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仮面の貴公子=最強の魔剣士?【エウレア皇紀・異世界編】  作者: 嶋 秀


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第33話(友人を作るべき?)


 翌朝。

 リオーヌは、大学部の上級学生寮のレストランに居た。


 昨晩は、セリス皇女に自室へ戻ることを許されず、一晩を皇女の部屋で過ごす羽目となっていたのだ。

 成人した者が学ぶ大学部とは言っても、寮内での男女関係を疑われる行為は、処罰の対象になる可能性が有る。

 そこで、部屋を出る時は、セリスに変幻術を掛けて貰い、侍女のフリをしていた。



 「どうしたのですか、リオーヌ。 朝ご飯は1日を過ごす上で最も大事ですよ」

 豪華なハーフフルコースの朝食を目の前にして、あまりフォークが進んでいないリオ。

 朝食を沢山食べる習慣が無いのが原因の一つではあったが、

 「いや、周囲の視線が気になって......」


 この高級レストランで、朝食を摂っている学生達は、殆どが高位貴族の師弟か、大富豪の子息。

 その家の執事か侍女が一歩控えた場所に立っていて、学生は一人優雅な感じで静かに食べている者しか居ない。

 しかし、セリスはリオーヌを連れ、相対して食べ始めている。

 しかも、大学部注目の美人転入生。

 昨日の『許婚宣言』も有り、更に注目の的となっているのだ。


 「リオはこういう雰囲気が苦手で落ち着かないのね、ふふふ」

 何だか妙に楽しそう。

 きっと、新たな弱点を発見したと思っているのだろう。

 「セリス様は、気にならないのですか?」

 「私? もう慣れっこですからね」

 「慣れてらっしゃる?」

 「常に周囲から、私の一挙手一投足をじ〜っと見詰められる。 そういう生活が長く続いていて、窮屈で」

 「お姫様ですものね。 確かに」

 「だから、修行を励んじゃったの。 山に入れば皆平等の扱い。 それが嬉しくてね」

 優雅な手つき。

 西方世界流スタイルで食べ進むセリス。

 それを見詰めながら、

 『いつの間にか、このようなマナーも身に付けていたんだな』

 そんなことを考えながら、リオも食べ続けるのだった。




 出征していた者達が帰国したばかりのアンフルル学院。

 彼等彼女等が不在の間も、残った学生生徒だけで授業は続いている。

 その為、リオーヌも食事を終えると、勉学の遅れをこれ以上広げないよう、早速高等部の教場へ向かうのだが......

 何故か、セリスも一緒に付いて来たのだ。


 「セリス様」

 「なに? リオ」

 「もしかして、暇なのですか?」

 「どうしてそう思うの?」

 「勉学に励む者は、朝って忙しいじゃないですか。 それは大学部の学生であっても同じ筈」

 「私はそうでも無いわ。 魔術で準備なんて、あっという間よ」

 「で、どうして僕と一緒に高等部の教場へ?」

 「あら。 私が一緒だと恥ずかしい?」

 「いえ、そういう訳では」

 「魔術課程の皆様に一度挨拶をしておきたくてね。 進学すれば、魔術学科で私の後輩になる子達だから」

 「......」


 長年の付き合いなので、リオーヌにはセリスの狙いが概ね分かっている。

 リオは自分のモノだと、リオの同級生達に宣言しておきたい。

 それに自身の存在感のアピールも。

 その為、魅了の能力で、みんなを自身のファンにしてしまうつもりなのだろう。


 「嫌なの?」

 セリスは立ち止まると、その美しい顔でリオを覗き込む。

 少し瞳を潤ませながら。


 その様子を、教場に向かう高等部の生徒達も興味深く見ている。

 誰もが足を止めてしまう。

 それ程にまで、皇女セリスは美し過ぎるのだ。


 「わかりました、わかりましたよ。 セリス様のお考え通りに行動して貰って構いません」

 「物分かりが良くて宜しい」

 これから、教場で起こるであろう、大騒ぎな出来事を思うと、

 「ふ~」

 一つ溜め息。

 それを見たセリスは、物凄く嬉しそうに微笑むのだった。




 時は遡って、前日の夜。

 エルリック王太子は帰校後、リオーヌを探していた。

 一緒に出征していた多くの学生・生徒達を率いて、アンフルル学院到着したのは、リオーヌに遅れること4時間余り。

 すっかり暗くなっていたが、多くの出迎えを受け、短時間だが盛大な帰還式が行われたのだ。

 それらを終え、数ヶ月ぶりに豪奢な部屋へ戻ると、留守をしていた側近達を見渡しながら、リオーヌのことを尋ねる。

 主役の一人として、帰還式典に出席すべきなのに、姿を見せなかったリオーヌ・ディアナ。

 王太子の、戦場における何度かのピンチで、リオがその都度凄絶な剣術で敵を追い払ってくれたことや、それに何と言ってもリオの連れて来たエウレイアの配慮が無ければ、堂々と帰還出来なかっただろうことに思いを馳せ、ひとこと礼を言っておきたかったのだ。


