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仮面の貴公子=最強の魔剣士?【エウレア皇紀・異世界編】  作者: 嶋 秀


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第15話(戦時体制に)


 一方、その頃のシ・タン帝国帝都オウラン。

 皇帝が鎮座する新宮殿『華爛宮』では、南方より侵攻してきたラ・ダーム帝国軍に対応する為の会議が開かれていた。



 「皇帝陛下の宸襟を騒がせ奉り、誠に申し訳ございませぬ。 臣等の罪、万死に値します」

 シーラー・シュン皇帝が座る玉座の前には、新帝国の南西部を管轄する南海守護と南州刺史、更には南海鎮守府長官と征南大将軍という、政治と軍事の責任者四名が並び、頭を垂れている。

 一時的に領土深くまで侵攻を許してしまった責任を問われ、新帝都に召還されていたのだ。


 「百戦して百勝という訳にもゆくまい。 あの一帯は滅ぼしたばかりの劉国残党もおるから、致し方ない面が有るのも事実だ」

 皇帝から、想定外の優しい玉音を給わったことで、罪を問われた4人の責任者は、益々縮こまっている。


 「とにかく、レイオルに感謝するのだぞ。 そなた達の失地を全て奪い返し、ラ・ダーム軍を国境外に追い出したのだからな」

 皇帝の盟友である名将ホージョ・レイオル。

 現在、上大将軍の地位にあるレイオルは、老骨に鞭打って出陣し、その知略で、勢いに乗って深入りし過ぎたラ・ダーム帝国の侵攻軍を包囲殲滅の罠に嵌め、最終的には新帝国軍の完勝という結果を収めていたのだ。

 だが、対外的には辛勝と発表することで、他国の警戒心を緩め、あわよくば油断を誘おうという謀略の種も撒いている。


 「南方の対策会議は、皇太子を中心に議論を進め、早急に結論を出すよう。 いつまでも最終決断に、予の聖断を求めるのは些か問題がある故、今回は出席を控えることにする。 ラ・ダームの侵攻を許した4名の者の罪は問わぬ代わり、会議では実戦で得た経験を基に、忌憚ない意見を述べるのじゃぞ」

 皇帝は臣下に指示を出すと、翠玉の間を出て行ったのであった。




 その後、宮殿内の南宮にその姿は有った。

 「これは陛下。 お出迎えもせず申し訳ない」

 「おお、そのままで良い。 しっかり体を休めることこそ肝要だぞ」

 現在の部屋の主は、上大将軍レイオル・ディアナ。

 リオーヌの祖父の兄だ。

 南方の遠征から帰国後、体調を崩して病床に身を委ねていた。

 「南部の国境地帯は、瘴気の多い地ゆえ、病に罹らぬよう気を遣っていたものの、結局この体たらく。 高齢で元々身体が弱っていた臣の命運もこれまででしょう」


 齢70を過ぎての大病。

 しかし、とっくに平均寿命を超えているのだから、このまま病死しても悔いはないと言い切る。

 「レイオルには、まだまだ予を支えて貰わねばならぬのだ。 弱気なことを言うでない」

 シュン皇帝は盟友の衰弱した姿に、ショックを隠せない。


 「そう言えば、丞相も床に伏せているそうですな。 論功行賞の方針を決定する場で妄言を吐いてしまったことを気に病み、一気に老け込んだと聞きましたが」

 「そうみたいだのう。 肝の小さい御仁ゆえ、致し方あるまい」

 軽目の話題を挟み、場を少し和ませようと試みるレイオル。

 覇業を成し遂げ、これからゆっくりとその成果と栄華を味わいながら、余生を過ごすつもりであったが、新たな敵の出現と南方駐留軍のあっけない敗北で、隠居間近の爺様達がその尻拭いをする羽目になるとは、皇帝も上大将軍も想定していない事態であった。



 「ラ・ダーム帝国に対する処断は、キョウ皇太子殿下に一任されるおつもりですか?」

 その質問に頷く皇帝。

 「いつまでも予を頼っていては、この巨大新帝国を動かす実力が身に付かないであろう?」

 それを聞き、少し表情が曇ったレイオル。

 「皇太子に何か心配事でもあるのか? それならば、忌憚なく言って欲しい」


 「では、僭越ながら」

 レイオルはベッド上で上半身だけ起こすと、皇帝の方を見詰めながら話を始める。

 「心配事というのは、大甥であるリオーヌのことです。 我が一族の中で偶発的に出現するという『エウレイアの魔剣の適性者』。 私は、リオーヌがその身に魔剣を宿していることを知り、策を弄して我が王宮に引き取らせ、右も左も分からぬ子供の彼を殺人兵器として育てました」

