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仮面の貴公子=最強の魔剣士?【エウレア皇紀・異世界編】  作者: 嶋 秀


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第26話(交渉役)


 リオーヌ等の予測通り、イーノハ城塞に籠ることで抵抗しながら、停戦交渉を始めたラ・ダーム帝国。


 対するシ・タン帝国側も、八万人に及ぶラ・ダーム帝国軍の降伏者の処遇に苦慮しているので、交渉のテーブルに着くこと自体は拒否しなかったものの、停戦条件で全く折り合わず、交渉は直ぐ暗礁に乗り上げていた。




 「これでは、いつ国に帰れることになることやら......」

 将兵達の嘆く声があちらこちらから聞こえてくる城塞内。

 イーノハの街は平坦な地に有り、その街全体の周囲を城壁で囲んだ城塞都市。

 南側には天然の良港を抱え、ラ・ダーム帝国の東部における最大の都市である。


 しかし今はかなり厳しい軍事的情勢下にあり、イーノハ湾の外側の外海には、シ・タン帝国の軍艦が展開して、イーノハ港から出港する船舶を臨検。

 しかも、援軍である諸国連合軍が、出港して西方に帰るという選択が出来ない状況にあった。

 それは、諸国連合軍が帰国する為の輸送船を派遣しているのが、今回中立の立場を貫いているレルタニア王国とスルーズ王国であるので、新帝国軍の臨検を強行突破するという手段が取れないからだ。




 「不味いわね~」

 「ここの飯がですか?」

 「飯?」

 「ええ」

 エウレイアの呟きへのリオーヌの反応が面白く感じたのか、アルートとベールが笑っている。

 4人は、諸国連合の各国が陣を構えている陣地ではなく、リオーヌが借り上げたイーノハの高級ホテルに滞在していた。

 「ご飯は不味くないわよ。 それどころか、美味しいという評価をしているわ」

 「良かった〜」

 その答えを聞き、ホッとした表情のリオ。

 「そうではなくて、この城塞都市内の状況が良くないという意味よ」

 「ですね」

 「あ~〜。 ワザと話題を変えたのね」

 やられたという顔を見せ、少し天を仰ぐエウレイア。

 一方、リオーヌは笑顔のままである。

 

 「衛生状況が悪化の一方よ。 それに、食料不足もね」

 「それは分かっています」

 「この街に逃げ込んだのは悪くない判断だけど、兵士が多過ぎて都市機能が完全なキャパオーバーになっているわ。 それに城塞として、とてもじゃないけど堅固とは言えないってところも問題ね」

 「この街の収容能力は七万人程度が限界でしょう。 そこに敗北したラ・ダーム帝国軍十数万と諸国連合軍十万弱が入り込んだことで、そろそろ疫病が流行ってもおかしくないと思うのですが......」

 リオーヌはそう答えると、エウレイアの表情を窺う。

 それに対し、視線を逸らしたエウレイア。

 「ラ・ダーム帝国は熱帯にある国ですし、最悪の衛生環境にも関わらず、持ち堪えているのは、エウレイア様のお蔭なのですね。 ありがとうございます」

 笑みを浮かべながら、感謝の意を示すリオ。

 エウレイアが何らかの魔術で、衛生状況をギリギリ維持しているのだろうと、推測したのだ。

 それにリオーヌが、軍の接収を受けていない高級ホテルを滞在場所に選んだのは、疫病が流行る状況を予想していたからであった。 


 「でも、そろそろ魔術を解除した方が良いかなと思っているのよ。 それでイイかしら?」

 エウレイアの確認に、ベールとアルートは驚きの表情に変わる。

 「エウレイア様。 そんなことをしたら......」

 アルートが魔術の維持を望む発言をしたが、

 「この街が阿鼻叫喚な状態に陥れば、停戦交渉で新帝国側が唯一出した条件である『イーノハを含めた東方領土の譲渡』を拒否したラ・ダーム帝国の判断が変わるでしょう」

 リオーヌの冷静な指摘で、2人は沈痛な顔に戻る。


 先に手を出しておきながら敗北した以上、領土の割譲は免れ得ないラ・ダーム帝国側。

 当然、イーノハを含めた東側の領域を新帝国に明け渡すべきなのだが、イーノハが海上貿易の重要な拠点であるので、国のこれ以上の衰退を恐れて、イーノハの割譲除外だけは譲ろうとしていないのだ。

 

 「僕の我儘に、ここまで付き合って頂き、本当にありがとうございました。 ここからは、今、この世界に生きている僕等が解決しなければならない課題です。 エウレイア様は自らの考えと御心のままに行動して頂きたく思います」

 それを聞き、笑顔を見せたエウレイア。

 そして、少し目を瞑ると、

 「この一帯に掛けていた『清浄』の魔術を全面解除したわ。 ここの暑さだと、数日以内に斃れる者が出始めるでしょう」

と彼女の予測を説明したのであった。




 それから1週間後。

 イーノハ城塞内の情勢は一変していた。

 余りにも多過ぎる人々の排泄物で、それらが垂れ流されていた海の水質が急速に悪化。

 自然の浄化能力を大幅に超えたことで、人の目には見えない細菌やウィルスの繁殖が一気に広がる。

 その結果、先ずは負傷兵が、その傷口から入り込んだ病原菌の影響で、次々と斃れ始める。

 それが、看病していた将兵や魔術師に広がってゆき......

