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仮面の貴公子=最強の魔剣士?【エウレア皇紀・異世界編】  作者: 嶋 秀


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第17話(出征)


 「早速で悪いんだけど。 私の子孫のリオーヌ君〜」

 エウレイアは、妙に馴れ馴れしく、優しい雰囲気で語り掛けてくる。

 「はい......」

 急に様子が変わったことで、少し警戒心を持つリオ。


 「少し恵んでくれないかしら? 大魔女アイルーシアに異世界から突然飛ばされ、ここに来たので〜無一文なの〜〜」

 大魔術師と言われる人物の、余りにも卑屈に見える態度だと分かり、思わず吹き出してしまう。

 そして、先程の試技でエウレイアが圧倒的な力を見せたことで、リオにはある名案が閃いたのだ。

 「構わないですが、僕からも一つ条件が有ります」

 「え~、まさか絶世の美女たる私の体で支払えと? 若い男は何時の時代もイヤらしいわね~」


 実はエウレア。

 異世界に行くのが大好きで、元の世界での生活がだらしなくなったのは、その反動であった。

 しょっちゅう、アイルシアに訳のわからない世界へと飛ばされるので、そこで生活資金を手に入れるのも慣れたもの。

 大概は、鼻の下を伸ばした男達を魔力で手玉に取って、大金をせしめてから、新たな冒険をスタートさせていた。


 「いやいやいや。 そんなつもりは......」

 美女にこういう態度で迫られるのが実は得意でないリオーヌ。

 直ぐドギマギしてしまうので、相手に足元を見られてしまうのだ。

 「別にリオーヌならイイわよ。 抱かせてあげようか?」

 エウレイアは誂い甲斐が有ると見るや、畳み掛けて来る。

 それに対して、

 「えっ......」

 唾をごくんと飲み、固まってしまう。


 すると、エウレイアがゴソゴソモソモソ......

 リオの体に触れ始めたのだ。

 「若い男の子に私のような美女の裸体は猛毒よね~。 大事なところが、硬くなって反応しちゃっているんでしょ?」

と言い、暫く見詰めてみせる。

 エウレイアの美し過ぎる瞳に吸い込まれる感覚が強くなって......

