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仮面の貴公子=最強の魔剣士?【エウレア皇紀・異世界編】  作者: 嶋 秀


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第2話(7年ぶりの母国)


 7年間を過ごしてきたシーラー王国、現在は大きく勢力を拡大したシ・タン帝国であるが、新帝都『オウラン』より3ヶ月余りかけた陸路による行軍ののち、無事帰国したリオーヌ。


 ディアナ大公は、元々宮殿や大邸宅というものを所有しておらず、現大公は領内で最も北東方にある防御用要塞『ウォーバルム城』で、守備兵達と一緒に籠って生活している。



 「ただいま戻りました、大公閣下」

 「......ああ......」

 大軍の帰国を出迎えに現れた実父である現当主、ギヌール・ディアナ大公に対し、リオーヌは挨拶をしたものの、疲れた表情を見せただけで、これといった労いの言葉を発することすらなく、城の奥へと戻ってしまうのだった。

 「ああいう人だとは分かっていたけど......母が亡くなって8年余り。 益々非社交的な人柄となっているな〜」

 そんな感想を抱きながら、一応城門まで出て来てくれたのだし、元々疎遠だった実父との関係なので、殆ど気に留めることなく城の奥へと進むのだった。



 城内では、大公一家に長く仕える秘書長のセヴァン・パパーテや執事長のヒロシ・ホーダ、家政長のメグ・ラーイン等が待っていたのだ。

 「坊ちゃま、よくぞご無事で」

 「奥様が生きておられたら、何と仰られるか......」

 成長したリオーヌの、その勇姿を見て、一様に涙を流している。


 東方一帯の各戦地で、帝国の現皇太子シーラー・キョウ率いる一軍の先鋒を常に務め、勝利に貢献して来た『仮面の貴公子』については、先に帰還していた傭兵達からの情報で、やや誇大な噂が流れているが、その正体は大公の公子リオーヌであり、顔面に大きな傷を負って以降、銀製の仮面で目と鼻の部分全体を覆い隠していることを、家中の上位者達は知っていたのだ。

 「母に顔向け出来ないよ。 せっかく丈夫に産んでくれた大事な体に、僕自身の油断で深手を負って傷付けてしまったのだから......」

 仮面を外すことなく、母の祭壇に手を合わせると、出迎えてくれた家中の者達にそんな感想を述べるリオーヌ。


 「ところで、父は相変わらずだね」

 続けて話し掛けると一同の表情が曇ってしまう。

 シーラー王国の遠縁の傍系王族として、政略結婚で現大公の元に嫁いで来た母リリア。

 元来病弱な上に、極寒の地にあるこの城での生活は、優しい母の体に堪えたようで、28歳の若さで亡くなってしまっていた。

 政略結婚とは言え、愛妻を亡くして以降、元々社交的で無い性格が益々内向的になり、城外に出ることは滅多に無くなった大公。

 「奥様が亡くなられて以降、鬱ぎ込みがちなのはずっと変わっておりません」

 メグは鎮痛な面持ちで、現在の状況を説明し始める。

 それによると、大公は城内の片隅にある墓地に日参し、妻の墓碑に手を合わせているとのこと。


 妻亡き後の大公は全てに無気力となり、一人息子であるリオーヌについても、長く仕えている3人の忠臣に、その世話を丸投げして放任状態となっていた。

 当然のことながら、そんな悪環境下に置かれた幼い公子の将来を考えた結果、国力が上のシーラー王家からの、

 『大公一族の然るべき人物を王家に出仕させよ』

という半ば命令の様な要望に乗る形で、10歳の時にシーラー王国の王都へ向かうことになったのだ。

 そして、家宰等の目論見通り、シーラー王家は預かったリオーヌに対し、王族の血を引く者として扱い、王家の子息達と一緒にキチンとした教育を施してくれ、立派に育ててくれたのであった。


 「父である領主があのような状態では、統治が行き届かないだろうが、引き続き3人の忠臣を中心に、支えてやって欲しい。 貧しい大公領ゆえ、出来ることは少ないであろうけど......」

 リオーヌは、自身が不在であった7年間、ディアナ大公領内において、大過無く平穏な日々が続いて来たことに対する3人の働きを労い、感謝を述べると共に、引き続き大公のことを頼むのだった。