 「リオーヌの姿を見た者は居ないか?」

 周囲の者に確認したものの......

 先に帰校したのは間違いないが、側近達全員が王太子殿下を迎える式典の準備に追われ、イチ生徒の動向に注意を払っていなかったのだ。


 「申し訳ありません。 彼を率先して出迎えた大学部の女子学生が、そのまま大学部の建物に連れて行くところ迄は確認していますが、その後は......」

 一人の側近が、状況を注視していたものの、特段の動きは無かったので、そこで追尾を打ち切っていた。


 返答を聞き、エルリックは考える。

 『夜も更けたし、日を改めるか』

 「明日、教場に居るだろうしな。 皆、ご苦労だった」

 その言葉に驚きを隠せない側近達。

 今までの王太子だったら、最後のひとことは絶対に言わなかったであろうから。



 控室に下がると、側近達はガヤガヤ。

 「どうしたんだ、殿下は?」

 「だいぶ人が変わったように見受けられる」

 「お前もそう感じたか?」

 「俺もだよ」

 「敗戦と聞いたから、当たり散らされるのを覚悟していたが......」

 「あんなに落ち着いているとは......」

 「しかも、我々を労う配慮を見せるなんてな」

 「いったい、戦場で何が有ったのだ?」

 これが良い変化であることを期待し、全員の表情が少し明るくなっていたのだった。



 帰校後の翌日の朝。

 今までより、少し早く教場に入ったエルリック王太子。

 「おはようございます、殿下」

 「お疲れ様でした、殿下」

 「無事のご帰還、安心しました」

 「戦場はどうでしたか?」

 多くの同級生、特に一般課程の生徒達から声が掛かる。

 それに対し、軽く返事をしながら、魔術課程の連中が座っている方向を見やるも、リオーヌの姿は無い。

 「まだ来て居ないか......」

 その呟きに、

 「誰かを探しておられるのですか?」

と質問される。

 「いや、なんでも無い」

 そう言いながら、普段通りの指定席に座った王太子。



 数分後。

 廊下の方で、ザワザワする声が響き出す。

 それに気付き、エルリックも教場の出入口を振り返ると......

 リオーヌが入って来た。

 思わず、反射的に立ち上がり、数歩リオの方に歩き出し、声を掛けようとした時。

 リオーヌの後に続いて、見たことのない美女が教場に現れたのだ。

 「きゃ〜〜」

 「うそ〜」

 女生徒達の悲鳴があちらこちらで上がる。

 廊下の方からも同様に。

 

 「なんだ? いったい、何が起きている?」

 帰国したばかりで、学院内の状況のわからない王太子が声を上げるも、騎士課程の生徒達は全員一緒に戦場へと従事していたので、答えられる者もセリスのことを知る者も居ない。