 そこで、笑い出すエウレイア。 


 「冗談よ。 500年以上前に、この世界で存在していた私は、リオーヌから見れば、棺の中で骨と髪だけが残った骸みたいね者だものね〜」

 そんなことを言って、ケラケラと笑う。

 『人生経験の差か〜。 大魔術師と雖も、ここは初めての時代と場所なのに、全く物怖じしないって』

 エウレイアの態度に驚かさせられるばかりのリオであった。


 「それで、条件って?」

 「僕と全く同じ剣士となって、戦場に出て欲しいのです」

 「影武者ってこと?」

 「う~ん......影武者じゃなくて、僕が2人居る形にしたいのです。 可能ですか?」

 「そんなこと言われたの初めてだわ。 まあ、私に不可能という文字は無いから」

 「じゃあ......」

 「リオーヌと全く同じ戦闘能力になればイイってことでしょ? 姿形だけではなく」

 「はい」

 「じゃあ、ちょっと貴方の記憶を見させて貰うわ。 良いかしら?」

 「お願いします」

 すると、エウレイアは両手をリオの頭の上に乗せる。

 そして目を瞑り、集中。

 リオの脳内の記憶を、魔力でエウレイア自身に移しているようだ。


 暫く経つと、何やら呟いてから、

 「これでどう?」

と言って、リオーヌの目の前に。

 そこに立っていたのは、紛れも無い

 『仮面の貴公子』

 その者であった。



 「ちょっと試させて貰おう」

 2人の会話を黙って聞いていたベールが立ち上がると、いきなりエウレイアが変身した仮面の貴公子に襲い掛かる。

 それに対し、双剣の魔剣を手に、反撃に出るエウレイア。

 その華麗な剣捌きは、まさにリオーヌ自身。

 数分間、ベールは長剣であらゆる攻撃を仕掛けてみたが、それに対応する動きは、リオーヌ当人かと勘違いしてしまう程の完コピであった。



 「参りました。 流石は大魔術師殿」

 ベールは剣を収めながら一礼する。

 「動きはほぼ完璧でしょ? 100%という訳にはいかないけど、差異は他人が気付かないレベルにまでトレース出来ている筈よ」

 仮面を外すと、いつの間にかエウレイアに戻っていた。



 「ただ問題は、その顔の大きな傷跡ね〜」

 「僕には何の問題も無いように見えますが」

 もう一度その場でリオに変身。

 戦闘モードに入って見せるエウレイア。

 すると、魔力が無いベールだけが気付いたのだ。

 「公子が戦う時にだけ見られる、鬼神のような恐ろしい見た目と感覚が伝わって来ないぞ」

と。


 「魔力が強い相手には無効になるみたいだけど、その傷跡には呪いの魔術が掛けられているわ」

 「それは、知っていますが......」

 「一般人に畏怖心を与える......その印象の再現は少し難しいわね~」

 エウレイアは、ふ~っと溜息を吐く。

 こんな効果が出る術は、エウレアの本来居る世界には存在しない。

 改めて、異世界だな〜と実感したのだ。


 「幸い、貴方はずっと仮面を着けて戦っていたから、呪いの魔術の効果の代わりに、戦場全体を恐怖感で覆う私の魔術を使えば、何とか誤魔化せるでしょう。 リオをよく知る皇太子君の面前で、私が身代わりに戦っても」

 笑顔でウィンクをしながら答えたエウレイア。

 そう言って貰えたので、安心するリオーヌ。



 「でも、本当に宜しいのですか?」

 リオーヌは、相手が伝説の大魔術師なので、改めて念を押してみる。

 双剣の魔剣から聞いた話では、気難しい面を持った人物だと聞いていたからだ。

 「貴方が、随分お金を持っているみたいだからよ。 大魔術師である私が全面協力してあげるのは」

 「どうして、それを......」

 「だって、さっきリオの記憶を全部覗いたからね~」

 「はあ......」

 やっぱりそうなのかと気付いていたリオーヌ。

 そして、先程も垣間見せたエウレイアの性格から、今後色々誂って来るのだろうと思い、少し憂鬱な気分になるのであった。

 