 「それには、予も深く関わっていること。 レイオルだけが責任を感じる必要は無い」

 その玉音に感謝の意を見せるレイオル。

 深々と頭を下げてから、話を続ける。


 「敵将や敵の君主に優れた人物が居れば、最強の魔剣士であるリオーヌに始末させる。 それを繰り返した結果、敵は弱体化し続け、相対的に優勢となった我等は長い戦乱を統一する覇者となりました。 しかし、リオーヌはどうでしょう?」

 「それゆえ、新帝国から離れさせ、故国に帰らせたのだ。 戦乱が収まれば、最強の戦士などという存在は権力者の猜疑心を買うだけで、終わりを全う出来る筈が無い。 これは歴史が証明している」


 「しかし、帝国同士の新たな戦乱が勃発しかけている以上、やがて東方で威名轟く『仮面の貴公子』がリオーヌであることが西方世界に知れ渡るのは確実。 そうなれば、我等に代わって今度は西方諸国の権力者が手中に収めようとリオの身柄を狙うようになるでしょう。 権力を拡大、維持する道具として。 いや、あわよくば覇者になる為の駒として......」

 レイオルの言葉に頷くシュン皇帝。


 老齢の2人は、東方世界統一を成し遂げ、最早それ以上の野心が無いので、リオーヌを手放すことに決めたのだ。

 10歳で人質という形態で引き取り、最強の魔剣士に育て上げ、戦乱の世に投入して、覇業を成す為の汚れ仕事をさせ続けてしまった。

 その贖罪の一つとして、新たな第二の人生を歩めるよう、西方世界の名門校アンフルル学院に転入させる。

 それは、リオ自身に殺戮者として生きる以外の、人生の選択肢を与えんが為に。


 「また、ラ・ダーム帝国が敵対姿勢を見せたことで、いずれ皇太子殿下は、新たな征服欲に囚われます。 そしてラ・ダームを併呑出来た場合、その先に待つのは西方諸国との軋轢。 そこまで辿り着ければ、世界統一の野望を持たずには居られない......」

 「キョウも、再びリオーヌを手中にしたいと欲するようになるか。 決して思い通りにはいかぬ、覇王という茨の道を、出来るだけ己の思う通りに進める為の道具として」

 「はい」



 魔剣に選ばれし所有者で、過去にリオーヌを上回る適性を持つ者は、魔導具の始祖である大魔術師エウ・レイア・シエラスのみ。

 余りにも高過ぎる魔剣士としての能力は、平時になれば疑念を持たれる。

 臣下は、主君によりリオーヌに暗殺される可能性に怯え、主君はリオーヌの裏切りを慄れるようになる。

 そうした不毛な猜疑を生まぬよう、皇帝と上大将軍は、リオーヌに新帝国へ留まることを求めなかったのだった。

 

 


 

 「方針は決まりだな」

 キョウ皇太子は、シュン皇帝に代わり、南方争乱に関する対策会議を主導、結論を出していた。

 それは、

 ラ・ダーム帝国への軍事的な懲罰を加える

というもの。

 東方を統一した勢いそのままに、未曾有の大軍を編成して、一挙にラ・ダームを叩くという方針は誰もが予想していたことであった。

 「では重臣の方々、早速出征の準備に取り掛かって欲しい」

 皇太子の要請に全員が、

 「皇帝陛下の御為に」

と大声で唱和し、会議は解散。

 キョウ皇太子は報告の為、そのまま祖父である皇帝の居場所へ向かうのであった。



 「皇太子殿下。 お耳に入れたいことが」

 南宮に向かう途中の通路で、皇太子最側近の一人である『フマ・ホムラ』が身を屈めて待っていた。

 「もう情報が入ったの? 流石、レルタニアの最新技術が詰まった通信装置を使った成果だね」


 シ・タン帝国は、西方世界にも多くの間者を放っている。

 ただ両世界の間には、天空に届く程の高さに迄そびえ立つ中央山岳地帯とラ・ダーム帝国が大きな障害となっていて、情報が入って来るのに、月単位のタイムラグがある点が最大の悩みであった。