 城塞内の衛生環境が最悪の状態へ。

 冷蔵設備が貴重な時代背景から、大半が常温で保存・備蓄されていた食糧が腐りだして、食料不足が一気に表面化。

 そうした事態を見て、船員達への蔓延を恐れたレルタニア王国とスルーズ王国の艦船が、それまで市内に溢れた一定数の兵員の船舶内滞在を許可していたのだが、諸国連合軍の駐屯を全面拒否し、兵員を強制的に船から降ろした後、イーノハ湾外に移動してしまったのだ。




 「こうした状況にならないようにと、エウレイア様はお一人で全てを防いでいたのですか?」

 リオーヌは市内の惨状を見て回り、宿泊先に戻って来てから、寛いでいるエウレイアに確認する。

 「まあね〜。 私の偉大さを改めて痛感した?」

 「ええ」

 「とりあえず、この建物だけには魔術を掛けてあるから、疫病のことは心配しないで大丈夫よ」

 リオーヌ達3人を見ながら、笑い掛けるエウレイア。

 ホテルの者達から、疫病が流行る市内へと外出したことへの厳しい叱責と徹底的な消毒措置を受けたのであろう。

 3人共、何だか酷く湿った感じがしていたのだ。


 「しかし、たった1週間で、こんなに酷くなるとは......」

 「それだけ、エウレイア様がスゴいということですよね?」

 ベールとアルートが、それぞれの感想を述べる。


 「リオの親友は、なかなかのやり手ね」

 「そのようです」

 エウレイアが窓外に視線をやりながら、改めて眼下の景色を見やる。

 そこには、疫病に罹って放置された兵士が多数横たわっているだけで、道に人通りは殆どない。

 皆が病気を恐れて、室内に閉じ籠もっているからだ。

 「親友って、キョウ皇太子のことですよね?」

 アルートが、エウレイアとリオーヌの短い会話の意味を確認しようと質問。


 「一旦捕虜となった古帝国兵が、次々と脱走して来ているでしょ?」

 エウレイアの言葉に頷くアルート。

 「その数、何と1万人以上。 アルートはキョウが、脱走兵を見逃したままで居る、そんな適当で生易しい人物だと思っていたのかな?」

 リオーヌの意味深な言葉に、

 「まさか......キョウ皇太子殿下が城塞に籠る敵に疫病を仕掛ける為、ワザと脱走させている?」

 漸く、事態の深刻さに気付かされたのだ。


 「概ね、そんなところかしら? リオ」

 「でしょうね。 新帝国の遠征軍が、降伏した数万人の捕虜の待遇や衛生環境に気を配る必要って無いですし、そもそもそんなことに労力を割けないですから、着の身着のままで集団脱走してきた彼等が、疫病の発生源と見るべきです」

 ベールとアルートの為に、細かい状況予測を話すリオ。

 それを聞くと、眉間のシワが増えてしまう4人であった。

 

 



 「城塞内の様子はどうだった? ホムラ」

 キョウ皇太子は、敵情視察を終えて戻ったフマ・ホムラに問い掛ける。

 「イーノハ市内は我等の目論見通り、疫病が蔓延しているようです。 市民は感染を恐れて家に引き篭もり、道端には横たわる兵士が多数。 一斉攻撃を仕掛ければ、陥落する可能性が高いかと」

 「だろうね〜。 城塞としての防御力は高くないから、そういう手もあるけど」

 「南方の気候風土に不慣れな我々の将兵にも疫病が流行る恐れ。 これが大きな懸念材料です」

 ホムラの提案に、一応同意した皇太子だが、直ぐケイフウ将軍が諌める。


 「オグニ。 何か意見があるか?」

 皇太子が、会議に出席している一同を見渡しながら、先日からずっと心ここに非ずという様子の、キノルザ・オグニの発言を求めたが......

 当のオグニは、

 「あの女。 リオの何なの? 確かにかなりの美女だけど...... もしかして、恋人?」

等とブツブツ独り言を呟いているだけで、発言を求められたことに気付いていない。


 そんな様子が、皇太子に対して無礼では無いかと、

 「オグニ。 会議に集中しろ」

 ホムラが叱責するも、全く聞こえていない様子。

 そこで、思わずホムラが立ち上がったが、

 「イイって、ホムラ。 放っておいてあげようよ」

 キョウ皇太子は、優しい反応。

 「殿下。 それでは殿下の威厳に傷が」

 その反論をジェスチャーでキョウ皇太子は制すると、

 「オグニは、私にとって無二の親友なんだ。 コイツに何度も命を救われたし、少し大目に見てやってよ。 ちょっと変わったところがあるけど、ね」

 そのような理由を述べながら、出席者全員に目配せをしたものの、そんな状況を全く気付かず自分の世界に入り込んだままのオグニの様子に、何となく苦い笑いが自然発生するのであった。




 「リオーヌ殿。 少し良いか?」

 城塞に撤退後、ノンビリ過ごしていたリオーヌ一行の元を、シュルツェル伯爵が訪問して来たのは、疫病の蔓延と食料不足が深刻さを増してからであった。

 「何かありましたか? 伯爵様」

 あえて、そんな質問をしてみるリオーヌ。

 戦闘以外で、役割がある筈も無いリオーヌ達。

 そんな彼等に対し、フラー王国軍近衛師団長の伯爵が何らかの理由でやって来たということは.......

