の多さを改めて実感したリオーヌ。

 しかし放課後には、いつものように敷地外れのボロ家屋を訪れ、ベールと軽い訓練で汗を流した後、くだらない会話を始めていた。




 「皇女様がこの学校に来るとは......大丈夫なのですか?」

 「う~ん、大丈夫じゃないね」

 「相当ヤバい?」

 「皇帝陛下の許可無しの、無断独断行動だってさ」

 リオの答えを聞き、絶句するベール。

 思わず、他人に聞かれていないか、家屋内を見渡してしまう。


 「この建物には、エウレイア様が新たな防護結界を張ってくれたから、盗聴される恐れは殆ど無いよ」

 非常に心配そうなベールの表情。

 新帝国の前身であるシーラー王国は、西方世界と東方世界の狭間に位置した王国。

 それ故、東方世界だけでは無く、西方世界でも諜報活動を続けて来た長い歴史がある。

 それが今や、大帝国となったのだ。

 どんなに遠くへ逃げても、アトラ大陸中に張り巡らされたシ・タン帝国の情報網を免れ続けるのは困難。

 それは、キョウ皇太子に従って参戦してきたリオーヌもベールも熟知しており、その恐ろしさも理解している。


 「そろそろ来ますかね? ここに」

 「必ず来るさ。 僕が授業終了後、寮へ戻っていないことを感知している筈だから」

 ベールの質問に、断定型で答えたリオーヌ。

 主語の無いその対象は、もちろんセリス皇女である。




 「何、この建物......強力な防護魔術が掛けられているわ」

 よく知っているリオーヌの魔力が、目の前の古い家屋内から検知されている。

 しかし結界のせいで、中の様子も、会話も聞き取れない。

 「どうしよう......」

 『入るべきよ、セリス』

 迷いが生じた皇女の呟きに、脳内で誰かが答える。

 