 それを解決したのが、通商条約を結んだ際、レルタニア王国から帝室に贈呈された最新の通信機器。

 魔力ではなく、無線という新概念を使ったもので、まだレルタニア王国以外に所有、使用している国家は無い。

 そんな貴重なモノを贈呈した理由は、王室と帝室を結ぶホットラインを結ぶ為であったが、早速シ・タン帝国側は、東方世界で最も高い技術力を持つ、旧ジンパ国出身の技術者集団にその構造を分析させ、あっという間にほぼ同性能のコピー品を製作することに成功していたのだ。


 「西方諸国連合はフラー王国が中心となって、ラ・ダーム帝国からの援軍要請を受け容れるとのことです」

 「そうか......まあ、予想通りと言ったところだね」

 「そして、もう一つ。 こちらの方が殿下には重要かもしれません」

 「より重要?」

 「リオーヌ・ディアナ殿が、その援軍に加わる模様でして......」

 「それは本当か?」

 流石に驚いた表情を見せるキョウ皇太子。

 帰国の途についたリオと別れて半年余り。

 ディアナ大公国は攻守同盟を優先し、ラ・ダームの増援に加わらないと言ってきていたので、敵として相見える状況になるとは、考えていなかったからだ。


 「リオーヌ殿は、セレーネ大公と接触された後、出征に加わると決めた模様」

 「セレーネ大公?」

 「レルタニア王国の大貴族で、ディアナ大公と元は同じ先祖がルーツの権門です。 フラー王国では近衛師団長のシュルツェル伯爵と名乗っておられますが」

 「伯爵は、フラー王国随一の騎士だったね。 エウレイアの魔弓を持っているという噂も、かな?」

 「その人物がリオーヌ殿と共に敵として戦場に出て来るとなれば......」

 「いささか不味い状況になるか〜...... 対策を少し考えてみるよ。 ホムラ、ありがとう」

 皇太子がそう答えると、フマ・ホムラはいつの間にか姿を消していた。

 彼は、東方の術師で、諜報活動に適した忍者の様な能力を持つ者のようだ。



 『リオーヌが僕と敵対する立場になるなんて......でも、リオは僕のモノだよ。 西方の権力者の思惑通りには絶対にさせないから......』

 南宮で、上大将軍が病臥している部屋へと向かいながら、ホムラからの情報を咀嚼し、考えを纏めると、そんなことを思い詰めながら、ほくそ笑むキョウ皇太子。

 やがて、ある命令書を出すことを決め、急遽側近を呼び付けると、即実行するよう命令を出したのであった。


 「陛下。 議論が纏まりましたので報告を」

 「出征か?」

 「はい」

 「ようやく収束した戦乱を生き延びた我が兵士達だ。 出来るだけ平和な時代を満喫させてやりたいから、無様な敗北はせぬようにな、キョウ」

 「玉言、慎んで肝に銘じておきます」

 「それとリオーヌのことだが」

 「......」

 「今回は彼に頼るべきでは無い。 これは、上大将軍の意向だ」

 シュン皇帝のやや強い口調に、キョウ皇太子は、病床に臥せているレイオルの方を一瞥。

 上大将軍は皇太子と視線を合わせようとしない。

 「彼はラ・ダーム帝国への援軍となる諸国連合軍に参加するとの情報です。 何処に居ても、あの能力は隠し続けられるものでは有りませんし、否応なく戦場に引き込まれるのでしょう」

 キョウはそう答えると、皇帝と上大将軍に深々と一礼して、退室する。

 頼るなという要望には応えられないという意思を示したのだった。




 

 リオーヌ達が、シュルツェル伯爵から呼び出しを受けた数日後。 

 アンフルル学院内は、忙しない雰囲気に包まれていた。

 フラー王国から王国民に対して、正式に援軍派遣の方針が発表され、16歳以上の者に対する動員令が発布されたのだ。

 よって、学院高等部の魔術課程と騎士課程の生徒からも、多くの者が従軍することになる。

 魔術師は特に小国では数が少ない貴重な存在であり、ラ・ダーム帝国への大規模な援軍を構成する上で、必要不可欠な存在であることから、レルタニア王国とスルーズ王国出身の生徒以外の大半が従軍することになるだろう。


