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仮面の貴公子=最強の魔剣士?【エウレア皇紀・異世界編】  作者: 嶋 秀


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第32話(本性とか......)


 「へ〜、やっぱりお姫様が入る寮は立派だね~」

 リオーヌは、セリスに連れて来られたアンフルル学院大学部の上級学生寮に入るなり、キョロキョロしっ放し。


 「別に大した造りじゃ無いわよ。 リオも帝国の豪華な新宮殿を見ているでしょ。 それに比べたら、全然」

 セリスは、貧乏公子丸出しのリオに呆れている。

 それは部屋に入っても、変わらない。

 「部屋も広いね〜。 僕が入っている寮とは大違いだ」

 感心しきりで、あちらこちらのドアを開けて、部屋の間取りを確認している。

 一方の皇女セリス。

 そんなリオのことは放っておいて、

 「ああ~、疲れた〜」

と言いながら、真っ先に着ていた高級コートをソファーの背もたれに放り投げると、ベッドの上に転がり込む。



 暫く経ってから、リオーヌを手招き。

 「で、リオ。 戦場に連れていたあの美女は誰? 今は何処に?」

 ムッとした顔で、質問を始めたのだ。

 「美女って、セリス様のことですか〜?」

 「はあ〜〜?」

 しらを切ったリオーヌに対し頭にきたので、横臥したまま魔術で雁字搦めにするセリス。

 「痛、たたた......」

 リオの苦痛の叫びを聞き、更に強く締め上げる。


 痛みに耐えつつ、どうすべきか少し迷うリオーヌ。

 だが、セリス皇女は天才的な術師であるし、

 『エウレイア様のことを誤魔化す必要は無いかな。 信じて貰えるかわからないけど』

 そう決断して、事実を語ってみることに。


 「あの女性は、異世界から来た方です」

 「異世界? そんな言い訳が通用する筈無いでしょ?」

 「いえいえ、本当ですって」

 術の見えない縄で、益々厳しく縛り上げるセリス。

 まだ嘘を付いていると思っているからだ。

 するとリオの両腕から、ダィンとティルが魔物の姿で出て来た。

 主君の大ピンチと判断しての緊急登板だ。

 「セリス〜。 リオは嘘を付いていないよ」

と言いながら。


 「あら〜、久しぶり〜。 2人共、相変わらずカワイイ〜」

 表情が一変し、2体の小さな魔物姿の魔剣を笑顔で抱き締める皇女。

 「セリスも益々綺麗になったね〜」

 魔剣による露骨なお追従だが、機嫌が一気に良くなる。




 その後、主人の為、前後の事情を詳しく説明したダィンとティル。

 それを聞き、漸く疑いが晴れたのだ。


 「なんだ〜。 最初からそう言ってよ〜」

 縛り上げたままのリオーヌの背中をバンバン叩き、非常に嬉しそうなセリス。

 「外面そとづらと本性が、余りにも違い過ぎるんだよな〜」

 小声で文句を呟くリオ。

 もちろん、地獄耳のセリスが聞き漏らす筈は無いのだが、あえて自身がしたことを無かったことにする為、聞き流してあげる。


 「僕の言うことは信じないのに、魔剣の言葉は信じるんだね?」

 「だって、人間は直ぐ嘘を付くけど、魔剣は嘘を言わないでしょ?」

 リオーヌの不満に、セリスは明快な解答を示す。

 余りにも正鵠を射た説明で、ぐうの音も出ないリオ。

 