 翌日。

 リオーヌは、エウレイアについて、学院側にどう説明しようかと考えながら教場に向かっていると、正面にエウレイアの姿が見えたので驚いてしまう。

 慌てて駆け寄ってみるも、周囲の生徒達は、

 「シェラス先生、おはようございます」

等と普通に挨拶をしている。

 エウレイアの方も、

 「皆さん、おはよう〜」

と軽い口調で慣れた返事。

 身なりも、昨日の異世界の衣服では無く、この世界の魔術課程の女性教師として、標準的な黒色法衣を着していた。


 「ちょっと、エウ・レイア様」

 リオーヌは小声で話し掛けると、

 「リオーヌ君、おはよう〜。 あとは教場でね〜」

と言いながら、手を振ってその場を離れてしまう。

 呆気に取られるリオ。

 何らかの魔術で、自身が以前から存在するように細工したのだと理解したが、そんな魔術は聞いたことが無い。

 改めて、大魔術師と言われるだけの美女なのだな〜と思っていると、

 『リオ、騙されちゃダメ。 アイツは血も涙もない詐欺師なの』

とティルの声が頭の中に響く。

 『詐欺師?』

 『今、周囲の人々を騙しているでしょ? 前から学院に居る教師のフリをして』

 『でも、それって凄い魔術なんじゃない?』

 『確かにスゴい様に見えるかもしれないけど......とにかく詐欺師なの』

 ティルはそう言い切ると、あとは黙ったまま。

 余程、嫌いになる何かが過去に有るんだな、魔剣と大魔術師の間には。

 そう理解したリオであった。




 そして、その意味は、やがて形になって現れる。

 その日の授業が終わった後、エウレイアがリオーヌの寮の部屋にやって来た。

 「あれ? 何か御用ですか?」

 「契約金を貰いに来たのよ」

 「契約金?」

 「だって、これから戦場に出るのでしょ? 今日一日色々調べて回ったら、東方の新帝国と大軍同士の戦いになるって聞いたわ」

 「ええ、そうです」

 「だから、契約金」

 そう言うと、エウレイアは嬉しそうに両手を差し出す。


 「じゃあ、フラー金貨10枚で」

 「10枚? ケチな男は嫌われるわよ、10万金も貰ったのでしょ〜。 東方世界の貨幣価値はよく分からないけどね」

 その言い草に苦笑するリオ。

 契約金と言って来た以上、成功報酬は別に要求するということなのだろう。

 因みに、フラー金貨1枚=銀貨5枚=銅貨250枚。

 銀貨1枚は100ドル程の価値だ。


 「50枚でどうですか」

 「流石〜、太っ腹〜。 よっ、公子様。 素晴らしい貴公子ぶりだ〜」

 そうおだてて、満面の笑みを浮かべるエウレイア。

 意外と子供っぽいその表情を見ると、もう何も言うことは出来ない。

 その場で、部屋備え付けの貴重品庫から出して手渡すと、

 「ありがとうね〜。 あとで分け前あげるからさ~」

と少し謎の言葉を言い残し、そそくさと立ち去ったのであった。




 それから1週間後。

 いよいよ援軍の出征日を翌日に控え、例の古い家屋で忙しく旅支度をしているリオーヌの元へ、ベールが手伝いに現れた。

 「そう言えば、最近アルートの姿を見ないんだけど」

 「先日の華々しい登場の際、すっかり大魔術師様に惚れちゃったみたいで。 下僕のように付いて回っていますぜ」

 「そうなんだ〜。 大丈夫かな〜」

 少し心配になったリオ。

 『準備も有るのに』

と考えていると、

 「戦争が始まるせいか分かりませんが、王都のカジノが幾つか店仕舞したって聞きましたね〜」

 「ベールは、もう行って無いのだろ?」

 「魔剣を監視に付けられちゃ、何だか落ち着かないんで」

 「借金返済が終われば、別に構わないよ......逆に膨らむのは困るから、監視しただけ」

 リオーヌにそう言われ、バツの悪そうなベール。

 今回の出征で大きな報酬を貰えば、それで借金をチャラに出来ると考え、ずっと我慢しているのだ。


 そんなところに、聞き覚えのある声が2つ。

 エウレイアとアルートだ。

 「おかえり〜」

 リオーヌが声を掛けると、アルートが大きな荷物を背負っている。

 「それは?」

 すると、嬉しそうなエウレイア。

 「1週間分の戦利品よ」

 「戦利品?」

 リオとベールが顔を見合わせると、アルートが荷物を重そうに下ろす。


 「貴方達にも分け前あげようかな〜」

 「分け前?」

 「カジノで胴元から沢山巻き上げて来たわ~。 良い戦いをするには十分な戦費が必要だし」

 「戦費って、僕達は4人だけですよ」

 「まあ、有って困るモノでは無いでしょ。 お金って」

 「お金って、まさか......最近、カジノが潰れているっていう話」

 「ピンポンピンポン」

 

 『ほら、詐欺師でしょ? カジノで魔力やら魔術やらを使って、勝ちまくっているんだから』

 ティルの声がリオの頭に響く。

 『確かに』

 思わず苦笑すると、

 「ダィンティル。 貴方達の声は私に聞こえているの」

 『詐欺師』という言葉遣いは不満そうなエウレイア。

 「カジノなんて、種も仕掛けも有る世界だから、どっちもどっちだよ」

 まあまあという感じで、ギャンブル世界の真実を語るリオーヌ。


 「ところで、幾ら勝ったんだ?」

 ベールが肝心な質問をする。

 「フラー金貨で3万枚くらいかしら?」

 「3万枚?」

 とんでもない金額に目を丸くするベール。

 少し羨ましそうな表情だ。

 「元手は50枚だから、600倍。 まずまずという結果ね〜」

 当然という表情のエウレイア。


 「もちろん、出禁になったんだよね?」

 「それはね〜......仕方ないか〜」

 呆れるリオーヌであった。

 

 

 

 翌日。

 学院長を筆頭に多くの教師・生徒達が見送る中、従軍するエルリック王太子を先頭に、100人余りの生徒達が校舎前で整列し、やがて正門に向かって行進を始める。

 その後には、従軍する生徒達の側近や護衛の者等、学院の敷地内で生活をしていた200人以上の人々も。

 その中に、エウレイアやベール、アルートの姿も混じっていた。


 「エウレイア。 貴女が軍を率いていた遥か昔も、こんな光景だったのかい?」

と、ベールが質問をする。

 歩きながらエウレイアは、

 「そうね〜。 周りの装備や建物とかは、もっとチープなモノだったけど、基本変わらない......」

 何だか感慨深げな様子だ。

 「そうか......俺も東方で多くの戦いに参加して来たが、出征時の悲壮感混じりの高揚した雰囲気は、何処でも一緒だなと思ってさ」


 「ベール、知ってる?」

 「何が?」

 「貴方が今住んでいる、敷地外れのあの家屋。 あれは、私がアンフルル学院の前身の魔術学校を創設した当時の最初の校舎なのよ」

 「そうだったのか......」

 「魔力の結界が今でも掛かっているから、500年経つ建物だけど、壊れていないの」

 「じゃあ、感慨もひとしおだな」

 「うん。 まさか、私の学校から出征する時代が来るなんてね〜。 しかも、教え子達を......」

 その話を聞き、ベールも後ろを歩くアルートも、伝説の大魔術師で異世界人のエウ・レイア・シエラスが、時空を超越してあの建物に現れた理由が分かった気がしたのだ。

 そして、苦戦が予想される戦場に向かう為、この場所から子供達が出征せざるを得ないという、悲しさをもであった。

 

 

 

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