 



 「相当な報奨が出たようですね。 当面、国の財政に余裕が有る状態ですが......」

 秘書長のセヴァン・パパーテが、リオーヌが帝国より頂戴して持ち帰って来た報奨品の目録を確認しながら、安堵の表情を浮かべていると、

 「我が国は、長年傭兵稼業で大金を稼ぎ、歳入不足と国民の収入の少なさ両方を補ってきた。 ところが東方一帯は、シ・タン帝国が統一したことで、今後戦場は無くなる見込みだ。 これは、稼ぐ機会を消失するという危機に繋がる......」

 淡々と厳しくなるであろう今後の懐事情予測を話すリオーヌ。

 その言葉を聞いて、渋い表情を見せるセヴァン。

 「今回の臨時収入は無駄遣いせず、予備費として蓄えに回すべきです」

 そう意見を述べると仮面を着けたまま、立ち上がったリオーヌ。

 それを見上げたセヴァンは、

 『本当に立派になられて......』

と、再び涙ぐんでしまうのだった。

 

 

 

 それから1週間後。

 リオーヌは何処かへ出立する準備を進めていた。

 「坊ちゃま。 今後の予定を決められたのですか?」

 最年長である執事長のヒロシ・ボーダが、何やら忙しないリオーヌの様子が気になる家中を代表して、ご機嫌伺いで確認に現れたのだ。

 「フラー王国の王都シャンベルタへ向かおうと思っているんだ」

 その言葉に驚きの顔へと変化したヒロシ。

 「諸国連合随一の王都に、いったいどのようなご用件で」

 現大公ギヌールの代になってから、大公国は、西方諸国連合との交流が殆ど絶えてしまい、公子であるリオーヌが訪れる理由が見当たらないからだ。

 「僕はまだ17歳だし、アンフルル学院に編入学する為だよ」

 「アンフルル学院? あの、アンフルル学院ですか?」


 諸国連合の中でも、最高位の学府として有名な学院。

 各国の王族や高位の貴族が、こぞって師弟の入学を希望する、高校と大学を併設した特別な学校である。

 「当家の爵位と格式では、入学自体厳しいものと存じ上げますが......しかも、編入学でというのは特別な紹介が無いと試験の実施さえ行われないと聞き及んでおります......」

 過去、大公国の出身者でアンフルル学院に入学した者が居たという記憶がヒロシには全く無い。

 そもそも、大公以外、諸国連合各国でも公認される爵位を持つ人物が誰も居ない国なのだから、15歳時点における通常入学のハードルですら、極めて高い学校なのだ。


 「そんなことは無いよ。 ほら、この通り編入学試験実施の認可証明と紹介状まで貰っているからさ」

 リオーヌはゴソゴソと鞄から一通の書類を取り出し、ヒロシに見せた。

 それは確かに、アンフルル学院長の署名入りの正式な書面であろうと判断出来た。

 「リオーヌ様。 何処でこの書簡を......」

 「皇帝陛下から頂いたんだ。 詳しくは知らないけど、実はアンフルル学院の卒業生らしく、学院長と知己だとか言っていたな~」

 帰国する際、リオーヌは新帝国建国への多大な貢献に対して、地位や領地の代わりに多くの物理的な褒美を貰ったのだが、その中にこのアンフルル学院への編入学関連の書面も有ったのだった。