 「ふ~」

 リオが溜め息を一つ吐いている間に、セリスは尋問を再開。

 「まあ、浮気したことは赦してあげる」

 「浮気って......」

 「正式には許婚じゃ無いけど、私の中ではリオとの関係は許婚なの。 リオが帰国する時、弟から私の意思を聞いたわよね?」

 「ええ。 そう言って貰えたのは嬉しいですが......」

 「やっぱり〜。 そうよねえ〜。 私のような素晴らしい女性から求婚されれば、誰しもが光栄に思う筈」

 「セリス様が非常に魅力的な女性だということを否定はしません。 でも、お祖父様を説得出来ないのでしょ?」


 『結局、いつも同じ話になるんだよな〜』

 現実の厳しい状況を指摘するリオーヌ。

 「ううう、その点が。 解決出来ない大問題よねえ〜......」

 「では、無理じゃないですか」

 「無理じゃないわ」

 「無理ですよ。 相手が相手ですから」

 「絶対大丈夫。 そろそろくたばるでしょ? あのクソじじい」

 「セリス様。 口が悪いですよ」


 いつの間にか、セリスの魔術から脱していたリオーヌ。

 子供の頃から、本性はガキ大将気質のセリスの、このような行動に慣れているので、無駄な抵抗をしなかっただけだ。


 「ところで、どうしてこんな遠くまで」

 「あの爺様が、私を無理矢理降嫁させようとするから、手の届かない所に逃げるしかなかったの」

 「本当ですか?......降嫁の相手は」

 「帝国の若き英雄。 鎮軍大将軍のマヤ・カトルよ」

 「なるほど。 彼ね〜」

 「鎮軍将軍に相当な能力が有るのは認めるわ。 見た目がイケメンってことも。 でも、あの尊大な性格が大嫌いなの。 女を自己の所有物のように扱うところも含めてね」


 鎮軍大将軍は、シュン皇帝がシーラー王国時代に、『遠交近攻』戦略に基づき、同盟を結んだ東方世界の最北東端にある北ヤーン国という小国出身。

 同盟締結時、北ヤーン国国主の嫡男であったカトル。

 盟約に基づき、その後病床に伏せてしまった父に代わり北ヤーン国の軍勢を率い、多くの戦いにシーラー王国側として参戦。

 戦術家として優れた能力を有しており、やがて知勇兼備の名将との評価が定着。

 戦乱を終結させるに、輝かしい実績を残した若き英雄の一人だ。

 高齢の上大将軍ホージョ・レイオルが亡くなれば、キョウ皇太子を除き、彼がいずれ軍の実戦指揮官のトップになるだろうと言われている将来有望な逸材。

 だが、イチ魔剣士であるリオーヌとはソリが全く合わないのだ。


 カトルは、戦乱最終盤に登場し、大きな功績を続けて立てた10歳歳下のリオーヌが、キョウ皇太子と親しい間柄ということもあり、皇帝が代替わりした後の権力争いでの大きな障害になると見てライバル視しており、

 「只の暗殺者が過大評価されるのはオカシイ。 軍を率いて敵を破り、その領土を征服・併呑出来る者こそ英雄なのだ」

と言って憚らない。


 シュン皇帝は、同盟締結当初よりカトルの亡き父と、然るべき王族(現在は皇族)を降嫁させ、強力な婚姻関係を結ぶ約束をしていた。

 ただ当時の東方世界は戦国時代真っ只中。

 勝利と敗北・合従連衡や裏切りの連続という厳しい情勢が両国共に続き、先延ばしが続いたのだ。


 そして、シーラー王国が東方世界の北半分を統一したことで、ようやくカトルの父の遺言となっていた約束を実現出来る見通しがたったものの......

 『血の舞踏会』で、カトルの元に降嫁予定だったシュン国王の末娘エイリンが死亡。

 自身の油断も有って生じた王族大量暗殺テロによって、婚姻の約束を反故にする形となったことから、皇帝はかなり負い目を感じていた。

 そこで、生き残った数少ない皇族から、最も見目麗しい孫のセリスが成長するのを待ってエイリンの後釜として充てがい、マヤ親子二代の大きな功績に報いようと考えているのだった。



 「家出?」

 「もちろん、身代わりを残してきたわ」

 「身代わりって、侍女に術を掛けて、見た目をセリス様にしただけだよね?」

 「流石ね〜、リオ。 私のことをよく分かっていらっしゃる」

 「はあ......今頃、大騒ぎってところだね〜」

 「こんな遠くじゃ、術を掛け直せないから、確かに変幻術の効果はとっくに切れているわ」

 冷静な指摘に、テヘヘと笑うセリス皇女。

 こういう時の表情は愛らしく、人々を魅了する力に富んでいる。

 『カトルはセリス様が高ランクの術師であることを知らない。 いずれそれを知れば、次期皇帝の実姉という出自の貴さと、魅了という特別な能力もあることだし、益々セリス様を手に入れたいと渇望するようになる。 僕の力だけではセリス様の、カトルへの降嫁絶対拒否という意思を貫かせられないだろう......』

 リオは、皇女の今回の行動がもたらす今後の悪影響について考えるにつれ、内心でかなり険しい表情を見せていたのだった。

 


 「セリス様の今後の護衛とかは、どうなさるのですか?」

 「今から私の下僕は、リオーヌと」

 「他には?」

 「ベールかな。 それと......オグニ?」

 「やはり、オグニですか〜。 ラ・ダーム帝国と新帝国のぶつかった戦場に来ていましたものね」

 予測通りの名前を聞き、ガクッとなるリオ。

 特に、神出鬼没過ぎて得体の知れない術師のオグニが、イザという時頼りになるとは思えない。

 エウレイアの件をセリス皇女に報告したのも、奴であろうと考えていたし、3人だけでは厳しい......