 アドバイスに従い、思い切って堂々と玄関から入ってみることに。

 「お邪魔しま〜す、誰か居ますか〜」

 ワザとらしいセリスの掛け声。

 それに対し、玄関の方を見て、苦笑するリオーヌ。

 「ちょっと、迎えてくるよ」

 ベールに断りを入れて立ち上がったリオ。

 そのまま、玄関でセリスと合流。

 隣室の応接間に案内したのだった。



 「どうぞ、空いているところに座って」

 リオの勧めに、何も言わずソファーへ。

 リオはベールの隣に座り、セリスと相対する。

 ややうつむき加減の彼女は、どこか覚悟を決めたような表情に見えなくもない。


 「魔剣が教えてくれたのだけど...... セリス、竜族最後の生き残りの方と、何らかの契約を結んだの?」

 直球ストレートな質問。

 ベールは、リオから何も聞かされていなかったので、皇女様への唐突な質問だけではなく、その内容に驚きを隠せない。


 「相変わらず、おしゃべりな双剣の魔剣ね。 でも、その通りよ」

 珍しく真剣な顔で、リオーヌを見詰めながら答えるセリス。

 いつも微笑を浮かべ、周囲に愛想を振り撒いている時とは大きく異なるその印象。

 ベールには、それが何処となく大きな翳りを背負っているように感じられた。


 「何から話そうかしら? そうだ、なんでも質問して構わないわよ」

 遠慮は要らないとセリスは前置き。

 じゃあという感じで、リオは質問を続ける。

 「どうやって、龍と接触を?」

 「大魔女アイルーシアの仲介」

 「大魔女?」

 「うん」

 「まさか、この世界に来ているの? 時間と空間と次元を自在に行き来する大魔女アイルーシアが」

 「リオの元には大魔術師の方が現れたのでしょ? それと関連して、私の元には大魔女が来たという訳」

 「過去形?」

 「用件が済んだら直ぐに帰ったわ。 『エウレアのように暇じゃないから』って言い残して」

 「なるほど。 それで、セリス。 君は何を大魔女に願ったんだい?」

 「......」

 「答えられないようなこと?」

 「ううん。 キチンと話すわ」



 姿勢を正すセリス。

 念の為、自身でも防護結界を周囲に張り、相当用心している様子だ。

 「ここに来る前、お祖父様から改めて、鎮軍大将軍マヤ・カトルの元に嫁ぐよう強く命令されたの」

 「でも以前から、この件に関する経緯を色々調べて来た結果、かつて彼は亡くなったエイリン叔母様との婚姻を散々引き延ばしていたことが判明。 色々な理由を付けてね」

 「エイリン様との結婚は望んでいなかったということか......」


 「その結果、エイリン様は血の舞踏会で亡くなった。 すると今度は、まるでそれを待っていたかのように、新たに代わりの皇族の降嫁をお祖父様に求め始めたのよ」

 「そういう裏があったんだね。 もしかして、血の舞踏会への手引きや、敵を唆したのも彼かな?」

 「さあ、そこまでは。 あの時私達は子供だったから、今更真相に辿り着くのは無理よ」

 残念そうなセリスの表情。

 皇女もリオと同様の考えに至ったのであろう。

 『カトルは、新帝国に従順では無い。 何らかの野心を抱いている』

 ベールも2人の会話を聞き、そのように感じていた。


 「ゴメン。 続けて」

 「生き残った皇族の女性は、お祖父様の長女で最年長のメーリン伯母様と、私。 それに、お父様の妹の子イエモネの3人だけ」

 「たった3人なのか〜。 イチ傭兵だった俺には詳しいことはわからんが」

 思わず、感想が口に出たベール。

 話しの邪魔をしてしまったかと、ちょっと焦った仕草と表情に。

 それを見て、セリスが「ふふっ」と吹き出す。


 「メーリン伯母様は当時齢45。 当然対象外でしょ? カトルの相手として実質的な候補は、私と5歳歳下のイエモネ皇女のみ。 ということは」

 「最初からセリスを狙っていたってことだね。 子供の頃から『魅了』の能力を持つことで有名だった君を」

 「恐らく......」


 「現在のカトルの思惑とその目的について、セリスはどう考えている?」

 「お祖父様亡き後、イエモネ皇女の兄で、もう一人の皇太子候補であるシーラー・ロネンを擁立し第2代皇帝に据え、傀儡にする気なのだと思う。 私と婚姻すれば、弟のキョウを支持する勢力を一定程度封じ込められるでしょ?」

 「それなら皇女様が拒否した以上、カトルはイエモネ皇女と結婚しても良さそうだぞ。 ロネン皇子をより傀儡にし易くなるだろ?」

 「イエモネはダメなのよ」

 「どうして?」

 「だって、美人じゃないわよね?」

 「帝国に居た時、そいう噂は全く聞かなかったな〜」

 「お祖父様が確認したところ、カトルから拒否されたそうよ。 『醜女は勘弁して欲しい』と」

 セリスとベールの会話を聞きながら、考え込むリオーヌ。


 そして、

 「これは僕の考えだけど、一番は君の『魅了』を悪用するつもりじゃないかな。 次期皇帝を正式決定する御前会議で、カトルが皇女である君を伴って意見を述べれば、魅了の影響でその場に居るほぼ全員が、カトル・セリス夫妻への熱狂的な支持を表明してしまうだろ? 貴女の意思で制御出来ない『魅了』の能力は、大事な会議の席でこそ、最大限の利用価値が有るんだよ」

 「そうなるかもね」


 「カトルはあの若さで、将軍としての地位はキョウ皇太子とほぼ同格の儀同大将軍(大将軍格の鎮軍将軍という意味)。 ヤーン州全域を私領にしていて州牧を兼ねているから、行政官としての地位も非常に高く、能力・実績もかなりのものだ」

 「帝国内で、彼以上に実力があるものは皇帝と皇太子以外居ないものね」

 「当然、あらゆることに自信満々だし、であの性格だから、セリスを従えるのは容易だと思っている筈だよ。 結婚して外戚となり、君の魅了を利用して、次期皇帝の議論を自身に有利な方向へ導く。 そういう皮算用を間違いなく立てているね」

 「だろうな。 一発ヤっちまえば、女なんて自身の支配下におけると考えているだろうぜ、アイツ」

 ベールのぶっきら棒だが、ごく一般的な言い回しが余程可笑しかったのか、セリスが笑い出す。

 そして、笑いが止まらない。

 徐々に不気味な笑い声へと変わる。



 「大丈夫? セリス」

 「もちろん。 男って、そんな風に考えるんだと思ってね」

 「清楚で可憐な深窓の御令嬢。 温室育ちで、普段侍女に囲まれて甲斐甲斐しく世話をされ、男を知らずに育ったというのが皇女セリスの表向きの姿だよね」

 「そんなの演技で作った虚像よ。 皇女はかくあるべきという見本の様な存在を求められたから、それに従って見せただけ」

 「だからさ。 カトルの様にモテモテで、女を毎日のように取っ替え引っ替えしている自信家の遊び人なら、セリスのこともベールが言った様に考えているだろうね」

 「ふ~ん、そういうものなんだ」



 「それで? 急に西方世界にやって来た理由は? 何が有ったの?」

 「私も結構悩んだのよ。 シーラー王家をこれ以上無いという地位にまで引き上げた一族の長であるお祖父様の意向に従うべきだということは分かっているから。 皇族である以上は」