 「すげ〜な〜」

 「今まで生きて来た中で、あんな綺麗な女性ひと見たこと無いよ」

 一目見た感想や感嘆の声が聞こえるだけだ。



 すると、直ぐに一般課程の生徒達がセリスの方に群がり始める。

 「どうして、高等部の教場に?」

 「セリス様に来て頂けるなんて、光栄です」

 「こんな間近で見られるとは......」

 「今日は、許婚のリオーヌ君の付き添いですか?」

 中には感激で涙ぐむ生徒も出る状況。

 次々と掛けられる色々な質問に、皇女は笑顔で、

 「皆さん、落ち着いて。 ひとまず席に座って下さいね」

 大学部の学生らしく、大人な対応で盛り上がり過ぎの雰囲気を鎮めると、その様子を眺めながら立ち止まっていたリオーヌの右腕に自身の腕を絡める。

 一連の流れに、

 『魅了の能力の効果は、相変わらずスゴいな〜』

 呆れた表情を見せながらも、内心では考えているリオ。

 そして、いつもの席の方へ移動を開始。

 セリスと並んで座ったが、直ぐ魔術課程の生徒達に囲まれてしまう。



 「アイツにだけ、何故美女が入れ替わりで現れるんだ?」

 思わず、騎士課程の仲間達に問い掛けるエルリック。

 それに答えられる者は居ない。

 戦場で一緒だった騎士課程の生徒達も、王太子と同じ感想を抱いただけ。

 『礼を言う気持ちが失せるわ。 奴だけ特別な褒美を貰っているようなものなのだから』

 考えを改め、ひとまず自席に戻った王太子。

 そして、いつもの仏頂面で、魔術課程の方に視線を送るのだった。

 

 


 セリスは集まって来た魔術課程の生徒達の魔力量を見極めている。

 こういう専門課程では、実力のある者が、クラスの中心人物だと考えられるからだ。

 やがて、最も魔力量の高い人物を発見。

 それは、輪に加わらず、近くの席に座ったまま、セリスに興味を抱かず、遠くを見やっている生徒であった。


 「リオ。 あちらに座っている生徒さんは?」

 「シェーリー・ブレーメベルン公爵令嬢ですよ。 レルタニア王国の大貴族出身の方です」

 「ほ〜〜、シェーリーさんね」

 すくっと立ち上がり、数歩移動。

 セリスは、シェーリーの目の前に相対して座り直した。


 何が起こるのだろう。

 生徒達は期待と不安半々で、セリスの次の言動に注目。

 睨み合っているようにも見える2人の美女。

 一方、リオは興味なさそうに授業の準備を始めている。

 先に口を開いたのは、意外にもシェーリーの方。

 「学内を騒がせている美人学生さん。 私に何か用でしょうか?」

 「貴女、凄い魔力量ね。 きっと、この課程の首席なのでしょ」

 「ええ、まあ......」

 「私とお友達になりませんか?」

 突然のその誘いに、全員が驚く。


 「えっ」

 「嫌ですか? 身分卑しいオバサンの私では......」

 「私は、身分とかいうくだらない理由での差別が嫌いなのです。 それに少し歳上というだけでオバサンなんて思いません」

 「では挨拶代わりに、これを差し上げます」

 セリスがシェーリーに差し出したのは、伝説の魔導具『龍の吐息』を模したブレスレット。

 大魔女アイルーシアが竜族と協力関係を結んだ際、竜族から贈られたと言われている特別な腕輪のレプリカだが、本物のレプリカであれば、持主の魔力を一時的に倍加させる効果が有るらしい。


 「これは非常に貴重なモノの筈。 何故私に......」

 セリスの相次ぐ申し出に、驚きの連続のシェーリー。

 しかも、人を魅了させる特殊能力を同時に使っているので、その容貌も相俟って、周囲の生徒達はメロメロ状態。

 ただ、魔力量の高いシェーリーに対して、『魅了』は無効のようだ。


 「これは、セリスさんの能力なのかしら?」

 自分達を取り囲む同級生達の異様な盛り上がりの雰囲気に気付き、一応確認する。

 「私の意思に関わらず、魔力を使う時、自然に溢れ出ちゃうの。 でも、貴女には効いていないでしょ? そういう方だから、お友達になりたいって申し出させて頂いたの」


 暫く考え込むシェーリー。

 自身の魔術師としての能力を評価した上での申し出だと理解し、嬉しさを感じている。

 しかし、今初めて話をしたばかりだし、折角の機会だが、一旦保留して後で返事をすべきだろうか。

 即答することに、迷いを生じていたのだ。


 最後の一押しが必要と判断したセリスは、自身の魔力量を隠すのを止め、ありのままを見せる。

 それに対し、大きな驚きを見せたシェーリー。

 「セリスさん。 貴女はいったい、何者?」

 自身と比較してみて、圧倒的な差。

 昨日、レンから聞いた情報。

 特級魔術師級だという評価は正しくない。

 そんなレベルの魔力量では無かったからだ。

 人間がこれ程の魔力量を持つことが出来るのだろうか?