 「それで、どうするんですか? 今後」

 「お金なら心配要らないわ。 だいぶくすねて来たし」

 「皇太子殿下が必要に応じて、追加で送ってくれるのですよね?」

 「それもお見通しか〜」

 「キョウと結託した上での行動ってことも」

 「結託というよりは......強制?」

 皇女は自ら強行突破した事実を認め、へらへらっと笑い出す。


 「他の協力者は?」

 「お母様の母国ベルッヒ王国」

 「それで、グドール姓を?」

 「事後承諾だけど、姓だけは使う許可を貰ったわ」

 ベルッヒ王国は、西方世界の諸国連合に参加している小国の一つ。

 中央山岳地帯にあり、ディアナ大公国と国境を接しているが、シ・タン帝国とは巨大な山々が壁となり、事実上接していない。


 王国軍の規模は1000人に満たないという人口希薄な国だが、精錬時に付加するとあらゆる金属に靭やかさと高い硬度をもたらす希少鉱石『ミズル』を産出するので、大国との繋がりが深い。

 その中でもグドール一族は、ミズールを産出する鉱山を小さな領内に幾つも有しており、レルタニア王国やスルーズ王国、フラー王国といった同じ西方世界の王家はもとより、ラ・ダーム帝国やシ・タン帝国の帝室とも独自のコネクションがある。


 セリスの実母は、そんなグドール一族がシーラー王家に出入りしている際に、シュン皇帝(当時は国王)の次男に見初められて嫁ぎ、双子を産んだものの、病を得て既に故人となっている。




 リオは引き続き、アンフルル学院にやって来た経緯を尋ねていた。

 「新帝国建国を祝して、帝都随一の学府オウラン大学と、フラー王国の名門のアンフルル学院大学部の間で、学生を相互留学させる制度が開設されたの。 もちろん、最優秀の学生だけが対象よ」

 「なるほど、それを利用したのですね」

 「もち」

 「編入試験、受けましたか?」

 「バッチリよ。 絶対に帰りたくないし、切羽詰まっていたから、手加減無しで試験官の、何とか教授という人をこてんぱんにやっつけたわ」

 へへんと胸を張る様子に、

 『あちゃー』

という表情のリオ。

 それを見て、

 『もしかして、下手打った? 私』

 ジェスチャーで確認。

 頷くリオを見て、頭を抱える。

 過剰な魔力を見せてしまったことに薄々気付いていたからだ。

 


 居住まいを正すリオーヌ。

 そして皇女セリスに、今後どうすべきか、自身の意見を述べ始める。

 「流石に陛下も、ここまで人をやって、セリス様を連れ戻そうとはなさらないでしょう」

 「リオも、そう思う?」

 一瞬嬉しそうな表情を見せたが、

 「でも、ディアナ大公国の国母には据えられませんよ」

 「え~〜」

 「もしそうした場合、逆に陛下が大公国へ軍を派遣し、セリス様を連れ帰ることが可能になります。 大公国の国力では、その要求を拒否出来ません。 西方世界の他国では、戦争になるからほぼ不可能でしょうが」

 「......」

 「セリス様。 計算違いでしたか?」

 「盲点だった。 同盟国だから大丈夫という訳では無いってことね」

 セリスは、ディアナ大公国の大公妃に収まることで、カトルに嫁ぐことを防げると考えて、今回行動していたのだ。


 「ところで、現在のセリス様の術師としてのランクは? 侍女に術を掛けて身代わりをさせ、貴女はずっと天蓋山で修行を続けていたのでしょ」

 「あら〜、流石リオ。 私が長く雲隠れしていたのを知っていたのね。 今のランクは......8かな? いや、多分7ぐらいよ」

 「本当ですか〜。 随分前にも7と仰ってましたが」

 「じゃあ、8ね。 ヤダ、私ったら、忘れっぽくって」

 誤魔化そうと、再びバンバンとリオの背中を叩く皇女。

 「ちょっと、痛いです。 セリス様」

 そんな反応をリオは見せながらも、

 『本当はランク9かな? 彼女が凄い術師だという秘密を知っているのは、キョウと僕、それにレイオル様ぐらいの筈だし』

 セリスとの会話から、そのような判断をしていた。

 これは、今後発生する可能性が高い、新帝国側、特にマヤ・カトルから送り込まれる刺客との暗闘に備える為、皇女の魔術師(=術師)としての能力を正確に把握する必要が有るからだ。


 一方、

 『ランク10だって教えたら、リオが護衛をしてくれなくなりそうだから......女子は少し弱いぐらいの方が、都合がイイのよ』

 セリスは内心、呑気にそんな風なことを考えていたのだった。

 

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