 「そうだね」

 「皇女なのだから、当然、皇帝の勅命には従わねばならない。 たとえ意に添わぬ相手との結婚を命じられても」

 「......」

 「私が平凡な女性だったら、多分そうした。 でも、私には強大な魔力が存在するし、術師としても特別な才能が有る」

 「なら嫁いだ後、いつでもカトルを暗殺出来るのでは? アイツも魔力所有者だけど、術師としてはランク5位の筈だし」

 「だから私は、特定の権力者に嫁ぐべきでは無いの。 国の行く末を特別なこの力で容易に左右出来てしまうから」


 「それで僕のところに? 僕も小国の跡取りだから、一応権力者の端くれだよ?」

 「リオは貴方自身が『魔剣士』という特別な存在。 国主となるにあたって、私の能力を悪用する必要性が無いじゃない?」

 「セリスは、自己の意思に反して、その能力を使いたくないし、使われたくない。 それだけは絶対に譲れないってことか」


 「見舞いに南宮を訪れた際、お祖父様から近いうちに私への勅命が出されるとレイオル様から聞いてね。 それで、どうすべきか、神託を求めていたら、アイルーシアが目の前に現れたの」

 「大魔術師エウレイアの様子を見に現れたのかな?」

 「よく知っているわね。 彼女もそう言ってた。 異世界に移動すると、自身の末裔である人物の居るところに出てしまうんだって」

 「ほ〜、ここにエウ・レイアが現れたのも、公子が末裔だからって言ってたな【ベールの会話】」

 「うん【リオの会話】」


 「偶然の出会いだけど、彼女に相談してみたの。 幾つかの今後の行動パターンに対し、それぞれの私の未来がどうなるか?って。 そうしたら、取引を持ち掛けられて、承諾したら直ぐ確認してくれて......」

 「未来を確認?【リオの会話】」

 「そんなことが出来るのか? 大魔女は【ベールの会話】」

 「もちろん、詳しいことは教えてくれないわよ。 それだけで彼女が見た未来も変わってしまうから」

 「そうなるよな【ベールの会話】」

 「当たり前だね【リオの会話】」


 「私の願いは、リオーヌとずっと一緒に過ごすこと。 更に少し幸せになれれば、あとは何も望まない。 それだけを加味して占って貰ったの」

 「ひゅ〜ひゅ〜」

 「今後について、私の選択毎の結末予想を聞いた結果、カトルへの降嫁を拒否することを決断して、今ここに居るってこと」

 「......」

 「ただし、茨の道になるって。 私だけでは無く、リオにとっても、行動を共にしているベールさん達にとってもね」

 セリスは最も険しい表情に。

 『恐らく、相当厳しいことを言われたんだな。 学院に居られなくなるだけではなく、大公国にも戻れず、居場所が無くなるのかも』

 リオは皇女の様子から、そんな直感を得ていた。


 「道を示した代わりに求められたのが、最後の竜族『ファラファロ』さんに、私自身を提供すること。 これがアイルーシアの提示した取引なのよ」

 「えっ」

 「アイルーシア様が約500年前に竜族と約束したことを果たす為なんだって」



 ここで雰囲気が一変。

 「心配するな。 私はセリスを煮たり食べたりしないから」

 急にセリスの口調が変わる。

 ファラファロと名乗る竜族は、皇女の代わりに自身で説明するようだ。

 「竜族は肉体が滅んでも、魂が残ってしまう」

 「怨霊みたいになるってこと?」

 「呪うつもりは無いのだが、言い得て妙だな。 そのまま放っておくと、災厄が発生。 厄介だろ?」

 「確かに困りますね」

 「だから、キチンと黄泉の世界まで送り届ける必要があってな。 同族が生きていれば、竜族だけが持つ膨大な魔力で成仏させられるが、私は最後の生き残り。 私の魂とそれに付随する魔力を消し去れる同族が存在しない」

