表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
7/37

第7話 ビューティーサロンのお局(つぼね)様とタオルの流儀(たたみかた)

お読みいただきありがとうございます! 第7話です。


【ここまでのあらすじ】

「証券会社」で、空売(からう)りを駆使(くし)する天才少年(てんさいしょうねん)遭遇(そうぐう)した(みなと)翔太(しょうた)資本(しほん)、クリエイティブに(つづ)き、「知能」という圧倒的(あっとうてき)な力の前に、翔太先輩の心は完全に折れてしまった。その断末魔(だんまつま)は「お母さーん…」だった。


【主な登場人物】

水無瀬(みなせ) みなと

本作の主人公。令和2年生まれの5歳児。中身は冷静な20代。心が折れた先輩を、そろそろ本気で心配(しんぱい)し始めている。


桜木(さくらぎ) 翔太しょうた

本作の先輩。平成29年生まれの小学2年生8歳児。現在(げんざい)、メンタルが崩壊中(ほうかいちゅう)。もはやプライドの欠片も残っていない。


――再起(さいき)()す翔太先輩が、なぜか次なる職場(しょくば)に選んだのは、女子に大人気の「ビューティーサロン」。しかし、そこは新たな古参が支配(しはい)する、恐怖(きょうふ)空間(くうかん)だった!

「湊くん、男は度胸、何でもやってみるものだ! これからは多様性の時代! 美しさの本質(ほんしつ)も知っておくべきだ!」


 心が折れたはずの翔太先輩は、一晩寝たらすっかり立ち直っていた。そして、よく分からない理屈をこねながら、僕を女子に大人気の「ビューティーサロン」へと連れてきた。


 しかし、パビリオンに一歩足を踏み入れた瞬間(しゅんかん)、僕らは歓迎(かんげい)されざる客であることを悟った。

 そこは、小学5年生くらいの、ひときわオーラのある女の子を中心(ちゅうしん)としたグループによって、完全に支配(しはい)されていた。


「あら、男の子も来るのね。(めずら)しい。ま、頑張ってね?」

 リーダー格の少女――白鳥(しらとり)レイカ先輩は、僕らを値踏(ねぶ)みするように見ると、(はな)で笑った。明らかに面倒なタイプの古参だ。翔太先輩が「体育会系老害」なら、彼女は「陰湿系お局」といったところか。


 仕事が始まると、レイカ先輩の巧妙(こうみょう)な嫌がらせが始まった。

「翔太くんは力が強そうだから、こういう裏方仕事、向いてるんじゃない? タオルの洗濯と片付け、お願いね」

 彼女は翔太先輩に、一番地味で目立たない仕事を笑顔で押し付ける。

 僕には、お客さん(人形)の髪をとかす係を命じたが、常に横から口を出してきた。


「あ、湊くん。そのとかし方だと髪が(いた)んじゃうかも。まあ、初めてだから仕方ないか〜。みんな、見てあげて。こうやるのが“プロ”なのよ」

 彼女は僕のミスをみんなの前で優しく指摘することで、僕のプライドを巧妙(こうみょう)に削ってくる。


(これは…精神的にくるな…)

 僕が内心(ないしん)辟易(へきえき)していると、意外な方向から声が上がった。


「ふん、上等(じょうとう)だ! どんな仕事にも『(ソウル)』は宿(やど)る! 俺はタオルの畳み方一つで、客の満足度(まんぞくど)を上げてみせる! 見てろ、これが平成流(へいせいりゅう)の“おもてなし”だ!」


 翔太先輩は文句を言うどころか、謎のプロ意識(いしき)に火が付いたらしい。彼は、一枚一枚のタオルに空気を含ませるように、それは見事な「ホテル畳み」を披露し始めた。その完璧(かんぺき)な仕事ぶりに、SVのお姉さんが「翔太くん、すごい上手! これ、マニュアルに加えたいくらい!」と素直に感心(かんしん)している。


 レイカ先輩が「ちっ…」と舌打ちしたその時、一人のお客さんの女の子が入ってきた。

「あの…明日ピアノの発表会なんです。この写真みたいに、キラキラのネイルにしてください!」

 彼女が差し出したスマホには、プロのネイリストが(ほどこ)したであろう、非常(ひじょう)繊細(せんさい)複雑(ふくざつ)なデザインが写っていた。


 レイカ先輩とその取り巻きたちは、女の子の小さな爪を見て、顔を見合わせる。

「えー、これは無理じゃない?」「失敗したら可哀想(かわいそう)だし、やめといた方がいいって」

 彼女たちは、面倒な仕事から逃げるため、やんわりと断ろうとした。

 その時だった。


 タオルを完璧(かんぺき)に片付け終えた翔太先輩が、ズカズカと前に出てきて、レイカ先輩を(にら)みつけた。

「おい。お客さんの“夢”を(かな)えるのが、プロの仕事だろうが!」

 その意外な男気に、レイカ先輩も、僕も、一瞬言葉(ことば)を失う。


「でも、こんなの…」

 なおも(しぶ)るレイカ先輩を尻目(しりめ)に、僕は静かに手を挙げた。


「僕がやります」

 僕の言葉に、全員の視線が集中する。

 僕は、目の前の女の子に向き直り、静かに言った。「最高のステージになるよう、お手伝いさせてください」

 僕は、もともと細かい作業が得意だった。持ち前の集中力(しゅうちゅうりょく)と冷静な指先の動きで、極細(ごくぼそ)の筆を操り、小さな爪というカンバスに、キラキラと輝く星空を描き上げていく。


 完成したネイルを見た女の子は、ぱあっと顔を輝かせた。「すごい…! お兄さん、ありがとう!」

 僕のスマートウォッチに、過去最高の「サンクスポイント」が加算された通知が来た。レイカ先輩たちは、ぐうの音も出ない様子(ようす)で、悔しそうに僕の指先を見ていた。


 仕事が終わり、ジューススタンド(もちろん割り勘)で、翔太先輩が少し照れくさそうに言った。

「やるじゃねえか、湊。お前の指先、なかなかクリエイティブだったぜ」

「先輩こそ。あのタオル捌き、見事でした」

「だろ?」

 僕らは、なぜか少しだけ誇らしい気持ちになって、ジュースを飲んだ。

 このキッゾニアには、まだまだ僕たちの知らない“働く喜び”が隠されているのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