 おおよそ、用件の予測がついていた。


 「実は、先程の会議で、古帝国の出席者から、『新帝国と縁を持つ者が居ないだろうか?』と申し出が有ってね」

 「そこで、僕の名前を挙げられた訳ですね?」

 「そうなんだ。 彼等の話を聞いてみてくれないかな?」

 その要請を聞き、直ぐに立ち上がったリオ。

 一瞬、エウレイアの方を見ると、

 『いってらっしゃい』

 そんな表情を浮かべたように見えたので、

 「わかりました。 急を要しますよね?」

と答えたのであった。




 伯爵の案内で、リオーヌが連れて来られた場所は、イーノハ市街の中心部にある、ラ・ダーム帝国皇帝一族専用の離宮というべき場所であった。

 非常に豪奢な門を迎えの馬車で通り過ぎ、玄関前に到着。

 すると、煌びやかな衣装で身を纏った皇帝一族に仕える者達が、恭しく出迎えていた。

 王国軍正装の伯爵に続き、リオーヌが馬車を降りると、直ぐに携行品の検査。

 リオは腕の中の魔剣以外、何も身に帯びていないので、直ぐに終えると、2人は皇帝一族に仕える執事らしい者達の案内で、離宮の奥へと案内されるのだった。



 やがて、或る部屋に通される。

 そこは、賓客を饗す立派な応接室で、2人を待つ高貴そうな40代後半くらいの男と、取り巻きの数名の人々が笑顔を浮かべて座っていたのだ。

 「君が、ディアナ大公国の公子、リオーヌ・ディアナ殿かい?」

 「はい」

 「予は、ラ・ダーム帝国皇帝陛下の代理人で、皇弟に当たるチャイラ・ダームと申す。 どうかお見知りおきを」

 その自己紹介を聞き、深々と頭を下げたリオ。

 シーラー王国や、その後帝政になったシ・タン帝国に仕えていた経験から、皇族や王族を名乗る相手には、そうするのが無難な挨拶だと知っていたからだ。


 「一緒に来られたレルタニア王国のセレーネ大公から、貴殿がシ・タン帝国と縁が有ると教えて頂いてね」

 シュルツェル伯爵が、あえてセレーネ大公の方の名前を使っていることを知り、

 『伯爵様も中立者としての立場を強調していたのだな』

とリオーヌは考えるのだった。


 「ええ。 我が国は、シ・タン帝国と長年の同盟関係に有りますから」

 そのリオーヌの答えに、

 「同盟と言っても、今や国力差から、属国扱いであろう?」

と、チャイラの取り巻きの一人が厳しい指摘をする。

 「そのような見方も出来ますね」

 まだ年若いリオーヌが、大公国を見下す発言に怒ることもなく、淡々とした反応を見せたことに、拍子抜けしたその人物。

 そのような意地悪な指摘は、停戦交渉の仲介を、小国の国主一族に依頼することは反対だという意思を示すものだと、リオーヌは判断していた。


 「そんなことを言っていたら、何も進まない。 今、苦境にあるのは我が帝国であって、敵では無いのだから」

 チャイラは側近の者達を制する言葉を発すると、

 「リオーヌ殿は、新帝国の皇族や有力諸将の中で、見知っている者が居るのかな? 予が知りたいのは先ず、そのことだ」

 その質問に、一呼吸入れてから答えるリオ。

 誰の名前を最初に出すべきか、思案をしていた。


 「先代ディアナ大公の兄上様が、ホージョ・レイオル将軍です」

 「何? シ・タン皇帝の右腕と言われる老将が、実はリオーヌ殿の一族なのか?」

 「ええ」

 それを聞き、ざわつくチャイラの取り巻き達。

 新帝国の上大将軍レイオル・ディアナ、別名ホージョ・レイオルの名は、先日の侵攻を撃退された事もあって、南方にも轟いていた。


 「他には?」

 「当然のことながら、シュン皇帝陛下の知己も得ております。 私は幼い頃から人質として、シーラー王国で預かりの身となり、レイオル将軍の薫陶を受けてきましたので」

 再びザワザワする取り巻き達。


 「ということは、遠征軍の総大将、シーラー・キョウ皇太子と知己なのだね?」

 チャイラの確認に頷いたリオーヌ。

 「援軍として戦場での君の活躍は、ここに居られるセレーネ大公から聞いている。 リオーヌ殿に我が帝国と新帝国間の仲介を依頼してみることにしようではないか?」

 その決断を聞き、異論はあるものの、従う意思を示したチャイラ・ダームの取り巻き達。

 それに対し、リオーヌはやや困惑の表情を見せつつ、再び頭を下げるのであった。

 

 

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