 「何処に居ても、どんな環境に有っても、学ぶことを止めては決してならぬ」

 それが、シーラー・シュンの臣下に対する口癖であるので、そうした配慮からのものであろう。




 翌日。

 フラー王国へ向けて出発の日。

 「じゃあ、行って来る。 7年以上前にシーラー王国へ出立した時とは違って、休暇の際には戻って来るから、そんなに心配しないで欲しいんだ」

 一応事前に、アンフルル学院で学ぶ予定を実父に直接説明したものの、その反応は、

 「お前の好きにすれば良い」

との一言だけであった。

 取り敢えず承諾の返事を貰えたので、予定を早めてヒロシに説明した翌日に出発することを決めたリオーヌ。


 その出発時の姿を見て、見送りに来た3人の家中の忠臣達は一様に驚いていた。

 仮面を外しているリオーヌの姿を初めて見たからだ。

 確かに眉間から鼻筋に掛けて、切創痕が有るものの、噂で流れている程の酷いものでは無く、むしろ、仮面を装着する必要性を感じさせない程度にまで回復していたのだ。

 そして、成長したリオーヌの素顔は、亡き母リリアの面影を色濃く残していた。


 涙腺が壊れたかのように、泣き始める3人。

 予想外の感涙状態に、困惑するリオ。

 「いやいや、仮面を取ったのは、『仮面の貴公子』の噂がお前達ですら知っている程に、西方一帯にまで広まっているとは思ってもみなかったからだよ。 大騒ぎに巻き込まれたくないからね」

 理由を説明し終えると、

 「当面、このことは他言無用だよ」

と3人に言い残し、飛行魔術を使って、あっという間に遥か彼方へと飛び去ってしまうリオーヌだった。

 

 

 

 大公領随一の街『フェルメ』。

 南部の穀倉地帯の中心都市であり、レイエン湖畔に所在する風光明媚な地だ。

 この街から、諸国連合内主要都市に向けて、鉄路が引かれている。

 領内で最も重要な地域ゆえ、フェルメを含めた南部一帯は大公の直轄地となっているのだが、領主自身が北東にある城塞に引き籠もっていることから、統治に相当な緩みが生じている事実は否めなかった。

 「フラー王国に行く為に立ち寄ったのだけど......予想していたとは言え、こりゃー、そのまま直ぐには向かえないな〜」

 フェルメ中央駅の近くで、空いているベンチに座り、行き交う人々の表情や馬車の流れを眺めていたリオーヌ。

 嘆息混じりで思わず呟いてしまう程の惨状だ。

 その表情は一様に暗く、荷馬車も積荷が少ない。

 とにかく、活気が全く無いの一言であった。


 すると、リオーヌの背後からスーッと近付いて来る30歳くらいの男が居たのだ。

 そしてやにわに襲い掛かるかという瞬間......

 男の喉元には、赤黒く光る魔剣の刃が突き付けられていた。

 「ジーン。 久しぶり〜」

 「公子様、冗談は止して下さい。 それに最後にお会いしてから、まだ1週間程しか経っていませんよ」

 冷や汗を流しながら答える男。

 ジーン・ルカール。

 東方一帯で傭兵として稼いでいた人物で、向こうでは腕っぷしでは無く、激戦の中、無傷で生き残り続けている知恵者として、かなり有名であった。

 それを知ったリオーヌが、キョウの軍団で雇うように話を付け、以後先日まで一緒に戦ってきた戦友と言える存在である。

 また、現在の『仮面の貴公子』の素顔を知る、数少ない一人なのだ。


 「久方ぶりの故郷の街はどうだい?」

 「見ての通りですよ、公子様。 相変わらずの不景気ぶりで」

 「その、公子様は止めようよ。 人に盗み聞きされたら少し困るし。 リオーヌで構わないから」

 「ではリオーヌ様。 本当にやる気ですか?」

 「もちろん。 そうでなければ、安心してアンフルル学院に入学出来ないからね~」

 ジーンの方を見て、ニヤリと笑うリオ。

 何か考えていたことがあるようだ。


 

 