 「いきなり戦場に行けと言われても......」

 「後方で、負傷兵の回復が主な任務だろ? まだ学生の俺達が最前線に出る訳では無いさ」

 授業前の大教場内は、その話題で持ち切り。

 楽観的な言葉も見られるが、大半の生徒達が不安な様子を隠せないでいた。


 そんな中、噂話には加わらず、淡々と授業を受ける準備をしていると、

 「リオーヌはいつもと変わらないね」

 同じ魔術課程の生徒が話し掛けてくる。

 「えっと......そんなことは無いよ」


 『もう少し不安そうな表情をしておくべきか......ちょっと不味かったかな......』

 戦場経験豊富なリオなので、既に従軍が決まっているにも関わらず、特段気に留めていない様子が、ただ漏れしていたのだ。

 

 「大公国は、援軍に加わらないのではなくて?」

 シェーリーが、普段通りのリオの様子について、その理由を代わりに説明すると、

 「いや、ここに居るみんなと一緒で、僕は従軍する予定なんだ」

 「あら。 故国の立場を考えて?」

 その質問に頷くリオ。

 すると、

 「公爵令嬢はイイよな〜。 魔術師としての能力は十分なのに、援軍に加わらない国の方針で学院に残れて。 俺はフラー王国民だから、『覚悟しておけ』って、昨日父から言われちゃったよ」

 そう話し掛けて来たのは、イブラ・マコーミル。

 魔術課程で、シェーリーに次ぐ万年成績2位の生徒だ。

 「回復魔術が得意のイブラなら、戦場では貴重な戦力となるでしょう。 頑張っていらして」

 少し嫌味を言ってみたのに、逆に励まされてしまい、

 『そういう意味じゃないんだけどな~』

と、両手を広げる。


 「道理で最近、リオにあまり突っ掛かって来なくなった訳ね。 あの方が......」

 その言葉で、周囲に居た魔術課程の生徒達の視線が、一斉にエルリック王太子の方に向く。

 大勢の取り巻きを引き連れ、教場の反対側に陣取っているその姿。

 最近、心無しか覇気が無かった理由がハッキリしたからだ。

 「援軍の総司令官様だろ? お飾りとは言え、その責務、まだ10代の殿下には重過ぎるよな」

 「流石に同情するぜ」

 魔術課程と仲が悪い騎士課程の代表的人物である王太子。

 騎士課程のフラー王国出身者の大半が従軍することとなり、エルリックも非常に険しい表情をしていて、周囲の者達と現在や今後の状況を話し合っている。



 そんな感じで、殆どの生徒が学業に集中出来ないまま、この日の授業を終え、リオも寮に戻ろうとした時であった。

 「リオーヌ様〜、お久しぶりで〜す」

 声のする方を振り返るリオ。

 そこには、学院の職員に案内されて、大公国に居る筈のアルート・ランバドールが手を振りながら近付いて来たのだ。

 「アルート、どうしたんだい?」

 「どうしたもこうしたもありませんよ。 世界の2大帝国が軍事衝突に至ったことで、アトラ大陸じゅうが大騒ぎでしょ?」

 「それはそうだけど、大公国は諸国連合の援軍に参加しないし、新帝国に対しては、元々派遣している部隊があるから、特別変わったことはないよね?」

 「そんな呑気なことを言っているのは、公子だけですよ」

 アルートは呆れた顔をしながら、肩掛け鞄から一通の書簡を取り出し、リオーヌに手渡す。

 リオは、封の特別な印を見て、

 「これは、キョウからの?」

 「そうです。 勿論封は開けていませんが、概要は口頭で新帝国の使者から聞いていますので」

 その説明に怪訝な顔をしながら、書簡の封を外し、中の文面を確認する。

 書き出しも、挨拶の文言も無い、短い一文。


 そして、顔を上げるとアルートに向かって、

 「どうしよう......」

と言いつつ、困惑の表情に一変。

 そこに書かれていたのは、

 『仮面の貴公子に、シ・タン帝国南征軍への参軍を厳命す。 万が一復命出来ぬ場合は、大公国に軍を差し向け、我が帝国に併呑す』

と、であった......


 

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