第36話 夢のプランナーと“働く理由(わけ)”
お読みいただきありがとうございます!
【ここまでのあらすじ】
キッゾニア全域を襲ったテロリストによる電力プラント占拠と、大停電という国家非常事態。『即応予備自衛官』として召集された翔太と湊は、これまでの全ての経験を活かし、見事に子供たちのパニックを抑え、街の危機を救った。翔太は、誰もが認める本物のヒーローとなったのだ。
【主な登場人物】
水無瀬 湊
本作の主人公。令和2年生まれの5歳児。中身は冷静な20代。数々の困難を乗り越え、成長した先輩の姿を、誇らしく思っている。
桜木 翔太
本作の先輩。平成29年生まれの小学二年生、8歳。幾多の試練を経て、真の強さと優しさを手に入れた。
――キッゾニアの危機を救ったことで、大きな達成感と、同時に燃え尽きたような感覚を覚えた二人。金のためでも、名誉のためでもない、「本当にやりたい仕事」とは何か。彼らが最後に見つけた「答え」が、ここにあります。
国家非常事態という大仕事を終えた後、僕と翔太先輩は、どこか燃え尽きたような気持ちで、パークのベンチに座っていた。
「なあ、湊…。俺たち、これから何を目指せばいいんだろうな…」
ヒーローになった彼は、次の目標を見失っていた。
その時、僕らの目に小さなパビリオンが映った。
看板には『おしごと相談センター』と書かれている。
「ようこそ。ここは、キッゾニアに来た子の“夢”を見つけるお手伝いをする、お仕事なんですよ」
SVのお姉さんが、優しく微笑んだ。
仕事内容は、来場者の子供たちの話を聞き、その子に合った仕事のプランを提案するというもの。給料はたったの5キッゾ。しかし、相手に心から感謝されると「サンクスポイント」が貰えるという、特殊な評価制度だった。
僕と翔太先輩は、まるで導かれるように、その仕事を選んだ。
最初の“お客さん”は、何をしたいか分からず困っている、内気な女の子だった。
「何でもいいから、楽しいことがしたいです…」
僕は得意の思考力で、すぐに答えを導き出す。「それなら、待ち時間が短くて、給料も8キッゾと高めの『ベーカリー』が合理的です。作ったパンも貰えますし、コストパフォーマンスは最高ですよ」
しかし、僕の完璧な提案に、女の子はピンとこない顔で首を傾げるだけだった。
その時、翔太先輩がゆっくりと口を開いた。
「なあ、君。俺の話、聞いてもらえるか?」
彼は、自分の経験を一つ一つ、丁寧に語り始めた。
「昔の消防士は水圧がすごくてさ、マジで吹っ飛ぶかと思った。でも、仲間と力を合わせて火を消した時、すっげえ達成感があったんだ」
「声優の仕事じゃ、台本を無視してアドリブばっかやって怒られたけどな。自分の言葉で誰かが笑ってくれるのって、めちゃくちゃ嬉しいんだぜ」
「銀行員は地味かもしれない。でも、みんなが一生懸命働いて貯めた大事なキッゾを、責任もって守る。すげえ誇り高い仕事だと思わないか?」
彼の言葉は、もはや自慢やマウントではなかった。一つ一つの仕事に彼が感じた、喜び、苦労、そして誇り。その全てが詰まった、純粋な「経験談」だった。
「君は、どんな時に“わくわく”する?」
翔太先輩の優しい問いかけに、女の子はぽつりと答えた。「…ヒーローが、悪いやつをやっつけるところ」
「そうか!」翔太先輩はにっこりと笑った。「だったら、まずは街の平和を守る『警察官』はどうだ? きっと君の“わくわく”が見つかるはずだ!」
女の子は、ぱあっと顔を輝かせ、「はい! やってみます!」と元気よくカウンターを離れていった。
(すごい…)
僕は、ただただ感心していた。僕のロジックでは引き出せなかった、女の子の心の奥にあるものを、先輩の「経験」が引き出したのだ。
その時、次の“お客さん”が静かに席に着いた。
僕たちは息をのむ。あの空売りの天才少年だった。
彼は、トレードマークのメガネを外し、力なくテーブルに置いた。
「僕は…キッゾを稼ぐのは得意です。でも、何のために稼いでいるのか、分からなくなりました」
彼は、稼いだキッゾでデパートの最高級腕時計を買い、全てのパビリオンを貸し切ったという。しかし、その心は少しも満たされなかった、と。
僕は、彼に冷静に告げた。
「目的のないお金は、ただの数字の羅列です。まずは、あなたが“楽しい”と思えること、つまり“目的”を見つけるのが、最優先タスクではないでしょうか」
僕の言葉に、少年は静かに頷く。
そして、翔太先輩が、自分の胸に手を当てて言った。
「俺もずっと、キッゾの数や仕事の回数ばっかり気にしてた。プロフェッショナルメンバーだって自慢して、人を見下してた。でもな、今思い出してみると、一番嬉しかったのは…俺が初めてピザを作った時、それを食べた見ず知らずの奴が、俺に向かって『うまい!』って笑ってくれた時だったかもしれねえ」
夕日が差し込むオフィスで、翔太先輩は続ける。
「働くってのはさ、多分、金儲けや自己満足のためだけじゃないんだ。誰かが喜んで、その顔を見て、自分が嬉しくなる。そのために、俺たちは働いてるんじゃないかな。金とか、効率とか、そんなもんは、きっとその次なんだよ」
その言葉は、空売りの天才少年だけでなく、僕の心にも深く、深く染み渡った。
少年は、ゆっくりと立ち上がると、深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。僕、まずはピザ職人から、やってみようと思います」
そう言って去っていく彼の背中は、来た時よりもずっと軽やかに見えた。
仕事が終わり、僕と翔太先輩は、夕暮れのキッゾニアを眺めていた。
「なあ、湊くん。俺、やっと分かった気がするよ。俺の、本当の夢が」
「なんですか、先輩」
翔太先輩は、キッゾニアの街並みをまっすぐに見つめ、晴れやかな顔で言った。
「世界中のキッゾニアで、たくさんの奴らを笑顔にすることだ!」
その顔は、初めて会った頃のうざったい先輩ではなく、一人の立派な「働く男」の顔だった。
僕と彼の間にあった世代間のギャップは、いつの間にか、確かな絆へと変わっていた。
この日、僕と翔太先輩の、本当の“お仕事”が始まったのかもしれない。