 「ふ~ん。 この一帯は、コイツ等が仕切っているのか〜」

 ジーンから情報を聞き、少し考え込むリオーヌ。

 統治者やその配下の者達が全くやって来ない状況が続くうちに、南部地域は弱肉強食の世界になってしまっているのだという。

 「我が国は傭兵稼業が唯一の産業で、輸出品だからね。 無事戦場から帰国すれば、ゴロツキ共に早変わりという訳か〜」

 戦場での経験が悪い方向に作用し、力の序列が醸成されやすく、最も腕っぷしの強い人間が支配者になってしまうのだ。

 「そこで、『仮面の貴公子』の登場という訳ですね。 最も腕が立つ剣士の」

 ジーンのその言い方に、苦虫を噛み潰したような表情を見せるリオーヌ。

 本来、領主が軍勢を率い、領主が持つ警察権を行使してくれれば、仮面の貴公子が出る必要は無いのだ。

 無気力な父のことを思い浮かべてしまい、そういう顔になってしまう。


 「この間、一緒に帰国した傭兵達のうちから、以後、南部地域の治安維持に関わってくれる者達の人選と組織作りは済んだかい?」

 「勿論です。 それよりリオーヌ様。 例の書面は準備出来ているのでしょうね?」

 「ジーンから進言されたモノは全部準備してきたよ。 幸い、大公は署名大量製造印刷機状態だから、意外と容易に手に入れられたさ」

 そう答えながら、数通の書面のうち、最も重要な内容のモノを手渡す。

 それをじっくり確認するジーン。

 それは、

 『南部一帯の統治者にリオーヌ・ディアナを任命し、一切の権限を委譲する』

と大公の署名入りで記載された公文書であった。




 その日の夜遅く。

 フェルメ郊外の大邸宅には、この地域を武力で支配しているダスティー・ボロンとその配下の者達がいつも通り集まって、我が世の春を謳歌していた。

 「どうだ? この間傭兵共が大量帰還してきたが、腕が良くて、しかも俺達に協力的な奴等の目星は付いたか?」

 「勿論です、ボロン様。 既に承諾を得られた者達のリストを作成してございます」

 そう答えながら、側近達が恭しく書類を手渡す。

 豪奢なソファーにふんぞり返り、酒を飲みつつ、リストの中から気になった数名のプロフィール資料に目を通す。


 「この国は貧乏で、傭兵以外稼ぎようがないから、東方の戦乱が収束した以上、我等の仲間に入りたいと懇願する者達が増えるだろうぜ」

 流石、マフィア的組織のトップに君臨するダスティー。

 時流を読める人物であった。

 「おお、東方の戦線で結構名の通った奴も居るじゃないか? 俺様が直接面談して、採用するか決めることにしよう」

 「お褒め頂き有り難うございます」

 「採用活動ご苦労だったと言いたいが、まだ早過ぎるな。 ちょうど良い、リストに名前のある連中がどれだけ従順か確認する為に、今直ぐここに呼んでこい」

 上機嫌で、目についた3人のプロフィールを放り投げて返す。

 慌てて拾って確認を始める側近達。

 ボスが呼んでこいという人物達のプロフィールを再確認したところ、全員が困惑の表情に変わってしまうのだった。




 「なに〜。 今直ぐこの3人を連れて来いって言うのか?」

 「はい。 なにぶんにも我等がボスでこの地域の支配者ボロン様の要望ですから......」

 「そうは言っても、今この街に滞在しているのは一人しか居ないぞ?」

 ボロンの側近の急な訪問に、困った表情で答える男。

 そう、ボロン配下と話し中の男は、ジーン・ルカールであったのだ。

 「俺がスカウトした連中のリストを見て、ボスはどんな反応だったよ?」

 「それはそれは、ご機嫌でした。 いずれも東方戦線で活躍し、腕に間違いない者達ですから」

 「そうだろ〜そうだろ? 今回は戦乱終結での大量帰国。 いい人材をスカウトする大チャンスだが、長い間、見知らぬ土地という苦境で腕一本で戦い抜いてきた一癖二癖ある連中だ。 つてがなきゃ、なかなかおいそれとスカウト出来ないからよ~」

 恩着せがましく訪れてきた側近に話すと、

 「ちょうど、3人のうちの一人が、行き場が無いって言うんで、俺の仮住まいに居候しているんだ。 取り敢えず、ソイツを連れて行ったらどうだ? 残りの2人も見つけ次第、ボスの元を訪ねるよう伝えておくからさ」

 それを聞き、安堵の表情に変わる男。

 深夜になろうかという時間でのボスからの無理難題に、実は困っていたからだ。


 「おい、この間のスカウトの話だけど、雇用主が直ぐに会いたいって」

 ジーンが小屋の奥の方に向かって声を掛けると、仮面を着けた若い男が出て来たのだ。

 なんとなく、周囲に放たれている殺気や佇まいは、噂通り、只者では無い感じを醸し出している。

 その威圧感に、ボロンの側近ですら気後れしてしまう程であったが、

 「分かった、今からで構わないぞ」

と返ってきたことに安堵するのであった。


 

 

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