 「成る程」

 ファラファロに代わったセリスは無表情だ。

 ただ会話をするだけの機械になった様に見える。


 「代わりに、私を受け容れられる器を持つ人間が居れば、それに憑依?し、その人間が亡くなった時、私の魂と魔力も綺麗に消滅することが出来る」

 ファラファロは、自身が亡霊となり、魔力の残滓で世界を困らせたくないのだ。

 かつてこの世界で長く栄えた誇り高き竜族が完全滅亡する以上、辰鳥跡を濁さずを完全実行しておきたいという強い意思であった。


 「今、この世界にセリス・グドールという、私を受け容れられる器が現れた。 だから、大魔女の常識外れの術で、セリスの中に私を遷移させて貰ったのだ」

 「貴女の肉体は?」

 「今は、中央山岳の最高峰、その直下にある崩れかけた洞窟内で朽ち果てている。 いつか化石となって発見されるかもな」

 「そうでしたか」

 「私がセリスの中に入ったことで、彼女の魔力はより強大になった。 だが油断してはならぬぞ、リオ、それにベールよ」

 「はい」

 「お〜」


 「今後は偉大な私の力も関与するようになるが、それでも茨の道になると大魔女アイルーシアは仄めかしていたぞ」

 「ファラファロ様が関わらなければ?」

 「お前達は全員、敵の刺客に襲撃され、命を取り留めたとしても、死ぬまで逃亡者とならざるを得ん。 世界の半ばを支配することになる一人の男によってな。 即ち、セリスの願いは叶わないということになる」

 「随分具体的ですね」

 「マヤ・カトルが支配者になるのか〜。 流石竜族。 未来を予見出来るとは」

 「一つの可能性を示しただけだ。 私にはアイルーシア程の能力は無い」

 「分かっています」

 「そうそう、公子は強者を誂うのが好きだからな」

 「なるべく平穏に過ごしたければ、カトルとかいう奴が権力者になるのを防ぐしか無いな。 どうすべきかはお前達でよく考えて行動しろ」

 「協力してくれないのですか?」

 「セリスは私の魔力を使うことが出来る。 それで十分だろ?」

 「いや......まあ、そんなところですかね〜」


 「そうだ、セリスの願いに配慮して、最後に一つ断りを入れておこう」

 「???」

 「リオーヌよ。 セリスとヤッても、私は一切関わらないから安心しろ」

 急な話題転換に、赤面するリオ。

 先程セリスの恋の告白が有ったことから、以後ポーカーフェイスを気取りながらも、実はかなり意識していたのだ。

 「竜族は人間の交尾に興味は無い。 セリスが起こさない限り、私はずっと眠りに就いているから、余計な気遣いは何も要らないぞ」


 気付くとファラファロの存在は消えていた。

 「あら、眠っちゃったみたい。 時が来るまで魔力で寿命を引き延ばし、人間の姿で生き続けてきたから疲れたって言ってたわ」

 元に戻ったセリスの説明を聞き、ホッとした様子のリオーヌ。

 まだまだ誂われ続けそうな雰囲気が有ったからだ。




 肝心な話は終わり、静寂に包まれ始めた室内。

 「邪魔者は退散しますから、お二人でごゆっくり〜」

 ベールはニヤニヤしながら立ち上がると、口笛を吹きつつ、そそくさと古びた家屋から出て行く。

 「何処に行くのかしら?」

 「夕ごはんを食べに、学院の外に出るのだと思う」

 「ふ~ん。 気を遣ってくれるのは、ファラファロだけでは無いのね」

 あえて皇女から意識を逸らそうと、視線を外すリオ。

 しかし、セリスはその先にひょっこり現れる。

 そんなことが続き......

 やがてリオは、セリスの強力な魔力で、自身の正直な気持ちを白状させられ......


 「相思相愛だとハッキリしたんだし、学院の規則によると、寮では無い、ここならシても問題にならないわ」

 わざとらしくリオーヌに、ひとこと確認をするセリス。

 やや渋々な感じで頷いたが、それでも煮え切らない態度のリオ。

 主君筋で有る女性に、自分から手を出せないというブレーキが掛かっているのだ。

 歳上の自分から積極的に誘わないと、これ以上の進展が望めないと判断。

 意を決したセリスは、非常に行動的だ。

 漸く、ファラファロとベールが気を遣った通りの展開へと進み出したのであった......


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