 恐らく、母国レルタニアの魔塔主を遥かに超越した、東方出身の魔術師というのがその正体。

 そのことに、ただ一人だけ気付き、覚悟を決める。

 「わかりました。 私で良ければ」

 「良かった〜。 断られたらどうしようかと」

 セリスは満面の笑顔で答える。


 

 その後、二言三言会話して『龍の吐息』を腕に嵌めてあげると、リオの元へ。

 「セリス。 用件は済んだ?」

 「ええ。 思った以上の方に出会えたわ」

 そう答えると、

 「じゃあ皆さん。 ご勉学に精を出して下さいね。 そして、進学後は一緒に鍛錬出来ることを楽しみに待っています。 お邪魔致しました」

と言い残し、教場を出て行ったのだった。

 


 

 『ダィン、気付いた?』

 『もちの、ろん。 ティルも?』

 『あたり前田のクソ坊主よ』

 脳内に響く魔剣の会話。

 気になったリオーヌが口をモゴモゴさせながら、質問をする。

 『令嬢と話をしていたセリスのことだよね?』

 『決まっているじゃない? リオは呑気ね〜』

 『普段と変わらなかったと思うけど......』

 『リオは気が付かなかった? さっき、セリスの瞳が一瞬、ドラゴンアイになったんだ』

 『ドラゴンアイ?』

 『竜族だけが持つ特別な魔力放出方法でね。 時間を一時的に止めて、相手が何も出来ないうちに、膨大な魔力をぶつけるんだよ。 その時、独特な瞳の変化をする』

 『時間が止まるのなら、僕に分からないのも当然だよね』

 『あっ、そうか〜』

 ダィンとティルは、盲点だったと少し反省。

 自分達の主君の魔力量は絶大だが、魔術師としては大した能力を持っていないことを忘れていたのだ。


 『そもそもの疑問なんだけど、竜族って今も本当に存在するの?』

 リオの確信を突く質問に、押し黙るダィン・ティル。

 かつては実在した。

 魔剣にも、それ以上のことは分からないからだ。


 そこでティルが、過去の思い出話を始める。

 『今から500年位前の時点で、2頭しか生き残って居ないって聞いたわ』

 『双剣は、会ったことがあるんだね』

 『うん。 あの時は、大魔女アイルーシアが彼女等と契約したのさ。 相互に互恵な関係を結び、直接的な攻撃力も防御力も持っていないアイルーシアは欠点を補う為、竜族の力を借りることに成功した』

 『なるほど。 ただ、まだ生き残っているかどうかは分からない神秘な存在って言ったところか......』

 魔剣の説明に頷くリオーヌ。

 実在していたことに疑いは無いという。


 『でも龍の瞳は、竜族と契約を結ばないと自分のモノに出来ない筈よ。 ということは』

 『セリスが何らかの契約をしたってこと?』

 『リオ。 これは当人に確認すべきだよ。 竜族の強大な力を手に入れた彼女が、それでもここに逃避して来たってことは、いずれ大きなトラブルに巻き込まれると見るべきだし』

 『私もそう思うわ。 彼女が公爵令嬢に向けて一瞬だけ放ってみせた魔力量は尋常じゃなかったから』

 『......』

 『セリスが絡むと、リオは言いなりだからね〜』

 『好きなのはわかるけど、彼女には何らかの思惑がある筈』


 確かに双剣の魔剣が言う通りであろう。

 よく考えてみれば、皇女セリスの行動と時間軸が余りにも不整合なのだ。


 新帝都オウランに居た筈の皇女が、両帝国間の停戦に関する報告をキノルザ・オグニから受けた後、極秘に帝都から抜け出したのなら、戦いを終えて帰国の途に着いていたリオーヌ達より先にシャンベルタへ到着するのは不可能と見るべき。

 魔術で瞬間移動すれば不可能では無いが、あの大魔導師エウ・レイア・シエラスでも、そんな長距離の瞬間移動魔術は使えないと言っていたし、そもそも瞬間移動魔術は消費魔力量が大き過ぎて、極秘行動には向いていないという。

 一度使えば、回復に相当な時間が掛かるし、空間に大きな衝撃波を生じるので、術師が居れば、消失点と出現ポイントを容易に探知されるという欠点がある。


 複数人の追跡を受けた場合、魔力の回復途中に襲われでもしたら、セリスがランク9以上の術師であっても、ひとたまりも無い。

 しかも、アンフルル学院に向かう道中、皇女は実母の母国にも立ち寄った旨を匂わせていた。


 「肝心なことを聞いていなかったね。 何故、西方世界に、しかも僕の元に来たのか。 その理由と考えを」

 セリスの登場で、何だかざわついたままの授業開始前。

 リオは考えを纏めると、なんとなく放心状態のシェーリーの隣に座り直し、話し掛けるのであった。

 

 

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